2 / 31
2. 地毛証明書
しおりを挟む
ノリの母は入学式の会場に到着した。
まずは受付。
近年、入学式に関係のない者が会場に乱入し、盗撮が行われるという事件が数件起こっているらしく、予め通知された学籍番号と名前を照らし合わせて、ノリがこの学校の入学者であることを確認していた。
式が11時に始まるのに対し、集合は9時15分。
200人近くの入学者がいてこの手続きを行うわけだから、まぁ妥当な時刻だ。
受付を済ませ、会場に行く前に教室に入る。
ノリは1年2組だ。黒板にクラスメイトの名前と席順が掲示されている。
ノリが席に座るとほどなくして、小学校時代から仲良くしていた河野七香(こうの ななか 通称なーちゃん)が前方から現れた。
「わぁぁぁ、ノリぃぃぃ!」
「おお、なーちゃん」
ノリとなーちゃんは幼稚園からの付き合いで、お互い気の置けない関係だ。
どちらかといえば大人しくあまり目立たないノリに対し、なーちゃんはいつもクラスの中心で、特に運動会や文化祭では常にみんなを引っ張っていた。
地味な男子と派手な女子。周りから見たらこのコンビは不思議だろうなと、ノリ本人も感じている。
「ノリ、同じクラスだよ!やった!」
「おおマジか。仲良い人が同じだと助かるなぁ」
なーちゃんがいれば、新しい世界に飛び込んでも大丈夫そうだ。安心だ。
◇
10時30分。1年2組の40人全員が揃った。
「1年2組の担任をさせていただきます、倉橋由紀子(くらはしゆきこ)です。よろしくお願いいたします」
見た感じは若くてとても可愛い先生だ。
これは男子生徒たちが黙っちゃいないだろう。
「今から入学式に向かいますが、数名のお名前をお呼びします、教卓のところまで来てください」
数人が呼ばれた中に、ノリの名があった。
「石原くん、髪をいじってませんか?」
倉橋先生曰く、ノリがパーマをかけているのではないかと春休みの職員会議で話題になったらしく、
「いじっているなら早急に元に戻して貰う必要があります。地毛ならば、地毛証明書を保護者様から提出してもらうことになります」
ノリの髪型はいわゆる天然パーマというやつで、しかも毎月美容院に通っておりかなり綺麗にセットされているので、パーマを当てているのだと勘違いされたというわけだ。
母が口を開く前に、ノリが先に言葉を発した。「全員で同じ姿で足並みを揃えて進むのが美徳」というような思想を感じて、黙ってはいられなかったのだろう。
「地毛です。天然パーマです。でも地毛証明書なんて出す必要性を感じないので提出はしません」
「でもルールですから…あ、石原くん?」
倉橋先生が話し終わる前に、ノリは教室を出て入学式が行われる体育館へむかった。
(ここで屈したらまた社会の言いなりだ。個性を認めない社会は徹底的に排除する。最初が肝心だ)
ノリは並々ならぬ思いでこの日を迎えたのだ。そう簡単に理不尽なルールには従わない。
ノリは芯の強い男だった。
まずは受付。
近年、入学式に関係のない者が会場に乱入し、盗撮が行われるという事件が数件起こっているらしく、予め通知された学籍番号と名前を照らし合わせて、ノリがこの学校の入学者であることを確認していた。
式が11時に始まるのに対し、集合は9時15分。
200人近くの入学者がいてこの手続きを行うわけだから、まぁ妥当な時刻だ。
受付を済ませ、会場に行く前に教室に入る。
ノリは1年2組だ。黒板にクラスメイトの名前と席順が掲示されている。
ノリが席に座るとほどなくして、小学校時代から仲良くしていた河野七香(こうの ななか 通称なーちゃん)が前方から現れた。
「わぁぁぁ、ノリぃぃぃ!」
「おお、なーちゃん」
ノリとなーちゃんは幼稚園からの付き合いで、お互い気の置けない関係だ。
どちらかといえば大人しくあまり目立たないノリに対し、なーちゃんはいつもクラスの中心で、特に運動会や文化祭では常にみんなを引っ張っていた。
地味な男子と派手な女子。周りから見たらこのコンビは不思議だろうなと、ノリ本人も感じている。
「ノリ、同じクラスだよ!やった!」
「おおマジか。仲良い人が同じだと助かるなぁ」
なーちゃんがいれば、新しい世界に飛び込んでも大丈夫そうだ。安心だ。
◇
10時30分。1年2組の40人全員が揃った。
「1年2組の担任をさせていただきます、倉橋由紀子(くらはしゆきこ)です。よろしくお願いいたします」
見た感じは若くてとても可愛い先生だ。
これは男子生徒たちが黙っちゃいないだろう。
「今から入学式に向かいますが、数名のお名前をお呼びします、教卓のところまで来てください」
数人が呼ばれた中に、ノリの名があった。
「石原くん、髪をいじってませんか?」
倉橋先生曰く、ノリがパーマをかけているのではないかと春休みの職員会議で話題になったらしく、
「いじっているなら早急に元に戻して貰う必要があります。地毛ならば、地毛証明書を保護者様から提出してもらうことになります」
ノリの髪型はいわゆる天然パーマというやつで、しかも毎月美容院に通っておりかなり綺麗にセットされているので、パーマを当てているのだと勘違いされたというわけだ。
母が口を開く前に、ノリが先に言葉を発した。「全員で同じ姿で足並みを揃えて進むのが美徳」というような思想を感じて、黙ってはいられなかったのだろう。
「地毛です。天然パーマです。でも地毛証明書なんて出す必要性を感じないので提出はしません」
「でもルールですから…あ、石原くん?」
倉橋先生が話し終わる前に、ノリは教室を出て入学式が行われる体育館へむかった。
(ここで屈したらまた社会の言いなりだ。個性を認めない社会は徹底的に排除する。最初が肝心だ)
ノリは並々ならぬ思いでこの日を迎えたのだ。そう簡単に理不尽なルールには従わない。
ノリは芯の強い男だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる