【完結】勘違いから始まる剣聖側仕えと没落貴族の成り上がりーー側仕えが強いことはそんなにおかしいことなのでしょうかーー

まさかの

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最終章 側仕えは姫君へ、嫌われ貴族はご主人様に 前編

側仕えと新たな王 カサンドラ視点

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 私の名前はカサンドラ。
 結界が城に張られる前に私はすでに城へと侵入していた。
 暗殺者の幹部なのだから変装はお手の物。
 そして何食わぬ顔で、王の側近の一人に紛れて込んでいた。
 パーティ用の大部屋に王の側近が集まっていた。
 他にも貴族はいたが、国王がうるさいからと部屋を分けさせたのだ。
 国王に付き従っていた者達は貌を青くしながら国王へ指示を仰ぐ。
 その時、地震が起きて床が揺れ、軟弱な貴族達が倒れ込んだ。
 国王もまた腰を抜かし、唯一立っている私の腕を掴んで起き上がろうとする。

「ひぃぃ、どういうことだ! 確かにレイラは神降ろしの儀式を行えば、余の味方になると言っていたんだ」

 この男に主の名前を呼び捨てにされるのは好かん。しかし計画のためにもう少しだけ我慢しなければならない。
 私はこいつを少しでもなだめる言葉を言う。

「ドルヴィ、思惑と違っても、神が守ってくれることには違いありません。もうしばらくの辛抱ですよ」

 下級の神なんぞ今のエステルに及ばない。だが適当な言葉でも救いを感じたのか、少しだけ安心したようだ。

「そうだな、ああ! 邪竜は余のために尽くせば良い! これが終わったら、レイラにはお仕置きが必要だな。余の女のくせに謀るなんぞ許せん」

 好き放題抜かすこの男に私の我慢も限界だった。
 その時、明かりの灯っていたシャンデリアのろうそくが一斉に火を失った。

「なっ、なんだ!」
「何もみえん!」

 急に明かりを失ったことで、平常心を失っている貴族達は一斉に狂乱する。
 私の腕を掴んでいる国王もまた他の者達と同じように慌てふためく。
 国王はつばを飛ばして命令を飛ばした。

「誰か明かりを点けろ! 貴様達はそれすらもできないのか!」

 その時、消えたシャンデリアに青色の炎が再度灯った。
 先ほどより薄暗いがそれでも明かりがあるだけで周りも少し落ち着き出す。
 すると一人、また一人と気づき出す。
 身体から光の粒子が空へと昇り出していくことに。

「ま、魔力が吸われる」
「ど、どうして……」

 私以外の者達はどんどん魔力を吸われていく。
 あの方が姿を現したのなら、もう演技の必要も無いだろう。
 私は国王の襟を掴んだ。

「来い」
「え? おい、貴様! やめろ!」

 力ずくで引っ張るため、国王はカーペットに引きずられる。

「痛い! やめろ! 余にこのようなことをするとは不敬であるぞ!」

 無視して足を進める。
 そして本来王族が座る二階席にあの方が座っていた。それにやっと他の者達が気づき出す。

「あら皆様、おそろいで何よりです」

 ミシェルという上級貴族が座っており、誰もが彼女がそこに居る理由が分からなかっただろう。

「お、お前、勝手に余の席に座るでない!」

 みっともない姿でも威勢だけはある。
 ミシェルは持っている杖を床に打ち付けるとその姿を変えていく。
 私は国王を掴んでいた手を離して、膝を突いて礼をする。

「皆様、改めてご挨拶いたします。レイラ・ローゼンブルク改め今日よりレイラ・メギリスト。貴方たちの王です」

 彼女の言葉に誰よりも反発したのは国王だった。

「き、貴様! 何を言っている! 国王は余の――」

 私の手が国王の頭を掴み、床へと思いっきり打ち付けた。

「がぁっ!」

 床が割れ、国王の顔を上げると鼻が曲がって血がどばどばと床にこぼれていた。

「ぎ、ざま!」

 まだ反抗的であるため何度も床へ打ち付けると次第に大人しくなっていく。

「貴方が馬鹿で助かったわ。私と婚約してくれたおかげで、簡単にドルヴィになれちゃうんだもん。結婚日はせっかくだから今日にしてしまいましょうか」

 レイラ様が一枚の羊皮紙を風でこちらまで送ってくる。私はそれを受け取った。
 婚姻の契約書であり、魔法で作られた物だ。
 レイラ様の名前が入っており、あとはこの男の直筆さえあればいい。
 静かになったこの男の腕を掴み、自身の血を指に付け、血文字で名前を書かせた。

