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色んなことを少しずつ
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少し遠い親戚から引き取った蓮音は、色々な意味で常識が通じない子だった。
噂でしか聞いていないが、虐待一歩手前のことをされていたのだとか。その噂が本当であれば、辻褄が合うような行動が多い。しかし、少し遠い、とはいえ親戚を悪く思いたくはないし、何より亡くなってしまった人達が蓮音をどう育てていたか、なんて誰にも分からないことなのだ。
なんと言っても、今までの時間が戻る訳では無いし、これからひとつずつ、少しずつ教えていけばいい。
「蓮音、どうした?」
ソファに座ってピンと背を伸ばす蓮音に声をかける。
高級ソファのようにふわふわな訳では無いが、ソファとして買っているので、それ相応のふわふわ感はあると思うのだ。その上に背筋を伸ばして座るのは逆に疲れることではないか…。
ソファの上では力を抜いていいんだよ。って教えないとな、というのは頭の片隅にメモする程度に留める。
蓮音は同年代の同性と比べれば、少し痩せ気味で、顔色がいいとはあまり言えないことが多いが、今日はそれに輪をかけている。
「蓮音?」
一度、洗い物をしていた手を止めて、蓮音の元まで行ってみる。
「葵さん…」
「うん。蓮音、力抜いていいよ。」
「ごめんなさい。」
「謝らないでいいよ。知らないことは少しずつ、知っていこう。」
中腰になり、軽く肩から肘にかけて摩りながら言うと、まるで悪いことをした後に謝るように謝罪する。悪いことではないのに。こういう姿を見る度に、つきりと胸が痛む。
ざっと顔色を確認すると、少し青白く、目が潤んでいた。
今日は洗い物を終えて少しゆっくりしたら、買い物にでも出かけようかと考えていたが、それはまた後日となりそうだ。
「蓮音、しんどいところある?顔色悪いよ。」
「…」
蓮音は無言で少しだけ首を振る。しかし、俺の考えすぎ、という言葉で済ましてしまうことは出来ない顔色だ。
そっと手を蓮音の額に添えた。熱は高くはないように思える。ただ、これも高くはないというだけで、おそらく発熱はしている。
力の抜けきらない体は、彼が不調であることを物語っている。
触れた腕には少しだけ鳥肌がたっていたし、何も無いということは確実にない。
聞き方が悪かったのかと考え方を巡らせてみるが、どうにもこれといったものは見つからない。
「どこか痛い?」
「っ…」
それに対して何も言わない。首を振る等の反応もない。けれど、潤んだ瞳の中の黒目が若干揺れたのが見えた。図星と見て間違いのない。
何となく、そう聞いてみただけだった。しかし、彼にとって「痛い」と「しんどい」は別のものなのだと知り、やっぱり少し考え方が違うと改めて思う。
「どこが痛い??」
「…いた、くない、です。どこも。」
まだ、隠そうとする。もしかしたら、隠している訳ではなく、我慢するのが普通と考えているのかもしれない。必要な嘘だと判断してしまっている。
「蓮音。」
「はい。」
「嘘は、ダメだよ?」
「…」
少し厳しめに言ってみる。だって不調なのは見てわかるだ。パッと見で見抜いてあげられないのは申し訳ない。そこは俺が成長しなければいけない点だ。
しかし、それとは別に、しんどいところをしんどい、痛いところを痛い、と言うことを蓮音が学ばなければいけない。
「蓮音。」
「…おなか。いたいです。」
「他は?」
「あたま…。」
「他は?」
「あとは、ないです。ほんとに。」
「ん。よく言えました。」
少し俯き気味になった頭をポンポンと撫でる。撫でた手を蓮音のお腹にあてる。医者ではないから、正確なことがわかるわけではないが、多少のことはわかるはずだ。
当てた部分でゴロゴロとお腹が動く感じがした。そっと当てただけでわかるほどなのに、よく耐えていたものだ。
「トイレ行く?」
聞いてみると、小さく首を振られた。まあ年頃だし、その辺のことを気にされるのは少し恥ずかしい気持ちもあるのだろう。
「冷やすものあったかなぁ。少し探してくるよ。辛かったら横になってていいからね。」
言い残して冷蔵庫や薬箱なんて思い当たる場所を探してみる。奇跡的と言えばいいのか、残り一枚だけあった冷えピタを持って今度は寝室からタオルケットをとる。その他、体温計や水なんかを集めて蓮音のもとへ戻った。
「蓮音!?ちょっと、なんで床に座ってるの。」
戻ると蓮音は床にペタンとおしりをつけた状態で座っていた。蓮音が腹痛であることを俺が知ったからか、手は強くお腹を抑えている。
とりあえず持ってきたものを蓮音が座っていた場所の隣に置いて、蓮音と同じ目線になるようにしゃがむ。急に引き上げたらビックリしてしまうだろう、というのはある。それに蓮音に少し頑張ってもらわないと、蓮音を抱き上げてソファに座らせるなんてことは俺には無理だ。
「蓮音。一旦ソファ座ろ。」
「…ゃ…」
小さい子が言うようにいや、と言う。なぜ嫌なのかはわからないが、嫌なことを無理にさせたくはない。でも、冷えてしまっている床に座っているのはどうかと思う。
見るからにガチガチに力が入ってしまっている。触れるとそれは明解で、先程は少ししかたっていなかった鳥肌も、今はすうっと指を走らせるとザラザラと存在を主張してくる。
しばらく、説得を続けてみても、答えは変わらない。
しかし、蓮音の膝の上に、蓮音が落とした涙が少しずつ水の膜を広げていく。それが生理的か感情的かはわからない。
「蓮音、どうして嫌なの…」
「だっ、て……っ」
しゃくりあげながら、理由を説明してくれようとするけれど、それは言われることなく、不自然なところで途切れた。
お腹を抑えている手を片方離して、自分のズボンの裾をギュッと掴んだ。爪が皮膚にくい込んでいる。
「蓮音、どうした?」
「…ずっ、はっ、んっん。」
ポロポロと落ちてくる涙に加えて、唾液や鼻水が落ちる。真正面から見ることは出来なくても分かるほどに、顔は真っ青。
本格的に泣き始めてしまったが、理由が分からない以上どうすることも出来ず、ソファに座らせることは諦めて、蓮音の背中を擦りながら様子を伺う。
「吐きそうなら、吐いてしまっていいよ。辛いでしょ。」
そう言ってみるも、フルフルと首を振る。
「…だめ。」
一言そう呟いたかと思えば、覚束無い足取りで立ち上がった。
体に変な風に力が入っているために、なかなか歩くことが難しそうな蓮音を咄嗟に支える。
「蓮音どこ行くの。」
「……といれ。」
涙と鼻水、唾液で顔をぐしゃぐしゃにしながら、か細い声で呟かれた。
それで色々と察した。トイレまで距離があるわけではないが、このペースで行けば間に合わないかもしれない。
おそらく俺が声をかけている間、ずっと我慢していたのだろう、ということを考えれば尚更。
調子が悪いときは仕方の無いことだってあるし、俺は問題ないが、年頃の蓮音は相当気にするだろう。
抱き上げることも出来ないから、頑張ってもらうしかない。蓮音に合わせて、ゆっくり歩く。
ドアを開けて、廊下を少し歩いたところで、歩みがピタリととまった。
なりふり構っていられなくなったのか、先程から、結構多めの頻度でおしりを抑える仕草をしていることは知っていたから、限界は近いだろうと思っていた。
「…やっ、、まって…うぅ」
膝から崩れ落ちた蓮音が膝をぶつけた。これ以上体のどこも打たないように、少し引っ張り気味に支えながらゆっくりと座り込む。
緩めの便が排泄されていくのが音でわかる。ぐちゅぐちゅ、という音をたてながら、湿り気を持ったそれが、下着、ズボンを通り越して床を湿らした。
お腹が痛いと言っていたし、あまり制御が効かないのだろう。
「大丈夫大丈夫。」
できるだけ音を聞かないように、声をかけ続ける。軽くお腹を擦りながら反対の手ではボロボロと流れ続ける涙を拭う。
「はっ、うっ、、ぁっ……」
「大丈夫だよ。落ち着いた?お風呂場行こうか。」
「ごめ、、なさ…おこら、ないでくださっ……ちゃんと、洗う、ので。。ごめっ、なさ。」
