スクラップ・サバイブ

止まり木

文字の大きさ
38 / 41
第三章

37

しおりを挟む
「DNA検査の報告に参りました」
 報告に来た兵士は、チラチラとクレハの背中を見ながら声を上げる。
『ふん。化けの皮が剥がれる瞬間が来たぞ小娘』
 クレハは、それを取り澄ました態度でそれをスルーする。そもそもクレハ自身は、自分が女王モミジの子孫であるとは、一言も言ってない。
「はい。提出された血液からDNAを採取し検査した結果…結果」
『なんだ。早く言いたまえっ!』
「…モミジ陛下の子孫である可能性が高い事が判明しました!」
 その報告に、一同は大きく息を飲んだ。ありえないと思っていた結果がありえてしまったのだ。一気に周囲が騒がしくなる。
『なっ間違いないのか?』
「はい。この艦のコンピュータがハッキングされている可能性を考え、他の艦に検体を持ち込み、そちらの方でも調査しましたが、まったく同じ結果が出ましたので、間違いないかと…」
『馬鹿な!では…ではぁ!』
 クレハを偽者だと決め付けていた男が震え上がる。王族を侮辱し、あまつさえ偽者呼ばわりしたのだ。時と場合によっては死刑すらありえる。
「それと…この艦隊にもう一方血縁関係がある方がおりました」
『何!もう一人居るだと!?』
「はい。クロードロン艦長です」
 驚愕の面持ちで艦長達全員が一斉にブルーノ艦長を見る。
「ううむ」
 当の本人は、先ほど言った冗談が事実だった事に困惑した様子。
「落ち着きなさい!私の事は置いておいて、彼女が陛下の子孫で、尚且つ未来人である事が分かった。という事は、現在陛下は、ウィリアム公によるクーデターが発生し、ロイヤルオブリージュから脱出しているという事になる」
『!陛下をお助けせねば!』
『そうだが、俺にはウィリアム公がクーデターを起すとは思えん!?』
「では今から、ウィリアム公がクーデターを起した証拠を見せよう」
 サスケは、さも当然のように言った。
『あるのなら何故最初から見せないっ!』
「あの時点で、見せたとしても信じないだろうと思ったからだ。捏造だといわれてね」
『くっ!だが、貴様が何故そんな物を持っている!?』
「諸君らの中に兵士達の間で噂になっているボットを知っている者はいるか?」
『噂?ああ、配属された艦は必ず沈む。死神ボットがあるという話は聴いた事があるな。ソレがどうかしたか?』
「それが私だ。終戦間際…私は何処の艦にも受領を拒否され、浮いたメンテナンスボットだった。だが、陛下もどこかで私の噂を聞いたのだろう。戯れで旗艦であるロイヤル・オブリージュへと私を引き取ってくれたのだ。今から見せるのは、ロイヤル・オブリージュへと配属された私が陛下と謁見した時の映像だ。クレハ。君も良く見るんだ」
「うっうん」
 サスケは会議室の壁に据え付けられた大型モニターにアクセスして動画を再生した。

 それは、戦場に不似合いな、きらびやかな装飾をつけた軍服の兵士に連れられ、真っ直ぐに廊下を進んでいく様子から始まった。
 きらびやかな装飾をつけた軍服の兵士は、女王を守る事を使命とする近衛兵だ。
 近衛兵の後をついていくと、扉の前に近衛兵が二人立っている部屋へと、たどり着いた。
 部屋の前に立つ近衛兵は、カメラの…サスケの方を見て困ったお方だと苦笑して扉を開けた。
 扉の先には、艦内としては大きな執務室があった。
 床には、赤い絨毯が敷かれており、艦には不似合いな観葉植物まで置かれている。
『陛下!ご要望のメンテナンスボットを連れてまいりました!』
『ご苦労様。こんにちは。噂のKMB-06君』
 机でなにやら作業をしていた軍服の女性。女王モミジは顔を上げるとサスケに笑顔を向けて言った。

