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8 水族館前の真実と突然の涙
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放課後。
俺は汐音からのメッセージに従い、水族館前のベンチに来た。平日だというのに観光客の姿が多く、ざわついている。
ベンチに座って海を眺めていると、潮風に乗って、後ろから優しい声が聞こえてきた。
「…海斗」
振り返ると、汐音が立っていた。彼女は私服だ。膝丈のデニムスカートに白いパーカーという、いつもより少し大人びた服装。昨日までの制服姿の、"幼馴染の女の子"とは違う。
「なんでここなんだ」俺は立ち上がった。
「秘密。座って、大事な話があるの」
汐音は俺の隣に座るよう促し、俺たち二人は、賑やかな水族館の入口を背にする形で海に向かって並んだ。
「で、話って?」
俺は切り出した。この数日間、彼女の正しい距離感に慣れてしまった分、俺は今日、拒絶される覚悟もしていた。
汐音は海を見つめたまま、静かに話し始めた。
「あのね、海斗。私、転校することになったんだ」
その一言は、夕焼けの空に響く潮騒よりも、遥かに大きく俺の鼓膜を震わせた。
「…は?」
「お父さんの仕事の都合で、急に。来週には、もう東京の方に引っ越すんだ」
信じられない。突然すぎて、頭が追い付かない。俺たちの家は隣同士で、親同士も仲が良い。そんな話、なぜ今まで知らなかったんだ。
「なんで急に…。なんで教えてくれなかったんだよ!」
俺は思わず、苛立ちとともに声を荒げた。
「ごめん…ずっと言い出せなくて。お父さんたちも、私が海斗と離れたくないって知ってるから、ギリギリまで隠してたんだと思う」
汐音は膝の上で両手を固く握りしめた。
「あのね、海斗。私が『告白』したのは、転校が決まったからだよ」
「…え?」
「キライな幼馴染のままで終わるのが、嫌だった。どうせもう会えなくなるんだから、最後に、バグった距離感の理由を正直に伝えて、ちゃんと振られたかった」
彼女の言葉は、俺の胸に突き刺さった。
彼女の告白は、俺の気持ちを試すためでも、新しい関係を始めるためでもなく、終わらせるための儀式だったのだ。
「…じゃあ、あの手紙の『また二人で海に行きたい』ってのは、嘘かよ」
「嘘じゃない」汐音は涙声で否定した。「あれは願いだよ。でも…無理だって分かってた」
そして、彼女は涙を堪えるのをやめたように、静かに泣き始めた。パーカーの袖で顔を覆い、肩を震わせている。
「ごめんなさい、海斗。私が最後にわがまま言ったせいで、海斗にまで気持ちの整理つけさせて…。もう、私のことは気にしなくていいから」
「ふざけんな!」
俺は乱暴な声で叫び、ベンチから立ち上がった。
俺が散々邪険にしてきた間も、汐音は俺の隣にいた。
俺が突き放した境界線を、毎日毎日、健気に超えてきてくれた。
そして、離れることが決まって、やっと正直な気持ちを伝えて、静かに身を引こうとしている。
それなのに、俺は…
「俺が、お前のことが好きだ!」
声が裏返った。潮風が俺の叫びをかき消そうとするが、俺は構わなかった。
「小学校の頃から、ずっとお前がいた場所が、俺のホームだった。お前が俺から離れるのが怖くて、俺は冷たいふりをして逃げてたんだ。お前のバグった距離感じゃなきゃ、俺は生きていけなかったんだよ!」
俺は汐音の前に屈み込み、顔を上げた。彼女の涙で濡れた瞳と、初めてしっかりと向き合った。
「お前の最後のわがままなら、俺の最初のわがままを言わせろ。転校なんて、させたくねぇ!」
水族館前の喧騒の中で、俺たちは二人きりだった。