「筋書きはそうね。これまでの半生を反省して妻のレイラに国の未来を託すというのはどうでしょう。貴方みたいな男でも最後くらいは王らしくありたいでしょ?」

 国王はもうすでに意識を失っており、何も喋らない。レイラ様はなおも話を続ける。

「それとせっかくだから、貴方たちも魔力くらいは役に立ってはいかがかしら?」

 魔力を吸われ続ける貴族達は顔を青くして抗議し出す。

「や、やめろ! 貴族が一斉に減ったら困るのはお前もだろうが!」
「そうだ! それに我々はお前を新たなドルヴィに――!」

 貴族達は言葉の途中で意識を無くしてその場で倒れ込んだ。

 ――美味であった。

 空から低い声が響く。心胆を凍えさせるような恐ろしい声だ。
 本物の邪竜が近くにいるのだ。

「戦犯がいなければ民達も納得しないでしょう。貴方たちも少しは役に立てて良かったわね」

 残っているのは私だけだ。ふと別の気配を感じて振り返ると、一人の男が投げ出されていた。

「ぐおっ!」

 それは神に乗り移られていたグレイプニルだった。
 どうやらエステルのおかげで正気を取り戻せたのだろう。
 グレイプニルは起き上がり、頭を押さえていた。

「ここは? 私は一体何を――」

 グレイプニルは私が掴んでいる国王を見て絶句していた。

「へ、陛下! きさまぁあああ!」

 グレイプニルはその巨体から想像できないほどの早さで迫ってくる。
 そしてその剣が私を貫こうと――。

 ザシュッと深く刺さった。心臓をひと突き、一撃で絶命した。

「ど、どうして――」

 わなわなとグレイプニルは震える。それもそのはずだろう。
 彼が刺したのは、守ろうとしていた”国王陛下”だったのだから。

「あはは! 殺しちゃった、殺しちゃった!」

 軽快なステップを踏むのは、ピエロの姿をした邪竜教の宣教師ピエトロだ。
 残忍な性格をしている彼が、グレイプニルに幻覚を見せたのだろう。

「貴様ら……もう生かしてはおけん!」

 グレイプニルの実力は本物。さらに怒っていては手が付けられない。
 一騎当千という最強の剣も手に入れてしまっているのなら、ここにいる者達だけでは互角がいいところだろう。
 しかし、本物の鞘はここにいる。

「ピエトロ、その男の加護を引き剥がしてちょうだい」
「あはは、ほい!」

 ピエトロは持っている鎌を大仰に振って、前に掲げると、グレイプニルが片膝を突いた。
 苦しそうに胸を押さえ、そして光の粒子が彼からレイラ様へと流れていく。
 レイラ様は満足そうな顔で唱える。

「一騎当千」

 レイラ様の服がドレスから真っ黒な鎧に変わった。
 まるで邪竜からの祝福のように漆黒を身にまとっていた。

「加護が移る……だと。どういうことだ?」
「何もおかしくはありませんよ。元々はわたくしの加護ですから。といっても王家から無理矢理に渡されたのですけどね」
「何を馬鹿な、どうして貴様なんぞに国王は――」

 言葉を止めてグレイプニルはまた大剣を構えた。

「陛下の無念は私が晴らす」

 レイラ様を狙うつもりだ。
 私が盾になろうとしたが、レイラ様が手で制した。
 そして長い髪を後ろに縛っていた。

「久々だからちょうどいいわ。肩慣らしをしなきゃね」
「ふんっ、女のお前に私が負けるはずがなかろう! 剣帝すら超える我の剣を――」

 舌が良く回るグレイプニルは何度もレイラ様へ剣を振るった。
 だがそれが掠ることはない。
 それどころかグレイプニルの鎧がどんどん壊されていく。

「はぁはぁ……どうして当たらん」

 グレイプニルは絶望していることだろう。
 全く歯が立たないことに。
 それは当たり前だ。

「これでも初めてのオリハルコンの冒険者なんですもの。知っていましたか? 貴方の実力は私に遠く及ばないって、冒険者ギルドは判断しているらしいわよ。見る目がありますね」

 グレイプニルは汚い言葉で罵る。しかしそれはレイラ様が剣を前に突き出しだだけで終わる。

「一騎当千――斬首」

 いくつもの剣がグレイプニルを覆い被さり、彼を倒す。そして巨大な剣を出現させ、一振りでグレイプニルの頭を切断した。

「あら、中身は意外ね。どおりでずっと隠しているはずだわ」

 兜から出てきたのは虎の顔をした男だった。
 獣人族と呼ばれる隣国の種族だ。たまに小競り合いをするが最近は比較的平和だ。
 しかしいつまた戦争が起きるか分からない。
 しかし魔法も使える獣人とは何やらきな臭い。
 おそらく国王は獣人族と何かしらの取引をしたのだろう。
 もしや新しい神が獣人の国に居着いたのは――。
 いいや、これは私の考えることでは無い。

「加護が完成、完成! あははは! あとは最高神だね!」

 ピエトロはにやりと笑う。国を手に入れ、あとは計画通り、最高神を消すだけだ。


「じゃあ僕は行くよ! 神国へお邪魔しまーす!」

 うきうきとした足取りでピエトロは姿を消した。
 残ったのは私とレイラ様だけだ。

「さて、モルドレッドが想像以上に頑張ってくれたようね。労いをしなければね。ちょっと時間は置くけど」

 国王が亡くなったことで結界が消えたのだろう。
 外がどんどん慌ただしくなっていた。
 私は天井へ上って、魔法で上を吹き飛ばし、空が見えるようにした。
 レイラ様は騎獣へ乗り、空へと舞い上がる。
 そこから国を一望できるからだ。
 終戦を伝えるために。
 レイラ様は綺麗な声を張り上げて宣言する。

「戦っている者達、全てに告げる! このたび邪竜へ国を売ろうとしていた国賊を討ち取った! ローゼンブルクの勇者達よ! よくぞ立ち上がった! これより王領は我々ローゼンブルクが統治する! 私が新たなドルヴィ・メギリストだ!」

 彼女が剣を掲げると、城へ侵入しようとしたローゼンブルクの貴族達が喝采を上げて勝利を喜んだ。
 城に残っていた敵達もどんどん降伏していき、また剣聖の名声もあったため、民達も比較的すんなりと新国王を迎えたのだった。
 そして数日後、新たなメギリストの国王として承認されるため、神国へ向かうことになるのだった。
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