スクラップ・サバイブ

止まり木

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第二章

19

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 蓑虫デブリに作業ポットが到着すると、蓑虫デブリにくっ付いているデブリの一部が、まるで生き物の様に動き出し、ポッカリと穴を開けた。
1 作業ポットは、あいた穴の中に入っていく。穴の中は真っ暗で作業ポットについているライトで照らしている部分以外見る事は敵わなかった。
 作業ポットと脱出艇が入ると自動で穴が塞がっていく。完全に塞がると今度は、三重のハッチが次々と閉まる。真っ暗だった部屋の中に赤い回転灯が灯った。
『今、ドックに空気を入れとるでな少し待て』
 しばらくすると、回転灯の光が消え、代わりにドックの中を照らす眩いライトがついた。あたりが見えるようになるとそこは、中型の輸送船が余裕で入る事の出来そうなほど大きなドックだった
「案外凄い場所かもしれないわね。サスケ」
 作業ポット先に進む。ドックの端まで来ると作業ポットの底面からマグネットアンカーが床目掛けて飛び出す。アンカーの先がぴったりと床にくっ付くと、アンカーに付いたワイヤーを巻き取り、ポッドを床へと固定する。それを見習い、脱出艇もその横に止める。
 怪しい老人は、作業ポットから出て、脱出艇の正面に回ってくると。出て来いと言うジェスチャーをした。
(えっ!)
 クレハはプロフェッサーの姿を見て驚いた。プロフェッサーの両手も両足も、作り物だったのだ。白衣の裾やズボンのすそからは、鈍色に光る手足が出選っていた。通信画面では、胸らから上位しか見えなかったので今まで気付いていなかった。
「…行きましょう。今はそれしかないわ」
 シートベルトを外してふわりと浮かび上がると、クレハは客室だった時の出入り口に向かった。今は外の空気が確認できているので、脱出艇のエアロックを使う必要は無い。クローゼットから旅行カバンを取り出して追従モードにして外に出る。
「うっ。クサッ!」
 外に出ると、工業油臭い匂いがプンの臭う。ハーミアが逃走劇を始めた時の自動車修理工場でもここまでの臭いはしなかった。
 臭いを我慢しながらクレハは、宇宙服についている推進装置を使って謎の老人の前まで飛んで行く。サスケもそれに追随する。
 
「ようこそ!我が研究所へ」
 老人の前まで来ると妖しい老人はおどけた態度でそう言った。怪しい姿に相応しい場所だとクレハは思った。
「どうも、それにしても臭いわね…」
「すまんな。気楽な一人暮らしなもんでのう。ここに来るのは、時折来る商人くらいなもんじゃ」
 クレハの抗議を機にした様子も無く振り返ると、ドックの先にある自動ドアに向かう。
「商人が来るの?こんな危険な場所に?」
「この宙域の海賊とて、物を買わねば生きては行けん。海賊御用達の闇商人がおるんじゃよ。そいつは、この宙域では手出しはされん。手を出したらそいつは、この宙域の海賊達から袋叩きじゃ」
「そんななのも居るのね」
「ワシは、ここで研究しながら、デブリとして漂っているジャンクから、パーツを拾ってきて修理して売ったり物々交換しながら暮らしておる」
 プロフェッサーは、ゲートの横についていたバーに掴まるとFloorと書かれた面に足を付けた。すると靴についていたマグネットが起動して足を床へと固定する。クレハも床に足を付けるとプロフェッサーがゲートを開いた。
「ここから重力区画だから注意せい」
 ゲートの先には、薄汚れた通路があった。さまざまな太さの配線が通路の壁面にむき出して置かれてる。電気の節約の為か、明かりは暗く、そのせいでホラーゲームにでも出てきそうな通路だった。
 なれた様子で、ゲートをくぐるプロフェッサー。クレハもそれに続いてゲートの向こうへと一歩を踏み出す。
「うっ」
「大丈夫か?」
 ゲートをくぐった瞬間。自分の身に降りかかった重力にクレハがふらつく。その事を予想していたサスケが後ろから支える。
「大丈夫よ。いきなり重力が戻ってびっくりしただけだから…」
 そう言うと先に歩いていっているプロフェッサーの後へとついて行った。
「そうじゃのう最初は、おぬしらの部屋から案内しよう」
 気味の悪い通路をプロフェッサーはなれた様子で歩いていく。クレハは不審げに、サスケは興味深げに周りを見ながら飛ぶ。通路にはゴンゴンと機械の唸りが響き、不気味さを際立たせている。
「ここじゃ。この部屋を使ってくれ」
 クレハが、案内された部屋は案内された部屋は、窓は無く、壁に端末とベット位しか物が無い殺風景な部屋だった。とは言え、掃除はちゃんとしているのか、埃が積もっているような事は無い。廊下で聞こえていた機械の唸りも、防音がしっかりしたこの部屋では聞こえない。それは、この部屋で寝起きすることになったクレハには嬉しい事だ。とは言え…。
「何も無いわね」
「ワシの研究所をホテルと比べてもらっては困る。元々予備の部屋じゃからの。荷物を置いたら、食堂に案内する。そこで詳しい話をしよう」
 カバンを置くと今度は、食堂へと向かう。
 案内された食堂は、六人用のテーブルが備え付けられた部屋だった。奥にはちゃんとキッチンも用意されていた。だが、テーブルの上には飲み終わったコップや、空き缶、端末がなどが無造作に置かれている為、綺麗だとは言いがたい。独身男性の部屋独特の汚さに内心ウエーとクレハは思った。
「意外としっかりしたつくりだな」
 サスケが以外にも部屋の感想を言った。確かに、部屋の中の様子は汚いが、何かしら機能が壊れている様子は無く、キッチンにある機械は全て正常に動作していた。
「何、その辺に捨てられた中型貨物船から修理して持ってきただけじゃよ。モジュール化されてるから、簡単じゃった。座ってくれ」
 船の種類によっては、大量生産する為に、設備の一部をモジュール化している物がある。それぞれの設備をモジュールとして別の工場で製作し、それをドックで建造している船に取り付け、各種コネクターに接続すれば簡単に設置できる。ブロックおもちゃの要領だ。それにより製作コストのダウンを図っているのだ。

 クレハは進められたテーブルに座る。テーブルには、大小さまざまなシミがあり少々汚い。テーブルの汚れを拭こうとテーブルの端にあった布巾に手を伸ばそうとするが、それはかぴかぴに乾いていた。
「フム。時間も時間じゃし、話は昼飯にしよう」
「えっ!いや…」
 結構ですと言おうとしたが、プロフェッサーはキッチンに行くと、料理を始めた。
 こんな不衛生なところで作られた食事など食べたくは無かったが、止める隙すらなかった。
 仕方が無いのでクレハとサスケは、食堂のテーブルで待つ。その間にテーブルの上で干からびていた布巾を、テーブルのすぐ横に設置されたウォーターディスペンサーで洗い、絞ってとテーブルを拭く。何もしないよりはマシだ。
 しばらくして、料理を持ったプロフェッサーが出てきた。
「ほれ」
 テーブルに置かれたのは、焼いただけのステーキが乗った皿にレタスとトマトが丸のまま入ったボール。それにビニールに包装されたままのパンだった。
「これを料理って言うのは、料理に対しての冒涜だと思うの」
 クレハが、そう呟いている間にもプロフェッサーは椅子に座って、食べ始めた。結構な大きさのステーキにフォークをぶっさすとそのまま持ち上げて齧りつき、丸のままのレタスを一皮向いては口に放りこむ。咀嚼している間にパンのビニールを破いて開け、口の中の物を飲み込むと無造作にパンにかぶりつく。味わうというよりは速度優先で、砕き飲み下していくといった感じだ。優雅さなど欠片も無い。
 数日前にクレハと一緒に食事を取ったロンドモス号の船長と比べるのすらおこがましいほどだ。
 その様子を唖然とした様子で見ていると、視線に気付いたプロフェッサーが顔を上げた
「食わんのか?調味料ならそこにあるじゃろう。好きに使え」
 さすがにクレハも、好意で出されたものを一口も食べずに断ると言うのは、礼儀に反すると思い食事に手を付ける。
 案の定、臭みのある肉の味しかしない。天然の肉なら筋や脂身などにより多少歯ごたえが変わるのだが、均一な質の培養肉なのでそんな物は無い。しかも焼きすぎの為、かなり硬い。今まで自分が食べてきた肉料理がいかに手間暇と技術を掛けて作られていたかが良くわかる酷い出来だった。
 出されたステーキを何とか一口だけ飲み込むと、クレハは、フォークとナイフをハの字ではなく、揃えて皿の上に置いた。出された野菜も千切ったりして食べてみるが、素材でしかないレタスとトマトにパン、それらの味は推して知るべだ。
「おや、もう食べないのかね?最近の子は、食が細くていかん」
「違うわよ。まずいから、もう食べたくないの」
「最近の若者はわがままじゃのう。肉も、野菜も新鮮採りたてなんじゃぞ」
 この研究所では、食料はある程度自作されていた。肉はプラントで培養肉を。野菜は水耕栽培プラントで作られている。両方の施設は、共に元々廃棄された宇宙船に搭載されていたものを研究所へ移設して使用していた。
「あのねぇ。塩も胡椒も掛けないで、ただ焼いた肉と、切りもしないで出した野菜が、おいしい分けないでしょ!せめて、ドレッシング出しなさいよ!これならまだ、非常食の方がおいしいわよ!何。プロフェッサーは原始人なの?サルなの?」
「ううっ最近のお嬢ちゃんは当たりが強いのう」
 クレハの容赦の無い文句にプロフェッサーもたじたじだ。
「…決めた。ここに居る間、私、料理するわ。毎日こんな料理なんて耐えられない」
「作れるのか?」
 珍しく驚きを含んだ声でサスケが言う。サスケは今まで貴族のお嬢様であるクレハが料理をするとは考えてもいなかった。
「まぁね。お父様に作ってあげると喜んでくれたからね。うちの料理長にちょくちょく習ってたの。食事はいいわ。それより取引の詳しい話を聞きたいんだけど?」
「そのメンテナンスボットに外で見た、あの駆逐艦のジェネレーターを修理して欲しいんじゃ」
(やはりか…)
 サスケはその希望を予想していた。
「前にも言ったとおり、ワシの研究は後一歩のところまで来ておる。だが、研究を完成させる最後の実験には大出力を持つジェネレーターが必要なんじゃ。しかし、こんな場所にはそんなジェネレーターがそうそうある訳なくての。それでもデブリ帯を必死に探した結果見つけたのが、あの旧型の駆逐艦じゃった。じゃが、見ての通りボロボロでのう。修理が必要なんじゃ」
「貴方、科学者でしょう?旧型の船って修理できなかったの?」
「そもそもワシは、宇宙船の専門家ではない。簡単な修理は出来ても。ジェネレーターの修理なぞ出来んわい」
 プロフェッサーは肩をすくめた。
「サスケ。貴方アレの修理って出来るの?」
「当然だ。軍艦の修理及び整備が私の本来の職務だ」
 その質問は心外だといった風にサスケは答えた。
「とは言え、損傷の状況と、修理用の部品の有無によっては当然不可能な場合もあるが?」
「それは、こちらも分かっておる。そちらが、修理が不可能と判断したら、その場合もちゃんと安全な場所まで送ってやるわい」
「では早速だが、あの駆逐艦を調査しようと思う。よろしいか?」
 そう言ったサスケのカメラアイがきらりと光ったようにクレハには見えた。
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