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聞くだけでも辛いんだよ
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愚痴というのは自分に全く関係の無いものでも、聞いていると辛いのだ、ということを知った。
何故か分からないが昔からよく相談される。相談と言っても本気で悩んでいることを、言ってしまえば「たかが友人」の俺に話すわけなんてない。相談と名の変えられた愚痴だ。
学校が休みでもそんなのはお構い無しだ。遊びに行った先のレジの店員さん、やたらと声の大きかった通りすがりのおじさん…
永遠に続くとも思えてくるそれに、自分が結構限界を迎えていることに自分では気づいていなかった。
『どう思うよ!?俺正論言ってるだろ。明らかににーちゃんが悪いよな!?』
「いや、どっちもどっち、とも言うだろ…。その時にお前謝らなかったんだろ?じゃあ五分五分だろ。」
『え~!弘明もにーちゃんの味方かよ』
「味方ってわけじゃないけど…」
なんだろう。自分じゃない。言われてるのは俺じゃないのに、凄く泣きたくなる。何が辛いというのはないけれど、なんとなく心にトゲが刺さったような気分になる。それを俺にも兄がいるから少し重ねてしまっているのかもしれない、と無理やり結論づけて、電話の相手の話に集中する。
「がんばれよ。応援してるから。」
『ありがと。謝罪文考えてくるわ~』
子供相談窓口、とかではないんだけどなぁ、なんて思いつつ、自室の床に寝転んだ。ヒヤッとしている感覚がなんだか少し気持ちいい。そんな感覚とは正反対に気持ちはずいぶん沈んでしまって、体は理由の分からない疲労で寝返りすらうちたくないと思えてくる。
「最近、増えたよなあ」
一人、そう呟いた。
母親からも父親の困る部分を聞いて、父親からも母親の気に入らない部分を聞いて…。
俺は誰にムカつくとかはあまりない。だけど、沢山の人からの愚痴を聞いて、アドバイスしても否定されることもあって、頷いてるだけだとちゃんと聞いてるか疑われたり。それを、その苦しさを相談したいと思わなくはないが、俺と同じ気持ちを持って欲しくない。こんなに疲れる役回りを誰かがして欲しくない。
だけど、疲れるのは事実。仕事でもなんでもないのだから、断ればいいのだが、自分が人と関われているのはこうして相談にのっているからなのでは無いかという思考に陥ってしまうと、断るなんて出来ない。
「弘明~ちょっと手伝って欲しいんだけど。」
扉を開く音と共に兄さんが入ってきた。床に寝転んでるなんて変に思われると分かってはいるが、起き上がる気にはなれない。
部屋をざっと見回した兄さんが俺を見つけて、近づいてきた。
「何してるの。ベッドあるのに床で寝転んで…。」
呆れたような声がして、ああやっぱり起き上がっておけば良かったと少し後悔する。このままというのは更に変に思われるだろうし、とりあえず起き上がらないと。と思って手で上半身を起こした時、兄さんが俺の額に手を当てた。
「弘明、しんどい?熱あると思うんだけど。」
「え。」
「怠いとか、頭痛いとか、ない?」
いきなりの質問に答えることは出来ない。そもそも自覚がないのだから、答えられなくて当然といえば当然だ。
さっきと違って真剣な声に思わず顔を上げて兄さんの顔を見た。そこで初めて兄さんの心の底から俺の事を心配してくれているような目を見た。
ふと思った。そういえば、最近増えた愚痴の数々だが、兄さんからそういうのは聞いていない。
そう思うとこの世界で兄さんだけが頼れる存在のように思えてきて、無性にすがりつきたくなる。
「弘明?」
「…え…ぁ。。」
「…!?」
予期していなかった涙に、自分でも驚いた。それは止めようとしても止まらなくて、だんだんと嗚咽までもまじってくる。手のひらで拭うも間に合わない分が、頬を伝ってぽたぽたとズボンや床に落ちていった。
「え、あっ、、ぐっ…ぐす。。ずっ」
「ど、した。?ごめん。もっと早く気づいてあげられてたら…!?」
半分パニックになりながらもぎこちなくも背中をさすってくれる兄さんが凄く優しくて、温かくて、もっと近くに来て、と願いたくなって真横に居る兄さんに子供のように抱きついた。子供が親に抱っこを求める時のような、そんな感じだと思う。
