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1 始まり

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 四月に入り、日本でも気候が穏やかな南部に住んでいるおかげで、昼間の気温は心地良くなっていた。
 ベンチの椅子に座って遊具で遊ぶ親子を肴にして、プシュッと缶のプルタブを開けた。
 ゴクゴクッと最初の一杯を堪能する。
 このビールの喉越しがたまらん。

「はぁー……うめぇー」


 こうやって世のサラリーマンたちがアクセク働くなかで飲むビールほど堪らんものはない。
 特にこれほどの絶好にお酒日和ならなおさらだ。

 ここにいると二年前の冬を思い出す。
 金もなく行くアテもなかったと俺は行き倒れたことがある。
 偶然にも通りかかったお人好しがご飯と毛布を恵んでくれた。
 それがなければ凍死していただろう。

 俺も少しは人の役に立つ男になりたい──なんてことは、残念ながら歳を重ねても考えもしなかった。
 利己的な俺は、自分にとって利益があるかどうかでしか判断しない。


「はぁー……死にたい」

 隣のベンチでジャージ姿の女の子が憂鬱な言葉を呟くのを聞くまでは……。
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