101 / 166
第四章 側仕えは剣となり、嫌われ貴族は盾になった
番外編 側仕えとヒヒイロカネの冒険 ③
しおりを挟む
気絶したエルゲンを縄で縛ってそこらへんに転がす。
あれほど勢いよく吹き飛んだのに軽症で済んでいるのはエステルの手加減のおかげだろう。
「あのぉ……」
エルゲンの奴隷の子たちが不安そうに肩を寄せ合って俺たちを見る。
エステルを見る目は可愛い少女ではなく恐ろしい化け物を見るような目だった。
自然と体が動いてエステルにその目が見えないように体で隠した。
「オルグ?」
エステルが後ろで尋ねるが気づかないふりをした。
「こいつは自警団に引き渡しておくから、あんたらは自由にしたらいい。お金もこいつが持ってるお金でしばらくは生きられるだろう。そのお金で市民権を取り戻せばもう奴隷じゃない」
奴隷の子たちは怯えを隠しながらエステルに近付く。
俺もこの子達の意図を理解してエステルを前に出した。
「えっと……」
困惑した様子のエステルに奴隷の子たちが頭を下げる。
「「「自由にしてくれてありがとうございます!」」」
エステルは「へへっ」と照れており、これまで以上に可愛いとびきりの笑顔を奴隷の子たちに向けるのだった。
奴隷の子たちは馬に乗ってすぐさま去っていく。
すると頃合いを見ていたのか、エステルが乗っていた馬車から一人の男が出てきた。
どこか怪しい男で、大きな出っ歯が特徴的な男だ。
「へへ、あのアダマンタイトのエルゲンを倒すとはやっぱりおっかねえな」
胡散臭い男のため俺とルーナは彼女を守るように前に出た。
すると相手も俺たちのことを知っているようで狼狽える。
「お、俺は上に命令されてその子の道案内をしているだけだ。何か変なことをしているわけじゃねえぞ!」
「道案内だと?」
俺が尋ねると、男はうんうんと頷く。
「そうとも! これほどの剣の逸材なんて見たことねえだろ? ここ一帯の魔物も結構倒して──」
「おいちょっと待て!」
俺は男の胸ぐらを掴んで締め上げる。
苦しそうにもがくがそんなことは知ったことじゃない。
だがそれでもエステルは顔馴染みであるためか、俺の服を揺さぶって止めようとする。
「オルグ、どうしたの? 苦しんでいるよ!」
「エステルちゃん、オルグに任せて」
優しい子だと思うが、世間知らずなところをいいように利用されているのだ。
ルーナが俺の代わりにエステルをなだめてくれる。
「この子の報酬は中銅貨三枚らしいな? 魔物を倒させてその報酬は中抜きしすぎじゃねえか!」
泡を吹き出し始めたので男を一度離すと、男は尻餅をついてお尻をさすっていた。
だが俺が拳をポキポキと鳴らすと痛みを忘れて、俺に言い訳をする。
「し、知らねえよ! 本当だ! ただ案内すればいいだけって言ってたからもっと貰っていると思ってたんだ! それにその子は極度の方向音痴だから誰かが付いていないと、依頼の場所にも辿り着けねえよ!」
この男は本当に案内をさせられていただけの下っ端のようだ。
俺はエステルに向き直った。
「エステル、これまで倒した魔物ってどんなのか覚えているか?」
「えっとね。最初は狼とかだったけど、熊やガイコツ、杖を持った不気味な魔物に、この前だと大きな鳥とかかな……火を吹くって知らなくて服がちょっと燃えちゃったの」
エステルはボロいコートの裾を見せると、確かに燃えた跡があった。
火を吹く鳥なんてドラゴンしかいない。
想像以上に大物たちと戦っており、少なくともアダマンタイトと同じかそれ以上に活躍していた。
「一旦帰るぞ。あのギルド野郎に文句言ってやる! エステルを騙しているなんて許せねえ!」
エステルはよく分かっていない様子だが、ここは大人がビシッと正しい姿を見せてやらないといけない。
だがまた俺の邪魔をするようにギーガンが立ちはだかった。
「落ち着け、オルグ。そんなことをしても無駄だ」
