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三章 勇者パーティ結成

アビリエル山嶺へ

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勇者ポは、戦略車輌ゴーレムを改造するために3時間欲しいと言い、工房に籠った。

僕は3時間で、冒険に必要なものを買い込むことにした。

食料、衣類に加え、武器や薬である。
特に僕は、ブローザから貰った双眼鏡に活路を見出していた。

パイルーを眠らせた時は、対象を視界に入れながら呪文を唱えたら効いた。
これは考え方によっては、ガラス越しでも効いたということだ。

商店街のガラスに反射して、カツアゲの現場に出会した時も、僕の魔法は効いた。

反射でも、効く。

なので、僕は戦略車輌ゴーレムに、鏡とレンズを活用した360°周囲を確認できる物見機構を作ることにした。

雑貨屋に入り、手頃な鏡とレンズを買い集めた。

「勇者ポ。戦略車輌ゴーレムに、物見台をつけたいんだ。重くならないようにするからさ」

「いいですね。外の様子がわかるのは大切ですから」

そう言って、物見台を付けてくれた。

戦略車輌ゴーレムは、元は車輪のように丸々ゴーレムの上に板と操縦席だけがついている簡素なものだった。

今は、小さめの一軒家に、たくさんの棒が出ていて、棒の先に屈強なゴーレムが体育座りで座っている。

「これ、移動時はどんな感じなんだっけ」

「路面が悪い時は、ゴーレム達が担いで走ります。路面がいい時は、ゴーレム達は体育座りで棒をくるみ、ぐるぐる回転して進みます。車輌の車輪という考え方です。改良して、ゴーレムの背中にオリハルコン製の鱗をつけました。これで急ブレーキもできますし、多少ごつごつした道でも、しっかり走ります」


しばらく待つと、ベックとシュタインが戻ってきた。
大量の食料や薬、武器を仕込んでいる。

僕も待っている間に、いくつか魔石に魔力を込めた。

これでいつでも出発できる。

「では、みなさん準備はいいですね!まずはアビリエル山嶺へ出発です」

勇者ポが腕を上げ、おーと言うので、我々も元気よくオー!と言った。

冒険の始まりだ。

アビリエル山嶺には、すぐに着いた。
驚くほど早く着いた。半日かからなかった。
僕が込めた魔力が多かったようで、ゴーレム達は飛ぶように走った。
雑魚モンスターはゴーレムが足蹴にして進み、オークやコボルトなどの大型魔獣は僕の睡眠魔法で眠らせ、やり過ごした。

しかも、物見台を付けたので、戦略車輌ゴーレムの足を止めることなく、椅子に座りながらモンスターを眠らせられるので、道のりは驚くほどスムーズだった。

「こんなに早く着くとは、、、」

ベックも驚いている。

「ボルサリーノ殿の睡眠魔法は、まさに脅威ですね。椅子に座りながら、遠くにいる強力な魔物も一瞬で戦闘不能にする。貴方が魔王でなくて本当によかった」

シュタインは僕の魔法の威力を誉める。褒めすぎだ。
石像のように美しいシュタインの顔で、真面目に褒められると照れてしまう。

「本当ですね。ボルサリーノさんが居れば、無駄な戦闘をしないで済む。ありがたいです」

ベックが髭を撫でる。

「わしはそれには一言言いたいことがある。勇者パーティは、魔物を殺すべきだと思っとる。我々が殺すことで、魔物は街へ行かず、遠回しに住民を守れるということもある。眠らせてやり過ごすのは、ちと問題があると思うの。今回は急ぎの旅だからやむなしじゃが、今後は考えようぞ」

「なるほどですね。そういう考え方もありますね。考えましょう」

シュタインが手を挙げる。

「アビリエル山嶺の近くに、魔の門という洞窟があります。そこに、しもべの手鏡があるという噂ですが、ご存知ですか?」

「しもべの手鏡?」
僕は聞いたことがない。

「しもべの手鏡は、降伏した相手をしもべにし、手鏡の中に収納するマジックアイテムです。ボルサリーノ殿で眠らせた魔物を、手鏡の中に納めれば解決するかと」

シュタインは、カバンから本を出して、絵を見せてくれる。

手鏡に魔物が吸い込まれている絵だ。
横に、手鏡の前にガーゴイルが描かれている。

「このガーゴイルは?」
「手鏡の守人と言われています」
ベックが手を振る。
「ガーゴイルはS級魔物。コスト9750の化け物じゃぞ。流石に倒せないわい」

ボルサリーノが僕をみる。
「双眼鏡で遠くから眠らせられるか、試してみませんか?」
「それなら、万が一の時は逃げられるし、いいのう」

勇者ポは言う。
「では、まずは魔石確保、次は手鏡ですね」
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