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6 潮騒と初めての正直な告白
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俺は汐音の腕を掴んだまま、黙々と海沿いの道を歩いた。
汐音は抵抗しなかったが、一言も喋らない。掴んだ腕から伝わる体温が、朝の静かな通学路と同じく、俺の心をざわつかせていた。
数分歩き、いつもの堤防にたどり着いた。
俺は汐音の手を離し、昨日彼女が座っていたコンクリートの上に腰を下ろした。夕日はちょうど水平線に近づき、海面をオレンジ色に染めている。
「座れよ」
俺が言うと、汐音は少し躊躇した後、俺から半歩離れた場所に座った。その距離感が、今はひどく正常で、逆に心臓に刺さった。
「…海斗。手紙、読んでくれたんだね」
汐音が、絞り出すような声で言った。
「ああ、読んだよ」
俺は、ポケットからしわくちゃになった便箋を取り出し、彼女の膝の上にそっと置いた。
「それで、話って何?…返事?」
彼女は顔を上げず、震える声で尋ねた。その横顔には、朝の元気な太陽のような幼馴染の面影はもうなかった。ただ、傷つきやすい一人の女の子がそこにいる。
俺は潮風を深く吸い込んだ。
逃げずに、ちゃんと話す。俺がバグらせた距離を、今、直すんだ。
「その返事なんだが…」
俺は言葉を選んだ。ここで「ごめん、付き合えない」と言うのは簡単だ。だが、それだけでは、俺がずっと汐音を邪険にしてきたことへの謝罪にならない。
「俺はな、汐音。お前のこと、嫌いだった。それは嘘じゃねぇ」
汐音は小さく息を呑んだ。
「でも、その嫌いっていう感情の裏側に、俺が気づきたくない感情があった」
俺は、昨日の記憶を辿りながら、正直な気持ちを口にした。
「高校に入って、お前が誰にでも笑いかけるのを見て、俺は急に焦った。お前が俺だけの幼馴染じゃなくなるのが怖かった。他の男に取られるのが嫌だったんだ」
そこまで言って、俺は初めて、自分の口から出た**「取られるのが嫌」という言葉に驚いた。それは、紛れもない独占欲**だ。
「俺は、その戸惑いや、お前が異性として周りから見られることへの嫉妬を、全部**『うざい』とか『邪魔だ』**って言葉で隠した。そして、お前が俺から離れていかないように、わざと冷たく突き放したんだ」
俺は深く頭を下げた。
「…ごめん。俺が、一番最低だった。お前のあのバグった距離感は、俺が作ったものだ。傷つけた上に、それに依存してた」
しばらくの沈黙の後、汐音がそっと顔を上げた。夕焼けの光が、彼女の瞳を濡らしている。
「海斗が…そんなこと考えてたなんて、知らなかった」
「ああ、俺も、今気づいた」
俺は再び、正面から汐音の目を見た。
「だから…俺の返事は、今すぐ『付き合おう』じゃない」
汐音の表情が、一瞬で凍りつくのが見えた。やはり、拒絶されると思ったのだろう。
俺は早口で続けた。
「でも、お前のことが、気になってる。今まで『嫌い』って感情で蓋をしてきた、俺自身の本当の気持ちに、今、向き合いたい」
「だから、お願いだ。もう一度、俺に、お前の『幼馴染』としての正しい距離を教えてくれないか?」
俺は、もう彼女に「くっついてこい」とは言わない。
俺が知りたいのは、「うざい幼馴染」ではなく、「一人の女の子としての汐音」が、俺からどれくらいの距離にいたいのか、ということだ。
汐音は、目を見開いて俺を見つめていた。その瞳には、もう涙はなかった。
そして、少しだけ微笑んだ。
「…ふふ。なにそれ、変な頼み方」
「うるせえ。正直に言ってるんだ」
「わかった」汐音は小さく頷いた。
「じゃあ、明日から。私はバグる前の距離感に戻る。でも…海斗。もしまた、私が遠くに行きそうになったら、今度は海斗の方から、私を呼び止めてね」
彼女の言葉に、俺の胸は、潮騒のように強く鳴り響いた。
汐音は抵抗しなかったが、一言も喋らない。掴んだ腕から伝わる体温が、朝の静かな通学路と同じく、俺の心をざわつかせていた。
数分歩き、いつもの堤防にたどり着いた。
俺は汐音の手を離し、昨日彼女が座っていたコンクリートの上に腰を下ろした。夕日はちょうど水平線に近づき、海面をオレンジ色に染めている。
「座れよ」
俺が言うと、汐音は少し躊躇した後、俺から半歩離れた場所に座った。その距離感が、今はひどく正常で、逆に心臓に刺さった。
「…海斗。手紙、読んでくれたんだね」
汐音が、絞り出すような声で言った。
「ああ、読んだよ」
俺は、ポケットからしわくちゃになった便箋を取り出し、彼女の膝の上にそっと置いた。
「それで、話って何?…返事?」
彼女は顔を上げず、震える声で尋ねた。その横顔には、朝の元気な太陽のような幼馴染の面影はもうなかった。ただ、傷つきやすい一人の女の子がそこにいる。
俺は潮風を深く吸い込んだ。
逃げずに、ちゃんと話す。俺がバグらせた距離を、今、直すんだ。
「その返事なんだが…」
俺は言葉を選んだ。ここで「ごめん、付き合えない」と言うのは簡単だ。だが、それだけでは、俺がずっと汐音を邪険にしてきたことへの謝罪にならない。
「俺はな、汐音。お前のこと、嫌いだった。それは嘘じゃねぇ」
汐音は小さく息を呑んだ。
「でも、その嫌いっていう感情の裏側に、俺が気づきたくない感情があった」
俺は、昨日の記憶を辿りながら、正直な気持ちを口にした。
「高校に入って、お前が誰にでも笑いかけるのを見て、俺は急に焦った。お前が俺だけの幼馴染じゃなくなるのが怖かった。他の男に取られるのが嫌だったんだ」
そこまで言って、俺は初めて、自分の口から出た**「取られるのが嫌」という言葉に驚いた。それは、紛れもない独占欲**だ。
「俺は、その戸惑いや、お前が異性として周りから見られることへの嫉妬を、全部**『うざい』とか『邪魔だ』**って言葉で隠した。そして、お前が俺から離れていかないように、わざと冷たく突き放したんだ」
俺は深く頭を下げた。
「…ごめん。俺が、一番最低だった。お前のあのバグった距離感は、俺が作ったものだ。傷つけた上に、それに依存してた」
しばらくの沈黙の後、汐音がそっと顔を上げた。夕焼けの光が、彼女の瞳を濡らしている。
「海斗が…そんなこと考えてたなんて、知らなかった」
「ああ、俺も、今気づいた」
俺は再び、正面から汐音の目を見た。
「だから…俺の返事は、今すぐ『付き合おう』じゃない」
汐音の表情が、一瞬で凍りつくのが見えた。やはり、拒絶されると思ったのだろう。
俺は早口で続けた。
「でも、お前のことが、気になってる。今まで『嫌い』って感情で蓋をしてきた、俺自身の本当の気持ちに、今、向き合いたい」
「だから、お願いだ。もう一度、俺に、お前の『幼馴染』としての正しい距離を教えてくれないか?」
俺は、もう彼女に「くっついてこい」とは言わない。
俺が知りたいのは、「うざい幼馴染」ではなく、「一人の女の子としての汐音」が、俺からどれくらいの距離にいたいのか、ということだ。
汐音は、目を見開いて俺を見つめていた。その瞳には、もう涙はなかった。
そして、少しだけ微笑んだ。
「…ふふ。なにそれ、変な頼み方」
「うるせえ。正直に言ってるんだ」
「わかった」汐音は小さく頷いた。
「じゃあ、明日から。私はバグる前の距離感に戻る。でも…海斗。もしまた、私が遠くに行きそうになったら、今度は海斗の方から、私を呼び止めてね」
彼女の言葉に、俺の胸は、潮騒のように強く鳴り響いた。
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