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3. 悪役令嬢は寝床を得る
しおりを挟む山しかない国境に放り出され、クラウディアは途方に暮れていた。
本来ならあり得ないこんな場所に放り出されたのは全くの予想外だった。
(とりあえず商人の馬車に乗せてもらいましょう)
クラウディアがそう考えた時だった。
「嬢ちゃん、何かお困りかい?」
「ええ、良かったら帝都まで乗せてって欲しいのだけれど……」
「おう、良いぜ。そのかわり、代金は身体で払ってくれよな」
「結構ですわ」
うんざりした。ここまで露骨に下心を出されるとは思わなかった。
この後1時間ほど待ってもマトモな馬車が現れることはなく、徒歩で移動することに決めるクラウディア。
「せめて馬くらい用意しなさいよ……」
歩きながら愚痴が溢れてしまう。
そんな時、横に馬車が止まって、聞き覚えのある声が聞こえた。
「クラウディア様、お乗りください!」
「あ、ありがとう。助かるわ」
礼を言って、自身が立ち上げた商会の馬車に乗り込むクラウディア。
ちなみに、クラウディアがこの商会を立ち上げたのには、こんな理由があった。
社交界に出るためのアクセサリーはもちろん、ドレスも十分に買い与えられなかった。
手元にあるのは、母が捨てようとしていたアクセサリーだけで、それを売ってドレスだけは何とか買うことが出来ていた。
しかし、自分に似合うアクセサリーを揃える余裕はなかった。
そこで、お金のやり取りに詳しい馴染みの商人に相談したところ、商会を立ち上げることを勧められたのだ。
そして、公爵家の名を利用することでうまく軌道に乗ることが出来た。
扱っている物は魔導具や化粧品など、貴族や大商人などの富裕層が相手なのもあって、収益は安定。数年のうちに3カ国で事業を展開する規模になっている。
公爵家の恩恵を得たい他の商会の手助けがあってこそのものだったが。
事業計画を立てたのはクラウディアに他ならず、次第に商人達の信頼も得るようになっていたのだ。
そして何よりも、従業員達とクラウディアの間に、身分差を感じさせない信頼関係があるのが安定している理由だった。
「ところで、何故あのような場所に?」
「国外追放になって、放り出されてしまったのよ」
「国外追放って、街で馬車から下ろされるはずだと記憶しているのですが……」
「私の記憶でもそうなっているわ。きっと、今の騎士団が腐っているのよ」
そんな会話をしているうちに、馬車は目的地である帝都へと入っていた。
「私は適当な民宿に泊まることにするわね」
「それだけはおやめください! せめて見張りのいる商会でお願いします!」
こうして、隣国の帝都まで移動することが出来たクラウディアだったが、商会の従業員に警備を気にされ、民宿に泊まることは許されなかった。
代わりに簡素なベッドしかない、それでいてしっかりと護られている場所……商会の支部で眠ることになってしまう。
慣れない場所なので、当然ぐっすり眠ることは出来ず、疲れが取れることはなかったが、自由に過ごせるようになって生き生きとしているクラウディア。
「ここで暮らすのも考えものね……」
「普段と違うベッドだからですよ。そのうち慣れます」
「そうだと良いのだけど……」
朝食の時、眠気に愚痴を漏らすと、居合わせた警備の人にそう言われて。
慣れることに希望を抱くクラウディアだった。
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