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いじめを受けた生徒会長

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「光弥ーご飯できたぞ~…って…」

朝ごはんの用意が出来たことを知らせるために光弥の部屋に行くと、真面目な彼には珍しくまだ布団の中にいた。
だけど、僕は知ってる。そういう時は決まって体調が悪い時だって。小さい頃から兄弟みたいな関係だから。

すぐに、光弥の横に行って顔色を確認する。蒼い顔でキュッと目を瞑った姿はこちらもしんどくなるようだった。
額に手を当ててみるも、熱は無いようだった。むしろ、冷たすぎるような気もする。

すると、光弥の目がうっすらと開いた。少し触りすぎたか、と思ったがどうせ起こしに来たのだから、症状確認のためにも起きてもらおうと少し揺さぶりながら声を掛ける。

「光弥?大丈夫か?」
「しゅう、くん」
「うん。どっか痛い?」
「ん!!?ううん!大丈夫!!ご飯出来たの!?すぐ行くから!先食べててくれても構わないから!!!!」

物凄い勢いで部屋を追い出された。何かある、とは思ったが必死の表情で追い出したところを見ると、今はそっとしておいた方がいいかもしれない。そう思って僕は先に朝食の席へと向かった。

しばらくして光弥も席に着いて、2人で朝食をとった。
「「いただきます。」」

少しペースが遅いのが気になるが、ぐっと我慢してとりあえず大丈夫そうなので、口は出さないでおく。
ただ、一応声掛けはしておこうと光弥に言った。

「もし、体調悪いなら休んでも構わないぞ?」
「ううん。生徒会長の俺が休んだらダメだよ。大丈夫。」

光弥は自分に言い聞かせるようにそう言って、ご飯を頬張った。
無理しているように見えて仕方がない。というか無理しているのがバレバレだが、それについて根掘り葉掘り聞くのは今じゃないような気がして、今はまだ、と自分に言い聞かせた。

「いってきまーす」
「行ってらっしゃい。」

元気そうには見えない光弥を見送ってた。心配はあるものの、あと30分後には自分も家を出なければいけないので、準備をする。

本当にダメで、学校を早退しなければならなくなった場合、僕が迎えに行かなければ行けなくなった場合、どっちにしても布団かあった方がいいだろう。寝室から布団をとってきて、リビングに置いた。

ーーーーーー

仕事を終えて、家に着いたのは8時頃だった。自分で言うのも何だが、先輩や上司に怒られるのは珍しい。
まあ、理由は自分でもわかっている。光弥が気になって集中出来ていなかったのだ。ずっと気になっていたわけではない。ふと気になる瞬間が多くあったのだ。
何も無いことを祈りながら帰路に着いたのだ。

「ただいま~。」

玄関からリビングに向けて少し大きめの声でそう言うも返事は返ってこなかった。本当に大丈夫だろうか、と心配が増す。

「ただいま。」

リビングの扉を開けながら再びそう言った。
しっかりと中に入ってまず初めに確認したのは朝、一応と思って置いておいた布団だ。使われていない様で、ほっとしてリビングの中を見回した。

片手でお腹を強く抑えて、もう片方で机を持って、立ち上がっている光弥を見つけた。
誰の目から見ても、腹が痛いのだろうということは明らかだった。

「光弥?大丈夫か?」

大丈夫では無いのだろうが、この言葉以外思いつかなかった。言いながら光弥の隣に歩いていき、その肩を軽く叩いた。

「ん。っ」

小さなうめき声をあげたかと思えば、机についた手で体を支えつつ、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
ぺたん、とおしりが床につくと机に置いていた手を、お腹を抑える手の上にして両手でぎゅっとお腹を庇うようにして丸まった。

僕も同じ高さになるまでしゃがんで、もう一度光弥の肩を叩いた。

「光弥。とりあえず、椅子に座ろう。床だと冷えるだろ。」
「っん。」
「ちょっとだけ頑張れよ。せーのっ」

掛け声と同時に光弥を半分無理やりに立たせる。僕が帰ってくるまで座っていたと思われる椅子に光弥を座らせた。
ソファではない。普通の椅子で固くて休めないような気もしたが歩かせる方が酷だ。

「いっ、、やっ。」
「うん。ごめんな。もういいからな。」

頭を2、3回撫でて、置いていた布団から毛布を取り出して、光弥にかける。
向かいの席から光弥の隣に椅子を持ってきて、光弥の肩から腕にかけてを摩りながら、話しかける。

