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第四章 わたし、子を、授かりました
ギリアンのトラウマ ※センシティブ(被虐待)
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静かな夜だった。
かすかな風に、寝室の蝋燭がわずかに揺れている。
ギリアンは上着を脱いだまま、机に向かっていた。
ヴィンセントとジェードがヘーンブルグ領に向かい、まだ戻っていない。
書類の山に目を落としながらも、集中しきれていないのは明らかだった。
扉が静かに開く。
「……ギリアン様」
その声に、ギリアンは振り向いた。
シルヴィアが夜着に薄い外套を羽織り、慎ましく立っている。
「……もう遅い、こんな時間にどうし――」
そこまで言いかけたギリアンの言葉を、シルヴィアはやわらかな微笑みで遮った。
目元が、ほんのりと紅を帯びていた。
「……どうしても、今日中にお伝えしたいことが、ありまして」
ギリアンが立ち上がるよりも早く、シルヴィアは一歩、二歩と歩み寄ってきた。
蝋燭の灯りの中で、その表情がほんのり明るいことに気づく。
そして、シルヴィアはそっと手を胸元に当てると、小さな声で告げた。
「……わたし、子を、授かりました」
時間が止まったように感じた。
ギリアンは瞬きすら忘れたまま、ただ、シルヴィアを見つめていた。
「……本当、に……?」
「はい」
シルヴィアの声は、いつになく穏やかで、そして幸福に満ちていた。
静かに、そして、確かに震えるような喜びが、彼女の姿全体にあふれていた。
「まだ医師には確かめてもらってないんですけど……ラシェルが気づいて、今朝……わたしも、思い当たる事があって……」
そう言いながら、恥じらいを含んだ笑みがこぼれる。
「……なんだか、もう身体の奥で、温かなものが芽生えている気がするんです」
ギリアンはその言葉に、何も返せなかった。
机の端に片手をついたまま、ただ視線を泳がせる。
シルヴィアの表情が、ふっと曇る。
「……ギリアン様?」
ギリアンの沈黙が、シルヴィアの不安を呼んだ。
そのまなざしは、答えを探すように揺れている。
「……すぐにご報告すべきか迷ったんですけど。でも、わたし……きっと、陛下は喜んでくださると思って……」
ギリアンは、ようやく目を上げた。
だがその瞳には、喜びとは別の、もっと複雑な光が宿っていた。
「……いや、ありがとう。君が……僕に知らせてくれたこと……嬉しく思う」
声は掠れていた。
言葉の一つひとつが、ぎこちなく、どこか痛々しい。
シルヴィアは微笑もうとしたが、それが最後まで形を保てなかった。
「……でも、何か……辛そうですが……」
その問いには、ギリアンは答えなかった。
いや、答えることができなかった。
胸の奥がざらつく。
呪われた黒髪と、呪われた血。
かつて父王に投げかけられた言葉が、今、また胸に蘇る。
『王家を汚すな。お前の血は黒い』
子が生まれたら、その子も――と、どこかで考えてしまう自分がいる。
つい先日、黒髪の子が生まれるまで……十人でも、二十人でも――と言ってくれた言葉に、確かに心を動かされたはずだった。
金の髪なら良いと、一瞬でも思ってしまった自分を、ギリアンは心の底から嫌悪した。
「……わたし……何か、失礼なことを申し上げてしまいましたか……?」
そっと漏らすシルヴィアの声が、やけに遠く聞こえた。
ギリアンは、はっと我に返る。
目の前には、自分を信じて子を宿した女が立っている。
愛を知らない自分が、王妃に選んで抱きしめた人だ。
それなのに、自分は――
「……すまない」
それが、ギリアンに言えた唯一の言葉だった。
シルヴィアは、わずかに首を振った。
彼女の顔から微笑みが消えていた。
その瞳には、微かな翳りが差していた。
二人の間に、静寂が落ちた。
夜の帳のように静かな沈黙だった。
かすかな風に、寝室の蝋燭がわずかに揺れている。
ギリアンは上着を脱いだまま、机に向かっていた。
ヴィンセントとジェードがヘーンブルグ領に向かい、まだ戻っていない。
書類の山に目を落としながらも、集中しきれていないのは明らかだった。
扉が静かに開く。
「……ギリアン様」
その声に、ギリアンは振り向いた。
シルヴィアが夜着に薄い外套を羽織り、慎ましく立っている。
「……もう遅い、こんな時間にどうし――」
そこまで言いかけたギリアンの言葉を、シルヴィアはやわらかな微笑みで遮った。
目元が、ほんのりと紅を帯びていた。
「……どうしても、今日中にお伝えしたいことが、ありまして」
ギリアンが立ち上がるよりも早く、シルヴィアは一歩、二歩と歩み寄ってきた。
蝋燭の灯りの中で、その表情がほんのり明るいことに気づく。
そして、シルヴィアはそっと手を胸元に当てると、小さな声で告げた。
「……わたし、子を、授かりました」
時間が止まったように感じた。
ギリアンは瞬きすら忘れたまま、ただ、シルヴィアを見つめていた。
「……本当、に……?」
「はい」
シルヴィアの声は、いつになく穏やかで、そして幸福に満ちていた。
静かに、そして、確かに震えるような喜びが、彼女の姿全体にあふれていた。
「まだ医師には確かめてもらってないんですけど……ラシェルが気づいて、今朝……わたしも、思い当たる事があって……」
そう言いながら、恥じらいを含んだ笑みがこぼれる。
「……なんだか、もう身体の奥で、温かなものが芽生えている気がするんです」
ギリアンはその言葉に、何も返せなかった。
机の端に片手をついたまま、ただ視線を泳がせる。
シルヴィアの表情が、ふっと曇る。
「……ギリアン様?」
ギリアンの沈黙が、シルヴィアの不安を呼んだ。
そのまなざしは、答えを探すように揺れている。
「……すぐにご報告すべきか迷ったんですけど。でも、わたし……きっと、陛下は喜んでくださると思って……」
ギリアンは、ようやく目を上げた。
だがその瞳には、喜びとは別の、もっと複雑な光が宿っていた。
「……いや、ありがとう。君が……僕に知らせてくれたこと……嬉しく思う」
声は掠れていた。
言葉の一つひとつが、ぎこちなく、どこか痛々しい。
シルヴィアは微笑もうとしたが、それが最後まで形を保てなかった。
「……でも、何か……辛そうですが……」
その問いには、ギリアンは答えなかった。
いや、答えることができなかった。
胸の奥がざらつく。
呪われた黒髪と、呪われた血。
かつて父王に投げかけられた言葉が、今、また胸に蘇る。
『王家を汚すな。お前の血は黒い』
子が生まれたら、その子も――と、どこかで考えてしまう自分がいる。
つい先日、黒髪の子が生まれるまで……十人でも、二十人でも――と言ってくれた言葉に、確かに心を動かされたはずだった。
金の髪なら良いと、一瞬でも思ってしまった自分を、ギリアンは心の底から嫌悪した。
「……わたし……何か、失礼なことを申し上げてしまいましたか……?」
そっと漏らすシルヴィアの声が、やけに遠く聞こえた。
ギリアンは、はっと我に返る。
目の前には、自分を信じて子を宿した女が立っている。
愛を知らない自分が、王妃に選んで抱きしめた人だ。
それなのに、自分は――
「……すまない」
それが、ギリアンに言えた唯一の言葉だった。
シルヴィアは、わずかに首を振った。
彼女の顔から微笑みが消えていた。
その瞳には、微かな翳りが差していた。
二人の間に、静寂が落ちた。
夜の帳のように静かな沈黙だった。
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