キライだと思っていた幼馴染が、今、俺から本当にいなくなるという現実が、俺の本当の気持ちを無理やり引きずり出したのだ。
俺は汐音からのメッセージに従い、水族館前のベンチに来た。平日だというのに観光客の姿が多く、ざわついている。
ベンチに座って海を眺めていると、潮風に乗って、後ろから優しい声が聞こえてきた。
「…海斗」
振り返ると、汐音が立っていた。彼女は私服だ。膝丈のデニムスカートに白いパーカーという、いつもより少し大人びた服装。昨日までの制服姿の、"幼馴染の女の子"とは違う。
「なんでここなんだ」俺は立ち上がった。
「秘密。座って、大事な話があるの」
汐音は俺の隣に座るよう促し、俺たち二人は、賑やかな水族館の入口を背にする形で海に向かって並んだ。
「で、話って?」
俺は切り出した。この数日間、彼女の正しい距離感に慣れてしまった分、俺は今日、拒絶される覚悟もしていた。
汐音は海を見つめたまま、静かに話し始めた。
「あのね、海斗。私、転校することになったんだ」
その一言は、夕焼けの空に響く潮騒よりも、遥かに大きく俺の鼓膜を震わせた。
「…は?」
「お父さんの仕事の都合で、急に。来週には、もう東京の方に引っ越すんだ」
信じられない。突然すぎて、頭が追い付かない。俺たちの家は隣同士で、親同士も仲が良い。そんな話、なぜ今まで知らなかったんだ。
「なんで急に…。なんで教えてくれなかったんだよ!」
俺は思わず、苛立ちとともに声を荒げた。
「ごめん…ずっと言い出せなくて。お父さんたちも、私が海斗と離れたくないって知ってるから、ギリギリまで隠してたんだと思う」
汐音は膝の上で両手を固く握りしめた。
「あのね、海斗。私が『告白』したのは、転校が決まったからだよ」
「…え?」
「キライな幼馴染のままで終わるのが、嫌だった。どうせもう会えなくなるんだから、最後に、バグった距離感の理由を正直に伝えて、ちゃんと振られたかった」
彼女の言葉は、俺の胸に突き刺さった。
彼女の告白は、俺の気持ちを試すためでも、新しい関係を始めるためでもなく、終わらせるための儀式だったのだ。
「…じゃあ、あの手紙の『また二人で海に行きたい』ってのは、嘘かよ」
「嘘じゃない」汐音は涙声で否定した。「あれは願いだよ。でも…無理だって分かってた」
そして、彼女は涙を堪えるのをやめたように、静かに泣き始めた。パーカーの袖で顔を覆い、肩を震わせている。
「ごめんなさい、海斗。私が最後にわがまま言ったせいで、海斗にまで気持ちの整理つけさせて…。もう、私のことは気にしなくていいから」
「ふざけんな!」
俺は乱暴な声で叫び、ベンチから立ち上がった。
俺が散々邪険にしてきた間も、汐音は俺の隣にいた。
俺が突き放した境界線を、毎日毎日、健気に超えてきてくれた。
そして、離れることが決まって、やっと正直な気持ちを伝えて、静かに身を引こうとしている。
それなのに、俺は…
「俺が、お前のことが好きだ!」
声が裏返った。潮風が俺の叫びをかき消そうとするが、俺は構わなかった。
「小学校の頃から、ずっとお前がいた場所が、俺のホームだった。お前が俺から離れるのが怖くて、俺は冷たいふりをして逃げてたんだ。お前のバグった距離感じゃなきゃ、俺は生きていけなかったんだよ!」
俺は汐音の前に屈み込み、顔を上げた。彼女の涙で濡れた瞳と、初めてしっかりと向き合った。
「お前の最後のわがままなら、俺の最初のわがままを言わせろ。転校なんて、させたくねぇ!」
水族館前の喧騒の中で、俺たちは二人きりだった。
キライだと思っていた幼馴染が、今、俺から本当にいなくなるという現実が、俺の本当の気持ちを無理やり引きずり出したのだ。
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