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一章 クビになりました。

白龍の修行

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白龍であるパイルーは、僕に戦闘指南をした。
「今の技量じゃと、スタンピートで死んでしまうわい」
と言って、武術、魔法、サバイバル術に分けて修行を始めた。
ついでに、とブローザも修行をした。

栄養補給、鍛錬、休息、このどれを怠ってもいかん!と言うことで、早速目の前の湖に魔法をかけた。
「これ、湖全部ハイポーション以上の水だわ」
ブローザは顔を引き攣らせて言った。
「うむ。栄養補給でこれ以上のものはないじゃろ。モンスターと野草もバランスよく食え。仕上げにこの龍水を飲めば、栄養はバッチリじゃ」

試しに湖を一口飲む。
全身の痛みが引いていく。
関節の痛みや、傷の痛みがどんどんなくなっていく。

ブローザも一口飲むと、血色が良くなり、肌艶が劇的に良くなった。
「古傷が、無くなった、、、」
パイルーはブローザを見て
「良かったの。また子を産めるようになったかもしれんぞ」

ブローザは膝から崩れ落ち、涙を流している。
彼女も冒険者だ。過去に恐ろしい目に遭っているのかもしれない。
ゴブリンやオークに捕まった女性は、皆酷く凌辱され、身体の機能が壊れてしまう者も多いと聞く。

「パイルー、私もこの龍水作れるようになれるかしら」
パイルーはブローザの頭に手を当て、ムニャムニャ呟く。
「うむ。素質はあるの。だが、これは邪魔じゃな。ちょいとイジるぞ、ほれ」
パチンと音がして、ブローザは気絶した。

「数日で目が覚めるじゃろ。どれ、お前さんもやっとくか」
パイルーが僕の頭に手を当てる。手のひらから熱を感じる。
パチンと音が鳴り、目の前が暗くなった。



ここはどこだろう。
白い代理石でできた机の周りに、座り心地の良い木で出来た椅子がある。
僕の座っている椅子の他に五つ空席がある。
左を見ると、岩場をちょろちょろと清流が流れ、その向こうにキラキラ反射する黒い岩がある。
黒曜石だろうか。
近づき、手を触れると指先が切れた。
「痛っ、くはないな」
指先から血が出たのはほんの少しで、傷口はすぐに塞がった。
黒曜石に血が滴ると、黒曜石はブルブルと震え、割れた。
中から、黒い髪と肌をした小人が現れた。可愛らしい顔をしている。
小人は手を出してくる。
握手をしたら、目が覚めた。

「目が覚めたようじゃな。どれどれ」
パイルーは僕の目を覗き込む。
「ほほっ、地の妖精に好かれたようじゃな。僥倖じゃ。お主、地の魔法が使えるのか?」
「地の魔法?トゲを生やす魔法なら使えますが」
やってみせよ、と言うので、地面に手を向ける。そういえばこれは、呪文を唱えたことないな。

次の瞬間、目の前に岩の柱が立っていた。

なんだこれ。

「お主、これはお前さんの魔法によるものじゃなくて、ノームの仕業じゃ。お主にゾッコンのノームが気を利かせて魔法を放っているんじゃ。

やっと気づいてもらえたと小躍りしておるぞ。可愛がってやれ。魔力は取られとるがな。ノームと語らえば、より自分のイメージを共有できるじゃろ」

ノーム。さっき見た黒い小人だろうか。

石の柱がパカリと割れ、中から腕輪が出てきた。
早速つけてみると、自分の魔力量がグッと跳ね上がるのがわかる。

これならもっと大きな岩も生み出せるかもしれない。
もっと硬くて、重い石も。

「パイルー、あなたのおかげで魔力量が上がったよ。今ならスタンピート探索隊に行っても役立てるかもしれない」

僕は嬉しくなってそう言うと、パイルーはやれやれと首を振る。

「お主の真の凄まじさは、催眠魔法じゃ。長く生きておるが、古今東西見たことがない。お主は平凡な魔法と言ったが、我はそうは思わん。

そもそも山より高く飛んでいる、この我に効く魔法なんて、ありえんわい。音より早いんじゃぞ、我は。」

「双眼鏡でパイルーを見て、呪文を唱えたら効いてしまいました。なんかごめんなさい」

「見て、呪文を唱えたと。。。お主、そんなに目がいいのか?」

いえ、といい双眼鏡を取り出す。

「これを使えば遠くまで見えるんです」

パイルーは双眼鏡を覗き込み、おおっと驚きの声を出した。

「なるほどなるほど。我がお主なら、今すぐ世界最強になれるわな。ま、こればかりは自分で気付くしかあるまいて。さ、ボルサリーノよ。岩で快適な小屋でもこしらえてくれんか?」

やってみます!
そう言って、簡素ながら岩製の小屋を作った。
ワンルームの簡素ながら丈夫な小屋だ。
ベットや机、椅子もある。
ノームさん、どうもありがとう!

小躍りで椅子を引こうとしたが、床とくっついていて剥がれない。

この辺は、伸び代ですね。

そう思っていると、パイルーは何事もなく椅子を地面から引き剥がし、引いて座っている。

伸び代があるのは僕の方ですね、心の中でノームに謝った。




この小屋は、時期に何度も増築され、無敵要塞アダマンタインとなるのは、まだ先の話である。




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