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席は誰が使ってもいい。
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終わっていなかった提出物を終わらせて提出し、帰りの電車はいつもより数本遅いものになってしまった。
まあ、提出物を終わらせていなかった自分が悪いのだし、自業自得だと自分を抑えて、携帯を弄っていた。
隣に座ってきたおじさんがうるさくて、別の車両に移動した時だった。
帰宅部の帰宅ラッシュもおえて、一旦落ち着くこの時間。席がいくつもあいているにも関わらず、端の方に立っている学生がいた。
「変なやつ。」
まあうるさい訳でもないし、別にいいや、と思って席に座った。
その学生が足元に置いていたカバンのキーホルダーが目に入った。大きすぎないが決して小さくもなく、蛍光色で目立つこのキーホルダーは俺の隣の席のやつのものだとすぐに分かった。
それを見て疑問を持ったのだ。
一応、隣同士だし、授業中なんかもよく話す。その時にした会話が頭の中に流れた。
『俺、電車では席座らないんだよね』
『なんでだよ?』
『席に座ってたら座りたい人が座れないでしょ』
『譲りゃいいだろ。』
『譲っても譲られても気まずい時ってあるじゃない?それを避けたくて。』
『よくわかんねぇ』
『まあ、俺の感覚の問題だし、気にしなくていいよ。』
『かばんは?カバンも手に持ってるのか?』
『そうだね。基本は。』
おかしい。基本は手に持っているって言っていた。そんな日もある、だけでは説明できないような気がして、なんとなく声をかけてみた。
胸騒ぎ、というのだろうか。放っておいてはいけない気がした。
「お前、部活は?入ってただろ?バスケ部…だったっけ?」
「ん。」
たった一言、返事をくれただけだった。いつもは倍かさらにそれ以上で返ってくるのに。それにいつも聞いている声よりはるかに元気がなかった。
「体調悪い?」
「ちょ、っとね」
ちょっとと言っている割にはとても苦しそうに見えた。人と話す時、しっかり顔を上げているのにずっと下を向いている。
「ちょっと、には見えないな。一旦座るか。」「でも、、」
「大丈夫。今全然人いないから。」
手を取って、1番近い目の前の椅子に座らせる。隣に俺も座った。
同じ高さになって見えた槙也の顔色はお世辞にもいいとは言えなかった。
電車内ではスマホをいじっていることが多いが、そんな気には到底なれず、かと言って甲斐甲斐しく世話を焼くほど槙也と仲がいい訳でもない。
槙也を気にしつつも何をするでもなくただぼーっと椅子に座っていた。
「はっ、、すぅ…ぐっ」
「大丈夫か?息荒くなってきてっけど。どうかしたか?」
「ぁっ…は、きそ…」
「吐き…次の駅まで持つか?」
その問いに、返事はなかった。持つか、持たないか微妙といったところだろうか。
なら、持たない、とみて行動した方がいいだろう。
「…っと、これ。はい。」
「えっ、」
「ないよりはマシだと思うから。」
授業中に寝る用として毎日持ってきているタオルを槙也に渡す。特別大事にしている訳でもないし、それに吐いてくれても構わない、という意味で渡した。
かたい拳を作っていた手をそっと解いて、タオルを握らせる。
吐き気を助長しないように、肩をさすった。
一駅がこんなに長く感じるのは初めてかもしれない。
「うぐ…んっ」
「大丈夫だかんなぁ」
握らせたタオルを口元に当てたのを見て、限界が近くなってきたことを悟る。
吐き出してしまっても俺的には問題はないのだが、ここで吐くのは嫌だという気持ちも十分理解出来る。
だから下手に「吐いてもいい」とも言えず、何も大丈夫ではないが、それ以外の言葉も見つからないため、そう言うしかなかった。
『まもなく、~~駅。』
車掌のアナウンスでもうすぐだとわかり、自分でも知らない間につめていた息が少し、落ち着くのを感じた。
