キライな幼馴染の距離感がバグっている

おおりく

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潮風の誓いと遠くなる境界線

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五日間は、一瞬の潮風のように過ぎ去った。

俺と汐音は、授業中も休み時間も、家にいるときも、全ての時間を共有した。俺が「嫌い」という言葉で蓋をしてきた、幼馴染としての安心感と恋人としての高揚感が混ざり合い、毎日が奇跡のようだった。

俺はもう、彼女を突き放さなかった。彼女のそばにいるのが当たり前で、彼女の笑い声、潮の匂いがする髪、不意に触れる手の温かさ、全てが愛おしかった。

最終日の夜。

俺たちは、いつもの堤防にいた。満月が海面に銀色の道を伸ばしている。

「…五日って、本当に短いね」汐音が、俺の肩に頭を預けながら呟いた。

「ああ。でも、この五日間で、俺たちは五年分くらい、本当の距離を縮めた」

俺は彼女の手を握った。もう、彼女は俺に無理にくっついてこない。彼女が望む距離に、俺がちゃんと踏み込んでいる。

「海斗…今まで、私のこと、うざいって思っててごめんね」

「俺の方こそ、最低でごめん。全部俺のせいだ」

「じゃあ、これでチャラだね」汐音は笑った。

「転校しても、毎日連絡する。距離感バグるくらい、電話するから覚悟しておけ」

「望むところだ。ただし、バグらせるのは俺の方だ」

俺はそう言って、初めて、汐音にキスをした。

塩辛い潮の味と、微かに甘い彼女のリップクリームの味がした。この瞬間、俺たちの間の**「幼馴染」**という境界線は、完全に消滅した。

そして、別れの朝が来た。

引っ越し業者のトラックが、隣の家の前に停まっている。

俺たちは、玄関の前で向かい合っていた。汐音の瞳は、昨日泣きすぎたせいで少し腫れている。

「海斗。これ」

汐音は、小さな貝殻を俺の掌に握らせた。真っ白で、丸みを帯びた、小さな二枚貝だ。

「この町に来たら、この貝を私だと思って、海に報告してね」

「わかった」

俺は貝殻をぎゅっと握りしめた。

「じゃあ、行くね」

汐音はそう言うと、俺に背を向け、車に乗り込もうとした。

その背中が遠ざかる。俺の頭の中で、『もしまた、私が遠くに行きそうになったら、今度は海斗の方から、私を呼び止めてね』という彼女の言葉が響いた。

俺は、もう迷わない。

「汐音!」

俺は力の限り叫び、彼女の元へ駆け寄った。

車に乗りかけていた汐音が、再び振り返る。

俺は彼女の腕を掴み、しっかりと抱きしめた。

「絶対、遠い場所には行かせない。次に会うのは、年末か、それとも夏休みか。すぐにでも、東京に追いかけていく。だから、向こうで他の男に距離感バグらせるような真似はするな」

汐音は、今度こそ大粒の涙を流しながらも、満面の笑みで頷いた。

「…うん!じゃあね、ダーリン。またね」

それが、俺たちが交わした最後の言葉だった。

車は静かに発進し、俺たちの海沿いの日常から、汐音の姿を連れ去っていった。

俺は一人、静かになった隣家の前で立ち尽くす。

ポケットの中には、俺たちが初めて触れた貝殻。

そして、俺の心の中には、キライだと嘘をつき、距離感をバグらせたことで、初めて手に入れた本当に大切なものがあった。

俺たちの関係は、もう幼馴染という生ぬるいものではない。これからは、「遠距離の恋人」として、新しい境界線を築いていかなければならない。

だが、どんなに距離が離れても、俺たちの心はあの潮風の誓いで繋がっている。

俺は、掌の中の貝殻を強く握りしめ、青く広がる相模湾を見つめた。





小説を最後までお読みいただき、ありがとうございます!


読者の皆様へ:作者からの感謝の言葉

『キライな幼馴染の距離感がバグっている』を最後まで読み届けてくださり、本当にありがとうございます。

この物語は、「嫌い」という名の嘘で自分の本当の気持ちを隠していた海斗と、その嘘に傷つきながらも必死に「バグった距離感」で海斗を追いかけ続けた汐音の、とても不器用で、じれったい青春の物語でした。

彼らが最後に、別れというタイムリミットが迫る中で、ようやく素直になり、本当の恋を掴むまでの道のりを、読者の皆様も一緒に見守ってくださったことに心より感謝いたします。

海斗の視点を通して、皆様が潮風の匂いや海沿いの町の景色、そして彼らの複雑な心の機微を感じていただけたなら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。

物語は一旦ここで幕を閉じましたが、海斗と汐音の「遠距離の恋人」としての新しい挑戦は、きっと続いています。彼らの未来に、どうか温かいエールを送ってあげてください。

皆様の読書生活に、この物語が少しでも彩りを添えられたなら幸いです。

本当にありがとうございました!

また別の物語でお会いできることを願っています。
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