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長谷川新太

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「キモw」


人生何回目だろう。この言葉を言われるの。


中学生の時から見た目に関して色々な事を言われてきた。


両親、祖父母から可愛い可愛いと言われて育ってきたからか、初めて容姿に対してマイナスなことを言われた時は衝撃だった。


俺ってそんな変な顔なのかな。




昔からなに不自由ない生活を送ってきた。


公務員の父と専業主婦の母、一緒に暮らしている祖父母から目一杯の愛情を受け、弟からは「にいちゃん、すげー!」と称賛されることも少なくなかった。


母の勧めで学習塾の他にピアノ、習字を小学生から経験した。


小学生の時はそれなりに友達もいた。


放課後は習い事でなかなか遊べなかったけど、家に招待しては母が作るお菓子に舌を唸らす友達もいて、母子共々自慢気だった。



「お前が佐久間?冴えねぇやつ。」


中学生になると自然と異性への関心も高まってくる。


見た目にも気を使うようになり、女子は化粧を始めたりなんかして。


色気付くとはこのことだ。


どこから嗅ぎつけたのか、小学校から一緒の女の子がいて、


その子が俺のことを話したのだろう。


てかどう見ても系統違うし絶対俺目当てじゃないよね。


「お前前田のこと好きなの?つかヤバ、、w」


初対面で好きな人聞いてくるって非常識じゃない?やばいのはお前の頭、、


なんて言えるはずもなく


「初めまして!前田ちゃんとは小学校が同じだけです!じゃ!」


面倒ごとに巻き込まれたくない一心でその場から去る技術は我ながら天晴である。







高校に進学してからは容姿の違いを突きつけられるようになる。


女子は露骨に態度は変わるし、男子にはいじるのには格好の標的だ。


「佐久間ってさーほんと終わってるよなww
髪型も顔もキモいwもさいしw絶対童貞ww」


聞こえてないと思っているのだろうか。


まぁ事実だから反論の余地ないんだが。


つかお前らが顔のこと言うから髪の毛伸ばしてんだろ!!





学校はつまらない。


家から近いって理由で親からも反対されたが偏差値も低い高校を選んだ。


どうせどこに行っても変わらない。


3年間適当に友情ごっこしていればいいだけ。


そう思っていた。


波風立てずつまらない学生生活を送ろうと思ってたとき。


三年時のクラス替えで名簿を見たときには驚いた。


 


〝長谷川新太“





長谷川くん、、、??


小学生の時、家の都合で転校した君を


俺は忘れたことはないよ。










小学生の時、クラスメイトの私物が無くなったことがある。


「みんなで話し合ってどうすればよいか解決しましょう。」


担任がそんなこというもんだから小学生の足りない頭で考えることはひとつだ。


犯人探しを始める。


長谷川くんはお母さんが一人で育てているみたいで、いつも同じ服を着ていた。


集金や給食費の支払いが遅れることもありお世辞にもお金があるように見えなかった。


給食の残りを持って帰ろうとしたこともあり
必然的に長谷川くんが犯人だとクラスのみんなはざわついていた。


長谷川くんはあまり口数が多くなく俺の中ではクールな印象で、普段前髪で隠れた切れ長の目と視線があった時は男の僕でもドキッとすることがあった。


長谷川くんは何も口にしないため容疑は晴れることなく、なかなか解決しなかった。





「長谷川くん、今日放課後予定ある?」


今思えば後悔した。


「田中くんの無くなったゲーム、このままだと解決しないし、、先生も困ってるみたい。」

「それに、、長谷川くんが疑われてる、、みたいでさ、、俺は全然そうおもってないんだけどね!よかったら買いにいかない?俺小遣いもらってさ!田中くんも困って泣いてるみたいやしさ!」


