スクラップ・サバイブ

止まり木

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第三章

32

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 メインシステム正常
 サブシステムエラー
 …バックアップから復元…完了
 サブシステム正常
 メインカメラ一部破損
 音声認識システム正常
 サブカメラ破損
 右マルチ修繕モジュール正常
 左マルチ修繕モジュール正常
 マジックハンドモジュール正常
 反重力装置破損
 エネルギーパック1残量27%
 エネルギーパック2残量26%
 エネルギーパック3残量33%
 エネルギーパック4残量33%

(前よりはマシだな…)
 起動中のぼんやりとした思考の中、サスケは思った。
 かつてサスケが、あのスクラップ待機場で捨てられた時は、今回の時とは比べ物にならない位ボロボロだった。

 起動完了

 起動が完全に完了するとサスケは、早速情報収集を始めた。
 メインカメラの画像は真っ暗で何も見えない。サブカメラを使おうにも壊れて使用できない。それゆえに視覚情報は得られなかった。
 倒れているのかと思ってマジックハンドを軽く動かそうとするが、やわらかい抵抗がして動かせない。
 今度は音声認識システムは正常にクレハの声がどうしようどうしよう繰り返している事を伝える。
 カメラに映る画像が真っ暗である事、腕が動かない事、クレハの声の聞こえ方から、自身がクレハによって抱きしめられている事に気づいた。そしてどうやらクレハは、座り込んでいる事も。
「クレハどうした?大丈夫か?怪我は無いか?」
「サスケ!起きたの!」
 サスケが再起動したことに気付いたクレハは、腕を前に伸ばしてサスケのメインカメラを覗き込んだ。
 クレハの来ている宇宙服の緊急作動機能が働いたらしく、クレハの被っていたヘルメットの遮蔽バイザーは下がり、クレハ自身の顔は見えない。それでもクレハの必死な様子は十分にサスケには分かった。
 背景からクレハ今、CICから外に出てブリッジに来てい事がサスケには分かった。
「ああ、体のあちこちが破損しているが、修理できないほどの損傷ではない。君は大丈夫か?」
「ちょっと体のいろんな所がぶつけたせいか痛いけど、それ以外は大丈夫よ」
「そうか、状況はどうなっている?ここはどこだ?」
「分からないわよ!でも、あいつらの船がこの船を囲んでいるの!」
「どういう事だ?」
「どうもこうも言ったままよ!ほら!」
 クレハはそう言うと、サスケを頭上へと掲げた。そうする事により丁度サスケのメインカメラが窓の高さになって外が見えるようになった。
 艦内は無常力だったが、靴のマグネットを起動しているので飛び上がる事は無い。
「あれは…。そうか…」
 外は、相変わらずトルーデ軍のマークを付けた多数の軍艦に囲まれていた。しかし、何故かサスケは、慌てる事無く、逆に安堵した様子だった。
「ほら!あいつらに囲まれちゃってるのよ!これからどうするの!?」
「落ち着け、あれは私達を追ってきた連中じゃない。ちょっとこのまま私を持っていてくれ」
 そう言うと、サスケは、自身のボディにあるライトを点滅させ始めた。
「何やってるの?」
「発光信号でデア・ルーラーを囲んでいる艦に救助を要請している」
 発光信号とは、宇宙船の通信装置が故障などして使えない時に他の艦と通信を取る為の手段だ。これは人類が地球上で争っていた時からある、古い古い通信方法だ。今では殆ど使われることは無いが、宇宙船乗り達の必修となっている。
「本当に大丈夫なの?」
「多分な」
 サスケが同じ内容の発光を三度送ると、デア・ルーラーの正面にいる軍艦から発光信号が返信された。
「ねぇなんて言ってるの?」
 何時撃たれるか分からないと思っているクレハは、気が気ではない。
 その信号を解読したサスケは、クレハを安心させる様に言った。
「救助を送ってくれるそうだ。武装解除の上、その場にて待機せよと、言っている」
「そうなの」
 クレハは膝立ちになって、恐る恐ると窓から外を覗いた。
(えっ?)
 そこでクレハはある事に気がついた。
(ボロボロ?)
 デア・ルーラーを取り囲んでいるトルーデ軍の艦隊の全てがかなり損傷しているのを。砲塔の一部が掛けているのは当たり前で、ある物は艦首そのものが融解している。中には、現在進行形で煙を上げている艦もあった。

 そして何よりおかしいのは、ボロボロではあるがデア・ルーラーと同じ姿をした艦がたくさん存在していたのだ。
 クレハの乗っているデア・ルーラーは、独立戦争時代に作られた骨董品だ。その殆どは存在しない。残っているのは意図的に残されたものか、デア・ルーラーの様に戦時中に廃棄され、宇宙空間に宛ても無く漂っていた艦くらいだろう。
 その艦がなぜか見える範囲に6隻。他にも、クレハが父親に見せられた図鑑や、歴史映画でしか見た事の無い旧式の艦艇が並んでいる。
 それにより、クレハはイヤでも気付いた。
「嘘。タイムスリップしたの?本当に?」
「本当だ。この時代にクレハを追う人間はいない」
 丁度その時、サスケの発光信号に返答した艦からランチが発進しするのが見えた。ランチはスルスルとデア・ルーラーに横付けした。

 現在デア・ルーラーは、タイムスリップとその前の戦闘の影響で全機能を停止している。その為、扉一つ開けるのも大変なのだ。救助が来るのはまだ時間が掛りそうだった。
「クレハ。今の内に言っておく。これから来るのはトルーデ軍だ。しかし、我々の敵ではない。だから反抗的な態度はあまり取らないでくれ」
「…あの人達、私に酷い事しない?私ってこの時代じゃ戸籍も無い不審者だよ?掴まって拷問とか…」
 怯えた様子で聞くクレハだが、サスケは何時もと変わらない声音で答えた。
「それは大丈夫だ。私に考えがある」 
 トルーデ軍の人間に何を話すかの打ち合わせをしていると、何者かが壁を蹴る音と、カチャカチャと何かが、軽くぶつかるような音が聞こえてきた。
「…来たようだな。くれぐれも軽挙妄動は謹んでくれよ」
「善処するわ」
 救助に来たトルーデ兵士は、扉の横で止まるとそこから中へと声を掛けた。これは、罠を警戒してのことだ。戦時中は、廃棄された艦に罠を仕掛けて救助を呼び、救助が来たところで罠を発動させ、艦諸共大爆発するという事が起きていたのだ。
「救助に来たぞ!武装を解除して両手を見える位置に上げろ!」
 扉の影から、細長い管の様な物が現れた。これは頭を出さずに部屋の中を確認する為の特殊カメラだ。そのカメラが映した映像が兵士達の被っているヘルメットのシールドに映っている。
「最初から武器なんて持ってないわ。ここにいるのは私とメンテナンスボットのサスケだけよ」
 クレハは、サスケを抱えたまま答えた。
 その返答を確認すると、銃を構えた兵士達がマグネットブーツを使用して床を歩き入ってきた。入ってきた兵士は4人。四人は息のあった動作で室内の安全を確認する。その後に、拳銃を構えたヘルメットに赤いラインの入った指揮官と思われる兵士が入ってきた。
 兵士達は、装甲宇宙服と呼ばれる、ふつうの宇宙服に防弾用のアーマーを追加したものを装備していた。
 全員ヘルメットのシールドを下ろしているので顔は見えない。
 そして、その指揮官は、クレハに銃を向けたまま聞いた。
「銃を向けたまま失礼する。私は、トルーデ軍所属のカイルマン大尉だ。貴方の名前と所属を教えて欲しい」
「クレハ・クロードロン。トルーデ王国の一般人よ」
「我が国だと?しかも一般人なんでこんな所にいる!?それにクロードロン?」
 この場は、主戦場から離れている場所だとしても戦場には変わりが無い。そんな所に一般人が駆逐艦に乗って突然現れるなんてありえない。カイルマン大尉が警戒するのも当たり前だろう。
「それについては、色々複雑な問題があるのだ」
 混乱するカイルマン大尉に、サスケが言った。
「何だそれは?メンテナンスボットか?」
「その通り私は、トルーデ宇宙軍所属 暁重工社製メンテナンスボット KMB-06認識番号M02457894GF」
「馬鹿な。KMB-06は流暢に喋れないはずだ!」
 カイルマン大尉が思わず叫ぶと、周りに居た兵士達が、サスケに向かってライフルを向た。
「ひっ!」
 思わずクレハの体がびくりと震える。
「…よせ。驚かせてすまない。人と変わらない話し方をするKMB-06を見た事が無くてな」
 落ち着きを取り戻したカイルマン大尉が部下に銃を下ろさせた。
「いや、私の存在が怪しい事は十分に承知している」
「一つ確認する。君は、外部からKMB-06を操作しているのか?」
「いや、私は、私だ。私は、誰の操作も受けては居ない」
「信じられんな…。では、その色々複雑な問題とやらを簡単にでいいから、ここで話してくれるか?」
「その前にジェネレータールームにも我々の仲間の老人が居るはずだ。その老人の救助をお願いする」
「分かった。別働隊に頼む」
 カイルマン大尉が、ヘルメットに手を当てると声が途絶えた。外部音声を切って仲間に通信を送っているのだ。
「今、別働隊を送った。それで話してくれ」
 通信が終わると再び外部音声をONにして、クレハに話しかけた。
「了解した。クレハ、ヘルメットを取ってくれ」
「えっ?今?」
「今だ。問題ない。艦内には十分空気はある」
 クレハは自身の前にサスケを浮かべると、自身のヘルメットを脱いだ。
 ヘルメットを脱いだ拍子に、髪を纏めていた髪留めがはずれ、クレハの長い髪の毛が広がった。それを手で押さえて、兵士達の方を見た。
「!?」
 その瞬間、兵士達の空気が変わった。
「えっ?」
 劇的な変化の為、クレハの方が戸惑う。
「あの…どうかしました?私の顔に何か付いてますか?」
 その瞬間、カイルマン大尉が、驚いたかのように拳銃を下ろし、大急ぎでホルスターへと戻した。他の隊員達もなぜか背筋を伸ばしてライフルを下ろしている。
「しっ失礼!少々お待ちいただけますか?今、本部と相談いたしますので!」
「はぁ。はい」
 クレハは、そう言うしかなかった。

 再び外部音声を切って、カイルマン大尉は、母艦である戦艦ロック・ガランドと通信に入る。
「おい!HQ!見ていたよな!どうすればいい?」
 今までの冷静な声とは違い、カイルマン大尉の声は完全に困惑していた。
『状況は貴君のカメラから確認している。今、艦長に知らせて、判断を仰いでいる』
 カイルマン大尉の部隊をサポートするオペレーターも冷静を装っているが、その声は若干上ずっている。それだけの衝撃がクレハの顔にはあった。
「俺、彼女に銃を突きつけちまったぞ!どうなる!?銃殺か?」
『落ち着け。彼女が…に関係あるかまだ分からないんだぞ』
「馬鹿野郎!あのか…ご尊顔をお前も見ただろ!」
 こうやって話し合っている間もカイルマン大尉はチラチラとクレハの顔を見る。
「そっくりだクリソツだ。関係あるだろ!」
『艦に乗りこむ為に整形した可能性もある』
「だったら最初に陛下の関係者を名乗ったはずだ。けどあの子は、一般人だと名乗ったぞ」
『とは言え、俺達に判断は出来ん。艦長からの返答を…。返答が今来た』
「艦長は何だって?」
『失礼にならない程度に周りを固めて、艦にお連れしろとの事だ。あと、つれて来る時は、ヘルメットを被りシールドも下げさてくれ。これは、彼女の顔を見る人間を少なくするためだ』
「当然だな。タダでさえ今は忙しいんだ。彼女が顔を晒したまま艦内を歩いたら大混乱だ」
『分かったなら命令を実行しろ』
「了解。要救助者をロック・ガランドまで、顔をクルーに見られないように護送する。アウト」
 カイルマン大尉は、クレハの方を向くと、自らの母艦であるロック・ガランドに連れて行くことを伝えた。
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