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第19話 ソマの左手②

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 アルビオ連邦・フルグ共和國連合軍とエーステライヒ帝國間の闘いによる死傷者は開戦から1ヶ月で20万を超えた。

そのうちの大部分はフルグ陣営に属する将兵であった。

肥沃な地域を有するものの、鉱工業の発展途上であるフルグに対し、エーステライヒはルーブ地方などの重工業地帯を擁していた。
そのためエーステライヒの圧倒的機甲部隊と航空戦力にフルグ國防軍はなす術がなかったのである。

3ヶ月が経ち、それまで軍需物資の供与や軍事顧問の派遣に徹していたアルビオ連邦は、遂に正規軍を前線に派遣する。

これによって戦況は膠着。
二年目の冬になる頃には双方に厭戦えんせんの色が広がり、ようやく停戦の運びとなった。

その頃ソマは11歳、父の後を追い首都フォレストンの陸軍幼年学校に転入を果たしていた。

◇◆◇ーーー◇◆◇

「サッシュメルツ好きだなお前」

「ジョージ、コレは戦時の為の訓練の一貫なんだよ。えーっと・・穀物を固めただけのモノを食事として摂り続ける事でなれるんだ・・そう!粗食にも耐えるあのポロ馬のようにね!」

ソマ青年は、学友のジョージ=プライスの嘲笑に対しても特段動じることなくそう返した。

「今日は各々の特技(特殊技能)を練成する日だろう?確か・・・ソマは衛生・化学を選んでいるんだったな」

「嗚呼、俺は君みたいに射撃が上手い訳ではないし、砲迫は耳が悪くなるし、鉄馬きへいになるにしては足腰が弱いから・・・」

「衛生やるのも大変だぜ~。なにせ自分だけじゃなくて他人の面倒見なきゃいけないんだからよぉ」

自己中心的エゴイストな君らしいやな」

友人との軽口を楽しむ暇があり、衣食住も保障されているとあって、ソマはこの頃つらさを感じた事は殆どなかった(基礎練成と教官・助教のしごきは多少こたえたが)


ポロ・・・馬に騎乗して競い合う球技のこと
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