「何だよ、エステルが安い賃金で働かされているのに黙っていろって言うのかよ!」
俺はギーガンに詰め寄った。
だがギーガンは「違う!」とこれまで見たことがないほどの殺気を放っていた。
「エステル、すまない。てっきり君は俺の知る人物だと思っていた。そのため何か理由があって安い賃金で働いていると勘違いしていたんだ」
「私はあの村と自分の村以外は行ったことないよ?」
エステルとギーガンは間違いなくここで初めて出会ったようだ。
ギーガンも頷いて、言葉を続ける。
「君みたいな幼い子供では本来冒険者ギルドに個人で活動できない。もしギルドに言えばもう二度とお金は稼げないだろう」
「そんなの困る! フェーの薬が買えなくなったら死んじゃう!」
エステルが泣きそうな顔でギーガンの腕を掴んだ。
そこでやっと冒険者ギルドの思惑が分かった。
最初からエステルがごねたらそれを盾にして、稼ぐ手段を奪うつもりだったのだ。
「なら方法は一つだけある。冒険者ギルドの裏技がな。もっと稼げるようにしてやろう」
「本当に!」
ギーガンが下手くそな笑いを浮かべると思わず笑ってしまった。
こいつも笑うのだと、初めて知ったのだ。
一緒に村に帰って、エステルがギルドの店員に報告しに行った。
途中でエルゲンに襲われたことで今回の任務は失敗したことになっている。
それをエステルが告げると案の定怒り出した。
「お前、ふざけるな! 失敗したら違約金を払ってもらうって言ったよな!」
大声で怒鳴り出し、エステルに向けて威圧的に顔を近付けた。
その時になってギーガンが先頭で受付まで歩いた。
「おい」
強面のギーガンが迫るのはただの店員では恐ろしいようで、一気に冷や汗を吹き出して、裏返った声で返事した。
「まだ未成年の子は本来ギルドで働けないのに、無理矢理働かせて違約金を取るのがお前らギルドのやり方か?」
ギロッとギーガンが睨むと店員はぶるぶると震えながら言い訳を始めた。
「いいえ、とんでもございません! ただこの子がどうしてもお金が欲しいというので、仕方なく仕事を斡旋しただけで……」
「ほう。なら正式に仕事をよこせ。今日からこの子は俺たちのパーティに加わるのだからな」
「えっ!?」
店員が理解出来ずにあたふたしだした。
「えっと、たとえ上級のパーティでも未成年の子は入れられませんが……」
「何を言っている。この子は一日だけの見習いだ。たしか規則ではアダマンタイトの冒険者がいれば一日だけなら未成年であってもパーティに入れられたはずだ」
「た、確かにそうですが……」
「何か文句があるのか?」
「め、滅相もありません!」
必要なサインだけしてギーガンがお目付役となることで、すんなりとエステルはパーティに加わった。
今日はもう夜も遅いので、明日だけエステルは俺たちのパーティの仲間だ。
そして次の日、俺たちはずっと攻略を後ろ倒しにしていた洞窟にやってきた。
「ここを攻略すれば私も働けるの?」
エステルは不安そうに尋ねてくるので大きく頷いてやった。
「ああ! ここの秘密を暴けば俺たちはヒヒイロカネの冒険者だ! そうなればアダマンタイト同様の特権がもらえる! そうなれば年齢なんて関係ねえ!」
ごく稀に幼い子供がその力量を示してアダマンタイトになった噂もある。
それは今回のように特別な依頼を達成して、大人以上の力量を示したことでだ。
流石に強者なら未成年どうのこうの話はなくなる。
「でもこれでいいのかな?」
ルーナが不安そうな顔で俺に尋ねる。
一体何を心配しているのか分からないが、前に見たエステルの強さならここの攻略も難しくはないだろう。
ギーガンを先頭に洞窟の先を進んでいく。
腐敗した臭いが充満しており、おそらくは全滅したパーティなのだろう。
「エステルちゃん、目を瞑ってて」
「うん?」
ルーナはエステルに悲惨な光景が見えないように手を繋ぐ。
