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第十四話 難しい問題
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田んぼを後にしたアオキ達一向は山ン本の屋敷にたどり着いた。だが、泥田坊達とかなり長話をしていた為、もう日が傾いていた。
屋敷はシンとしており、たまにターンと言う音が屋敷の奥から響いていた。
開かれた玄関に入ると、マロ爺が呼びかけた。
「お~い、誰かおらぬか!」
「は~い」
甲高い声の返事がするとトトト!と軽い足音と一緒に一つ目小僧が玄関に置かれていた衝立の向こうから姿を現した。
一つ目小僧は、マロ爺の後ろに立っているサナリエンにビクッとなったものの、彼女があまり自分に怖がっていない事が分かると安心したようにマロ爺の前に立った。
「これは、マロ爺様。今日は一体何の御用でしょうか?」
「ああ、ちょっと山ン本に様があってな。おるか?」
「旦那様は現在弓道場にて、鍛錬を行っております。お呼びしましょうか?」
「いやいや、それには及ばん。なら、ワシらが見学がてら、弓道場に行くとしようかのう」
「では、ご案内します」
一つ目小僧が、自分の下駄を履いて玄関を出る。それについて行く途中でマロ爺にサナリエンが質問した。
「キュウドウジョウって何?」
「弓の練習をする専用の場所じゃよ」
「弓の練習をするのに専用の場所なんているの?」
サナリエンにとって弓の練習場所は、開けた場所があれば良く。専用の練習場が必要とは思えなかった。
「実戦の弓とは違うからのう。いわば様式美じゃ」
「実戦では無い弓なんて価値があるの?」
「まぁ長いこと、(弓を使った)戦が無かったからのう。何というか、自己鍛錬の一つとして残ったんじゃ」
「ふ~ん。じゃあ大したこと無いわね」
大事な事をぼかして言ったが、サナリエンは気にした様子は無かった。
弓道場につくと、そこには2メートルを越える大弓を引いている山ン本が立っていた。あまりの真剣な雰囲気にサナリエンは息を呑んだ。
きりきりと引き絞っていた弓が、最大にまで、引かれた時、自然と手は矢から離れ、弦の戻る勢いに押されて、放たれた。
ダンッ!
放たれた矢は、見事に遠く離れた白と黒で塗られた的の中心に当たった。
しばらく残身していた山ン本は、ふっと体を楽にすると、アオキ達のほうを向いた。一つ目小僧は手ぬぐいを取り出すと山ン本に差し出す。それを受け取り、額に流れる汗を拭いながら言った。
「何の御用ですか?おや、エルフさんではないですか。着替えたようですね。良くお似合いですよ」
「おっお前は!何を企んでいる!」
サナリエンは、山ン本にほめらるとは思ってはいなかった。逆に嫌味の一つでも言われるものだと思っていた。だから思わず、疑いの言葉が出た。
「心外ですね。私は、綺麗なものを私情で汚いと言うほど狭量ではないつもりですよ」
「彼女の生活物資を買った。その報告に来た」
「そうですか。報告ご苦労さま。領収書は、一つ目小僧に渡して置いてください。後で確認しておきます」
エルフであるサナリエンは、やはり気になるのかチラッチラッと山ン本の手にした大きな弓を盗み見る。
「…大きな弓ね」
「ああ、エルフは優れた弓使いと聞いた事がありますね。持ってみますか?」
その様子が面白かったのか、山ン本が弓を差し出した。
「いいのか!?」
サナリエンの顔がパッと輝いた。
「構いませんよ」
サナリエンは差し出された弓を受け取ると、しげしげと観察した。
(私達が使っている弓とは、かなり違うな)
山ン本が使っていた和弓…正確に呼ぶなら弓胎弓(ひごゆみ)…は、サナリエンの知っている弓とは、かなり形が違っていた。サナリエンが使っていた弓は、上下の形が対象で、大体弓の真ん中あたりを持って矢を射るのに対し、和弓は上部が長く、下部は逆に短い、弓の全長の下三分の一の場所に持ち手があった。