俺が不安になっている場合ではない。一番不安なのは槙也のはずなのに、余計に不安にさせてしまう。そうやって自分を責めそうになるけれど、それは今することではないと思い直す。
槙也のカバンをリュックのように背負い、自分のカバンを肩にかけて、降りる準備をする。
流石、槙也は教科書が何冊入っているのか、両肩が相当重い。対して自分のカバンは筆箱以外に入れていないため、重さを感じないほど。
電車が駅に入って止まる。完全に止まってから、槙也の脇に腕を通して、引き上げて立ち上がらせる。
大きくはない駅で、そんなに人はいなかったが、体勢が体勢なだけに、目立ってしまって、皆から不快そうな視線を受けた。
そんなことは気にせずに、槙也をトイレまで連れていく。降りることのない駅だから正確な場所は分からないが駅の作りが全く違うということはないだろうと、改札の方に足を進めた。
「もうちょい頑張れよ。」
「ん。げほっ、」
「っしょ。」
「あっ…」
「大丈夫大丈夫。」
途中、止まったりしゃがみこみそうになる槙也を半ば強引に引きづって、止めることなく声をかけ続けて、やっとの思いでトイレに入った。
「もう、いいぞ。タオル取るな。」
そう言って槙也からタオルを抜き取った。我慢しきれなかったのであろう唾液が染みていた。
少し強めに下から上へ、嘔吐を促すように背中をさすった。元々限界が近かったのもあり、すぐに戻し始めた。
「ごほっ、っ、、うぇ、ん…」
「我慢すんな。」
「ぅん…げほっおぇ、、はっ、べっ」
俺に気を使ってか、少量ずつしか出てこなかった吐瀉物がストッパーを外すことで結構な量が出てきた。
こまめに水を流しながら背中を摩る手も止めずに、しばらくそうしているとだんだん量も少なくなってきた。
「ごめん、、、もう、だいじょうぶ」
「ん。」
喉が焼けてしまったのかガラガラの声だ。
水筒くらい、持ってきておいたらよかった、とこの事態になって初めて思った。
「。。ぼくのカバンに、みずはいって、、るからとってもらっていい。?」
「…わかった。」
背中のカバンから水筒を取り出して、槙也に渡す。
「ありがと。」
受け取った槙也は慣れた手つきでロックをはずして、口に含んだ。数回、グチュグチュと口を動かした後便器に水を吐き出した。
数回その動作をしたあと、水を二、三口飲んだ。
「慣れてんのか?よくこういうことなるの?」
「ちょっと、、あたまが、まわってきた、だけだよ。ごめん、ありがとね。。」
少しだけ落ち着いてきた呼吸で謝罪とお礼を述べて、俺からカバンを受け取ろうとする槙也に、俺はカバンは渡さなかった。
「いいよ。せめて、お前の最寄り駅くらいまでは送るから。」
「そんな、悪いよ。」
「また吐きそうになっても対処出来ないだろ。それに、どうせ定期なんだからお金の心配もいい。」
「……」
「いいって。調子悪いときは素直に甘えとけ。な?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
そんなに仲が言い訳でもないはずだったのに、自然とそういった言葉が出てきた。
自分で歩ける、と言った槙也を信じて、しかしカバンは俺が持ってホームへと、ゆっくり歩いた。いつでも手が出せるように、槙也の真横を歩いた。
ホームに戻ると、ちょうど電車が出発した。
次の電車まで15分程ある。ホームのベンチの方に向かって歩いて、そこに腰かけた。
「槙也も座れよ。立ってるのしんどいだろ。」
「あ、うん。」
「俺がいる。席譲った方が良さそうなら、俺が代わるから。お前は座ってた方がいいって。慣れないかもだけど。ほら。」
手を引いて、ベンチに座らせた。
「ほら、立ってるより楽だろ?」
「うん。」
「元気なときは立っててもいいと思うけど、調子悪い時くらいは座っててもいいと思うぜ。どうせ、ご自由にお座り下さい、の席なんだからさ。って、ちょっと疲れたか。」