「、、、」


長谷川くんは何も言わずに、俺にゆっくり近づいて来てこう言った。




「偽善者が。」


ふと長谷川くんと目が合った。


「、、、。」


正直言われたことが衝撃すぎて言葉が出なかった。


その目で、心の内を見られたようで、俺は何も言えなかった。


その場から逃げ出したくなり、俺は急いで帰った。


帰り道、田中くんの無くなったゲームを買って。












後日–。


「あー、、わり。ゲームあったんだよな。
今日先生にも言った。ほんとわりー。」


学校で田中くんが無くしたゲームの新しいのを買い、渡そうとするとそう伝えられた。


「あーよかったわ!またうち来てゲームしような!」


俺は一安心してそっと田中くんに買ったゲームを鞄にしまいつつそう言った


「おうー。つかそれ弟もしたいていうんやけど俺がしてるから貸せなくてさー、それ貸してくんね?」


田中くんのために買ったんだし、、


「もちろん!返すのいつでもいいよ!」


「サンキュー。」


結果田中くんも満足してくれたみたいだし見つかって本当によかった。






帰りの会を終え、今日は塾のため帰っていると帰り道に田中くん達を見つけて声をかけようとすると


「つか長谷川あいつやべえよなwゲーム買ってくるってwさすが金持ちww」

「あいつんち行けばうまい菓子食えるしな!ゲームもし放題!新作必ず持ってんだよなー!」

「つかぜってぇ盗ったの長谷川べ!あいつんち貧乏だからw母ちゃん一人だしw」





俺はただその場に立ち尽くして田中くんたちの言ってることを聞いているだけだった。


「つか田中ゲームあったってまじ?ww」

「ああ、普通にあったわ。つかおまえらが長谷川が盗ったて盛り上がるから言い出せんかったわ笑」

「おまえ最低wwまぁ長谷川調子乗ってるしいいわw貧乏なのが悪いw」

「つか佐久間と友達ごっこそろそろ飽きたわw金あるけど顔きめーし!つるんでると俺らもザコって思われるやん!」

「ゲーム新作でた時だけあいつんちいこーぜ!佐久間の価値はそれしかないw」

「それなww賛成!ww」






気付いたら泣いていた。


悲しかったんじゃない。悔しかった。


本気で力になりたいって思ってた。


家が裕福なことが俺の価値なんだと思うと惨めだった。







「だっさ。」



聞いたことのある声だった。


「おまえらクズにつるむ佐久間もだせーけど。おまえらが一番だせーわ。」


長谷川くんだった。


「田中おまえさ、あいつの価値がどうたら言ってるけど。」


「あいつの価値はあいつが決めるから。」


田中くんが負けずと言い返す。


「うるせえよ貧乏人が。おまえ佐久間から金貰ってんじゃねぇの?ww貧乏母ちゃんが悲しむぞw」


田中くんがそう言った後、長谷川くんから今まで聞いたことのないような大きな声で


「母さんのこと悪く言ってんじゃねーぞ!!」






おもわず俺もビクッとしてしまった。





「、、、いこーぜ。」





さっきまで笑っていた田中くんたちも長谷川くんの喝にビビったのか帰っていた。






「、、、あっ、、。」


隠れていたつもりだけど長谷川くんに見つかってしまった。


「、、、」


長谷川くんは何も言わずに帰っていく。


「あのっ!、、、。」

「ありがとう!」


長谷川くんの背中に声をかける。


「何が?」


立ち止まり振り返る長谷川くんが居る。


「その、、庇ってくれて、、、。」


「庇う?何言ってんの?」


長谷川くんは続ける。


「何勘違いしてるか知らねーけど。おまえ今めちゃくちゃかっこわりーよ。」


長谷川くんはそう言い、帰っていった。







この経験から他人と金銭で関係を築こうとするのを辞めた。


もちろん友達は一人もいなくなった。


俺から財力を取ったら何が残るのだろう。
むしろマイナスだ。この見た目で。


でもね、長谷川くんなら。


きっと仲良くしてくれると思うんだ。


こんな俺でも。きっと。






〝長谷川新太“


覚えているかな。


あの時のこと。


今日も寝たふりして。俺もするからよくわかるよ。肩の動きで寝息かどうかなんて。


ずっと見てきたんだから。


今日もお昼食べないのかな。


いつも長谷川くんの分も持ってきてるの知ったら


君はなんて言うんだろう。


今日も乃◯坂聴いてるのかな。


白◯麻衣のこと好きなんだよね?


iPhoneの壁紙この前見えてたよ。


イヤホンいつもそれ使ってるね。








長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川くん長谷川長谷川くん


呼吸が早くなっているのが自分でも分かる。


俺今すっごく気持ち悪いだろう。


クラスの女子たちが俺のこと何か言ってるけどそんなことどうだっていい。





今日こそ話しかけるんだ。



「長谷川く、、、あっ」




何かにつまづいたのか、足を引っ掛けられたのか。






そのまま寝ている長谷川くんの机にぶつかってしまった。


→side.佐久間尊







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