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第三章 側仕えは音楽の意味を知り、嫌われ貴族は人々の心に奏でよう
側仕えと因縁の暗殺者
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先ほど大怪我を負ったばかりと思えないほど、走っていても体には全く痛みがな買った。
流石は貴族が作っているだけあって効果は凄まじく外傷すら消え去っている。
──どこ行ったんだろう?
急いで出て走ってはみたが、シルヴェストルの姿はない。
走った方向は下町の方だった。
夕日も落ちきっているので、これからは夜の時間だ。
そんな中で貴族の、ましてや領主の弟なら誘拐される可能性もある。
もしかするとすぐに追いつけるかもしれないと考えたのが甘かった。
下町に降りてきたが彼の姿はなく、それよりももっと深刻な事態になった。
「迷った……」
私は今どこにいるのだ。
気付いたら変な小路に迷い込んでしまい、いくら歩いても大通りに出られない。
慣れた道なら大丈夫なのに、少し道を外れるとこの有様だ。
「シグルーンとブリュンヒルデともはぐれたから頼れない……」
ここで気にしていても仕方がない。
とぼとぼと歩いていると目の前を少年たちが横切る。
──こんな遅い時間に子供だけ?
だが一人だけすごくキラキラとした少年がいた。
「シルヴェストル様!?」
服装はボロボロの服を着ているが、紛れもない彼自身だ。
おそらくはどこかで着替えて市井の子供に紛れ込んだのだろうが、生まれが生まれのため隠しきれていない。
「エステル!? やばい、逃げるぞ!」
あちらも私に気付いたようで、少年たちを連れて走って行こうとする。
だがここで逃がすわけにはいかない。
すぐに走り出して彼の腕を掴んだ。
「シルヴェストル様! もう遅い時間ですから危ないですよ!」
「ええい、うるさい! 少ししたら帰るつもりだ! 待てよ、其方も来い!」
「はひ?」
私が掴んだつもりが逆に引っ張られた。
一体どこへ向かうのかと思ったら、小さな空き家へと入る。
小さな蝋燭で灯りが外に漏れないように気を遣っていた。
「シルヴェストル様?」
子供はシルヴェストルを含めて五人ほどおり、みんな少しばかり裕福そうにも見えた。
しかしどうして子供だけ集会なんて開いているのだろうか。
私を訝しむ目が集まり、何人かは少し怖がっているようにも見える。
シルヴェストルは小さな声で私を紹介する。
「みんな、この人が噂の剣聖のエステルだ! 今日の作戦のためにわざわざ参加してくれたぞ!」
全員がまるで信じられないものを見るような目を私へ向ける。
目を輝かせるのでどうにも居た堪れない。
「作戦? 何かされるのですか?」
「うむ、俺の大切な友達が昨日から行方不明なんだ。だから犯人らしきアジトへ乗り込む」
当たり前のように言うせいでなかなか私の頭は処理できない。
だがだんだんと頭の中で処理が追いついていくにつれて、焦りが汗となって私の背中をつたる。
「子供だけで無茶ですよ! それなら騎士に応援を頼んだ方がいいじゃないですか!」
「平民の子供を騎士がわざわざ助けん。自警団も動きが遅すぎなら俺たちが頑張るしかない!」
威勢よく手を振り上げ、他の子供たちにも賛成を求める。
みんな釣られて手をあげており、このままこの子達を好き勝手させては危ない。
注意をしようとする前にドアが急に開かれた。
「コソッと付いてくればこのような悪戯をしているなんて……」
「ブリュンヒルデ!?」
ブリュンヒルデはどうやら私の後ろを付いてきていたようで、頃合いを見て中に入ってきたようだ。
シルヴェストルは私の後ろに隠れて彼女から見えないようにする。
「エステル殿、早くその方を連れて帰りましょう。領主の弟がこんな平民の子供と遊んでいたなんて知られたら、他領から下に見られます」
ブリュンヒルデの心無い一言のせいで子供達が怖がっている。
他の子供に全く目を向けないので、ここにいる子供達に一切の関心がないのが分かる。