 ここで初めてクレハは、後に悪逆女王という悪名を着せられる女王モミジの顔を見た。
(これが、女王モミジ…。後に悪逆女王と呼ばれる人)
 クレハが、順調に年齢を重ね、幼さが抜けて大人の女性になれば、こんな顔になるだろうと思える顔だった。
 そして、写真でしか知らないクレハの母親の面影が重なる。
 クレハの母は、自身が写真や動画に姿を映すのを極端に嫌っていたそうだ。クレハが知っているのは、父親であるゼドと結婚した時の写真だけだった。
(そして私のご先祖様…)
 クレハの中に嫌悪感は一切湧かなかった。

『認識番号M02457894GFで間違いないわね?』
『当機ノ認識番号ガM02457894GFデアル事ニ間違イアリマセン』
『陛下このようなお戯れは、お止めください。このボットは将兵の間で不吉なものとして有名です。御身に何かあったらどうするのですか?』
 サスケをこの場へと連れてきた近衛兵が言う。それは心から女王モミジを心配した声だった。
『この子は、我らトルーデ軍に奉仕し、何度も母艦を撃沈されボロボロになっても戦い続けた英雄の一人よ』
『ですが、これは不吉です』
『不吉?たかが一機のメンテナンスボットが持ってくる不吉如きでこのロイヤルオブリージュが沈むとでも言うの?それにもはや勝敗は決しています。何も問題はありませんよ』
『しかしっ!この艦の将兵が不安がり、士気が落ちる可能性が!』
『その程度で落ちる程度の士気なら、私自ら尻を蹴っ飛ばしてあげるわ。なら、こうしましょう。彼を配属した艦が沈むというのなら、私の直属としましょう。KMB-06認識番号M02457894GF、現時刻を持って私の直属となりなさい!』
『陛下ヨリノ命令ヲ受諾。現時刻ヲ持ッテ当機ハ、陛下直属トナリマス』
 売り言葉に買い言葉であったのだろう。女王モミジの突然の行動に近衛兵が驚く。
『陛下!何をなさっているのですか!』
 近衛兵と言い合いをしていると執務室に警報が響いた。
 女王モミジはすぐにブリッジへコールする。すると空間ディスプレイが立ち上がり、そこにブリッジの通信士の姿が映った。
 この執務室では当時最新鋭の設備であった空間投影ディスプレイが設置されていた。
『何事!ブリッジ何があったの!この警報は何!?』
『鹵獲した我が軍のスピリットインテェリゥムが発射された模様です!』
 ブリッジも突然の事で混乱しているのだろう。常に冷静でなければならない通信士も動揺しているのが見て取れた。
『何ですって!誰がそんな命令を…』
 通信画面が乱れ、ブリッジとの通信が途切れる。そして別の人間が現れた。
『私ですよ。陛下』
 現れたのは金髪碧眼の男だった。名をウィリアムといい、女王モミジの弟であり、信頼できる部下であるはずだった。
 アジア系の顔つきをしている女王モミジとは、似ても似つかないが、彼はれっきとした女王モミジの弟だった。ただ父親が欧米系、母親がアジア系
この時代、両親が別人種なんて事は良くある事だったので、姉弟で容姿が別人種なんて事も普通にあった。
『ウィリアム!お前か!何故スピリットインテェリゥムを撃った!何処に撃った!』
『地球です。あの星は、地球連邦の傲慢の象徴です。撃ち砕かねば未来への禍根となりましょう』
『馬鹿な!母なる星を砕くなぞ他の星が認めない!どう取り繕うつもりだ!』
『もちろん罪は償います。償うのは私ではありませんがね』
『何!』
『陛下は、他の独立軍から無断でスピリットインテェリゥムを発射命令。私は、それを止める為に陛下を拘束しようとするが、時既に遅く、発射されてしまった。その後、軍の私的利用と地球破壊などと言う人類史上例を見ない大罪を犯した陛下を処刑する。後は王位を継ぎ、トルーデ王国を導く。そういうシナリオです』
『ウィリアム公!何故!』
 近衛兵が思わず叫ぶ。
『姉上がいけないのですよ。王政から民主主義国家への移行などという戯言を言うから…。でなければ私の首を差し出したものを…』
 その時、執務室にズゥンという衝撃が走った。
『今私の兵達が参りますので、しばしお待ちを…では失礼』
 そういうとウィリアムは通信を切った。
『陛下!お逃げ下さい!現在この艦ではクーデターが発生しております!この部屋に向けて進行中!』
 ウィリアムとの会話の最中に仲間から情報収拾をしていた近衛兵は叫んだ。
『そんなに王政が大事だって言うの?あんたは、こんな重責を子孫に押し付けるつもりなのウィリアム』
 通信が切れたままの空間ディスプレイを見つめた女王モミジはブルブルと体を震わせる。
『陛下っ!』
 近衛兵の声とズゥンと言うさっきより近くより聞こえた衝撃により、女王モミジは、我を取り戻す。