よく分かっていないエステルだが、ルーナの言うことに大人しく従った。
エステルのことは一旦はルーナに任せて、俺はギーガンの横に並んだ。
「昨日は悪かったな」
チラッとギーガンが俺を見た。だがすぐに前方へ意識を戻す。
「気にするな。俺も自分の考えに固執していたからな」
「知っている奴ってエステルみたいな小さくて強いやつか?」
「剣帝だ」
「いー!?」
剣帝は冒険者で唯一のオリハルコンの称号を手に入れた最強の戦士だ。
噂では大男と聞いていたため、何を勘違いするというのだ。
「ギーガン、まさか目が見えないわけじゃないだろうな?」
「違う。確かにおかしなお話だ。俺もどうして彼女が剣帝に見えたのかは分からん」
本人もおかしいと思っているようだがあまり深く聞いても、本人が納得する答えは聞けそうになさそうだ。
洞窟を進むにつれてどんどん魔物が増えていく。
狭い道のせいで大きな大剣を振るえないが、俺が倒すよりも早くエステルがこの場にいる魔物を一人で倒していった。
「すげえ、あれって俺が半日掛けて倒した魔物なのに」
「オルグ、ボサっとしないで! エステルちゃんに頼ってばかりで情けなくなるよ」
「そうだな……うりゃああ!」
エステルの強さは計り知れないものだが、それに頼ってばかりでは俺もギルドの連中の変わらない。
大きな広間にたどり着くと、道が複数に分かれていた。
「うへ、やっぱり楽できんな」
未だに攻略したという話を聞かない洞窟のため、予想としてかなり深く掘られたものだと予測していた。
奥に進めば進むほど魔物の強さも上がっているため、おそらくこの先にはもっと強い魔物がいることだろう。
「エステルちゃん、疲れていない?」
「うん! でもそれよりみんなと一緒に冒険出来るのが楽しい」
なんて嬉しいことを言ってくれるのだ。
「そっか! ならもううちのチームに入ろうよ」
「そうだぜ。一緒に冒険しようぜ」
エステルが入ってくれるのは素直に嬉しい。
だがエステルは首を振った。
「私はいけないよ……フェーが一人になっちゃうから」
エステルの弟は難病で少し動いただけで熱が出てしまうらしい。
その治療費を稼ぐために一日中働いているのに、そんな彼女を騙して安い賃金でこき使っていたのが許せなかった。
「ならエステルが少しでも生活が良くなるようにヒヒイロカネにならねえとな」
ヒヒイロカネはパーティを組む冒険者の中では最高の地位だ。
依頼の難易度も上がるがそれだけお金も稼げる。
「どれくらいお金貰えるの?」
エステルは興味津々な顔で尋ねてくる。
俺は驚かそうと腕いっぱい広げた。
「そんなのいっぱいさ! 金貨や財宝の出る遺跡や洞窟だって紹介してもらえるぞ!」
やっぱり冒険者は誰もが一攫千金に憧れる。
だがエステルはピンと来ていないようだった。
「金貨って銅貨の何枚くらい?」
「むむ、難しいことを聞くな」
俺もエステルを馬鹿にできないくらい頭が悪い。
もちろんお金自体がどれくらいの価値くらいは分かっているが、すぐに計算できる頭はなかった。
「もう頼りないわね。エステルちゃん、この洞窟が終わったら私が教えてあげるからね」
「うん、ありがとう!」
お金の計算は知っていて損はない。
俺も一緒に教わろうと考えていると、少し先を見に行っていたギーガンは浮かない顔をしていた。
「どうかしたか?」
「うむ、消されていたが魔法陣の痕跡があってな。もしかすると高位のアンデッドがいるかもしれない」
「まじかよ!?」
高位のアンデッドはその不死性から人間から奪った知識が入り狡猾になっていく。
さらに貴族しか使えない魔法も使えるらしく、難易度はアダマンタイト級、もしくはオリハルコンでないと討伐できない魔物かもしれない。
「でもそうなると真実味が帯びてきたな。約束通りここを攻略すればヒヒイロカネの称号は問題なくもらえそうじゃねえか!」
拳を手のひらに打ってやる気をあげた。