「嫌だ! 領地を統べる者として困っている人は助けたい!」
すごく良いことを言っているのに私の後ろで言うせいかどうにも締まらない。
ブリュンヒルデは大きなため息を吐いて私の後ろにいるシルヴェストルの腕を掴んだ。
「貴方は絶対になれません。領主からも見捨てられて──」
ぱしッと私はブリュンヒルデの腕を弾いた。
「ちょっと、そんな言い方はないでしょ!」
「事実を言って何が悪いのですか。おかげでこちらも大迷惑をしているのですよ?」
彼女は私の方がおかしいと言いたげだ。
だがそれでも小さな子の将来について今何かを言うのは絶対に間違っている。
「ブリュンヒルデだって、お兄さんは才能があるけど妹にはないって言われたら嫌でしょ!」
私が言い返すとブリュンヒルデの顔が先ほどの威勢も消えて一気に暗くなる。
「才能がないのは罪です……才能さえあればアビの護衛騎士にもなれて、お兄様も認めてくれるかもしれない」
彼女の独白はこぼれ、彼女もまた貴族のしきたりに縛られているのかもしれない。
ただこのまま子供達の危険な行動を見過ごすこともできない。
その時、バンっと扉が強引に開けられ、大勢の黒装束たちが入ってくる。
十人ほどの男たちが私たちを取り囲んでナイフを持って威嚇する。
「よくやったなガキども。領主の弟をしっかり連れてくるなんざ偉いじゃねえか」
リーダー格の男が目元をだらしなく緩ませる。
シルヴェストルが友達である子供達を見るとバツが悪そうに顔を背けられていた。
「其方ら……俺を騙したのか?」
顔を青くする子供達は答えない。
その代わりにリーダー格の男が声を弾ませて答えた。
「許してやんなって。お前を誘き寄せば命を助けてやるって言ったんだ。ヴィーシャ暗殺集団の怖さは子供でも知っているんだよ」
国一番の暗殺者として知られるヴィーシャ暗殺集団。
弟を守ってくれているヴァイオレットがトップに立つ大きな組織だ。
各々が好き勝手にやっているようで、犯罪に手を染めるこの組織を好きになれない。
「シルヴェストル様、後ろに下がって……」
私は剣を抜いて彼を守る。
だが一向に動く気配がなく、もしやショックが大きすぎたのか彼の心が心配になる。
「そうだったのか……心配するな、其方ら。あとは俺に任せろ」
シルヴェストルは震える体で顔だけは笑って見せていた。
もしやその可能性も考えていたのかもしれない。
私に剣を習おうとしていたのも、もしかするとこういったことに遭遇した時にでも対処できるようにということなのかもしれない。
まだまだ子供なのに、自分を騙した相手の心配をする彼の器の大きさを目にした。
ならここからは大人の意地を見せよう。
「ブリュンヒルデ、何人か倒せる?」
「もちろんです。たかが平民に負けるほど貴族の位は安くはありません」
そう言ってブリュンヒルデは腰から剣を抜いて黒装束たちへ向かった。
「妙齢な貴族の女なら高くつく。縛り上げろ!」
ヴィーシャ暗殺集団のメンバーも一斉に動き出す。
私も子供達を気にかけながら戦う。
どいつも大したことはなく、一人、二人とどんどん倒していく。
このままいけると思った直後に左肩にドスっと衝撃が伝わり、次第にどんどん痛みが広がっていく。
ゆっくりと肩に目を向けると、いつの間にかナイフが肩に刺さっていた。
私はそのナイフが当たるまでまったく気づけなかったのだ。
「久しぶりだな、貴族の側仕え。俺のことを覚えているか?」
暗がりの中からゆっくりと現れたのは、髪の毛が燃えるように赤く、頬には十字の傷があった。
他の者たちのように顔を隠さずに素顔を出しているのは、人にバレても気にしていないせいだろう。
持っているナイフの刃を舌なめずりをする。
「三分衆が一人、紅蓮のグロリオサ。狙った獲物は俺の加護“一発必中”が逃さねえ」
突然現れた男は目の奥に憎悪と嗜虐性が潜んでおり、少なくとも話し合いなんてものは応じてくれなさそうだ。
流石は貴族が作っているだけあって効果は凄まじく外傷すら消え去っている。
──どこ行ったんだろう?