(良くコレで、真っ直ぐ矢が飛ぶものね)
今度は、見よう見まねではあるが弓を構えて引いてみる。
麦藁帽子に白いワンピースを着たエルフの少女が、和弓を構えるという、ちょっと訳の分からない光景が繰り広げられる。マロ爺は、その様子を嬉々として、またスマートフォンを取り出して撮影する。呉服屋で起きた悲劇に、まったく懲りていなかった。だがサナリエンはそれに気付かない。
(強い弓ね。私でも全部引ききれないなんて…。見たことも無い木も使われているし…。しかもさっき的を射た音からするとかなり威力があるわね。それにしても大きな弓ね。…コレでは森の中では使えないわ)
サナリエンは胸当てをしてないので、引いた弦を離すという無謀な事はせず、ゆっくりと元に戻す。
「ありがとう。興味深かったわ」
「いえいえ、見事な姿でしたよ」
山ン本は、和弓を受け取ると、ずらりと弓が並ぶ弓置き場に使っていた弓を立てかけた。ふと空を見上げると、空はもう赤く染まり、日が完全に沈むのも時間の問題となっていた。
「…ふむ。今日は、もう遅いことですし、どうです?うちで夕飯を食べていくというのは?」
「ええのう。ではご相伴に預かるとするかのう。それでええか?サナリエンちゃん、アオキ?」
「…いいわよ」
「かまわない」
サナリエンは少し考えた後に、アオキは直ぐに答えた。
アオキ達は、山ン本の屋敷で夕食をご馳走になった。メニューは、ヤマメの塩焼きにサトイモと山菜の煮物、舞茸のはいった味噌汁、それにご飯だ。
夕食もひと段落した頃、お茶をすすっていたマロ爺がサナリエンに聞いた。
「さて、今日一日、ワシらの里を回ってみてどうじゃった?」
ここで飲んでから、お気に入りになったお茶を啜っていたサナリエンは、ゆっくりと湯飲みを膳に置いて答えた。
「ここは、本当に変な場所ね。私に理解出来る物が殆ど無い」
「ほほ。そうか。それで一つ聞きたいんじゃが…。もし我々が、このままこの地に住み続けたらエルフ達はどう思うかの?」
「…よくは思わないでしょう」
エルフの掟では、侵入者は即刻、追い出すか、排除するとなっている。だが、今その事を馬鹿正直に話しても自分の身が危険になるだけ。それでも、よくしてくれたマロ爺には、嘘は付きたくない。その思いが、そう答えさせた。
「まぁ。当然でしょうね。自分達の縄張りに、良くわからない連中が引っ越してきたら不快にも思いますよ。とは言え我々も、はい、そうですかと言って出て行くわけにも行きませんがね。…最悪戦になるでしょう」
山ン本が言っている事も、もっともだった。もしコレが、身一つで放り出されていたら旅に出るなりしても良かっただろう。だが、里事、つまり財産ごと飛ばされ、しかもその財産の移動が不可となれば、どうしようもない。幸い、住人達も居るので戦力はある。いざとなれば、この場所をエルフから奪い取る事すら想定している。
「じゃが、我々もそれは本望ではない。どうにか、繋ぎを取ってもらえないかのう?」
「それは…」
サナリエンはそれを聞いて、うつむいた。
暗に、エルフからこの森に住む権利を認めさせる手伝いをしてくれという事だ。それは、仲間のエルフに裏切り者と呼ばれても不思議ではない事だった。村長の娘として、誇り高いエルフとなるべく育てられたサナリエンにとって到底受け入れられることでは無い。だが、同時に目の前に居る者達が(気に食わないものが若干一名居るが)別段悪いモノだとは思えなかった。
「まぁ。難しい問題じゃからな。今答えを貰おうとは思っておらんよ。幸い時間は多少はある。その時まで考えておいて欲しいんじゃ」
「それに、あなたがどのような答えを出しても、私達が貴方に危害を加えないで、ちゃんと送ることを、この里の長として確約しておきましょう。わが身かわいさで協力すると答えられて、開放してからからひっくり返されても迷惑ですからね」
「私は、心にも無いことを約束するほど、落ちぶれてはいないわ!馬鹿にしないで!」
「それは失礼しました」
山ン本は、慇懃無礼に謝った。