ギーガンとルーナも頷いてくれる。
「でも頼みの綱がエステルちゃんというのが情けな……」
ルーナがエステルのいる方向へ目を向け、キョロキョロとあたりを見渡す。
「どうした?」
「エステルちゃんがいないの!」
「何だと!?」
俺も周りを見渡したが本当にエステルの姿がなかった。
大きな声で呼んでみたが返事すらなかった。
ギーガンは腕を組んで深刻な顔を作る。
「もしや高位のアンデッドに強制的に転移させられたかもしれんな」
「転移だと!? 魔物ってそんなことも出来るのかよ!」
ギーガンがうなずき、俺は自分の勉強不足を呪う。
彼女の今後のために仲間に入れて、結果的に危険晒すのでは保護者失格だ。
「エステル無しではこれから先は厳しいぞ」
ギーガンは俺たちを慮るような優しい声をする。
ここまでは俺たちだけでも来れただろうが、先にいけば行くほどどんどん敵が強くなっているため、おそらくはギーガンの実力が最低ラインだろう。
ギーガンもそれが分かっているためか一つの提案をしてきた。
「少し先まで俺が見てくる。ここで待っていろ」
「もし居なかったらどうするつもりだ?」
「見捨てる」
「なっ!? ふざけるな!」
非常な判断を下したギーガンに、頭に血が上って掴みかかる。
いくら強かろうとまだ幼いエステルだけではこんな入り組んだ洞窟から出ることは難しい。俺たちから誘っておいて見捨てるなんてできない。
だがギーガンは俺の体を襟ごと引っ張り、腕の力だけで地面に投げられた。
「オルグ!? 大丈夫!」
ルーナが俺の側に来て体を支えてくれた。
「痛ぇ……何しやがる!」
急に投げるやつがいるかと文句を言おうとしたが、ギーガンの目が俺に有無を言わせなかった。
「俺に負けるお前ではこの先は無理だ。俺だってあの子のことは心配だが、このパーティでは高位のアンデットの突破は出来ん。ましてや俺だけでは到底敵わないだろう」
一人しかいないオリハルコンを除けば、最上位となるアダマンタイトの冒険者であるギーガンが冷や汗をかいていた。
それほどまでに恐ろしい敵だと痛感させられた。
「恨むなら恨むがいい。だが俺もはパーティを全滅させない義務がある」
ギーガンの言葉が俺の心を打つ。
こちらから視線を外して洞窟の奥へ行こうとしたときに、彼の優しい目が見えた気がした。
「ふざけるな!」
地面に叩きつけられた背中がまだ痛むが、ここで行かせてはいけない。
ギーガンは立ち止まらずに先へ行こうとする。
だが俺は伝えてやらねばならない。
「俺とルーナ、ギーガン、そしてエステルはヒヒイロカネになるんだぞ! パーティに遠慮するんじゃねえ!」
ピタッとギーガンの足が止まった。
こちらを振り返り、虚をつかれた顔をしていた。
「ここで俺たちが成長すればいいんだろ! いずれはオリハルコンになるんだ、どこかで死線は潜る予定だったからちょうどいい!」
俺は前をスタスタと歩き、ギーガンを追い越す。
「お、おい、待て! 死ぬかもしれないんだぞ!」
「いいじゃない」
ルーナもまたギーガンを追い越して俺の隣に追いついた。
「小さい女の子を見捨てた男なんかと冒険なんてしたくないわよ。それに冒険者の世界は自業自得。オルグだって覚悟して家を飛び出したんだから」
「当たり前だ! エステルを見捨てて何がオリハルコンだ! そんなのは俺が目指すものじゃねえ!」
俺は隣のルーナに腕をあげて拳を向ける。
ルーナも気付いて拳をぶつけ合った。
未だ立ち尽くしているギーガンへ声を張り上げた。
「ギーガン! 早く来い! 俺たちはパーティなんだ! 仲間を助けに行くぞ!」
「顔が赤いからカッコつかないわね」
「うっせえ!」
ルーナがからかってくるが、生きて帰られないかもしれないので、この陽気さにいつも救われる。
おそらく、こいつがいなければ途中で諦めて田舎に帰っていただろう。
「ふん、助けんからな」