「ぉっと。…ん。よしよし。どうした?」
「ぇっ。げほ、、。ぐすっ。。あぁあん」
いきなりの俺の行動に、体勢を崩すもすぐに立て直して、抱き締め返してくれた。頭を撫でたり、背中をさすってくれたりする手は俺が思っている以上に安心をくれる。
止めようと思っていたさっきの自分が嘘みたい。今は止めようなんて思えない。兄さんが許してくれるなら、まだこうして抱き締めていてほしい。
兄さんの胸でどのくらい泣いただろうか。少し落ち着いてきて、兄さんから手を離した。
「落ち着いた?」
「…うん。。ごめん。ひくっ。。。」
「大丈夫だよ。ちょっとスッキリした?」
「……。」
泣いたことで多少スッキリしたが、まだなんとなく心に突き刺さるような感じが抜けきらない。でもこれは俺の愚痴になるのであって、それを言ってしまうと兄さんにも俺と同じ苦しさが、トゲのような苦しさが心に残るのでは無いだろうか。
「話せばもう少し、楽になると思うよ。話してみなよ。」
「で、、も…。」
「大丈夫。何を話したいかは分からないけど、弘明の抱えてるものの一つや二つくらいなら、聞いても苦しくはならないよ。」
「…。」
「聞かせて。」
ぎゅっと、今度は兄さんの方から抱きしめてきた。包まれている感じがとても落ち着く。さっき引いた涙がまた溢れてくる。
「最近、、さいきん…相だん。。されることが増えて…でも…」
「うん。」
「でも、、それ。ぐち、でっ!、」
「うん。」
「じぶ、んとは…関係ない。。のに、つらくて…しんどくて…。」
「そう。」
もともとない語彙力が更に落ちている今の俺の言葉で、分かるだろうか。伝わるかな。今自分がどうやって話しているのかも正直わからないが、ただ、兄さんが抱きしめてくれてて、兄さんが話を聞いてくれてる、それだけですごく、すごく心が楽になる。
話しても兄さんなら、受け入れてくれるとそう感じた。
「辛かったね。」
「うん…。」
「頑張ったね。」
「…うんっ……!」
「ちょっと疲れたでしょ。休憩の時だよ。」
もう一度兄さんに抱きついた。そしたら兄さんも少しだけ力を入れて返してくれた。
「もう、少しこのまま、でいい。?」
「弘明の気の済むまで。」
テンポよく撫でられる頭、兄さんの手が心地よくて、俺は襲ってきた眠気に逆らうことなく目を閉じた。
何故か分からないが昔からよく相談される。相談と言っても本気で悩んでいることを、言ってしまえば「たかが友人」の俺に話すわけなんてない。相談と名の変えられた愚痴だ。
学校が休みでもそんなのはお構い無しだ。遊びに行った先のレジの店員さん、やたらと声の大きかった通りすがりのおじさん…
永遠に続くとも思えてくるそれに、自分が結構限界を迎えていることに自分では気づいていなかった。
『どう思うよ!?俺正論言ってるだろ。明らかににーちゃんが悪いよな!?』
「いや、どっちもどっち、とも言うだろ…。その時にお前謝らなかったんだろ?じゃあ五分五分だろ。」
『え~!弘明もにーちゃんの味方かよ』
「味方ってわけじゃないけど…」
なんだろう。自分じゃない。言われてるのは俺じゃないのに、凄く泣きたくなる。何が辛いというのはないけれど、なんとなく心にトゲが刺さったような気分になる。それを俺にも兄がいるから少し重ねてしまっているのかもしれない、と無理やり結論づけて、電話の相手の話に集中する。
「がんばれよ。応援してるから。」
『ありがと。謝罪文考えてくるわ~』
子供相談窓口、とかではないんだけどなぁ、なんて思いつつ、自室の床に寝転んだ。ヒヤッとしている感覚がなんだか少し気持ちいい。そんな感覚とは正反対に気持ちはずいぶん沈んでしまって、体は理由の分からない疲労で寝返りすらうちたくないと思えてくる。
「最近、増えたよなあ」
一人、そう呟いた。
母親からも父親の困る部分を聞いて、父親からも母親の気に入らない部分を聞いて…。
俺は誰にムカつくとかはあまりない。だけど、沢山の人からの愚痴を聞いて、アドバイスしても否定されることもあって、頷いてるだけだとちゃんと聞いてるか疑われたり。それを、その苦しさを相談したいと思わなくはないが、俺と同じ気持ちを持って欲しくない。こんなに疲れる役回りを誰かがして欲しくない。
だけど、疲れるのは事実。仕事でもなんでもないのだから、断ればいいのだが、自分が人と関われているのはこうして相談にのっているからなのでは無いかという思考に陥ってしまうと、断るなんて出来ない。
「弘明~ちょっと手伝って欲しいんだけど。」
扉を開く音と共に兄さんが入ってきた。床に寝転んでるなんて変に思われると分かってはいるが、起き上がる気にはなれない。
部屋をざっと見回した兄さんが俺を見つけて、近づいてきた。
「何してるの。ベッドあるのに床で寝転んで…。」
呆れたような声がして、ああやっぱり起き上がっておけば良かったと少し後悔する。このままというのは更に変に思われるだろうし、とりあえず起き上がらないと。と思って手で上半身を起こした時、兄さんが俺の額に手を当てた。
「弘明、しんどい?熱あると思うんだけど。」
「え。」
「怠いとか、頭痛いとか、ない?」
いきなりの質問に答えることは出来ない。そもそも自覚がないのだから、答えられなくて当然といえば当然だ。
さっきと違って真剣な声に思わず顔を上げて兄さんの顔を見た。そこで初めて兄さんの心の底から俺の事を心配してくれているような目を見た。
ふと思った。そういえば、最近増えた愚痴の数々だが、兄さんからそういうのは聞いていない。
そう思うとこの世界で兄さんだけが頼れる存在のように思えてきて、無性にすがりつきたくなる。
「弘明?」
「…え…ぁ。。」
「…!?」
予期していなかった涙に、自分でも驚いた。それは止めようとしても止まらなくて、だんだんと嗚咽までもまじってくる。手のひらで拭うも間に合わない分が、頬を伝ってぽたぽたとズボンや床に落ちていった。
「え、あっ、、ぐっ…ぐす。。ずっ」
「ど、した。?ごめん。もっと早く気づいてあげられてたら…!?」
半分パニックになりながらもぎこちなくも背中をさすってくれる兄さんが凄く優しくて、温かくて、もっと近くに来て、と願いたくなって真横に居る兄さんに子供のように抱きついた。子供が親に抱っこを求める時のような、そんな感じだと思う。
「ぉっと。…ん。よしよし。どうした?」
「ぇっ。げほ、、。ぐすっ。。あぁあん」
いきなりの俺の行動に、体勢を崩すもすぐに立て直して、抱き締め返してくれた。頭を撫でたり、背中をさすってくれたりする手は俺が思っている以上に安心をくれる。
止めようと思っていたさっきの自分が嘘みたい。今は止めようなんて思えない。兄さんが許してくれるなら、まだこうして抱き締めていてほしい。
兄さんの胸でどのくらい泣いただろうか。少し落ち着いてきて、兄さんから手を離した。
「落ち着いた?」
「…うん。。ごめん。ひくっ。。。」
「大丈夫だよ。ちょっとスッキリした?」
「……。」
泣いたことで多少スッキリしたが、まだなんとなく心に突き刺さるような感じが抜けきらない。でもこれは俺の愚痴になるのであって、それを言ってしまうと兄さんにも俺と同じ苦しさが、トゲのような苦しさが心に残るのでは無いだろうか。
「話せばもう少し、楽になると思うよ。話してみなよ。」
「で、、も…。」
「大丈夫。何を話したいかは分からないけど、弘明の抱えてるものの一つや二つくらいなら、聞いても苦しくはならないよ。」
「…。」
「聞かせて。」
ぎゅっと、今度は兄さんの方から抱きしめてきた。包まれている感じがとても落ち着く。さっき引いた涙がまた溢れてくる。
「最近、、さいきん…相だん。。されることが増えて…でも…」
「うん。」
「でも、、それ。ぐち、でっ!、」
「うん。」
「じぶ、んとは…関係ない。。のに、つらくて…しんどくて…。」
「そう。」
もともとない語彙力が更に落ちている今の俺の言葉で、分かるだろうか。伝わるかな。今自分がどうやって話しているのかも正直わからないが、ただ、兄さんが抱きしめてくれてて、兄さんが話を聞いてくれてる、それだけですごく、すごく心が楽になる。
話しても兄さんなら、受け入れてくれるとそう感じた。
「辛かったね。」
「うん…。」
「頑張ったね。」
「…うんっ……!」
「ちょっと疲れたでしょ。休憩の時だよ。」
もう一度兄さんに抱きついた。そしたら兄さんも少しだけ力を入れて返してくれた。
「もう、少しこのまま、でいい。?」
「弘明の気の済むまで。」
テンポよく撫でられる頭、兄さんの手が心地よくて、俺は襲ってきた眠気に逆らうことなく目を閉じた。
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