自覚するまで

トウモロコシ

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自覚するまで

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帰って一番に見たのはもちろん、恋人で同居人の和春。

「何してんだ?」
「丸つけだけど?」
「それは見てわかるんだけどな。俺が聞きたいのは、そんな体調で何してるんだ、ってことだ。」
「っ。はぁ、夏輝にはお見通し、か。」

顔色は悪いが、これはいつも見てる俺じゃないと分からない程度。そもそもこいつは顔に出ないから、他人がこいつの不調を見破るのは相当難しい。それこそ、見破ったとなれば和春の体調が相当悪い時だ。
高校の教師をしている和春は時々こうしてテストを持って帰ってきてはリビングで丸つけをしている事がある。プライバシーの問題を聞いた事はあるが、毎度、夏輝なら大丈夫でしょ、とおおよそ教師とは思えない発言が飛ぶ。

「あつっ!よくこれで仕事してたよな。」
「まあ、ちょっとキツかったかな…。」

そう言って笑いながら背もたれに体を倒した。自分の荷物をそこら辺に放置して、冷蔵庫から冷えピタと水を取り出す。

額に冷えピタを貼り付けたあと、水を渡して飲むように促せば、案外すんなりと言うことを聞いてくれた。

「体温計取ってくるから、ちょい待ってて。」
「ん。」

もう一口水の飲んで、生徒たちのテストを片付ける様子を横目にしながら、体温計を取りに行く。

戻ってきて体温を計らせると、38.5という数字をたたき出した。

「ほんとに、よく仕事しようと思ったな。」
「はぁ、ほんとだね…。」

やっと認めた。人間、数字を見せられると途端にしんどくなるものだ。それがあまり良くない効果をもたらすことが多いが、和春の場合はそうやって自覚させなければ、休もうとしない。

「はぁっ、」
「ベッドまで行けるか?無理そうなら運ぶけど。」
「いや、ここでいい。」
「こんなとこで横になっててもいつまでたっても良くはなんねぇぞ。」

前言撤回。自覚しても休もうとしない。さて、どうやって休ませようか。とは言っても、後はベッドへの強制移動くらいしかないのだが。

「…ぃ…」
「なんか言ったか?」

俺が頭をひねって考えている間に言われた言葉は上手くききとることが出来なかった。

「ここ、が」
「うん。」
「ここが、いい。」
「…」

不安そうに涙を貯めてそう言われれば、ベッドへの強制移動はさせられなくなってしまう。

「分かった。布団だけは持ってくるから、ちょっと待ってて。」
「…やだ。」
「…やだっていわれても…」

裾を掴む手はおそらく力は入っていない。振りほどこうと思えば振りほどける。しかしそれは出来ない。
どうしようか、なんて頭でつぶやきながらもとる行動はひとつだ。

「はい。」
「…わか、ってんじゃん。」

ぎゅっと抱き締めれば満足したように微笑む。これを狙っていることなど、分かりきっている。熱を自覚した途端人肌が恋しくなる一般的なことはこいつも例外ではないのだ。

安心した顔で眠る和春はもしかしたらもっと早くに自覚していたかもしれない。
まあ、それでも、俺が気づいてこうしない限りは、休まないのだが。


起きたら軽めに説教かな~なんて口にしながら、俺は和春を抱きしめる手に少し力を加えた。
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