トンカツと魔性

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第三章ドライビーフシチュー 十一節目

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「見つかっちゃった♪」
 逍子に気付いた道悟は、彼女の元へ駆け寄り、詰問していた。
「はぁ・・・ここで何をしているんですか、女将?」
「ほら、今日は良いお天気でしょう? だからお散歩していたのよ♪」
「いや、お散歩って・・・この物騒な時期に?」
「うふふ・・・歩いていたら、新田君達と遭遇したりしないかな、なんて。淡い期待はしていたけれど♪」
「それって、ガッツリ捜索してるじゃないですか!」
「うふふ♪」
「・・・否定しないんですね、もはや」
 道悟が逍子の取り扱いに苦慮していると、痺れを切らしたのか諏方が歩み寄ってきた。
「ちょっと、今ってどういう状況なの? 雇用主って?」
「いや、その・・・彼女は」
「うふふ、端から見れば新田君、まるで間男ね♪」
「愉しそうに何て事言うんですか・・・」
「大丈夫、任せて♪ ・・・初めまして、私の名前は波多野逍子。近くで食堂?を経営しているの。新田君は、そこでお手伝いをしてくれているから、私が形式上では雇用主なの」
 女将が誤解を招かない真っ当な説明をしてくれている、道悟は予想外に良好な対応に驚き、何故か目頭が熱くなるほど感動している。
「とどのつまり・・・・・・私が女帝よ」
「じょ・・・女帝・・・」
 決め顔でトンデモナイ事を言い出す逍子に、諏方は言葉を失ってしまう。道悟の感動は数秒で瓦解してしまった。つまり、株価大暴落である。
「何を言っているんですか、女将!」
「うふふ、ジョーク、ジョーク♪ スカンジナビアンジョ~ク♪」
「北欧感、皆無じゃないですか! 諏方さんだってドン引きして・・・」
「・・・ふふっ、あっはっはっ!」
「大爆笑していた!?」
「ふふっ・・・波多野さんは面白い人ですね。私は諏方悠梨、新田君のClassmateです」
 諏方はクラスメートの部分を強調しつつ、道悟に対して目配せをした。彼女なりに気を使ったつもりなのだが、道悟はクラスメートとして認識していなかった事への痛烈な皮肉だと解釈してしまう。
「諏方ちゃんも中々いける口じゃない♪ 家(うち)、来ちゃう?」
「えっと・・・良いの?」 
「もちろん、お昼まだでしょう? 何か、御馳走させて♪」
 こうして、道悟と諏方の二人は逍子により、しょうようへと持ち帰られていった。
 しょうようへ着くまでの間に、諏方は今日のツアーの顛末を逍子に語り聞かせていた。
「というわけで、空振りに終わったの・・・波多野さん、何か知らないかな?」
「う~ん・・・だいぶ昔に流行ったものしか知らないわね。それよりも、私としては今の噂に興味津々なんだけど♪」
 そんな話をしながら店へ入ると、逍子は案の定、招待しておきながら道悟に調理を丸投げしてきた。ある程度予想していた道悟は、文句も言わずに厨房へ向かい、手を洗ってから冷蔵庫を漁る。唐揚げとトンカツが残っているので、適当に揚げ焼きにしてしまおう。大きめのフライパンへ多めにサラダ油を注ぎ入れ、火に掛ける。油が熱されてきたら、トンカツと唐揚げを敷き並べていく。後は焼けていくのを待つばかりだ。
 道悟が少し呆けていると、厨房の奥から遙花が現れた。
「お姉ちゃん帰ってき・・・って、新田さん?」
「・・・石投げ地蔵」
「え、何ですか?」
「はっ、すみません・・・こんにちは、若女将」
 道悟は簡単に、ここまで連行されてきた経緯を説明した。
「姉がいつもすみません・・・プライベートにまで踏み込んで」
「いや、プライベートって言うほどプライベートでは・・・そういえば、この前缶蹴りをした公園で・・・」
 また、道悟は石投げ地蔵の噂について、遙花に紹介した。
「これって、やっぱり若女将ですか?」
「う~ん・・・」
 問われた遙花は難しい顔で眉間に皺を寄せた。
「たぶん、違うと思います」
「え? 違うんですか?」
「ええ、私は一人で練習とかしませんでしたから。それはおそらく・・・彼かと」
「・・・彼?」
「昔から、いつの間にか参加している子が居たんです。とても石投げが上手だったけど、誰も身元を知らなくて・・・」
「えっと・・・それって、まさか」
「彼は・・・プフッ」
「プフ?」
「すみません、我慢できませんでした・・・冗談ですよ、新田さん。たぶん私ですね、石投げ地蔵」
「え、えぇ・・・何でまた、そんな冗談を」
「さあ、何故でしょうか・・・それより、いつまでもフライパンから目を離していたら、焦げちゃいますよ?」
「あ、はい!」
「お腹空いてるので、早めにお願いしますね~」
 そう言い残し、遙花はカウンターの方へと歩き去っていった。
「・・・何だったんだ?」
 道悟は首を傾げながら、良い焼き色のついた揚げ物を裏返していく。再び、焼けるのを待っていると、仕事用の携帯にメッセージが届いた。カグから、あの化け猫を見失ってしまったそうだ。残念だが、正体が割れただけでも良しとするしかない。
 終わりは確実に近付いているのだから。
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