トンカツと魔性

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第三章ドライビーフシチュー 三節目

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 殺人犯を捕まえる算段はついた。後は鷺沼が客人を招待してくるまで、犯行を防げ無くとも発生を遅らせるべく巡回を厳とすれば、良い。鷺沼との接触が叶った事で、道悟の指針はそう定まった。
 鷺沼が何者かというと、政府機関に席を置く魔性向けの交渉人的な存在である。ぼんやりとした表現なのは、それが鷺沼の明かしている唯一の情報だからだ。表向きには平の職員なので、交渉人としての名刺が作れないと嘆いていた。ちなみに、通常の所属もプライバシー保護の為、秘密としている。
 つまり、物的証拠の無いペテン師臭い男なのだが、道悟自身は彼を信用していた。何故なら、これまで彼と交わした約束は必ず実現してきたからである。知り合ってから4年ほど経つが、反故にされた事も無ければ、果たせなかった事すらない。彼のバックが意図通りに動くという事は、つまり彼が本物の交渉人だという何よりの証拠なのだ。
 とはいえ信用する一番の理由は、彼が道悟の設ける交渉人としてのハードルを易々とクリアしているところにある。裏側の人間だというのなら、所属が曖昧で普段の姿を明かせないのは、むしろ当然。重要なのは、理性的に物事を捉え、双方に利がある決断を捻り出せるか、である。
 彼のおかげで、道悟とカグは安全に潜伏出来ている。政府としては、相手を把握し、危険性が少なければ、交渉の為のパイプを維持するだけで事を荒立てない穏健策を旨としているのだ。魔性との全面戦争が勃発すれば、この国、いやこの世界に安住の地は無くなり、人心は大いに乱れ狂い、今の社会基盤はあっさりと崩壊してしまうと考えているからである。今の社会は、目に見えない恐怖を否定することで成り立っているのだ。
 道悟としても、特殊部隊が送り込まれるのは、どうしても避けたい結末だった。一方的な虐殺は、趣味ではないからである。まあ、呼び寄せている勢力こそが、魔性に対して一番の過激派だったりするのだが。
 道悟が今日も何事も無く、下校しようとした際、コインロッカー風の下駄箱を開けると、靴の上にコジャレた封筒が置かれていた。
「なん・・・だと」
 鍵は掛かっていたのに、どうやって中へ入れたのか。道悟は戦慄しながら、手紙を手に取った。手紙の内容をかいつまんで説明すると、何者かが道悟を学校の屋上へと呼び出している。手紙の最後には、名前が掛かれていた。
「諏方・・・悠梨(すわ ゆうり)?」
 聞き馴染みの無い名前である。字面的には女性名だが、少なくとも交遊関係はないし、正直顔も浮かんで来ない。つまり、出向く義理は無いというわけである。端的に言えば、一階から屋上に行くのが面倒なのだ。校庭から一礼して帰れたりしないだろうか。
「駄目なんだろうなぁ・・・」
 道悟はため息をつくと、階段へと踵を返した。
「女の子から手紙をもらった!?」
 階段を登りながら、道悟は逍子に電話を掛けていた。
「何それ、楽しそう♪」
「楽しそうって・・・そういう訳で会ってきますね。遅れる事は無いと思いますが、一応連絡を」
「それは御丁寧に・・・なら、私も行こうかしら♪」
「来ないでください・・・他校ですよ?」
「うふふ、冗談♪ ・・・それじゃあ、後でね」
 道悟が屋上前へ辿り着いたのを見計らったかの様に、逍子は電話を切った。道悟は携帯をしまい、扉を開けて屋上へと足を踏み入れた。
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