「光弥、どの辺が痛いか言えるか?」
「っ。。い、」
「?」
「い、が、いたい」
「胃だな?」

コクリと光弥が頷いた。

「戻しそう、とかあるか?」
「ちょっ、、っと」
「辛いな。無理そうだったら、言えよ。」

少し立ち上がって部屋の隅の方に置いてあるゴミ箱を近くに持ってきた。
光弥の背中を擦りながら片手でポケットからスマホを、取り出して『胃痛 原因』で検索をかける。
出てきたのは『ストレス』という文字で、後で光弥に無理がかからない程度に問い詰めることを決めた。
しばらくそうしていると、服がきゅっと引っ張られた。光弥の方を見ると、顔を真っ青にして口元に手を当てていた。すぐに吐きそうなのだとわかって、先程手の届くところに持ってきたゴミ箱をとる。

「はいよ。」
「うぇ、えっ、、ごほっ、」
「大丈夫、大丈夫。ゆっくり。自分のペースでいい。」
「げほっ、、ぅえ、、」

スマホを置いて、ビクビクと震える背中を摩りつつ、生理的に出てきた涙を拭った。

「ごめんなさ、い…」
「落ち着いたか?」
「ん…」
「痛みは?」
「……」
「ん。辛いな。」

波が去ったのか、先程よりもハッキリとした声がした。
光弥は僕の問いかけに首を振って答えた。

「で、もさ。すぐ、夕飯、、作るから…。ごめん…しゅうくん、、」

まだ痛む胃を自分で擦りながら立ち上がり、そんなことを言う光弥を必死に止めに入る。

「大丈夫。胃痛いんだろ。無理すんな。」
「でも、、しゅうくん、、」
「いい。大丈夫だから。」

腕を引いて、椅子に座らせる。落ちてしまった毛布をかけて、そっと抱きしめた。
何となくだが、そうしないとどこかへ飛んでいってしまいそうな、そんな感じがしたから。

このままでは問い詰めることは出来ないので、さっきのように横に座るだけの体制に戻した。

「光弥。」
「ん?」
「生徒会長になって、苦労してないか?」
「っ、ううん。特に」
「ほんとか?」
「…うん」

あからさまにビクッとしたし、変な間がある。それだけで何かストレスを抱えているのかもというネットの情報はビンゴだと分かる。

問題はここからどう引き出すか、だ。

「成績が落ちてこないか心配か?」
「ううん。いまのてんすうを維持できてる」

はずれ。ここまでキッパリ言うことはストレスに感じてはいないだろう。

「部活との両立が大変?」
「まあ、ちょっと。でも、ぶんかぶ、だし。」
「友達との関係は?変わってないか?」
「……うん。」 

これだ。友達関係が問題なのだろう。行動によく出るわかりやすい子で助かる。素直な子だ。

「応援してくれてる?」
「…う、、ん。」
「ほんとに?嘘はつかないでくれよ?」
「………う、ん。」
「。」
「……うそ。。」

少し黙って圧をかければ、本当のことを言ってくれそうな雰囲気が出てきた。元来、素直な子だから嘘はつけないはずだし、つけたとしても直ぐにバレる。
背中を擦りながら、ゆっくりと問うた。
一瞬でも嘘をついた、という罪悪感からか、それとも別の理由か、顔を下に向けた。

「何があったんだ?」
「んっ……」
「こっち倒れていいから。」
「けほっ、あ、…」
「ゆっくりでいいからな。」

先程まで堪えていた涙が一気に溢れてきたようで、次から次へ涙を流した。

「あぁ、、、ひっ。うぇ、わあぁ」
「よしよし、大丈夫だぞー」

何かを言おうとしては、口を開き、迷うように口を閉じる動きを繰り返す。急かすことなく、背中を摩り続けていると、しばらくして、話し出した。

「で、、できな、いの……」
「うん。」
「そ、んな。かいちょ、、だけど…。。」
「よしよし。」
「かいちょ、だか、ら…ん、かんぺ、、きに、しろっ。。って、」

泣きながら必死に訴えてきた。先月から生徒会立候補が始まり、3週間前に立候補者選挙があったのだ。
立候補された人の中から会長が選ばれる。当然、全員一致で会長になった人を認めてくれるわけではない。中には光弥が会長というのが気に入らない人もいるだろう。そんな人たちから、会長になってから今日までずっと陰口をはじめ、たくさんの嫌がらせを受けていたのだという。

「ぁあ、、」
「よしよし。大丈夫だぞ。」
「しゅ、ぅくん、、」
「どした?」
「、、、た、すけて…」
「ん。絶対光弥を助けるから。」

光弥をもう一度抱きしめて、背中をさする。小さい子にするように、ポンポンと一定のテンポで叩き続けると、顔色はあまり良くないものの安心したように眠った。

僕は知ってるよ。光弥のしっかりしているところ、優しくて真面目で素直で何事にも前向きに物事を捉えるところ。もちろん、少し料理が苦手でたまに焦がしたりして、おっちょこちょいな所もある。けれど、生徒会長として責任を持って行動をとっていることは少なくても僕は見てるよ。
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