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プロローグ
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ソレは、目を覚ました。いや、正確に言うなら擬似停止状態から復帰したといった方が良いだろう。
何しろソレは生物ではないのだから。
ソレは、復帰すると即座に自分の状態を確認した。
メインシステム正常
サブシステムエラー
メインカメラ一部破損
音声認識システム正常
サブカメラ破損
右マルチ修繕モジュール破損
左マルチ修繕モジュール破損
マジックハンドモジュール正常
反重力装置破損
エネルギーパック1残量5%
エネルギーパック2残量0%
エネルギーパック3残量0%
エネルギーパック4破損
…
次々と上がってくるエラーや破損報告をソレは淡々と処理していく。
そしてソレは自らの体のほとんどの力を失っている事を理解した。状況はソレが想定していた物の中で最悪な部類だった。
だが、ソレは悲観も絶望もしない。ただ自分のすべき事をする。
…イキノビル…。
ソレは自らの中に沸き上がるモノを理解できない。湧き上がっている事すら今は気づいていない。
ただ淡々とその沸き上がるモノに従いソレが出来る最大限の事を行使するのみ。
メインカメラ起動。
壊れかけたソレの目に最初に飛び込んできたのは、真っ暗な闇だった。ソレは時間を確認すると深夜2時。かつて丑三つ時と呼ばれた時間だった。日は落ちてしばらく、夜明けも遠い。
ソレは、幸いにして壊れていなかった暗視装置を起動した。そして自分の目の前にあるものが落ちているのに気がついた。大きさは大体バスケットボールくらい。
それはソレと同じモノの残骸だった。
ひび割れた双眼鏡の様に並んだレンズ、その下にある円柱を横に倒したような胴体、その胴体に巻きつくようにある二本のマジックハンド。そして更に下にあるのは独楽の様な形をした下半身。
サポートボット、その名のとおり人間をサポートする為に作られた非人間型のロボットの総称。
小型の反重力装置を用いて空を飛び、主人となる人間の行動をサポートする。用途はさまざまで、秘書のような仕事をするアシスタントボットや、人間を介護するナースボットなどが存在する。
そしてソレは、メンテナンスボットと呼ばれる存在だった。
メンテナンスボットとは、その名の通り機械の修理やメンテナンスをするボットだ。多数の工具をその体に持ち、場合によってはオプションパーツとして更なる工具や機器を追加する事が出来る。
ソレは目の前にある残骸を見終えると見回す為にカメラを動かす。半ば壊れているため異音を出しながらゆっくりとカメラが旋回する。
周りにあったのは、壊れた機械の山だった。
自分が今居る場所をスクラップ置き場である事をソレは確信した。
壊れた人型ロボットの腕、壊れた多脚戦車の脚、銃身の捻じ曲がったブラスターそして、ソレと同じサポートボットの残骸が多数。サポートボット以外は、どれも砂埃にまみれ赤く錆付き。長年放置されていたであろう事が簡単に想像できる。
そしてソレは、それらスクラップの山の麓に転がっていた。きっと山の上に他のサポートボットと一緒に捨てられ、ここまで転がり落ちたのだろう。
ソレは自分が捨てられた事を確認した。
周囲に人影が居ないことを確認すると、また新たな道具を作動させた。
マジックハンド作動。
ソレは目の前にある自分と同型機の残骸に向かって手を…マジックハンドを伸ばす。だがマジックハンドが届く距離ではない。
ソレの移動装置である反重力装置が壊れていなければ飛んでいけるのだが、あいにくソレのは壊れている。
ソレはマジックハンドを地面に突き刺すとゆっくりと這いはじめた。
時間を掛けズリッズリッとまるで足のないゾンビの様に壊れた同胞に這い寄ると、何を思ったのか、マジックハンドを器用に使い同胞の分解を始めた。
同胞の修理しようと思っているのではない。その逆だ。
サポートボットから丁寧にひとつずつパーツを外し、ソレをしげしげと眺め使えるかどうか判断する。使えないと分かるとぽいっとスクラップの山へ放り捨てる。
使える部品は丁寧に近くに置く。
自らを修理するパーツにする為に。
…ジカンガナイ…。
ソレは機械だというのに焦っていた。
焦っている理由はエネルギーだ。ソレのエネルギー残量は残り少ない。動けて後十時間程度だろう。もしセーフモードにし、活動を停止したら一年は軽く持つが、その選択肢を選ぶ事は出来ない。その選択肢は緩やかな機能停止でしかないからだ。
…アッタ…。
