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3 ラブレターと急に静かになった通学路
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翌朝。
俺は自分の部屋のベッドの上で、昨日の夕方に汐音が置いていった手紙を眺めていた。結局、あの後も砂浜で立ち尽くし、冷え切るまでそこにいた。家に帰ってからも、手紙を読む勇気は出なかった。
しかし、このまま放っておくわけにはいかない。
俺は覚悟を決め、封筒を手に取った。淡いブルーの封筒。いかにも女子高生らしい、可愛いデザインだ。裏には「汐音より」と、丸くて丁寧な文字が書いてある。
中に入っていたのは、数枚便箋。
ペンは、彼女がいつもノートに落書きをしているときと同じ、インクが濃い黒のボールペンだった。
海斗へ
まず、急にごめんね。朝、あんなこと言っておいて、結局夕方に告白するなんて、我ながら計画性がなさすぎだよね(笑)。
でも、本当に限界だったんだ。高校に入ってから、海斗が私を避けるようになって、話しかけても「うざい」って顔をするようになって…本当に辛かった。
*小学校の頃、みんなで海で遊んでいたとき、私、貝殻で足を切っちゃったこと覚えてる?あの時、海斗だけが慌てて私を抱っこして保健室まで連れて行ってくれた。**「お前、本当に泣き虫だな」*って言って、絆創膏を貼ってくれた海斗の横顔が、私、今でも忘れられないんだ。
あの時、私の中で何かが変わった。
海斗のことが、ただの幼馴染じゃなくて、特別になった。
でも、私がその気持ちを意識し始めてから、海斗はどんどん私から離れていった。だから、私なりに頑張ったんだ。海斗に気づいてもらうために、わざと大声を出したり、やたらとくっついたり、変な冗談を言ったり…。
海斗が私を嫌いなのは知ってる。でも、嫌いでもいいから、私の近くにいてほしかった。これが、私なりにできる、唯一のアピールだと思ってた。距離感がバグっているって思われても仕方ない。
返事は急がないでいいよ。でも、もしよかったら、また二人で海に行きたいな。
汐音
読み終わった後、俺は便箋をそっと机に置いた。
汐音の、あのうざい行動の裏に、そんな健気な理由があったなんて。
俺をからかっていると思っていた、あのバグった距離感が、彼女にとっては精一杯の愛情表現だったという事実に、胸を抉られるような痛みを感じた。
俺が、誰よりも鈍感だった。
いつも、俺の都合で彼女を「嫌い」だと断じて、邪険にしてきた。本当は、彼女が昔のままの明るい幼馴染でいてくれるだけで、どこか安心していたくせに。
家を出る時間になった。重い足取りで玄関を潜る。
いつもの通学路。いつもの潮風。
いつもなら、この角を曲がったあたりで、後ろから「かーいーとー!」と甲高い声が飛んでくるはずだ。
だが、今日は違った。
角を曲がっても、その先に汐音の姿はなかった。
「…ちぇ」
なぜか、拍子抜けしたような気分になった。昨日まであれほど鬱陶しかった彼女の存在が、急になくなった途端、通学路がひどく静かで寂しいものに感じられた。
俺は、今まで、汐音の距離感のバグに文句を言いながら、実はそのバグに依存していたのかもしれない。
昨日の告白。手紙。そして、今日の静かな通学路。
全てが、俺の日常を、そして汐音への感情を、静かに、だが確実に揺さぶり始めていた。
俺は自分の部屋のベッドの上で、昨日の夕方に汐音が置いていった手紙を眺めていた。結局、あの後も砂浜で立ち尽くし、冷え切るまでそこにいた。家に帰ってからも、手紙を読む勇気は出なかった。
しかし、このまま放っておくわけにはいかない。
俺は覚悟を決め、封筒を手に取った。淡いブルーの封筒。いかにも女子高生らしい、可愛いデザインだ。裏には「汐音より」と、丸くて丁寧な文字が書いてある。
中に入っていたのは、数枚便箋。
ペンは、彼女がいつもノートに落書きをしているときと同じ、インクが濃い黒のボールペンだった。
海斗へ
まず、急にごめんね。朝、あんなこと言っておいて、結局夕方に告白するなんて、我ながら計画性がなさすぎだよね(笑)。
でも、本当に限界だったんだ。高校に入ってから、海斗が私を避けるようになって、話しかけても「うざい」って顔をするようになって…本当に辛かった。
*小学校の頃、みんなで海で遊んでいたとき、私、貝殻で足を切っちゃったこと覚えてる?あの時、海斗だけが慌てて私を抱っこして保健室まで連れて行ってくれた。**「お前、本当に泣き虫だな」*って言って、絆創膏を貼ってくれた海斗の横顔が、私、今でも忘れられないんだ。
あの時、私の中で何かが変わった。
海斗のことが、ただの幼馴染じゃなくて、特別になった。
でも、私がその気持ちを意識し始めてから、海斗はどんどん私から離れていった。だから、私なりに頑張ったんだ。海斗に気づいてもらうために、わざと大声を出したり、やたらとくっついたり、変な冗談を言ったり…。
海斗が私を嫌いなのは知ってる。でも、嫌いでもいいから、私の近くにいてほしかった。これが、私なりにできる、唯一のアピールだと思ってた。距離感がバグっているって思われても仕方ない。
返事は急がないでいいよ。でも、もしよかったら、また二人で海に行きたいな。
汐音
読み終わった後、俺は便箋をそっと机に置いた。
汐音の、あのうざい行動の裏に、そんな健気な理由があったなんて。
俺をからかっていると思っていた、あのバグった距離感が、彼女にとっては精一杯の愛情表現だったという事実に、胸を抉られるような痛みを感じた。
俺が、誰よりも鈍感だった。
いつも、俺の都合で彼女を「嫌い」だと断じて、邪険にしてきた。本当は、彼女が昔のままの明るい幼馴染でいてくれるだけで、どこか安心していたくせに。
家を出る時間になった。重い足取りで玄関を潜る。
いつもの通学路。いつもの潮風。
いつもなら、この角を曲がったあたりで、後ろから「かーいーとー!」と甲高い声が飛んでくるはずだ。
だが、今日は違った。
角を曲がっても、その先に汐音の姿はなかった。
「…ちぇ」
なぜか、拍子抜けしたような気分になった。昨日まであれほど鬱陶しかった彼女の存在が、急になくなった途端、通学路がひどく静かで寂しいものに感じられた。
俺は、今まで、汐音の距離感のバグに文句を言いながら、実はそのバグに依存していたのかもしれない。
昨日の告白。手紙。そして、今日の静かな通学路。
全てが、俺の日常を、そして汐音への感情を、静かに、だが確実に揺さぶり始めていた。
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