虐げられるのは嫌なので、モブ令嬢を目指します!

八代奏多

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入学前編

9. 大怪我らしい

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※大怪我(複雑骨折)の描写があります。苦手な方は飛ばして下さい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 昼食を終えた私はシエルと歩きで町に向かった。
 今日は動きやすいシンプルなドレスを着ているから、出かけるのにはちょうど良かった。

 行く場所は決めていないから、気になったお店を見て回ることにしている。

「お姉様、いつものあのお店に行かない?」
「うん、行きましょう」
「リンシャさん、元気にしてるといいな」
「そうね。アベルくんがやんちゃだから疲れてるかもね」

 目的のお店の女主人ーーリンシャさん一家のことを気にかける私達。
 ちなみに、リンシャさんの旦那さんはうちの領で一番大きい商会の長だから、私達が接触しても何かを言われる心配はない。

 私達が通りを歩いていると、前の方から5つの人影が近づいて来た。

「リリアーナ様~! シエル様~!」
「戻られてたんだね!」

 私達はあっという間に領民の子供達に囲まれてしまった。

「キリムもジークも馬鹿なの⁉︎ 馴れ馴れしく話しかけないの! ……ごめんなさい、リリアーナ様、シエル様。どうか2人のご無礼をお許しください」

 遅れてやってきた女の子が先に来た男の子達に注意して、私達に頭を下げた。
 別にこれくらい私達は気にしないから良いのだけど。

「これくらい気にしないわ。でも、他の貴族の人に今みたいなことしたら怖い目に遭うから気をつけるのよ?」

 私がそう口にすると、

「クライシス家の人にしか話しかけないから大丈夫!」
「僕もジークと同じだよ! クライシス家じゃない貴族の人は怖いから近づかないもん!」

 男の子2人はそう返してきた。

「お母さんが言ってたんだけど、リリアーナ様はあと3年で怖い貴族のところにお嫁に行っちゃうんだよね?」
「そうね。でも、怖い人とは限らないわよ? 貴族でも良い人はいるのよ?」
「リリアーナ様が良い人と結婚できるように祈っておくね!」

 私達の様子を初めて見る人は驚くと思うけど、うちは領民とも普通に話せる。
 なんでも、ご先祖様が領民と信頼関係を築くために始めたそうで、今では領主様=気軽に話しかけられる人という感じになっている。
 だから、町に行くと絶対に話しかけられる。

 今みたいに子供達から話しかけられる事もあれば、主婦さん達の愚痴話に付き合わされることもある。
 派手な格好の男の人たちに話しかけられることもある。襲われたりはしないけど。


 子供達と話をしていると、路地から青ざめた表情の女の子が飛び出してきた。

「どうしよう……ケインが木から落ちて、目を覚ましてくれないの。それに、腕から骨が見えるの……!」

 今にも泣き出しそうな声でジークくんにそう告げる女の子。

「あなた、その場所まで案内出来る?」
「は、はい! こっちです!」

 そう言って出てきた路地へと駆ける女の子。
 私はその後を追った。

 シエルも私も動きやすい服装で良かったわ。

「俺たちも行こう!」
「うん!」

 路地を抜けて、通りを広場の方へ走っていく。
 平日の昼間なので、人通りはほとんどないから全力で走れる。

「あの広場?」
「うんっ」
「分かったわ。ーー風よ!」

 私は風の魔法を使って広場まで飛んだ。

 広場に着くと、若い男性と女性ーー近くのお店の店員さんだと思うーーが男の子の手当てをしていた。

「リリアーナ様⁉︎」

 魔法の出す音で私の存在に気付いたらしい女性がそう声を上げた。

「代わりますね?」
「はい」
「あなたは止血を続けて下さい!」
「分かりました」

 男の子の腕からは確かに折れた骨が突き出している。出血が酷いから、すぐに治療しないと。

 頭を打ったみたいだから先に頭の方に治癒魔法をかけていく。
 頭の中で出血してるかどうかは分からないから、念のためにね。

 ちなみに、治癒魔法は習得が難しくて、貴族でも使える人が限られている。
 私は難しいと感じなかったけど。

 私が治癒魔法を使えるのは、貴族教育の一環でお母様から教わったから。
 相性が良かったみたいですんなりと習得できたから、今ではほとんどの治癒魔法が使える。


「ぅ……」

 治癒魔法をかけ終わると、呻き声が聞こえた。
 男の子が目を覚ましたみたい。

「止血もういいですよ」
「分かりました」
「シエル、手伝って!」

 男性が手を離したのを確認してから、雷の魔法で痛みを感じなくさせる。
 それからシエルと協力して折れた骨を元の位置に戻した。
 あとは治癒魔法をかけて、跡すら残らずに傷が消えた。

「ケイン、大丈夫か⁉︎」
「もうなんともないよ!」

 早速起き上がって腕を回す男の子。背中が血で染まってるからこの事を知らない人は卒倒しそうね……。

 この後、みんなからすごく感謝された。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

魔法の説明も兼ねた回だったのですが、長くなってしまいました。
申し訳ありません。
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