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モデルと恋と告白と

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「はぁ!? 《ボムフォード》にいといて『アイラ』の名前を知らないの!?」
「ご、ごめんなさい~っ。アタシたちこの町に来たばかりで……」

 ブロンドヘアのお姉さんの名前は『アイラ』。商業都市《ボムフォード》において知らない人はいないカリスマモデルなんだって。
 よく周りを見回してみたらポスターとか看板にもアイラさんの姿が描かれている。何ならお店の壁に魔法で映写されている広告映像までアイラさんだ。アイラさんが大きなサングラスで顔を隠しているとはいえ、全然気付かなかった。

「そんなんで占い大丈夫かしら?」
「そっ、そこはご心配なくっ! ええとそれじゃ早速始めますね!? 恋占いってことですけど、お相手は決まっていますか? それともいつ頃恋人が出来るのか占って欲しいとかっ!?」

 アタシはボロが出ないうちにと早く占ってしまおうとアイラさんにせっつく。
 アイラさんは未だに怪訝そうな目でアタシを見下ろしてはいるけど、一応占って欲しいことを喋ってくれた。

「相手は……いるわ。まだ付き合ってはいない」
「なるほど、なるほどっ。ちなみにどんなお相手なのかお訊ねしても?」
「彼は役所、の、……。やっぱり言いたくないわっ!」
「あっ、はいっ! わかりました! それでその、付き合えそうな時期を知りたいんですか!?」
「違うわ」

 アイラさんはきっぱり否定して、

「彼が! いつ! どこで! 私に告白するか当てて欲しいのっ!!」

 何とも斜め上な占いを求めてきた。

「そ、そんなピンポイントでっ!?」
「そう、そうよ! 出来るの? 出来ないの!?」
「占いっていうのはお客さんの背中を押すのが主な役割で、的確な予言が欲しい場合は未来予知の出来る預言者にお願いした方がいいんじゃ……!?」
「そんな希少職種の人間が町に居たら苦労しないわよ! いないから仕方なくあなたに頼んであげてるのっ!」

 これまた癖の強いお客さんだ~っ!
 カイルは後ろで我関せずで読み書き練習帳に没頭しているし、アタシがどうにかしなきゃだ~っ!

「そ、それじゃ占いますがっ! アイラさんはその想い人に会う度に冷たい態度を取っていませんかっ!?」
「うっ!」
「他の女性と喋っているのを見かけたら後でそれを『人たらし』とか『見境なく愛想振りまいてる』とかちくちく指摘していませんかっ!?」
「うぅっ!」
「『あなたを好きになるような人はよっぽどの好きものね』なんて思ってもないことを言ってしまっていませんか!?」
「ううう……っ!」

 アタシの当てずっぽうに対して、アイラさんは大きくのけ反って唸り声をあげた。当たってたみたい。
 プライド高そうなところとか、素直になれてなさそうなところを乗合馬車のローブのお兄さんみを感じたから、連想できることを言ってみたけど、アタシの印象は間違ってなかった!

「ふふ、なかなかやるわね……」
「そうでしょう? これでも百戦錬磨の占い師ですからっ」

 後ろから「嘘つけ」とか「何の勝負しているんだ」っていうカイルの視線を感じるけど、無視無視っ。

「そこで! お姉さんが告白される日を当てるのは不可能ですっ! だってそんな日来ないからっ!」
「な、何を言っているの!?」
「冷静に考えてみてください。意地悪を言ってきたり、冷たい態度を取ってくる女性よりも慕ってくる優しい女性の方が好感度高くなるでしょう? だからきっと、アイラさんに必要なことは『自分の気持ちに素直になること』です! あと今までの態度も謝りましょうっ!」

 嘘つきで見栄っ張りなアタシが言うことじゃないけど、でもだからこそ、正直に話すのが一番気持ちを伝えられるって、痛いぐらい知っている。
 恋を成就させたいなら嘘はない方がいいよね、きっと。

「で、でも、私から告白するなんて……。今までのことを謝るだなんて……。今まで私が積み上げてきた高嶺の花としてのモデル像が……っ!」

 あ、なるほど。アイラさんはただプライドが高いんじゃなくて、モデルとしてのキャラクターを維持する為に傲慢な態度を取っていたってことかぁ。
 うーんと、えーっと、ならオンオフ切り替えられるスイッチを考えた方がいいかな?

「プライベートで素直な気持ちを見せる時は、モデルの自分を捨てられるようええと、そうだサングラスじゃなくて伊達メガネかけるとかどうですかっ!?」
「はぁ? メガネ?」
「相手と喋る時は目が見える方がいいと思うのと、ぱっと見でプライベートな格好ってわかるようになるべくダサ……いや個性的だといいんじゃないでしょうか!」
「くっだらない! 私はそんな安直な話を聞きにきたんじゃないわ! 失礼しちゃう!」

 アタシがひり出した提案にアイラさんはかんかんで、足早に立ち去ろうとしてしまう。もちろん、未払いで。

「ああっ! 待って、待ってくださいっ!」
「なぁに? 与太話に付き合わせたうえに、お金取ろうと思っているんじゃないでしょうね?」
「うぐっ」

 アイラさんはアタシの占いはお気に召さなかったみたい。このまま帰っちゃったら二度と来てくれないだろうし、もしかしたら「あそこの占いは当たらない」って評判を下げられちゃうかもっ。
 モデルで広告力のあるアイラさんにそれをやられたらもう《ボムフォード》でお店開けなくなっちゃうっ! 何か、せめて何か一つ心に残ることを言わないとっ。

「明日、明日っ! いつになるかわからないけど、空に虹がかかりますっ! それは吉兆の虹で、見たらきっと勇気がわきます! 告白が成功するかわかりませんが、頑張ってください!」
「何その半端な占い……。話はそれだけ?」
「は、はい……」
「そう。それじゃ」

 アイラさんはそのまま、ハイヒールをカツカツ鳴らしながら雑踏に消えていってしまった。
 ううう、少しでも力になれたらなとかゴーマンな事を考えていたけど、上手くいかなかったなぁ。

 結局、その日来たお客さんはアイラさんだけで、アタシは粛々と店仕舞いをするとカイルと一緒に宿屋に向かったのだった。
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