「結界が解かれるまで、あと五日はあります。その間に考えて置いてください」
「ねぇ。貴方はどう思っているの?」
山ン本の屋敷からの帰り道、ちょうちんを持って隣を歩いているアオキにサナリエンは、気まぐれに尋ねた。
今日もゲココゲココとカエルがうるさいほどに鳴いているが、不思議とサナリエンの声は、はっきりと聞こえた。
アオキが持っているのは、ちょうちんお化けではないので今日は正真正銘二人きりだ。その事にサナリエンは妙にドキドキしていた。
「…戦は好きではない。だが、だからと言って無抵抗になるつもりは無い」
アオキにとってこの里は絶対に守るべきものだ。故郷から遠く離れ、流れ着いたアオキをこの里は暖かく迎えてくれた。それから多くの時間が流れ、友人も沢山出来た。破壊することしか出来ないと思っていた自分に作る喜びを教えてもらった。その里を、破壊される事など絶対に認められない事だ。だから戦う。
「だが、願わくば、良き隣人として君達と付き合って行きたいと思っている。それに…」
「何よ」
「君はいい奴だ。出来れば戦いたくない」
「ぷっ!なにそれ。私は、貴方を問答無用で襲ったのよ?」
「この里に来る前は、良く問答無用で襲われるなんて、何時もの事だった。だから気にしてない。襲ってきた奴と仲良くなった事もある。それに君は、泥田坊の質問に丁寧に答えてくれた」
「あら、嘘をついてるかもしれないわよ?」
人から信じてもらえるというのは、存外嬉しいのか、いたずらっぽく微笑みながら言った。
「誇り高いエルフが嘘をつくのか?」
ふっと笑いながらアオキは答えた。
「あら、私を信用してくれるの?」
「ああ」
その一言は、真っ直ぐだった。
それに対し、サナリエンは真顔に戻り、アオキを真っ直ぐ見返して言った。
「でも私は、貴方達を信用してない。だって何も知らないもの」
一刀両断だった。
だが、そんなサナリエンを見ても、アオキの調子は変わらず、今度は微笑みながら言った。
「なら、これから知ってくれ」
二人は、それからジャリジャリと地面を踏みしめながら家へと月明かりに照らされながら歩いていった。
屋敷はシンとしており、たまにターンと言う音が屋敷の奥から響いていた。
開かれた玄関に入ると、マロ爺が呼びかけた。
「お~い、誰かおらぬか!」
「は~い」
甲高い声の返事がするとトトト!と軽い足音と一緒に一つ目小僧が玄関に置かれていた衝立の向こうから姿を現した。
一つ目小僧は、マロ爺の後ろに立っているサナリエンにビクッとなったものの、彼女があまり自分に怖がっていない事が分かると安心したようにマロ爺の前に立った。
「これは、マロ爺様。今日は一体何の御用でしょうか?」
「ああ、ちょっと山ン本に様があってな。おるか?」
「旦那様は現在弓道場にて、鍛錬を行っております。お呼びしましょうか?」
「いやいや、それには及ばん。なら、ワシらが見学がてら、弓道場に行くとしようかのう」
「では、ご案内します」
一つ目小僧が、自分の下駄を履いて玄関を出る。それについて行く途中でマロ爺にサナリエンが質問した。
「キュウドウジョウって何?」
「弓の練習をする専用の場所じゃよ」
「弓の練習をするのに専用の場所なんているの?」
サナリエンにとって弓の練習場所は、開けた場所があれば良く。専用の練習場が必要とは思えなかった。
「実戦の弓とは違うからのう。いわば様式美じゃ」
「実戦では無い弓なんて価値があるの?」
「まぁ長いこと、(弓を使った)戦が無かったからのう。何というか、自己鍛錬の一つとして残ったんじゃ」
「ふ~ん。じゃあ大したこと無いわね」
大事な事をぼかして言ったが、サナリエンは気にした様子は無かった。
弓道場につくと、そこには2メートルを越える大弓を引いている山ン本が立っていた。あまりの真剣な雰囲気にサナリエンは息を呑んだ。
きりきりと引き絞っていた弓が、最大にまで、引かれた時、自然と手は矢から離れ、弦の戻る勢いに押されて、放たれた。
ダンッ!
放たれた矢は、見事に遠く離れた白と黒で塗られた的の中心に当たった。
しばらく残身していた山ン本は、ふっと体を楽にすると、アオキ達のほうを向いた。一つ目小僧は手ぬぐいを取り出すと山ン本に差し出す。それを受け取り、額に流れる汗を拭いながら言った。
「何の御用ですか?おや、エルフさんではないですか。着替えたようですね。良くお似合いですよ」
「おっお前は!何を企んでいる!」
サナリエンは、山ン本にほめらるとは思ってはいなかった。逆に嫌味の一つでも言われるものだと思っていた。だから思わず、疑いの言葉が出た。
「心外ですね。私は、綺麗なものを私情で汚いと言うほど狭量ではないつもりですよ」
「彼女の生活物資を買った。その報告に来た」
「そうですか。報告ご苦労さま。領収書は、一つ目小僧に渡して置いてください。後で確認しておきます」
エルフであるサナリエンは、やはり気になるのかチラッチラッと山ン本の手にした大きな弓を盗み見る。
「…大きな弓ね」
「ああ、エルフは優れた弓使いと聞いた事がありますね。持ってみますか?」
その様子が面白かったのか、山ン本が弓を差し出した。
「いいのか!?」
サナリエンの顔がパッと輝いた。
「構いませんよ」
サナリエンは差し出された弓を受け取ると、しげしげと観察した。
(私達が使っている弓とは、かなり違うな)
山ン本が使っていた和弓…正確に呼ぶなら弓胎弓(ひごゆみ)…は、サナリエンの知っている弓とは、かなり形が違っていた。サナリエンが使っていた弓は、上下の形が対象で、大体弓の真ん中あたりを持って矢を射るのに対し、和弓は上部が長く、下部は逆に短い、弓の全長の下三分の一の場所に持ち手があった。
(良くコレで、真っ直ぐ矢が飛ぶものね)
今度は、見よう見まねではあるが弓を構えて引いてみる。
麦藁帽子に白いワンピースを着たエルフの少女が、和弓を構えるという、ちょっと訳の分からない光景が繰り広げられる。マロ爺は、その様子を嬉々として、またスマートフォンを取り出して撮影する。呉服屋で起きた悲劇に、まったく懲りていなかった。だがサナリエンはそれに気付かない。
(強い弓ね。私でも全部引ききれないなんて…。見たことも無い木も使われているし…。しかもさっき的を射た音からするとかなり威力があるわね。それにしても大きな弓ね。…コレでは森の中では使えないわ)
サナリエンは胸当てをしてないので、引いた弦を離すという無謀な事はせず、ゆっくりと元に戻す。
「ありがとう。興味深かったわ」
「いえいえ、見事な姿でしたよ」
山ン本は、和弓を受け取ると、ずらりと弓が並ぶ弓置き場に使っていた弓を立てかけた。ふと空を見上げると、空はもう赤く染まり、日が完全に沈むのも時間の問題となっていた。
「…ふむ。今日は、もう遅いことですし、どうです?うちで夕飯を食べていくというのは?」
「ええのう。ではご相伴に預かるとするかのう。それでええか?サナリエンちゃん、アオキ?」
「…いいわよ」
「かまわない」
サナリエンは少し考えた後に、アオキは直ぐに答えた。
アオキ達は、山ン本の屋敷で夕食をご馳走になった。メニューは、ヤマメの塩焼きにサトイモと山菜の煮物、舞茸のはいった味噌汁、それにご飯だ。
夕食もひと段落した頃、お茶をすすっていたマロ爺がサナリエンに聞いた。
「さて、今日一日、ワシらの里を回ってみてどうじゃった?」
ここで飲んでから、お気に入りになったお茶を啜っていたサナリエンは、ゆっくりと湯飲みを膳に置いて答えた。
「ここは、本当に変な場所ね。私に理解出来る物が殆ど無い」
「ほほ。そうか。それで一つ聞きたいんじゃが…。もし我々が、このままこの地に住み続けたらエルフ達はどう思うかの?」
「…よくは思わないでしょう」
エルフの掟では、侵入者は即刻、追い出すか、排除するとなっている。だが、今その事を馬鹿正直に話しても自分の身が危険になるだけ。それでも、よくしてくれたマロ爺には、嘘は付きたくない。その思いが、そう答えさせた。
「まぁ。当然でしょうね。自分達の縄張りに、良くわからない連中が引っ越してきたら不快にも思いますよ。とは言え我々も、はい、そうですかと言って出て行くわけにも行きませんがね。…最悪戦になるでしょう」
山ン本が言っている事も、もっともだった。もしコレが、身一つで放り出されていたら旅に出るなりしても良かっただろう。だが、里事、つまり財産ごと飛ばされ、しかもその財産の移動が不可となれば、どうしようもない。幸い、住人達も居るので戦力はある。いざとなれば、この場所をエルフから奪い取る事すら想定している。
「じゃが、我々もそれは本望ではない。どうにか、繋ぎを取ってもらえないかのう?」
「それは…」
サナリエンはそれを聞いて、うつむいた。
暗に、エルフからこの森に住む権利を認めさせる手伝いをしてくれという事だ。それは、仲間のエルフに裏切り者と呼ばれても不思議ではない事だった。村長の娘として、誇り高いエルフとなるべく育てられたサナリエンにとって到底受け入れられることでは無い。だが、同時に目の前に居る者達が(気に食わないものが若干一名居るが)別段悪いモノだとは思えなかった。
「まぁ。難しい問題じゃからな。今答えを貰おうとは思っておらんよ。幸い時間は多少はある。その時まで考えておいて欲しいんじゃ」
「それに、あなたがどのような答えを出しても、私達が貴方に危害を加えないで、ちゃんと送ることを、この里の長として確約しておきましょう。わが身かわいさで協力すると答えられて、開放してからからひっくり返されても迷惑ですからね」
「私は、心にも無いことを約束するほど、落ちぶれてはいないわ!馬鹿にしないで!」
「それは失礼しました」
山ン本は、慇懃無礼に謝った。
「結界が解かれるまで、あと五日はあります。その間に考えて置いてください」
「ねぇ。貴方はどう思っているの?」
山ン本の屋敷からの帰り道、ちょうちんを持って隣を歩いているアオキにサナリエンは、気まぐれに尋ねた。
今日もゲココゲココとカエルがうるさいほどに鳴いているが、不思議とサナリエンの声は、はっきりと聞こえた。
アオキが持っているのは、ちょうちんお化けではないので今日は正真正銘二人きりだ。その事にサナリエンは妙にドキドキしていた。
「…戦は好きではない。だが、だからと言って無抵抗になるつもりは無い」
アオキにとってこの里は絶対に守るべきものだ。故郷から遠く離れ、流れ着いたアオキをこの里は暖かく迎えてくれた。それから多くの時間が流れ、友人も沢山出来た。破壊することしか出来ないと思っていた自分に作る喜びを教えてもらった。その里を、破壊される事など絶対に認められない事だ。だから戦う。
「だが、願わくば、良き隣人として君達と付き合って行きたいと思っている。それに…」
「何よ」
「君はいい奴だ。出来れば戦いたくない」
「ぷっ!なにそれ。私は、貴方を問答無用で襲ったのよ?」
「この里に来る前は、良く問答無用で襲われるなんて、何時もの事だった。だから気にしてない。襲ってきた奴と仲良くなった事もある。それに君は、泥田坊の質問に丁寧に答えてくれた」
「あら、嘘をついてるかもしれないわよ?」
人から信じてもらえるというのは、存外嬉しいのか、いたずらっぽく微笑みながら言った。
「誇り高いエルフが嘘をつくのか?」
ふっと笑いながらアオキは答えた。
「あら、私を信用してくれるの?」
「ああ」
その一言は、真っ直ぐだった。
それに対し、サナリエンは真顔に戻り、アオキを真っ直ぐ見返して言った。
「でも私は、貴方達を信用してない。だって何も知らないもの」
一刀両断だった。
だが、そんなサナリエンを見ても、アオキの調子は変わらず、今度は微笑みながら言った。
「なら、これから知ってくれ」
二人は、それからジャリジャリと地面を踏みしめながら家へと月明かりに照らされながら歩いていった。
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