「落ち着いて。ほら深呼吸。よしよし。」
顔を歪めながら必死に懇願してくる。その姿は痛々しくて見ていられない。
過呼吸気味になっているので、背中を擦りながら長めの呼吸を意識させる。
「はふ…あぁ、、えほっ、」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
今自分がどのような状態かわかっていないのかもしれない。パニックに陥っている状態だろう。風の通らない熱気が半端ない廊下で長時間いれば、熱中症を併発しかねないと頭の中では考えるけれど、どう見ても移動出来る状態ではない。
ただ背中や腕をさすって、涙を拭って落ち着くように、声をかけ続ける。
しばらくすると、少し落ち着いた。と言うよりも放心状態となってしまっている。
立ち上がらせ、手を引いて、風呂に入れる。服をぬがせて、脱いだものは蓮音の目につかないように、色つきの袋へとしまう。後で洗えばそれでいいだろう。少しシャワーを出して、お湯になったのを確認してから蓮音にかける。
一通り洗い流してから、脱衣場でバスタオルを巻く。
「蓮音、大丈夫だよ。さっきも言ったけど、調子悪い時は仕方ない。それより、我慢していたほうがダメだよ?」
小さくコクリと頷いたのを確認して、脱衣場に置いている着替えの服を渡す。ゆっくりではあるが、着替えたのを見て、首にタオルを置いてソファへと戻る。
下を向いて、グズグズと鼻をすすりながら未だに涙をポロポロと零す。
「熱いお茶でも飲む?」
「…」
話題を逸らしてみるが、あまり効果はさそう。無理に話題を逸らすことを辞めて、先程置いた冷えピタなどを退けて蓮音の横に座る。
そっと背中を撫でて、お腹をさする。
不意に、肩に重みと温かみを感じた。
「蓮音?」
「ひっ、ふっ、ぅ」
泣きひゃっくりで呼吸は少し苦しそうではあるが、眠ってしまったらしい。
「色んなことを少しずつ、ね。」
俺もまだまだ蓮音のことを知らない。
蓮音も俺のことを知り尽くしている訳では無いと思う。
俺も、君も少しずつ慣れていこうね。
蓮音のお腹をさする手はそのままに、反対の手で頭を少しだけ撫でた。
噂でしか聞いていないが、虐待一歩手前のことをされていたのだとか。その噂が本当であれば、辻褄が合うような行動が多い。しかし、少し遠い、とはいえ親戚を悪く思いたくはないし、何より亡くなってしまった人達が蓮音をどう育てていたか、なんて誰にも分からないことなのだ。
なんと言っても、今までの時間が戻る訳では無いし、これからひとつずつ、少しずつ教えていけばいい。
「蓮音、どうした?」
ソファに座ってピンと背を伸ばす蓮音に声をかける。
高級ソファのようにふわふわな訳では無いが、ソファとして買っているので、それ相応のふわふわ感はあると思うのだ。その上に背筋を伸ばして座るのは逆に疲れることではないか…。
ソファの上では力を抜いていいんだよ。って教えないとな、というのは頭の片隅にメモする程度に留める。
蓮音は同年代の同性と比べれば、少し痩せ気味で、顔色がいいとはあまり言えないことが多いが、今日はそれに輪をかけている。
「蓮音?」
一度、洗い物をしていた手を止めて、蓮音の元まで行ってみる。
「葵さん…」
「うん。蓮音、力抜いていいよ。」
「ごめんなさい。」
「謝らないでいいよ。知らないことは少しずつ、知っていこう。」
中腰になり、軽く肩から肘にかけて摩りながら言うと、まるで悪いことをした後に謝るように謝罪する。悪いことではないのに。こういう姿を見る度に、つきりと胸が痛む。
ざっと顔色を確認すると、少し青白く、目が潤んでいた。
今日は洗い物を終えて少しゆっくりしたら、買い物にでも出かけようかと考えていたが、それはまた後日となりそうだ。
「蓮音、しんどいところある?顔色悪いよ。」
「…」
蓮音は無言で少しだけ首を振る。しかし、俺の考えすぎ、という言葉で済ましてしまうことは出来ない顔色だ。
そっと手を蓮音の額に添えた。熱は高くはないように思える。ただ、これも高くはないというだけで、おそらく発熱はしている。