小さく船を漕ぐ槙也に自分のブレザーをかけて、目尻に溜まっていた生理的な涙を親指で拭った。
15分後、少し起きてもわないといけないのが申し訳ない。今は少しでも休んでおいた方がいいよ。
まあ、提出物を終わらせていなかった自分が悪いのだし、自業自得だと自分を抑えて、携帯を弄っていた。
隣に座ってきたおじさんがうるさくて、別の車両に移動した時だった。
帰宅部の帰宅ラッシュもおえて、一旦落ち着くこの時間。席がいくつもあいているにも関わらず、端の方に立っている学生がいた。
「変なやつ。」
まあうるさい訳でもないし、別にいいや、と思って席に座った。
その学生が足元に置いていたカバンのキーホルダーが目に入った。大きすぎないが決して小さくもなく、蛍光色で目立つこのキーホルダーは俺の隣の席のやつのものだとすぐに分かった。
それを見て疑問を持ったのだ。
一応、隣同士だし、授業中なんかもよく話す。その時にした会話が頭の中に流れた。
『俺、電車では席座らないんだよね』
『なんでだよ?』
『席に座ってたら座りたい人が座れないでしょ』
『譲りゃいいだろ。』
『譲っても譲られても気まずい時ってあるじゃない?それを避けたくて。』
『よくわかんねぇ』
『まあ、俺の感覚の問題だし、気にしなくていいよ。』
『かばんは?カバンも手に持ってるのか?』
『そうだね。基本は。』
おかしい。基本は手に持っているって言っていた。そんな日もある、だけでは説明できないような気がして、なんとなく声をかけてみた。
胸騒ぎ、というのだろうか。放っておいてはいけない気がした。
「お前、部活は?入ってただろ?バスケ部…だったっけ?」
「ん。」
たった一言、返事をくれただけだった。いつもは倍かさらにそれ以上で返ってくるのに。それにいつも聞いている声よりはるかに元気がなかった。
「体調悪い?」
「ちょ、っとね」
ちょっとと言っている割にはとても苦しそうに見えた。人と話す時、しっかり顔を上げているのにずっと下を向いている。
「ちょっと、には見えないな。一旦座るか。」「でも、、」
「大丈夫。今全然人いないから。」
手を取って、1番近い目の前の椅子に座らせる。隣に俺も座った。
同じ高さになって見えた槙也の顔色はお世辞にもいいとは言えなかった。
電車内ではスマホをいじっていることが多いが、そんな気には到底なれず、かと言って甲斐甲斐しく世話を焼くほど槙也と仲がいい訳でもない。
槙也を気にしつつも何をするでもなくただぼーっと椅子に座っていた。
「はっ、、すぅ…ぐっ」
「大丈夫か?息荒くなってきてっけど。どうかしたか?」
「ぁっ…は、きそ…」
「吐き…次の駅まで持つか?」
その問いに、返事はなかった。持つか、持たないか微妙といったところだろうか。
なら、持たない、とみて行動した方がいいだろう。
「…っと、これ。はい。」
「えっ、」
「ないよりはマシだと思うから。」
授業中に寝る用として毎日持ってきているタオルを槙也に渡す。特別大事にしている訳でもないし、それに吐いてくれても構わない、という意味で渡した。
かたい拳を作っていた手をそっと解いて、タオルを握らせる。
吐き気を助長しないように、肩をさすった。
一駅がこんなに長く感じるのは初めてかもしれない。
「うぐ…んっ」
「大丈夫だかんなぁ」
握らせたタオルを口元に当てたのを見て、限界が近くなってきたことを悟る。
吐き出してしまっても俺的には問題はないのだが、ここで吐くのは嫌だという気持ちも十分理解出来る。
だから下手に「吐いてもいい」とも言えず、何も大丈夫ではないが、それ以外の言葉も見つからないため、そう言うしかなかった。
『まもなく、~~駅。』
車掌のアナウンスでもうすぐだとわかり、自分でも知らない間につめていた息が少し、落ち着くのを感じた。
俺が不安になっている場合ではない。一番不安なのは槙也のはずなのに、余計に不安にさせてしまう。そうやって自分を責めそうになるけれど、それは今することではないと思い直す。