ギーガンもまた観念して俺たちの横に追いついた。
あれほど勢いよく吹き飛んだのに軽症で済んでいるのはエステルの手加減のおかげだろう。
「あのぉ……」
エルゲンの奴隷の子たちが不安そうに肩を寄せ合って俺たちを見る。
エステルを見る目は可愛い少女ではなく恐ろしい化け物を見るような目だった。
自然と体が動いてエステルにその目が見えないように体で隠した。
「オルグ?」
エステルが後ろで尋ねるが気づかないふりをした。
「こいつは自警団に引き渡しておくから、あんたらは自由にしたらいい。お金もこいつが持ってるお金でしばらくは生きられるだろう。そのお金で市民権を取り戻せばもう奴隷じゃない」
奴隷の子たちは怯えを隠しながらエステルに近付く。
俺もこの子達の意図を理解してエステルを前に出した。
「えっと……」
困惑した様子のエステルに奴隷の子たちが頭を下げる。
「「「自由にしてくれてありがとうございます!」」」
エステルは「へへっ」と照れており、これまで以上に可愛いとびきりの笑顔を奴隷の子たちに向けるのだった。
奴隷の子たちは馬に乗ってすぐさま去っていく。
すると頃合いを見ていたのか、エステルが乗っていた馬車から一人の男が出てきた。
どこか怪しい男で、大きな出っ歯が特徴的な男だ。
「へへ、あのアダマンタイトのエルゲンを倒すとはやっぱりおっかねえな」
胡散臭い男のため俺とルーナは彼女を守るように前に出た。
すると相手も俺たちのことを知っているようで狼狽える。
「お、俺は上に命令されてその子の道案内をしているだけだ。何か変なことをしているわけじゃねえぞ!」
「道案内だと?」
俺が尋ねると、男はうんうんと頷く。
「そうとも! これほどの剣の逸材なんて見たことねえだろ? ここ一帯の魔物も結構倒して──」
「おいちょっと待て!」
俺は男の胸ぐらを掴んで締め上げる。
苦しそうにもがくがそんなことは知ったことじゃない。
だがそれでもエステルは顔馴染みであるためか、俺の服を揺さぶって止めようとする。
「オルグ、どうしたの? 苦しんでいるよ!」
「エステルちゃん、オルグに任せて」
優しい子だと思うが、世間知らずなところをいいように利用されているのだ。
ルーナが俺の代わりにエステルをなだめてくれる。
「この子の報酬は中銅貨三枚らしいな? 魔物を倒させてその報酬は中抜きしすぎじゃねえか!」
泡を吹き出し始めたので男を一度離すと、男は尻餅をついてお尻をさすっていた。
だが俺が拳をポキポキと鳴らすと痛みを忘れて、俺に言い訳をする。
「し、知らねえよ! 本当だ! ただ案内すればいいだけって言ってたからもっと貰っていると思ってたんだ! それにその子は極度の方向音痴だから誰かが付いていないと、依頼の場所にも辿り着けねえよ!」
この男は本当に案内をさせられていただけの下っ端のようだ。
俺はエステルに向き直った。
「エステル、これまで倒した魔物ってどんなのか覚えているか?」
「えっとね。最初は狼とかだったけど、熊やガイコツ、杖を持った不気味な魔物に、この前だと大きな鳥とかかな……火を吹くって知らなくて服がちょっと燃えちゃったの」
エステルはボロいコートの裾を見せると、確かに燃えた跡があった。
火を吹く鳥なんてドラゴンしかいない。
想像以上に大物たちと戦っており、少なくともアダマンタイトと同じかそれ以上に活躍していた。
「一旦帰るぞ。あのギルド野郎に文句言ってやる! エステルを騙しているなんて許せねえ!」
エステルはよく分かっていない様子だが、ここは大人がビシッと正しい姿を見せてやらないといけない。
だがまた俺の邪魔をするようにギーガンが立ちはだかった。
「落ち着け、オルグ。そんなことをしても無駄だ」
「何だよ、エステルが安い賃金で働かされているのに黙っていろって言うのかよ!」
俺はギーガンに詰め寄った。
だがギーガンは「違う!」とこれまで見たことがないほどの殺気を放っていた。
