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第4章
第191話 アイナの戦う理由
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アイナは何も無い空間を漂っている。前後左右、そして上下を見ても何も無い。ただ暗闇がどこまでも続いているだけ。
そんな状況にあっても、アイナは特に不安を感じていない。敵意や殺意を向けられていないのに、経過する理由もないからだ。
それにこれが試練の一部であるならば、尚更である。恐らく次は、精神的なものだろうと予想していた。
だから警戒するべきは物理的な方向性ではない。トラウマを刺激するような内容や、決意を鈍らせるような事だ。
「あら?」
暫く漂っていると、アイナの視界に見知った姿が現れる。それは既に亡くなった、アイナの両親だ。
父親で警察官のエリック・ミラーと、錬金術師でアクセサリー職人だった三島玲子が微笑んでいる。
亡くなる前の記憶通りで、とても懐かしい気持ちが湧いて来る。かつて3人で暮らしていた時の記憶が、アイナの脳裏に蘇る。
警官の父を尊敬し、母親のような大人になりたいと思っていた頃の記憶だ。当時は魔導犯罪の現実を知らず、毎日が楽しかった。
「懐かしいなぁ」
当時の事を思い出すのは、久しぶりの事だった。今のアイナには必要のない事だから、昔の思い出に浸るような真似はしない。
そんな事をしなくても、彼女は大切な過去を覚えている。頭の片隅にあれば良いだけで、こうしてじっくりと時間を掛ける事は無かった。
昔はそれなりの頻度でしていた。しかし心が強くなるにつれて、必要が無くなって行った。アイナは自分の意思で、戦い続ける未来を選んだ。
憎しみに囚われていたのは、もう何年も前の話である。今は怒りや憎しみで自分を失う事はない。
誰かに制止をされる程、苛烈な攻撃をするような少女ではなくなった。警察に保護される前のアイナは、悪人に容赦ない罰を与えていた。
複数のマフィアを相手に、ボコボコにしていた頃もある。もう少しでアイナは、悪人を殺して回る戦闘マシーンになっていた。
しかしその未来は回避され、真っ当な道を歩む事が出来ている。
「これが試練なのかしら? それにしては何も起きないわね」
両親の死をとっくに乗り越えているアイナには、両親の映像を見せられても平気だ。これで心を乱す事は無い。
軍人として、スナイパーとして、冷静である重要性を理解している。自分で心をコントロールする技術は既に会得済みである。
「あら? 人が増えたわね」
何も変化が起きない映像に、知っている人物が増える。今の保護者であるオリバー・クラーク大佐。
その右腕であるエミール・ギャレット。アメリカ海軍の仲間達や、嵯峨学園のクラスメイト達。
そして相棒である清志の姿も追加される。しかし次の瞬間には、全員が死んだように倒れて動かない。
「ああ、そういう試練なのね」
アイナの経験した悲劇、その最も古い記憶が蘇る。父を逆恨みした魔導犯罪が、両親を殺してしまった現場。
寝ていると思っていた両親は、血だまりに倒れていた。当時の記憶は、今も鮮明に覚えている。
こんな映像がなくても、鉄臭い血の匂いまで思い起こせる。両親の葬式をした時の記憶もある。
父方の祖父母に肩を抱かれながら、涙を流した事も覚えている。魔導犯罪を憎み、悪人を許せない気持ちは今も無くなっていない。
「私はこれぐらいで、今更揺らがないわ」
感情をコントロール出来るようになったアイナは、ただ悪人を狙うマシーンではない。
人間らしく生きる道を選べた、法の裁きを代行する執行者だ。憎しみという感情もある。怒りという感情もある。
だがそれらに呑まれてしまう事はない。正しく行うべき事を、自分の意思と理性で選択する事が可能だ。
「あら? また映像が……」
アイナが普段通り平静を保っていたら、次に現れたのは古代の戦士達だ。先の試練で戦った時のような空気は無く、笑顔でアイナの方を見ている。
これは合格したという事で良いのだろうと、アイナは直感で理解した。彼らが何を言っているのかは分からない。
言語の壁が彼らとの間にはある。しかし真剣勝負をした者同士、分かり合える事もある。言葉が通じなくても、感情というものは伝わる。
「ありがとう。良い機会をくれて」
七つの大罪と対峙して、もっと強くなる必要性をアイナは感じた。前回の戦いでは、相手が全力だったとは思っていない。
あくまでSランク魔術師同士の小手調べだった。相手は神を戦闘に関与させなかった。本来なら清志のように、神子として神の手を借りる筈。
だから撃退したという事実を都合良く捉えず、自らを見つめ直す事とした。この試練では、その良い機会になったとアイナは思っている。そしてそれは、清志も同じだろうと。
「貴方達の事は、決して忘れないわ。お世話になりました、古代の戦士さん達」
アイナは徐々に姿が薄れていく彼らに対し、敬礼をもって見送る。1人の魔術師として、軍人として敬意を払いながら。
彼らの姿が完全に消えると、アイナの視界を眩い光が包み込む。暫く待っていると、元居た部屋に戻っていた。同じタイミングで戻って来たらしい、清志の姿もあった。
そんな状況にあっても、アイナは特に不安を感じていない。敵意や殺意を向けられていないのに、経過する理由もないからだ。
それにこれが試練の一部であるならば、尚更である。恐らく次は、精神的なものだろうと予想していた。
だから警戒するべきは物理的な方向性ではない。トラウマを刺激するような内容や、決意を鈍らせるような事だ。
「あら?」
暫く漂っていると、アイナの視界に見知った姿が現れる。それは既に亡くなった、アイナの両親だ。
父親で警察官のエリック・ミラーと、錬金術師でアクセサリー職人だった三島玲子が微笑んでいる。
亡くなる前の記憶通りで、とても懐かしい気持ちが湧いて来る。かつて3人で暮らしていた時の記憶が、アイナの脳裏に蘇る。
警官の父を尊敬し、母親のような大人になりたいと思っていた頃の記憶だ。当時は魔導犯罪の現実を知らず、毎日が楽しかった。
「懐かしいなぁ」
当時の事を思い出すのは、久しぶりの事だった。今のアイナには必要のない事だから、昔の思い出に浸るような真似はしない。
そんな事をしなくても、彼女は大切な過去を覚えている。頭の片隅にあれば良いだけで、こうしてじっくりと時間を掛ける事は無かった。
昔はそれなりの頻度でしていた。しかし心が強くなるにつれて、必要が無くなって行った。アイナは自分の意思で、戦い続ける未来を選んだ。
憎しみに囚われていたのは、もう何年も前の話である。今は怒りや憎しみで自分を失う事はない。
誰かに制止をされる程、苛烈な攻撃をするような少女ではなくなった。警察に保護される前のアイナは、悪人に容赦ない罰を与えていた。
複数のマフィアを相手に、ボコボコにしていた頃もある。もう少しでアイナは、悪人を殺して回る戦闘マシーンになっていた。
しかしその未来は回避され、真っ当な道を歩む事が出来ている。
「これが試練なのかしら? それにしては何も起きないわね」
両親の死をとっくに乗り越えているアイナには、両親の映像を見せられても平気だ。これで心を乱す事は無い。
軍人として、スナイパーとして、冷静である重要性を理解している。自分で心をコントロールする技術は既に会得済みである。
「あら? 人が増えたわね」
何も変化が起きない映像に、知っている人物が増える。今の保護者であるオリバー・クラーク大佐。
その右腕であるエミール・ギャレット。アメリカ海軍の仲間達や、嵯峨学園のクラスメイト達。
そして相棒である清志の姿も追加される。しかし次の瞬間には、全員が死んだように倒れて動かない。
「ああ、そういう試練なのね」
アイナの経験した悲劇、その最も古い記憶が蘇る。父を逆恨みした魔導犯罪が、両親を殺してしまった現場。
寝ていると思っていた両親は、血だまりに倒れていた。当時の記憶は、今も鮮明に覚えている。
こんな映像がなくても、鉄臭い血の匂いまで思い起こせる。両親の葬式をした時の記憶もある。
父方の祖父母に肩を抱かれながら、涙を流した事も覚えている。魔導犯罪を憎み、悪人を許せない気持ちは今も無くなっていない。
「私はこれぐらいで、今更揺らがないわ」
感情をコントロール出来るようになったアイナは、ただ悪人を狙うマシーンではない。
人間らしく生きる道を選べた、法の裁きを代行する執行者だ。憎しみという感情もある。怒りという感情もある。
だがそれらに呑まれてしまう事はない。正しく行うべき事を、自分の意思と理性で選択する事が可能だ。
「あら? また映像が……」
アイナが普段通り平静を保っていたら、次に現れたのは古代の戦士達だ。先の試練で戦った時のような空気は無く、笑顔でアイナの方を見ている。
これは合格したという事で良いのだろうと、アイナは直感で理解した。彼らが何を言っているのかは分からない。
言語の壁が彼らとの間にはある。しかし真剣勝負をした者同士、分かり合える事もある。言葉が通じなくても、感情というものは伝わる。
「ありがとう。良い機会をくれて」
七つの大罪と対峙して、もっと強くなる必要性をアイナは感じた。前回の戦いでは、相手が全力だったとは思っていない。
あくまでSランク魔術師同士の小手調べだった。相手は神を戦闘に関与させなかった。本来なら清志のように、神子として神の手を借りる筈。
だから撃退したという事実を都合良く捉えず、自らを見つめ直す事とした。この試練では、その良い機会になったとアイナは思っている。そしてそれは、清志も同じだろうと。
「貴方達の事は、決して忘れないわ。お世話になりました、古代の戦士さん達」
アイナは徐々に姿が薄れていく彼らに対し、敬礼をもって見送る。1人の魔術師として、軍人として敬意を払いながら。
彼らの姿が完全に消えると、アイナの視界を眩い光が包み込む。暫く待っていると、元居た部屋に戻っていた。同じタイミングで戻って来たらしい、清志の姿もあった。
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