力の抜けきらない体は、彼が不調であることを物語っている。
触れた腕には少しだけ鳥肌がたっていたし、何も無いということは確実にない。
聞き方が悪かったのかと考え方を巡らせてみるが、どうにもこれといったものは見つからない。
「どこか痛い?」
「っ…」
それに対して何も言わない。首を振る等の反応もない。けれど、潤んだ瞳の中の黒目が若干揺れたのが見えた。図星と見て間違いのない。
何となく、そう聞いてみただけだった。しかし、彼にとって「痛い」と「しんどい」は別のものなのだと知り、やっぱり少し考え方が違うと改めて思う。
「どこが痛い??」
「…いた、くない、です。どこも。」
まだ、隠そうとする。もしかしたら、隠している訳ではなく、我慢するのが普通と考えているのかもしれない。必要な嘘だと判断してしまっている。
「蓮音。」
「はい。」
「嘘は、ダメだよ?」
「…」
少し厳しめに言ってみる。だって不調なのは見てわかるだ。パッと見で見抜いてあげられないのは申し訳ない。そこは俺が成長しなければいけない点だ。
しかし、それとは別に、しんどいところをしんどい、痛いところを痛い、と言うことを蓮音が学ばなければいけない。
「蓮音。」
「…おなか。いたいです。」
「他は?」
「あたま…。」
「他は?」
「あとは、ないです。ほんとに。」
「ん。よく言えました。」
少し俯き気味になった頭をポンポンと撫でる。撫でた手を蓮音のお腹にあてる。医者ではないから、正確なことがわかるわけではないが、多少のことはわかるはずだ。
当てた部分でゴロゴロとお腹が動く感じがした。そっと当てただけでわかるほどなのに、よく耐えていたものだ。
「トイレ行く?」
聞いてみると、小さく首を振られた。まあ年頃だし、その辺のことを気にされるのは少し恥ずかしい気持ちもあるのだろう。
「冷やすものあったかなぁ。少し探してくるよ。辛かったら横になってていいからね。」
言い残して冷蔵庫や薬箱なんて思い当たる場所を探してみる。奇跡的と言えばいいのか、残り一枚だけあった冷えピタを持って今度は寝室からタオルケットをとる。その他、体温計や水なんかを集めて蓮音のもとへ戻った。
「蓮音!?ちょっと、なんで床に座ってるの。」
戻ると蓮音は床にペタンとおしりをつけた状態で座っていた。蓮音が腹痛であることを俺が知ったからか、手は強くお腹を抑えている。
とりあえず持ってきたものを蓮音が座っていた場所の隣に置いて、蓮音と同じ目線になるようにしゃがむ。急に引き上げたらビックリしてしまうだろう、というのはある。それに蓮音に少し頑張ってもらわないと、蓮音を抱き上げてソファに座らせるなんてことは俺には無理だ。
「蓮音。一旦ソファ座ろ。」
「…ゃ…」
小さい子が言うようにいや、と言う。なぜ嫌なのかはわからないが、嫌なことを無理にさせたくはない。でも、冷えてしまっている床に座っているのはどうかと思う。
見るからにガチガチに力が入ってしまっている。触れるとそれは明解で、先程は少ししかたっていなかった鳥肌も、今はすうっと指を走らせるとザラザラと存在を主張してくる。
しばらく、説得を続けてみても、答えは変わらない。
しかし、蓮音の膝の上に、蓮音が落とした涙が少しずつ水の膜を広げていく。それが生理的か感情的かはわからない。
「蓮音、どうして嫌なの…」
「だっ、て……っ」
しゃくりあげながら、理由を説明してくれようとするけれど、それは言われることなく、不自然なところで途切れた。
お腹を抑えている手を片方離して、自分のズボンの裾をギュッと掴んだ。爪が皮膚にくい込んでいる。
「蓮音、どうした?」
「…ずっ、はっ、んっん。」
ポロポロと落ちてくる涙に加えて、唾液や鼻水が落ちる。真正面から見ることは出来なくても分かるほどに、顔は真っ青。
本格的に泣き始めてしまったが、理由が分からない以上どうすることも出来ず、ソファに座らせることは諦めて、蓮音の背中を擦りながら様子を伺う。
「吐きそうなら、吐いてしまっていいよ。辛いでしょ。」
そう言ってみるも、フルフルと首を振る。