「エステル、すまない。てっきり君は俺の知る人物だと思っていた。そのため何か理由があって安い賃金で働いていると勘違いしていたんだ」
「私はあの村と自分の村以外は行ったことないよ?」
エステルとギーガンは間違いなくここで初めて出会ったようだ。
ギーガンも頷いて、言葉を続ける。
「君みたいな幼い子供では本来冒険者ギルドに個人で活動できない。もしギルドに言えばもう二度とお金は稼げないだろう」
「そんなの困る! フェーの薬が買えなくなったら死んじゃう!」
エステルが泣きそうな顔でギーガンの腕を掴んだ。
そこでやっと冒険者ギルドの思惑が分かった。
最初からエステルがごねたらそれを盾にして、稼ぐ手段を奪うつもりだったのだ。
「なら方法は一つだけある。冒険者ギルドの裏技がな。もっと稼げるようにしてやろう」
「本当に!」
ギーガンが下手くそな笑いを浮かべると思わず笑ってしまった。
こいつも笑うのだと、初めて知ったのだ。
一緒に村に帰って、エステルがギルドの店員に報告しに行った。
途中でエルゲンに襲われたことで今回の任務は失敗したことになっている。
それをエステルが告げると案の定怒り出した。
「お前、ふざけるな! 失敗したら違約金を払ってもらうって言ったよな!」
大声で怒鳴り出し、エステルに向けて威圧的に顔を近付けた。
その時になってギーガンが先頭で受付まで歩いた。
「おい」
強面のギーガンが迫るのはただの店員では恐ろしいようで、一気に冷や汗を吹き出して、裏返った声で返事した。
「まだ未成年の子は本来ギルドで働けないのに、無理矢理働かせて違約金を取るのがお前らギルドのやり方か?」
ギロッとギーガンが睨むと店員はぶるぶると震えながら言い訳を始めた。
「いいえ、とんでもございません! ただこの子がどうしてもお金が欲しいというので、仕方なく仕事を斡旋しただけで……」
「ほう。なら正式に仕事をよこせ。今日からこの子は俺たちのパーティに加わるのだからな」
「えっ!?」
店員が理解出来ずにあたふたしだした。
「えっと、たとえ上級のパーティでも未成年の子は入れられませんが……」
「何を言っている。この子は一日だけの見習いだ。たしか規則ではアダマンタイトの冒険者がいれば一日だけなら未成年であってもパーティに入れられたはずだ」
「た、確かにそうですが……」
「何か文句があるのか?」
「め、滅相もありません!」
必要なサインだけしてギーガンがお目付役となることで、すんなりとエステルはパーティに加わった。
今日はもう夜も遅いので、明日だけエステルは俺たちのパーティの仲間だ。
そして次の日、俺たちはずっと攻略を後ろ倒しにしていた洞窟にやってきた。
「ここを攻略すれば私も働けるの?」
エステルは不安そうに尋ねてくるので大きく頷いてやった。
「ああ! ここの秘密を暴けば俺たちはヒヒイロカネの冒険者だ! そうなればアダマンタイト同様の特権がもらえる! そうなれば年齢なんて関係ねえ!」
ごく稀に幼い子供がその力量を示してアダマンタイトになった噂もある。
それは今回のように特別な依頼を達成して、大人以上の力量を示したことでだ。
流石に強者なら未成年どうのこうの話はなくなる。
「でもこれでいいのかな?」
ルーナが不安そうな顔で俺に尋ねる。
一体何を心配しているのか分からないが、前に見たエステルの強さならここの攻略も難しくはないだろう。
ギーガンを先頭に洞窟の先を進んでいく。
腐敗した臭いが充満しており、おそらくは全滅したパーティなのだろう。
「エステルちゃん、目を瞑ってて」
「うん?」
ルーナはエステルに悲惨な光景が見えないように手を繋ぐ。
よく分かっていないエステルだが、ルーナの言うことに大人しく従った。
エステルのことは一旦はルーナに任せて、俺はギーガンの横に並んだ。
「昨日は悪かったな」
