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第46話 自然界の掟
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エストリア達が王都に向かって2ヶ月後。オーレルム領の大城壁では、普段通り監視の任務についた騎士達が働いていた。
歩廊の上から定期的に、望遠鏡でモアラ大森林に異変がないか確認している。更に一定の周期で大森林の中へ確認にも向かう。
今も探索部隊が森の中で異常が起きていないか確認を行っている。ここ最近は森を抜け出す魔物の量が例年より少し多い。
間引きも行っているが、繁殖のペースが上がっている可能性があった。その為に先日大規模な討伐隊が組まれ、相当数の魔物を処理する事に成功している。
「なあお前はどう思う?」
「流石にもう大丈夫だと思いたいがな」
「だよなぁ、今はエストリア様も居ないしな」
歩廊の上で監視を続けている騎士達が、その様な会話を続けている。
父親であるオリバーはエストリアを未熟だと言うが、実際戦力としてはかなり大きい。
オーレルム家の血筋であるだけに、普通の騎士達からすれば非常に頼りになる存在である。
もちろんオーレルム領の騎士というだけで、世間一般の騎士よりも精強である。だがそんな彼らからしても一目置かれているのが領主一族である。
これまでにもエストリアは大量の魔物を処理しており、大物を仕留めた事も多々ある。窮地を単独で斬り抜けてみせた時だってある。
「あん時は凄かったよなぁ」
「どの時だよ? 有り過ぎて分からんぞ」
「ほらブラッディベアをエストリア様が1人で倒して帰って来た時だよ」
モアラ大森林に生息する魔物の中でも特に危険度が高いのは熊系の魔物であり、その大半は体長が2メートルを超える巨体を誇る。
その分体重も重いので、体当たりを喰らえば人間など一撃で大けがを負う。倒すには複数人で迎え撃たねばならない非常に危険な相手である。
そんな熊系の魔物の中でも特に凶暴なのがブラッディベアである。
その名の通り命を奪った相手の血で濡れたかの様に赤黒い色をした爪が特徴だ。
最低でも5人は居ないと相手が出来ない魔物である。しかし負傷した味方を逃がす為に殿を務めたエストリアが、普通に1人で倒して戻ったのでその当時は大騒ぎになった。
「あれってエストリア様が17歳の時だったよな? 今でも信じられねぇよ」
「流石オーレルム家の娘だよなぁ」
「あんなに強くて美人なんだから、王子と結婚もするわなぁ」
エストリアがオズワルドと出会うまで、婚約していなかったのには理由がある。
もちろん兄達が牽制していたのもあるが、エストリアと釣り合う自信を持てる男性が居なかったのが大きい。
憧れていた男性は少なくないが、だからと言っても高嶺の花にも程がある。
家柄は良く容姿端麗、おまけに本人が超一流の騎士である。分家筋の男性達でも流石に手が届かない存在だった。
そんな数々の功績を残して来たエストリアが、オズワルドと婚約となった時は皆が納得したものだ。
王族ならば分からなくはないと、騎士達は頷き合った。実際見るからにお似合いであり、文句のつけようもない。
「今頃王城で忙しくしているのかねぇ」
「戦闘とは無縁だからな、退屈してなければ良いけど」
「はははっ! 有り得そうだな」
和やかな会話を続けている2人の騎士は、モアラ大森林の監視を続けた。
調査に行っていた部隊も戻って来たので、特に問題は無かったのだと判断した。
交代の騎士が来るまで彼らは、真面目に勤務を続けて交代要員と入れ替わる。
日が落ち始めて暗くなり始めたモアラ大森林の奥地では、静かに事態が動き始めていた。
人間は誰も到達した事もない領域で、とある魔物同士が争っていた。餌の取り合いから発展したその戦いは、負けた方がその場から追い出される。
餌場を失った方は、縄張りを変えるしかなくなる。この程度は良くある自然界の掟。これまで何度も行われて来た生存競争。
「ガアアアアア!!」
「グルルルルル!!」
2匹の巨大な虎型の魔物が、向かい合い威嚇し合う。奥地にしか生息していない特別な魔物であり、人間はその存在を知らない。
名前すらないその魔物は、お互いに5メートル以上の巨体を誇る。実質的にはモアラ大森林の主とも言うべき種族であり、頂点捕食者であり続けて来た。
そんな最強の種族間で稀に起こる対立により、夜な夜な始まった戦いは熾烈を極めた。
巨体の激突で折れた大木が倒れ、鳥たちが慌てて木の枝から飛び立つ。強靭な前足から繰り出された一撃で、周囲の木々が傷だらけになっている。
一晩中続いた争いは朝方に決着がつき、敗北した方がその場から離れていく。
それは別段珍しくはない出来事。強者がより強いものに負けて、敗者が縄張りを変える。
だが極稀に、その移動が大森林の生態系を大きく変えてしまう事がある。
頂点捕食者が奥地ではなく中層付近まで進出してしまうと、それよりも弱い魔物達まで縄張りを変えねばならなくなる。
こうなった時には、必ず魔物の大移動が発生してしまう。それは大森林の浅い地域までも巻き込む騒動へと発展する。
魔物の大移動が起きた時、オーレルム領に大量の魔物が押し寄せる事になる。
夜中であっても広大な大森林の奥地で起きた争いの音など、オーレルム領の大城壁まで届く事はない。
奥地でそんな事が起こっていると知らないオーレルム領の人々に、歴史に残る規模の試練が訪れようとしていた。
歩廊の上から定期的に、望遠鏡でモアラ大森林に異変がないか確認している。更に一定の周期で大森林の中へ確認にも向かう。
今も探索部隊が森の中で異常が起きていないか確認を行っている。ここ最近は森を抜け出す魔物の量が例年より少し多い。
間引きも行っているが、繁殖のペースが上がっている可能性があった。その為に先日大規模な討伐隊が組まれ、相当数の魔物を処理する事に成功している。
「なあお前はどう思う?」
「流石にもう大丈夫だと思いたいがな」
「だよなぁ、今はエストリア様も居ないしな」
歩廊の上で監視を続けている騎士達が、その様な会話を続けている。
父親であるオリバーはエストリアを未熟だと言うが、実際戦力としてはかなり大きい。
オーレルム家の血筋であるだけに、普通の騎士達からすれば非常に頼りになる存在である。
もちろんオーレルム領の騎士というだけで、世間一般の騎士よりも精強である。だがそんな彼らからしても一目置かれているのが領主一族である。
これまでにもエストリアは大量の魔物を処理しており、大物を仕留めた事も多々ある。窮地を単独で斬り抜けてみせた時だってある。
「あん時は凄かったよなぁ」
「どの時だよ? 有り過ぎて分からんぞ」
「ほらブラッディベアをエストリア様が1人で倒して帰って来た時だよ」
モアラ大森林に生息する魔物の中でも特に危険度が高いのは熊系の魔物であり、その大半は体長が2メートルを超える巨体を誇る。
その分体重も重いので、体当たりを喰らえば人間など一撃で大けがを負う。倒すには複数人で迎え撃たねばならない非常に危険な相手である。
そんな熊系の魔物の中でも特に凶暴なのがブラッディベアである。
その名の通り命を奪った相手の血で濡れたかの様に赤黒い色をした爪が特徴だ。
最低でも5人は居ないと相手が出来ない魔物である。しかし負傷した味方を逃がす為に殿を務めたエストリアが、普通に1人で倒して戻ったのでその当時は大騒ぎになった。
「あれってエストリア様が17歳の時だったよな? 今でも信じられねぇよ」
「流石オーレルム家の娘だよなぁ」
「あんなに強くて美人なんだから、王子と結婚もするわなぁ」
エストリアがオズワルドと出会うまで、婚約していなかったのには理由がある。
もちろん兄達が牽制していたのもあるが、エストリアと釣り合う自信を持てる男性が居なかったのが大きい。
憧れていた男性は少なくないが、だからと言っても高嶺の花にも程がある。
家柄は良く容姿端麗、おまけに本人が超一流の騎士である。分家筋の男性達でも流石に手が届かない存在だった。
そんな数々の功績を残して来たエストリアが、オズワルドと婚約となった時は皆が納得したものだ。
王族ならば分からなくはないと、騎士達は頷き合った。実際見るからにお似合いであり、文句のつけようもない。
「今頃王城で忙しくしているのかねぇ」
「戦闘とは無縁だからな、退屈してなければ良いけど」
「はははっ! 有り得そうだな」
和やかな会話を続けている2人の騎士は、モアラ大森林の監視を続けた。
調査に行っていた部隊も戻って来たので、特に問題は無かったのだと判断した。
交代の騎士が来るまで彼らは、真面目に勤務を続けて交代要員と入れ替わる。
日が落ち始めて暗くなり始めたモアラ大森林の奥地では、静かに事態が動き始めていた。
人間は誰も到達した事もない領域で、とある魔物同士が争っていた。餌の取り合いから発展したその戦いは、負けた方がその場から追い出される。
餌場を失った方は、縄張りを変えるしかなくなる。この程度は良くある自然界の掟。これまで何度も行われて来た生存競争。
「ガアアアアア!!」
「グルルルルル!!」
2匹の巨大な虎型の魔物が、向かい合い威嚇し合う。奥地にしか生息していない特別な魔物であり、人間はその存在を知らない。
名前すらないその魔物は、お互いに5メートル以上の巨体を誇る。実質的にはモアラ大森林の主とも言うべき種族であり、頂点捕食者であり続けて来た。
そんな最強の種族間で稀に起こる対立により、夜な夜な始まった戦いは熾烈を極めた。
巨体の激突で折れた大木が倒れ、鳥たちが慌てて木の枝から飛び立つ。強靭な前足から繰り出された一撃で、周囲の木々が傷だらけになっている。
一晩中続いた争いは朝方に決着がつき、敗北した方がその場から離れていく。
それは別段珍しくはない出来事。強者がより強いものに負けて、敗者が縄張りを変える。
だが極稀に、その移動が大森林の生態系を大きく変えてしまう事がある。
頂点捕食者が奥地ではなく中層付近まで進出してしまうと、それよりも弱い魔物達まで縄張りを変えねばならなくなる。
こうなった時には、必ず魔物の大移動が発生してしまう。それは大森林の浅い地域までも巻き込む騒動へと発展する。
魔物の大移動が起きた時、オーレルム領に大量の魔物が押し寄せる事になる。
夜中であっても広大な大森林の奥地で起きた争いの音など、オーレルム領の大城壁まで届く事はない。
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