『くっ!来なさいKMB-06!この艦から脱出するわ!』
 女王モミジは、サスケを呼び寄せると、自らの膝の上に置く。そして、デスクに隠されたボタンを押した。
 それは、執務室からの緊急脱出用のボタンだ。
 女王の座っていた椅子が、椅子の下に作られた隠し通路に入ったところで動画は止った。


「この後、陛下は、脱出艇に乗りロイヤル・オブリージュを脱出した。…現在の時間からして1日ほど前だ」
「艦隊の司令部の混乱と一致するな」
『一大事だ!』
『陛下をお助けしなければ!』
『ウィリアム公!そんな馬鹿な!』
『だが、どうする。今の我々の艦では、動く事すらままならんぞ!』
『他の艦隊に知らせたとしても、信じてもらえないでしょうね』
 艦長たちは、これからどうすべきか話し合う。
 クレハは、成り行きを眺めるしかない。
 その様子を見ていたサスケは、酷く冷たい声で言う。
「諸君は、ぺらぺらとこれからの歴史を彼女が喋るのを何故、私が止めなかったと思う?タイムパラドックスが起きる可能性があるのに?」
 その場に居た人間の動きがピタリと止る。
『それは、確かに…』
「何故ならば、私知っているからだ。言っても何の問題も無いと」
「ほう。それは興味深い。何故我々に言っても何の問題も無いのかね?」
「あっ!」
 その時、ある事を思い出した、クレハが思わず声を上げた。
「この艦隊は、忽然と姿を消し、以後歴史から一切表舞台に姿を現す事はなくなるからだ」
『はっ。何を馬鹿な事を』
 一笑に付そうとするが、サスケは続ける。
「では、後世で作られた、報告書を見てもらおう」
 サスケは大型スクリーンにある画像を表示した。
 それは、トルーデ軍のある艦隊が忽然と姿を消した謎におもしろおかしく迫る番組内で表示された行方不明になった艦隊に関するトルーデ軍の報告書だ。その報告書の中にある行方不明の艦のリストが表示された。
『まさが!』
『俺の艦が!』
 その表示されたリストの中に、自分の艦の名前がある事に、その艦の艦長達がざわめく。
「何故我々が行方不明になったいるのだ?」
「ブルーノ艦長。私の認識番号を本部へと問い合わせたか?」
 ブルーノ艦長の問いに答えずサスケは逆に問い返した。
「ん?ああ、当然だ。それが、どうかしたか?」
「陛下は、過去の私と逃げた。当然過去の私と現在の私の認識番号は同じだ。そして奴らは、女王陛下が私と一緒に逃げている事を知っている」
 そこで、ブルーノ艦長はサスケが何を言いたいのか理解した。
「まさか!君は!」
「悪いが、陛下を逃がす為に、この艦隊を囮にさせてもらった」
 サスケの冷徹な声が会議室に響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...