チラッとギーガンが俺を見た。だがすぐに前方へ意識を戻す。
「気にするな。俺も自分の考えに固執していたからな」
「知っている奴ってエステルみたいな小さくて強いやつか?」
「剣帝だ」
「いー!?」
剣帝は冒険者で唯一のオリハルコンの称号を手に入れた最強の戦士だ。
噂では大男と聞いていたため、何を勘違いするというのだ。
「ギーガン、まさか目が見えないわけじゃないだろうな?」
「違う。確かにおかしなお話だ。俺もどうして彼女が剣帝に見えたのかは分からん」
本人もおかしいと思っているようだがあまり深く聞いても、本人が納得する答えは聞けそうになさそうだ。
洞窟を進むにつれてどんどん魔物が増えていく。
狭い道のせいで大きな大剣を振るえないが、俺が倒すよりも早くエステルがこの場にいる魔物を一人で倒していった。
「すげえ、あれって俺が半日掛けて倒した魔物なのに」
「オルグ、ボサっとしないで! エステルちゃんに頼ってばかりで情けなくなるよ」
「そうだな……うりゃああ!」
エステルの強さは計り知れないものだが、それに頼ってばかりでは俺もギルドの連中の変わらない。
大きな広間にたどり着くと、道が複数に分かれていた。
「うへ、やっぱり楽できんな」
未だに攻略したという話を聞かない洞窟のため、予想としてかなり深く掘られたものだと予測していた。
奥に進めば進むほど魔物の強さも上がっているため、おそらくこの先にはもっと強い魔物がいることだろう。
「エステルちゃん、疲れていない?」
「うん! でもそれよりみんなと一緒に冒険出来るのが楽しい」
なんて嬉しいことを言ってくれるのだ。
「そっか! ならもううちのチームに入ろうよ」
「そうだぜ。一緒に冒険しようぜ」
エステルが入ってくれるのは素直に嬉しい。
だがエステルは首を振った。
「私はいけないよ……フェーが一人になっちゃうから」
エステルの弟は難病で少し動いただけで熱が出てしまうらしい。
その治療費を稼ぐために一日中働いているのに、そんな彼女を騙して安い賃金でこき使っていたのが許せなかった。
「ならエステルが少しでも生活が良くなるようにヒヒイロカネにならねえとな」
ヒヒイロカネはパーティを組む冒険者の中では最高の地位だ。
依頼の難易度も上がるがそれだけお金も稼げる。
「どれくらいお金貰えるの?」
エステルは興味津々な顔で尋ねてくる。
俺は驚かそうと腕いっぱい広げた。
「そんなのいっぱいさ! 金貨や財宝の出る遺跡や洞窟だって紹介してもらえるぞ!」
やっぱり冒険者は誰もが一攫千金に憧れる。
だがエステルはピンと来ていないようだった。
「金貨って銅貨の何枚くらい?」
「むむ、難しいことを聞くな」
俺もエステルを馬鹿にできないくらい頭が悪い。
もちろんお金自体がどれくらいの価値くらいは分かっているが、すぐに計算できる頭はなかった。
「もう頼りないわね。エステルちゃん、この洞窟が終わったら私が教えてあげるからね」
「うん、ありがとう!」
お金の計算は知っていて損はない。
俺も一緒に教わろうと考えていると、少し先を見に行っていたギーガンは浮かない顔をしていた。
「どうかしたか?」
「うむ、消されていたが魔法陣の痕跡があってな。もしかすると高位のアンデッドがいるかもしれない」
「まじかよ!?」
高位のアンデッドはその不死性から人間から奪った知識が入り狡猾になっていく。
さらに貴族しか使えない魔法も使えるらしく、難易度はアダマンタイト級、もしくはオリハルコンでないと討伐できない魔物かもしれない。
「でもそうなると真実味が帯びてきたな。約束通りここを攻略すればヒヒイロカネの称号は問題なくもらえそうじゃねえか!」
拳を手のひらに打ってやる気をあげた。
ギーガンとルーナも頷いてくれる。
「でも頼みの綱がエステルちゃんというのが情けな……」
ルーナがエステルのいる方向へ目を向け、キョロキョロとあたりを見渡す。
「どうした?」
「エステルちゃんがいないの!」
「何だと!?」
俺も周りを見渡したが本当にエステルの姿がなかった。
大きな声で呼んでみたが返事すらなかった。
ギーガンは腕を組んで深刻な顔を作る。
「もしや高位のアンデッドに強制的に転移させられたかもしれんな」
「転移だと!? 魔物ってそんなことも出来るのかよ!」
ギーガンがうなずき、俺は自分の勉強不足を呪う。
彼女の今後のために仲間に入れて、結果的に危険晒すのでは保護者失格だ。
「エステル無しではこれから先は厳しいぞ」
ギーガンは俺たちを慮るような優しい声をする。
ここまでは俺たちだけでも来れただろうが、先にいけば行くほどどんどん敵が強くなっているため、おそらくはギーガンの実力が最低ラインだろう。
ギーガンもそれが分かっているためか一つの提案をしてきた。
「少し先まで俺が見てくる。ここで待っていろ」
「もし居なかったらどうするつもりだ?」
「見捨てる」
「なっ!? ふざけるな!」
非常な判断を下したギーガンに、頭に血が上って掴みかかる。
いくら強かろうとまだ幼いエステルだけではこんな入り組んだ洞窟から出ることは難しい。俺たちから誘っておいて見捨てるなんてできない。
だがギーガンは俺の体を襟ごと引っ張り、腕の力だけで地面に投げられた。
「オルグ!? 大丈夫!」
ルーナが俺の側に来て体を支えてくれた。
「痛ぇ……何しやがる!」
急に投げるやつがいるかと文句を言おうとしたが、ギーガンの目が俺に有無を言わせなかった。
「俺に負けるお前ではこの先は無理だ。俺だってあの子のことは心配だが、このパーティでは高位のアンデットの突破は出来ん。ましてや俺だけでは到底敵わないだろう」
一人しかいないオリハルコンを除けば、最上位となるアダマンタイトの冒険者であるギーガンが冷や汗をかいていた。
それほどまでに恐ろしい敵だと痛感させられた。
「恨むなら恨むがいい。だが俺もはパーティを全滅させない義務がある」
ギーガンの言葉が俺の心を打つ。
こちらから視線を外して洞窟の奥へ行こうとしたときに、彼の優しい目が見えた気がした。
「ふざけるな!」
地面に叩きつけられた背中がまだ痛むが、ここで行かせてはいけない。
ギーガンは立ち止まらずに先へ行こうとする。
だが俺は伝えてやらねばならない。
「俺とルーナ、ギーガン、そしてエステルはヒヒイロカネになるんだぞ! パーティに遠慮するんじゃねえ!」
ピタッとギーガンの足が止まった。
こちらを振り返り、虚をつかれた顔をしていた。
「ここで俺たちが成長すればいいんだろ! いずれはオリハルコンになるんだ、どこかで死線は潜る予定だったからちょうどいい!」
俺は前をスタスタと歩き、ギーガンを追い越す。
「お、おい、待て! 死ぬかもしれないんだぞ!」
「いいじゃない」
ルーナもまたギーガンを追い越して俺の隣に追いついた。
「小さい女の子を見捨てた男なんかと冒険なんてしたくないわよ。それに冒険者の世界は自業自得。オルグだって覚悟して家を飛び出したんだから」
「当たり前だ! エステルを見捨てて何がオリハルコンだ! そんなのは俺が目指すものじゃねえ!」
俺は隣のルーナに腕をあげて拳を向ける。
ルーナも気付いて拳をぶつけ合った。
未だ立ち尽くしているギーガンへ声を張り上げた。
「ギーガン! 早く来い! 俺たちはパーティなんだ! 仲間を助けに行くぞ!」
「顔が赤いからカッコつかないわね」
「うっせえ!」
ルーナがからかってくるが、生きて帰られないかもしれないので、この陽気さにいつも救われる。
おそらく、こいつがいなければ途中で諦めて田舎に帰っていただろう。
「ふん、助けんからな」
ギーガンもまた観念して俺たちの横に追いついた。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる