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こんな時に気づく幸せ。前(三男目線)

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目覚ましがなって、目が覚めた。
平日ではないが、生活リズムを狂わさない為にいつも同じ時間に起きている。
今日も例外なく起きたのだが。

「だるい。」

体が重くて仕方ない。最近の自分を思い返してみると、少し寝不足かもしれない。
期末テストや、卒業式などがあり、しなければいけないことが多くて、自然と寝るのか遅くなっていた。

「でもそれだけ、だし…」

いつもより少しだけ、重い体に鞭を打ってなんとか体を起こした。

「っ…」

目の前が歪んで一回転した。立っている姿勢を保てずに、近くの壁に手をついた。

しばらく壁に凭れていると、だんだん視界が落ち着いてきた。

「…にぃちゃん…」

海外出張が多い両親だから、俺の面倒は大抵、にぃちゃんたちがみてくれていた。
こういう時はいつも俺から不安を取り払ってくれる。

時々、喧嘩することもあるけれど、こういう時には頼りたくなるのだから、兄という存在は凄い。

朝ごはんもあるだろうし、どうせリビングには行かなければいけない。自室のドアを開けてリビングへ向かった。

「なんか、ほんと…しんど…」

ゆっくりと階段を降りる。今、目眩がしたら確実に落ちる。小さな怪我では済まなくなる可能性だってある。だから、ゆっくりと。

階段を降りきったところで、トイレから音が聞こえてきた。この家には俺とにぃちゃんが住んでいるのだから、別に不自然なことではないのだけれど、少し違った音。声とも言うかもしれない。

「にぃちゃん?」
「げほっ、、うっ」

トイレ前に立って、少し耳を澄ますと中から嘔吐くような声が聞こえた。

「にぃちゃん!?」

トイレの扉を叩いてにぃちゃんに呼びかける。すぐに水を流す音が聞こえて、にぃちゃんが出てきた。

「おはよ、晴人。」

俺の名を呼んだにぃちゃんの顔色の悪さときたら、相当なものだ。

「大丈夫?顔色…悪いけど。」
「大丈夫だよ。それより晴人、顔色悪いよ。ちょっとクラクラするんじゃない?」
「え、うん。クラクラする。でもにぃちゃん…!」
「本当に大丈夫だよ。ちょっとお腹痛いだけだから。朝ごはん、食べられる?何か作ろうか?」
「…ううん。いらない。」

あまり食べたくない、というのもあった。だけど、にぃちゃんの顔色見ると作れるようには見えない。にぃちゃんに無理して欲しくない。
割合は半々くらいだと思う。

俺の返事を聞くなり、俺の腕を掴んでずんずんと寝室に向かって歩いていく。
スピードはないが、急いでいるような感じはする。急いでいるというよりは焦っているような感じだ。
普段なら怒っているようにも見える動作だが、話すのがしんどくて黙っているだけだと分かる。

俺より、よっぽどにぃちゃんの方が重症だと思う。

気がついたら、先程まで寝転んでいた布団が目の前にあった。

「ほら。」

にぃちゃんに促されて、布団に入る。そんなに時間がたっていない布団の中は、冷たくはなかった。

「ちゃんと休んでおきなよ?」
「にぃちゃんは…?」
「僕は、少しだけ、することがあるから。」
「にぃちゃ…」
「ほら、目瞑って。」

俺より少し大きめの手が視界を暗くした。
近頃の寝不足も合わさって、俺はそれだけで半分意識が飛んでいった。

にぃちゃんに無理しないでとか、にぃちゃんも休んで欲しいとか、どうしてもなら手伝いたいとか、いろいろ頭の中に浮かんだけれど、それを言葉として発することは出来なかった。

ごめんね、診てあげられなくて。というにぃちゃんの声がはっきり聞こえた。それに答えることは出来ない。

数秒間にぃちゃんに目元を覆われているだけで、俺は完全に意識を飛ばした。

起きたらにぃちゃんのとこに行かないと、せめてにぃちゃんに布団に入るだけでもしてもらわないと。と頭の中で起きてからのことを考えながら…






自分の名前を呼ぶ声で目が覚めた。
暗い場所から引きずり出された気分。

朝起きる時のいつもの流れで体を起こそうとしたが体がおもくて、それは叶わなかった。
誰かに肩を軽く押されて、布団に逆戻りした。

「晴人、大丈夫?随分魘されていたけれど。」
「…にいさん?…」
「うん。気分はどう?あまり良くなさそうに見える。」
「朝よりはマシ。なんか、真っ暗な所に閉じ込められてるような夢見たような気がする感じ。にいさんどうして?それよりにぃちゃんは!?俺より重症だと思うんだけど?」
「日本語むちゃくちゃになってるぞ…。一希から電話がかかってきた。大丈夫だよ。」
「にぃちゃんから?」
「ああ。」

兄さんに言われて自分の言葉を思い返すと、むちゃくちゃなことを言っているし、しかも兄さんに質問攻めしてしまった。

それでも朝のにぃちゃんが気になって仕方なかったのだ。兄さんが大丈夫というなら大丈夫なのだろう。 

「ちょっと触るぞ。」と言った後に俺の頬に手を添えて、親指で目の下を裏側が見えるようにめくった。

「貧血だな。寝てないのか?」
「まぁ…。」
「後で足上げとくな。まあ寝不足ならちゃんと寝て、無理しない程度に食べて、生活リズム戻せばすぐ治ると思うぞ。起きる時間だけ毎日同じにしてても夜遅かったらダメなんだからな。」

俺の頭を撫でながら言った。優しく言い聞かせるようにする兄さんの説教は嫌なものではなかった。

「うん。ごめんなさい。」
「色々あるんだろ?高校のイベント事関連で、駆り出されたりとか。仕方ない部分もあるさ。この土日で治ればいいけど、治らなかったら月曜休め、な?明日までは診てやれるから。」
「うん。ありがとう。」

朝のにぃちゃんと同じように目元を覆われた。布団の中の俺の手を探し当てて、ぎゅっと握ってくれて、身体が限界を迎えて眠りにつく感じとは違って、安心して引き込まれるように、俺はまた眠った。

自分が思ってるより疲労溜まってんのかな…と頭の中で思った。

「反省は元気になってからでいい。」と兄さんの声が聞こえた。俺の思考を見透かしている兄さんは本当に凄い。

心の中でにぃちゃんのことを頼んで、俺は今度こそ本当に眠りに落ちた。
わかった、というように手をぎゅっと握られた気がする。
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