ソレは目的の物を見つけた。ブロックの様な形をしたエネルギーパックだ。幸いにしてエネルギーパックに目立った損傷は見られない。すぐにソレは自分の外装の一部を外し、複数あるバッテリーパックのスロットの内、空になっているバッテリーパックを外し、回収した物と交換する。
バッテリーパックが交換された事により、自身のステータスが更新される。
エネルギーパック2残量32%
とりあえずこれでソレは当分のエネルギーを確保することが出来た。だがそれでもソレのする事は変わらない。エネルギーパックを取ったメンテナンスボットの解体をソレは再開した。
ワープ航法、テラフォーミング技術、長距離航海用宇宙船、次々と開発される新技術によって人類が本格的に宇宙に飛び出して数百年。
新たな資源、新たな技術、そして新たな暦。かつて手を伸ばしても、けして届かなかった宇宙は、人類のニューフロンティアとなった。人々は先を争って宇宙に進出し、その恩恵と苦難を受けながら人生を謳歌、または散っていった。
いわゆる大航宙時代。
地球は効率よく宇宙進出を図る為、連邦政府主導の下、一つになった。
それにより幾多の星がテラフォーミングされ、人類はその版図を広げていた。
だがそれは同時に地球と、その他の星と言う別の区別、別の格差を作るだけだった。
多額の費用を出し、テラフォーミングを進めた地球連邦政府の特権階級の者達は、表向き独立を許したが、その実、殖民惑星からいち早くその利益を得んが為、殖民惑星から得られた物、または地球から送る資源に多額の税を掛け、その利益を搾り取ろうとした。
当然殖民惑星は反発したが、法により独自の軍を持つことを許されない殖民惑星に対し、連邦政府は軍事力に物を言わせ黙らせた。また、殖民惑星間の通信を断ち、殖民惑星同士での連携を取ることを妨害した。
しかし、人間とは弾圧されればされるほど、静かに、狡猾に、爪を研ぐのが世の常。
人々の我慢が限界に達した時とある星が地球に対し宣戦布告した。
地球連邦政府は当初、そんなもの一地方の反乱程度に思い、すぐに鎮圧されると思っていた。しかし、そんな甘い考えはすぐに吹っ飛んだ。
その他の殖民惑星も次々に宣戦布告してきたのだ。
長い戦争の後、地球は、この世界から消滅した。
その戦いは惑星郡独立戦争と呼ばれ、ある星の女王の手によって、地球は消滅したと、すべての星の教科書に記される事になった。
繰り返してはいけない過ちの歴史として。
各惑星は独立を果たし、数百年の時が過ぎた。
何しろソレは生物ではないのだから。
ソレは、復帰すると即座に自分の状態を確認した。
メインシステム正常
サブシステムエラー
メインカメラ一部破損
音声認識システム正常
サブカメラ破損
右マルチ修繕モジュール破損
左マルチ修繕モジュール破損
マジックハンドモジュール正常
反重力装置破損
エネルギーパック1残量5%
エネルギーパック2残量0%
エネルギーパック3残量0%
エネルギーパック4破損
…
次々と上がってくるエラーや破損報告をソレは淡々と処理していく。
そしてソレは自らの体のほとんどの力を失っている事を理解した。状況はソレが想定していた物の中で最悪な部類だった。
だが、ソレは悲観も絶望もしない。ただ自分のすべき事をする。
…イキノビル…。
ソレは自らの中に沸き上がるモノを理解できない。湧き上がっている事すら今は気づいていない。
ただ淡々とその沸き上がるモノに従いソレが出来る最大限の事を行使するのみ。
メインカメラ起動。
壊れかけたソレの目に最初に飛び込んできたのは、真っ暗な闇だった。ソレは時間を確認すると深夜2時。かつて丑三つ時と呼ばれた時間だった。日は落ちてしばらく、夜明けも遠い。
ソレは、幸いにして壊れていなかった暗視装置を起動した。そして自分の目の前にあるものが落ちているのに気がついた。大きさは大体バスケットボールくらい。
それはソレと同じモノの残骸だった。
ひび割れた双眼鏡の様に並んだレンズ、その下にある円柱を横に倒したような胴体、その胴体に巻きつくようにある二本のマジックハンド。そして更に下にあるのは独楽の様な形をした下半身。
サポートボット、その名のとおり人間をサポートする為に作られた非人間型のロボットの総称。
小型の反重力装置を用いて空を飛び、主人となる人間の行動をサポートする。用途はさまざまで、秘書のような仕事をするアシスタントボットや、人間を介護するナースボットなどが存在する。
そしてソレは、メンテナンスボットと呼ばれる存在だった。
メンテナンスボットとは、その名の通り機械の修理やメンテナンスをするボットだ。多数の工具をその体に持ち、場合によってはオプションパーツとして更なる工具や機器を追加する事が出来る。
ソレは目の前にある残骸を見終えると見回す為にカメラを動かす。半ば壊れているため異音を出しながらゆっくりとカメラが旋回する。
周りにあったのは、壊れた機械の山だった。
自分が今居る場所をスクラップ置き場である事をソレは確信した。
壊れた人型ロボットの腕、壊れた多脚戦車の脚、銃身の捻じ曲がったブラスターそして、ソレと同じサポートボットの残骸が多数。サポートボット以外は、どれも砂埃にまみれ赤く錆付き。長年放置されていたであろう事が簡単に想像できる。
そしてソレは、それらスクラップの山の麓に転がっていた。きっと山の上に他のサポートボットと一緒に捨てられ、ここまで転がり落ちたのだろう。
ソレは自分が捨てられた事を確認した。
周囲に人影が居ないことを確認すると、また新たな道具を作動させた。
マジックハンド作動。
ソレは目の前にある自分と同型機の残骸に向かって手を…マジックハンドを伸ばす。だがマジックハンドが届く距離ではない。
ソレの移動装置である反重力装置が壊れていなければ飛んでいけるのだが、あいにくソレのは壊れている。
ソレはマジックハンドを地面に突き刺すとゆっくりと這いはじめた。
時間を掛けズリッズリッとまるで足のないゾンビの様に壊れた同胞に這い寄ると、何を思ったのか、マジックハンドを器用に使い同胞の分解を始めた。
同胞の修理しようと思っているのではない。その逆だ。
サポートボットから丁寧にひとつずつパーツを外し、ソレをしげしげと眺め使えるかどうか判断する。使えないと分かるとぽいっとスクラップの山へ放り捨てる。
使える部品は丁寧に近くに置く。
自らを修理するパーツにする為に。
…ジカンガナイ…。
ソレは機械だというのに焦っていた。
焦っている理由はエネルギーだ。ソレのエネルギー残量は残り少ない。動けて後十時間程度だろう。もしセーフモードにし、活動を停止したら一年は軽く持つが、その選択肢を選ぶ事は出来ない。その選択肢は緩やかな機能停止でしかないからだ。
…アッタ…。
ソレは目的の物を見つけた。ブロックの様な形をしたエネルギーパックだ。幸いにしてエネルギーパックに目立った損傷は見られない。すぐにソレは自分の外装の一部を外し、複数あるバッテリーパックのスロットの内、空になっているバッテリーパックを外し、回収した物と交換する。
バッテリーパックが交換された事により、自身のステータスが更新される。
エネルギーパック2残量32%
とりあえずこれでソレは当分のエネルギーを確保することが出来た。だがそれでもソレのする事は変わらない。エネルギーパックを取ったメンテナンスボットの解体をソレは再開した。
ワープ航法、テラフォーミング技術、長距離航海用宇宙船、次々と開発される新技術によって人類が本格的に宇宙に飛び出して数百年。
新たな資源、新たな技術、そして新たな暦。かつて手を伸ばしても、けして届かなかった宇宙は、人類のニューフロンティアとなった。人々は先を争って宇宙に進出し、その恩恵と苦難を受けながら人生を謳歌、または散っていった。
いわゆる大航宙時代。
地球は効率よく宇宙進出を図る為、連邦政府主導の下、一つになった。
それにより幾多の星がテラフォーミングされ、人類はその版図を広げていた。
だがそれは同時に地球と、その他の星と言う別の区別、別の格差を作るだけだった。
多額の費用を出し、テラフォーミングを進めた地球連邦政府の特権階級の者達は、表向き独立を許したが、その実、殖民惑星からいち早くその利益を得んが為、殖民惑星から得られた物、または地球から送る資源に多額の税を掛け、その利益を搾り取ろうとした。
当然殖民惑星は反発したが、法により独自の軍を持つことを許されない殖民惑星に対し、連邦政府は軍事力に物を言わせ黙らせた。また、殖民惑星間の通信を断ち、殖民惑星同士での連携を取ることを妨害した。
しかし、人間とは弾圧されればされるほど、静かに、狡猾に、爪を研ぐのが世の常。
人々の我慢が限界に達した時とある星が地球に対し宣戦布告した。
地球連邦政府は当初、そんなもの一地方の反乱程度に思い、すぐに鎮圧されると思っていた。しかし、そんな甘い考えはすぐに吹っ飛んだ。
その他の殖民惑星も次々に宣戦布告してきたのだ。
長い戦争の後、地球は、この世界から消滅した。
その戦いは惑星郡独立戦争と呼ばれ、ある星の女王の手によって、地球は消滅したと、すべての星の教科書に記される事になった。
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