急いで出て走ってはみたが、シルヴェストルの姿はない。
走った方向は下町の方だった。
夕日も落ちきっているので、これからは夜の時間だ。
そんな中で貴族の、ましてや領主の弟なら誘拐される可能性もある。
もしかするとすぐに追いつけるかもしれないと考えたのが甘かった。
下町に降りてきたが彼の姿はなく、それよりももっと深刻な事態になった。
「迷った……」
私は今どこにいるのだ。
気付いたら変な小路に迷い込んでしまい、いくら歩いても大通りに出られない。
慣れた道なら大丈夫なのに、少し道を外れるとこの有様だ。
「シグルーンとブリュンヒルデともはぐれたから頼れない……」
ここで気にしていても仕方がない。
とぼとぼと歩いていると目の前を少年たちが横切る。
──こんな遅い時間に子供だけ?
だが一人だけすごくキラキラとした少年がいた。
「シルヴェストル様!?」
服装はボロボロの服を着ているが、紛れもない彼自身だ。
おそらくはどこかで着替えて市井の子供に紛れ込んだのだろうが、生まれが生まれのため隠しきれていない。
「エステル!? やばい、逃げるぞ!」
あちらも私に気付いたようで、少年たちを連れて走って行こうとする。
だがここで逃がすわけにはいかない。
すぐに走り出して彼の腕を掴んだ。
「シルヴェストル様! もう遅い時間ですから危ないですよ!」
「ええい、うるさい! 少ししたら帰るつもりだ! 待てよ、其方も来い!」
「はひ?」
私が掴んだつもりが逆に引っ張られた。
一体どこへ向かうのかと思ったら、小さな空き家へと入る。
小さな蝋燭で灯りが外に漏れないように気を遣っていた。
「シルヴェストル様?」
子供はシルヴェストルを含めて五人ほどおり、みんな少しばかり裕福そうにも見えた。
しかしどうして子供だけ集会なんて開いているのだろうか。
私を訝しむ目が集まり、何人かは少し怖がっているようにも見える。
シルヴェストルは小さな声で私を紹介する。
「みんな、この人が噂の剣聖のエステルだ! 今日の作戦のためにわざわざ参加してくれたぞ!」
全員がまるで信じられないものを見るような目を私へ向ける。
目を輝かせるのでどうにも居た堪れない。
「作戦? 何かされるのですか?」
「うむ、俺の大切な友達が昨日から行方不明なんだ。だから犯人らしきアジトへ乗り込む」
当たり前のように言うせいでなかなか私の頭は処理できない。
だがだんだんと頭の中で処理が追いついていくにつれて、焦りが汗となって私の背中をつたる。
「子供だけで無茶ですよ! それなら騎士に応援を頼んだ方がいいじゃないですか!」
「平民の子供を騎士がわざわざ助けん。自警団も動きが遅すぎなら俺たちが頑張るしかない!」
威勢よく手を振り上げ、他の子供たちにも賛成を求める。
みんな釣られて手をあげており、このままこの子達を好き勝手させては危ない。
注意をしようとする前にドアが急に開かれた。
「コソッと付いてくればこのような悪戯をしているなんて……」
「ブリュンヒルデ!?」
ブリュンヒルデはどうやら私の後ろを付いてきていたようで、頃合いを見て中に入ってきたようだ。
シルヴェストルは私の後ろに隠れて彼女から見えないようにする。
「エステル殿、早くその方を連れて帰りましょう。領主の弟がこんな平民の子供と遊んでいたなんて知られたら、他領から下に見られます」
ブリュンヒルデの心無い一言のせいで子供達が怖がっている。
他の子供に全く目を向けないので、ここにいる子供達に一切の関心がないのが分かる。
「嫌だ! 領地を統べる者として困っている人は助けたい!」
すごく良いことを言っているのに私の後ろで言うせいかどうにも締まらない。
ブリュンヒルデは大きなため息を吐いて私の後ろにいるシルヴェストルの腕を掴んだ。
「貴方は絶対になれません。領主からも見捨てられて──」
ぱしッと私はブリュンヒルデの腕を弾いた。
「ちょっと、そんな言い方はないでしょ!」
「事実を言って何が悪いのですか。おかげでこちらも大迷惑をしているのですよ?」
彼女は私の方がおかしいと言いたげだ。
だがそれでも小さな子の将来について今何かを言うのは絶対に間違っている。
「ブリュンヒルデだって、お兄さんは才能があるけど妹にはないって言われたら嫌でしょ!」
私が言い返すとブリュンヒルデの顔が先ほどの威勢も消えて一気に暗くなる。
「才能がないのは罪です……才能さえあればアビの護衛騎士にもなれて、お兄様も認めてくれるかもしれない」
彼女の独白はこぼれ、彼女もまた貴族のしきたりに縛られているのかもしれない。
ただこのまま子供達の危険な行動を見過ごすこともできない。
その時、バンっと扉が強引に開けられ、大勢の黒装束たちが入ってくる。
十人ほどの男たちが私たちを取り囲んでナイフを持って威嚇する。
「よくやったなガキども。領主の弟をしっかり連れてくるなんざ偉いじゃねえか」
リーダー格の男が目元をだらしなく緩ませる。
シルヴェストルが友達である子供達を見るとバツが悪そうに顔を背けられていた。
「其方ら……俺を騙したのか?」
顔を青くする子供達は答えない。
その代わりにリーダー格の男が声を弾ませて答えた。
「許してやんなって。お前を誘き寄せば命を助けてやるって言ったんだ。ヴィーシャ暗殺集団の怖さは子供でも知っているんだよ」
国一番の暗殺者として知られるヴィーシャ暗殺集団。
弟を守ってくれているヴァイオレットがトップに立つ大きな組織だ。
各々が好き勝手にやっているようで、犯罪に手を染めるこの組織を好きになれない。
「シルヴェストル様、後ろに下がって……」
私は剣を抜いて彼を守る。
だが一向に動く気配がなく、もしやショックが大きすぎたのか彼の心が心配になる。
「そうだったのか……心配するな、其方ら。あとは俺に任せろ」
シルヴェストルは震える体で顔だけは笑って見せていた。
もしやその可能性も考えていたのかもしれない。
私に剣を習おうとしていたのも、もしかするとこういったことに遭遇した時にでも対処できるようにということなのかもしれない。
まだまだ子供なのに、自分を騙した相手の心配をする彼の器の大きさを目にした。
ならここからは大人の意地を見せよう。
「ブリュンヒルデ、何人か倒せる?」
「もちろんです。たかが平民に負けるほど貴族の位は安くはありません」
そう言ってブリュンヒルデは腰から剣を抜いて黒装束たちへ向かった。
「妙齢な貴族の女なら高くつく。縛り上げろ!」
ヴィーシャ暗殺集団のメンバーも一斉に動き出す。
私も子供達を気にかけながら戦う。
どいつも大したことはなく、一人、二人とどんどん倒していく。
このままいけると思った直後に左肩にドスっと衝撃が伝わり、次第にどんどん痛みが広がっていく。
ゆっくりと肩に目を向けると、いつの間にかナイフが肩に刺さっていた。
私はそのナイフが当たるまでまったく気づけなかったのだ。
「久しぶりだな、貴族の側仕え。俺のことを覚えているか?」
暗がりの中からゆっくりと現れたのは、髪の毛が燃えるように赤く、頬には十字の傷があった。
他の者たちのように顔を隠さずに素顔を出しているのは、人にバレても気にしていないせいだろう。
持っているナイフの刃を舌なめずりをする。
「三分衆が一人、紅蓮のグロリオサ。狙った獲物は俺の加護“一発必中”が逃さねえ」
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