35 / 60
第三十四話 でいだらぼっちの道作り
しおりを挟むサナリエンは、父親をだまく…説得して、あやかしの里への監視役の役目を得ることに成功した。同時に、謹慎も解かれた。
謹慎が解かれると、サナリエンの元には、多くの村人達が見舞いに訪れた。彼女は村長の娘でありながら、一定の実力がなければ入る事の出来ないエルフの戦士の一員として活躍しているので、村の人達から人気があったのだ。
それに、殆ど娯楽なんて無いエルフは、こぞってサナリエンのあやかしの里での事を聞きたがった。
サナリエンは、彼らに殆ど包み隠さず里での生活を語った。良かった事、悪かった事、それに怖かった事。なるべく彼らに悪意をもたれないように注意して話した。
村人達は、面白そうにサナリエンの話を聞いた。もちろんなかには、サナリエンの荒唐無稽な話が信じられないといった面持ちであったが、アオキから貰った櫛は、思いがけずサナリエンがそのあやかしの里で暮らしていたと言う、確かな証拠になった。櫛を見たエルフ達は、細工の見事さに目を奪われ、コミカルなウサギに顔をほころばせた。
その様子を村長と長老達は、あまり面白くなさそうにしていたが、止める事はなかった。
謹慎を解かれて三日後、サナリエンとコルトはあやかしの里へと出発した。コルトは、サナリエンと同じ監視役という事だったが事実上のサナリエンの護衛だった。サナリエンは一人で大丈夫だと言ったのだが、無理やり付けられた。
サナリエンは、あやかしの里の近くまで来ると、態々遠回りして、里の南側から入る。理由はエルフの里の方向を悟られない為だ。橋の前まで来ると今日ものんびりと橋に立っている橋姫に挨拶をした。
「こんにちは」
「あら、サナリエンちゃんじゃない!お久しぶりねぇ!怪我したって聞いていたけど大丈夫だった?」
橋姫は、近づいてくるサナリエンを見ると屈託無く微笑みながら挨拶を返した。
「河童さんの薬のお陰で直ぐに治りました。今は、落ちた筋肉を戻しているところです」
「そうなの?がんばってね!…それで今日は何の御用かしら?」
そこでサナリエンは言いにくそうに頬を、ぽりぽりと掻きながら言った。
「…あ~。今日獣人達の村まで道を敷くそうですね」
「そうよ。今、御山ででいだらぼっちちゃんを起こす準備をしているところよ」
「それで、あなた方が木々を切らないかどうか監視に来ました」
サナリエンは嫌われる覚悟ではっきりと言ったが、それを聞いても橋姫は気にした様子もなく、頬に片手を当てながら言った。
「お仕事大変ねぇ。じゃあ、ここで話している時間は無いわね。邪魔しちゃってごめんね。急がないとでいだらぼっちが起きるとこが見れないわよ!」
橋姫にほらほらと促されて、端を渡るサナリエンとコルト。二人ともあやかしの里に一度来た事があるが、里を前にした二人の心は正反対だった。
(ああ、皆元気かしら)
(これより敵地、気を引き締めねば)
サナリエンは、久しぶりに友人に会えるという高揚。
コルトは、敵地に入り活動するという事による緊張。
今後、あやかしの里に対してエルフが向ける感情が二人が感じるものの内どちらになるかは、まだ誰にも分からない。
「~~~~~~~~~~」
神主は、神社の本道の前に作られた盛大に炎を上げる祭壇に向かい、呪文を唱えていた
白木で造られた簡素な祭壇には、米や酒、野菜などの供物が並べられている。
神主の四方に棒が立てられ、それぞれの棒の先端同士を麻縄でつなぎ、縄の途中には紙垂が付けられていた。
呪文が唱えられるたび、祭壇の奥で燃えている炎が盛大に燃え上がり、その炎による熱風が後ろで儀式を見物しているエルフから遣された監視役サナリエン、獣人の村の村長ゴットス、ダークエルフの戦士長ドトルの前まで届く。
現在此処にコルトは居ない。サナリエンを里まで届けると護衛終了という事で、自らの里に帰っていったのだ。もちろん、それは嘘で実際には、里の周囲に潜み、妖怪達が何かしらの破壊行為を森にしないかと隠れて監視している。
「ねぇ、本当にだいだらぼっちとか言う奴を起こす儀式なんでしょうね?私には邪神の召還にしか見えないのだけど?」
その儀式の様子が、不気味に見えたサナリエンが声を硬くして横に座っている山ン本に囁いた。
「異文化の儀式とは、得てして奇異、そして邪悪に見えるものですよ。未知の恐怖があるからそう見えるのでしょう。大丈夫ですよ。…おっと儀式が終わったようです」
一際高く炎が舞い上がると儀式は終了した。だが、それから特に何かかが起きるといった事はなく、儀式を行っていた祭壇の炎が消えているだけだ。儀式を終えた神主は、疲れきったおり、祭壇に用意された椅子に座って荒い息を吐いている。
それを不思議に思ったゴットスが山ン本に聞いた。
「…なぁ。でいだらぼっちって奴は何処にいるんだ?」
「もういますよ。上を見てください」
「上?」
促されて一同が見上げると、そこには信じられないものが居た。
「なっ!」
「へっ!」
「はぁあああっ!」
見上げた先に居るのは、もちろんでいだらぼっちだ。
その背丈は、御山を越えていた。体は半透明で同じく半透明な藍色のジンベエの様な物を着た大男だ。足はあるのだが足先の方は完全に透明になっていて見えない。ザンバラ髪に朴訥とした親しみをもてる顔をしているが、いかんせん大きすぎる為、その威容を和らげる事は出来ていない。寝起きなので、でいだらぼっちは、大きくあくびをし、背伸びをする。そして、改めて周りの風景を見回して驚いたように後ずさった。
自分が起きてみたら突然知らない場所にいたのだから当然だ。不思議なことに、でいだらぼっちの足があると思われる場所には、一切影響は無く足音も無い。でいだらぼっちが足元に視線を向けると、そこに山ン本や見慣れた妖怪達が居るのを見つけるとゆっくりとしゃがみ込み、山ン本の顔を覗き込んだ。
半透明ではあるが空から巨大な顔が降りてくる様子に、里の妖怪達以外の者達が一斉に後ずさる。
「でいだらぼっち!おはようございます!起き抜けでびっくりしているでしょうが状況を説明します!」
そんな事は気にせず山ン本はでいだらぼっちに声を張り上げて現在の状況を話した。
山ン本が話し終えると、大きく一回頷くと、今度はゴットスに視線を合わせた。
ゴットスはでいだらぼっちと見上げ目を合わせると、一瞬ビクリと震えたが、意を決して一歩前に出て大声で挨拶した。
「初めてお目にかかる!俺は、獣人の村の長をしているゴットスと言う者だ!でいだらぼっち殿が我々の村とこの里の間に道を作ってくれるとの事、御礼申し上げる!」
その声が届いたのか、でいだらぼっちはにっこりと笑った。そしてさっきと同じ速度でゆっくりと立ち上がると、でいだらぼっちは、自分の右手を額に当ててひさしを作り、きょろきょろと何かを探し始めた。
目当てのものを見つけるとでいだらぼっちは、その方向へと歩き出した。
だいだらぼっちは、里の左端まで来ると、もう一度方向を確認した。でいだらぼっちの見ている方向には、獣人の村があり、その上をカラス天狗が鏡を持ってホバリングしていた。
だいだらぼっちは、カラス天狗の持っている鏡に反射する光を目印にして獣人の里の方向を確認していたのだ。
確認が終わり、カラス天狗がいる方向を向いて、でいだらぼっちはおもむろにしゃがみ込んだ。そしてその巨大な両手を両開きの引き戸を開く時の様に地面に突き刺した。
そしてフンッ!と力を込めると、あら不思議、大地が音も無くスライドして土がむき出しの道があっという間に出来た。その際に木は一切揺れず、元々そうであったかの如く、道の両脇に生えていた。
だいだらぼっちは、いい仕事をしたといった感じのいい笑顔で立ち上がると額の汗を腕で拭くような仕草をした。
「はぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ありえねぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「…」フラッ。
その様子を御山の上から見ていた面々は、思い思いの反応を示した。ゴットスとドトルは、大声を上げ、サナリエンは、気が遠くなって気絶しかける。間一髪の所で気を取り戻して、倒れる事は無かったが、その衝撃は計り知れないものだろう
「さて皆さん。これから、出来た道を通って獣人達の村に行きますよ」
そう言うと山ン本は、一人で参道の階段を降り始めた。
「ちょっとどうなってるのよ!アレは、貴方達が常識外って事は知ってるけどこれは無いでしょう!一体彼は何なのよ!」
慌ててついてきていたゴットスとドトルも同意するようにウンウンと頷いている。
「彼?ああ、だいだらぼっちですか、そうですねぇ。彼は妖怪ですが、同時に精霊のようなものであります」
「精霊!?」
「ああ、森の精霊じゃないですよ。いうなれば大地の精霊ですね。彼は元居た世界では、山を作ったり、その過程で盆地を作ったりと色々逸話を残しています」
「それが何であんた達に封印されてるのよ!」
「ずっと眠っていたんですよ。ですけど寝ている彼は、とても無防備でしてね。悪いモノが付かないように、封印と言う形で守っていたんです。もちろん、彼が自発的に起きれば、その封印は自動的に解けるようになっていましたよ」
山ン本達が、でいだらぼっちの作った道の入り口の所に付くと、そこには、大量の物資を載せた複数の大八車と、それを引っ張るであろう鬼達が集まっていた。
その光景を見たゴットスは、息を飲んだ。この里に住む頭部に角のある筋骨隆々な男達が鬼だという事は分かっているが、この世界のオーガ似ているせいで、不意打ちで見るとどうしても身構えてしまう。一方サナリエンはその光景に慣れていたし、ドトルの方は、里を観察していた時に大勢の鬼が田植えをしていたのを見ていたので気にしていない。
その横を通りながら、山ン本達は進む。列の最前列まで来ると、そこには山ン本には見慣れた、異世界組には、見慣れない牛車が止っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる