悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多

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10. 悪役令嬢は幸せを得る

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「クラウディア様、ユリウス様、お茶をお持ちしました」

「ありがとう」

 断罪されてから半年、クラウディアは忙しくも安定した生活を送っている。
 今はアルゲンテ公爵邸の部屋を借りて生活しており、何故か侍女も付けられている。

 2ヶ月前までのサザン商会本部で寝泊まりしていた時は朝夕食や洗濯掃除など、全て自分でこなしていた生活からはかなり楽になっている。

 お陰でこうしてお茶をする余裕も出来ていた。

 笑顔で会話を交わすクラウディアとユリウス。
 側から見ればどう見ても恋人同士の雰囲気で、実際そうなのだが……。

「来週、うちの商会で仕入れる物の一覧よ。言われた通り多めに仕入れておいたわ」

「助かる。どれくらいこっちに回してもらえる?」

「半分は約束するわ」

 ……話している内容はただの商売の話である。
 そこに恋の雰囲気は全く感じられない。

 しかし、この話が終われば雰囲気は一気に変わる。

「今日は天気がいいし、庭に行こう」

「ええ。迷惑でなかったら、お庭の真ん中でお茶にしてみたいわ」

「それは楽しそうだね。大丈夫か庭師に聞いてみよう」

 寄り添うクラウディアとユリウス。誰がどう見ても恋人同士だ。
 正式に付き合い始めてから3ヶ月が経ち、どちらも幸せな日々を過ごしている。

 もちろん、2人が付き合い始めた時は反対の声もあった。
 クラウディアは国外追放され、今はただの平民なのだ。

 しかし、クラウディアが有名で貴族達の生活には欠かせないサザン商会の主であると知ると、反対していた者達の態度は一変した。
 それほどまでにサザン商会は成長したのだ。

 それに加えて、帝国では平民と貴族の婚姻が認められているのも大きかった。
 悪巧みをしていないかの調査は入るが、クラウディアなら大丈夫だろう。

「あら、こんな花あったかしら?」

「先月植えさせたんだ。君と同じ色だ」

「もう、揶揄わないでよ」

 両親に醜いと言われたこの色も、ユリウスは薔薇のように美しいと言って気に入ってくれている。
 それがどれだけ幸せなことか。

「気に入ってくれたかな?」

「ええ。とても嬉しいわ」

 赤い花ーー薔薇を見つめながら笑顔を見せるクラウディア。
 そんな時、真剣な表情になったユリウスがこう口にした。

「クラウディア、大事な話がある」 

「大事な話……?」

 ユリウスに向き直り、聞き返すクラウディア。

「クラウディア、僕と結婚して頂けませんか?」

 赤い薔薇ーー愛情の花言葉を添えて差し出される指輪。

「不束者ですが、これからも宜しくお願いします」

 表情を綻ばせるクラウディア。
 穏やかに吹く風が、彼女の赤い髪を優しく揺らした。


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