槙也のカバンをリュックのように背負い、自分のカバンを肩にかけて、降りる準備をする。
流石、槙也は教科書が何冊入っているのか、両肩が相当重い。対して自分のカバンは筆箱以外に入れていないため、重さを感じないほど。
電車が駅に入って止まる。完全に止まってから、槙也の脇に腕を通して、引き上げて立ち上がらせる。
大きくはない駅で、そんなに人はいなかったが、体勢が体勢なだけに、目立ってしまって、皆から不快そうな視線を受けた。
そんなことは気にせずに、槙也をトイレまで連れていく。降りることのない駅だから正確な場所は分からないが駅の作りが全く違うということはないだろうと、改札の方に足を進めた。
「もうちょい頑張れよ。」
「ん。げほっ、」
「っしょ。」
「あっ…」
「大丈夫大丈夫。」
途中、止まったりしゃがみこみそうになる槙也を半ば強引に引きづって、止めることなく声をかけ続けて、やっとの思いでトイレに入った。
「もう、いいぞ。タオル取るな。」
そう言って槙也からタオルを抜き取った。我慢しきれなかったのであろう唾液が染みていた。
少し強めに下から上へ、嘔吐を促すように背中をさすった。元々限界が近かったのもあり、すぐに戻し始めた。
「ごほっ、っ、、うぇ、ん…」
「我慢すんな。」
「ぅん…げほっおぇ、、はっ、べっ」
俺に気を使ってか、少量ずつしか出てこなかった吐瀉物がストッパーを外すことで結構な量が出てきた。
こまめに水を流しながら背中を摩る手も止めずに、しばらくそうしているとだんだん量も少なくなってきた。
「ごめん、、、もう、だいじょうぶ」
「ん。」
喉が焼けてしまったのかガラガラの声だ。
水筒くらい、持ってきておいたらよかった、とこの事態になって初めて思った。
「。。ぼくのカバンに、みずはいって、、るからとってもらっていい。?」
「…わかった。」
背中のカバンから水筒を取り出して、槙也に渡す。
「ありがと。」
受け取った槙也は慣れた手つきでロックをはずして、口に含んだ。数回、グチュグチュと口を動かした後便器に水を吐き出した。
数回その動作をしたあと、水を二、三口飲んだ。
「慣れてんのか?よくこういうことなるの?」
「ちょっと、、あたまが、まわってきた、だけだよ。ごめん、ありがとね。。」
少しだけ落ち着いてきた呼吸で謝罪とお礼を述べて、俺からカバンを受け取ろうとする槙也に、俺はカバンは渡さなかった。
「いいよ。せめて、お前の最寄り駅くらいまでは送るから。」
「そんな、悪いよ。」
「また吐きそうになっても対処出来ないだろ。それに、どうせ定期なんだからお金の心配もいい。」
「……」
「いいって。調子悪いときは素直に甘えとけ。な?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
そんなに仲が言い訳でもないはずだったのに、自然とそういった言葉が出てきた。
自分で歩ける、と言った槙也を信じて、しかしカバンは俺が持ってホームへと、ゆっくり歩いた。いつでも手が出せるように、槙也の真横を歩いた。
ホームに戻ると、ちょうど電車が出発した。
次の電車まで15分程ある。ホームのベンチの方に向かって歩いて、そこに腰かけた。
「槙也も座れよ。立ってるのしんどいだろ。」
「あ、うん。」
「俺がいる。席譲った方が良さそうなら、俺が代わるから。お前は座ってた方がいいって。慣れないかもだけど。ほら。」
手を引いて、ベンチに座らせた。
「ほら、立ってるより楽だろ?」
「うん。」
「元気なときは立っててもいいと思うけど、調子悪い時くらいは座っててもいいと思うぜ。どうせ、ご自由にお座り下さい、の席なんだからさ。って、ちょっと疲れたか。」
小さく船を漕ぐ槙也に自分のブレザーをかけて、目尻に溜まっていた生理的な涙を親指で拭った。
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