謎ルールに立ち向かう中1

23. 大丈夫か優子！？ 後編

光二が職員室でひとしきり暴れた後、救急車が到着した。光二が1年2組の教室に救急隊を案内する。そのしっかりとした姿と身長は、3月まで小学生だった少年とは思えないほどだ。教室に隊員が到着し、優子がストレッチャーに乗せられる。クラスのみんなは何も言葉を発することができず、ただただ祈るしかなかった。

「君、救急車呼んでくれた子だよね、一緒に来てくれる？この子の倒れた時の状況とか、最近の様子とか聞きたいんだ」

「分かりました。行きます」


◇


病院についた。優子はすぐに検査室に入れられる。待合室の長いソファには、優子の母が心配そうな表情で座っていた。

「コーちゃんが救急車呼んでくれたんだってね。ありがとうね。救急車呼ぶのって勇気いるのにね」

「たぶんね、学校の先生に行っても『ちょっと様子を見てから…』とか、『とりあえず保健室に…』とかしか言わねえと思ったんで、俺たちが動かないとって思って」

光二は小学生時代、体育の授業中に友人が腕を骨折したにもかかわらず、「保健室で冷やして様子を見てきなさい」と言われ、結局彼に軽い後遺症が残ってしまったという辛い経験をしたことがある。優子が倒れたときにそのことを
光二となーちゃんは瞬時に思い出し、なーちゃんの的確な指示によって光二がダッシュしたというわけである。

「電話はどこで確保したの？」

優子の母は素朴な疑問をぶつける。光二はさすがに学校にスマホを持ってきているはずがないだろうと思い、ふと不思議に思ったのだ。

「職員室で借りました。借りたっていうか、奪った感じです」

「まあ先生にいってもモタモタしちゃいそうだし、正解だったかもしれないわねえ。ありがとうね、コーちゃん」

光二と優子の母は、最近の学校生活等についても話していた。

「最近ノリくんは元気？」

優子の母が聞く。

「最近あいつ影が薄いんですよね。元々いっぱい喋るタイプじゃないけど」

そうこうしているうちに医師が検査室から出てきた。

「かなりの過労ですね。恐らく土日も全く休みがないんじゃないです？隣の市の中学校でも1年生が倒れましてね。部活でほとんど休みがない状態だったんだとか。優子ちゃんも同じ状況ですね。しばらくは、そうですねえ、今週いっぱいはお家で休まれた方がいいかと思います。完全に部活のしすぎです」

優子の所属する女子ソフトテニス部は、校内でも1・2を争うほど練習量が多い。土曜と日曜は基本的に1日中練習で、優子はみるみるやつれていくのが分かった。
テニス部や野球部の練習の多さについては以前より議論がなされていたが、「土日のうちどちらかは必ずオフにしよう」という取り決めを頑なに拒否してきたという歴史があった。
「休日を与えることで生徒が非行に走る」という理論や、
「部活によってしんどい思いをして精神力を鍛え、なんでも乗り越えられる強い生徒にする」などと偏った信念が飛び交い、ブラック部活は継続されてきたのだ。

光二はなんとかしたいとは思うが、自分一人ではどうすることもできない。
ただ友人が過労で倒れるのを、指をくわえて見ていることしかできないのだ。