「…だめ。」
一言そう呟いたかと思えば、覚束無い足取りで立ち上がった。
体に変な風に力が入っているために、なかなか歩くことが難しそうな蓮音を咄嗟に支える。
「蓮音どこ行くの。」
「……といれ。」
涙と鼻水、唾液で顔をぐしゃぐしゃにしながら、か細い声で呟かれた。
それで色々と察した。トイレまで距離があるわけではないが、このペースで行けば間に合わないかもしれない。
おそらく俺が声をかけている間、ずっと我慢していたのだろう、ということを考えれば尚更。
調子が悪いときは仕方の無いことだってあるし、俺は問題ないが、年頃の蓮音は相当気にするだろう。
抱き上げることも出来ないから、頑張ってもらうしかない。蓮音に合わせて、ゆっくり歩く。
ドアを開けて、廊下を少し歩いたところで、歩みがピタリととまった。
なりふり構っていられなくなったのか、先程から、結構多めの頻度でおしりを抑える仕草をしていることは知っていたから、限界は近いだろうと思っていた。
「…やっ、、まって…うぅ」
膝から崩れ落ちた蓮音が膝をぶつけた。これ以上体のどこも打たないように、少し引っ張り気味に支えながらゆっくりと座り込む。
緩めの便が排泄されていくのが音でわかる。ぐちゅぐちゅ、という音をたてながら、湿り気を持ったそれが、下着、ズボンを通り越して床を湿らした。
お腹が痛いと言っていたし、あまり制御が効かないのだろう。
「大丈夫大丈夫。」
できるだけ音を聞かないように、声をかけ続ける。軽くお腹を擦りながら反対の手ではボロボロと流れ続ける涙を拭う。
「はっ、うっ、、ぁっ……」
「大丈夫だよ。落ち着いた?お風呂場行こうか。」
「ごめ、、なさ…おこら、ないでくださっ……ちゃんと、洗う、ので。。ごめっ、なさ。」
「落ち着いて。ほら深呼吸。よしよし。」
顔を歪めながら必死に懇願してくる。その姿は痛々しくて見ていられない。
過呼吸気味になっているので、背中を擦りながら長めの呼吸を意識させる。
「はふ…あぁ、、えほっ、」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
今自分がどのような状態かわかっていないのかもしれない。パニックに陥っている状態だろう。風の通らない熱気が半端ない廊下で長時間いれば、熱中症を併発しかねないと頭の中では考えるけれど、どう見ても移動出来る状態ではない。
ただ背中や腕をさすって、涙を拭って落ち着くように、声をかけ続ける。
しばらくすると、少し落ち着いた。と言うよりも放心状態となってしまっている。
立ち上がらせ、手を引いて、風呂に入れる。服をぬがせて、脱いだものは蓮音の目につかないように、色つきの袋へとしまう。後で洗えばそれでいいだろう。少しシャワーを出して、お湯になったのを確認してから蓮音にかける。
一通り洗い流してから、脱衣場でバスタオルを巻く。
「蓮音、大丈夫だよ。さっきも言ったけど、調子悪い時は仕方ない。それより、我慢していたほうがダメだよ?」
小さくコクリと頷いたのを確認して、脱衣場に置いている着替えの服を渡す。ゆっくりではあるが、着替えたのを見て、首にタオルを置いてソファへと戻る。
下を向いて、グズグズと鼻をすすりながら未だに涙をポロポロと零す。
「熱いお茶でも飲む?」
「…」
話題を逸らしてみるが、あまり効果はさそう。無理に話題を逸らすことを辞めて、先程置いた冷えピタなどを退けて蓮音の横に座る。
そっと背中を撫でて、お腹をさする。
不意に、肩に重みと温かみを感じた。
「蓮音?」
「ひっ、ふっ、ぅ」
泣きひゃっくりで呼吸は少し苦しそうではあるが、眠ってしまったらしい。
「色んなことを少しずつ、ね。」
俺もまだまだ蓮音のことを知らない。
蓮音も俺のことを知り尽くしている訳では無いと思う。
俺も、君も少しずつ慣れていこうね。
蓮音のお腹をさする手はそのままに、反対の手で頭を少しだけ撫でた。
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