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国一番の騎士って言ったのに
しおりを挟むサラサラと流れる川。パチパチと弾ける火。……のそばに干された、俺の服が一式。
目を覚ました俺は、元いた場所でマントに包まれ床に横たわっていた。
「起きたか」
すぐそばにはシグルズがいた。火の向こうにはジンが。
助けてくれてありがとう……と、言おうとしたのに。
「国一番の騎士って言ったのに……」
口から出たのは、そんな言葉だった。マントの裾を引き上げて、頭まで被って顔を隠す。
……盛大に喘いでるとこ見られた。もう、恥ずかしいどころじゃない。今すぐ消えてなくなりたい。何なら二人を殴って記憶を消したい。
「パキュロスには気配がないんだ。植物や水と同じで、邪気がない」
つん、とマントを引っ張られて、俺はますます丸くなった。
「騎士は、殺気や悪意に敏感に反応するよう鍛えられている。逆に言えば、無害なうえに植物と同じ気配では気付けない」
「……じゃあ、俺また攫われるじゃん」
「攫われたらまた助けてやる。あいつらは人を傷つけはしないからな」
「心が傷ついてる」
「そうか。それは悪かった」
つんつんと引っ張られていたマントから手が離れる。そして、頭をポンと撫でられた。
パキュロスとは違う、固くて暖かい手。きゅうっと胸が熱くなり、きつく目を閉じた。
「……助けてくれて、ありがと。迷惑かけてごめん」
「ああ。気にするな」
初めて会った時と同じことを言うシグルズに、小さく笑う。シグルズが気にするなと言うなら、本当に面倒とは思っていない。出逢ったばかりなのに、そう信じられた。
「水棲に粘液はないはず……」
弾ける火の音に重なり、ジンがぽつりと呟く。
「粘液?」
「はい……。水棲パキュロスの体液は本来、水みたいにサラッとしてるんです」
無味無臭で、付着しても乾かせばそれでいいくらいに。でも俺の服に付いてた体液は、ところどころ緑色の糸を引いていたらしい。まるで蔦型の出す粘液のようだと。でも俺を攫ったあれは、確かに水棲型だと言った。
「アオ様。後ろは無事ですか?」
「後ろ?」
「尻です」
「尻? なんで?」
「あっ、痛くないならいいんです! いやー、災難でしたね。でも火を焚いてたら寄って来ないんで安心してください!」
「アオバのために一晩中、火の番をするのか。見直した」
「えっ、シグルズ様、交代制に……はい、やり遂げてみせます!」
ジッと見据えられ、ジンはビシッと敬礼をした。
「頼んだ」
そう言いつつシグルズは途中で交代するんだろうけど、ジンは、今夜は贅沢にコーヒー三昧だ! とばかりに覚悟した顔をしていた。
……尻は、痛くないけど。
またマントの中に顔を埋め、目を閉じる。
……ちんこの中グリグリされた……とか、言えない。
きっと尿道カテーテルと同じような物なのに、盛大に感じて喘ぎまくった男になってしまう。男なのに喘がされただけでもプライドが粉々だ。
これ以上心に傷を負いたくないし、今も尿道に何か入っている感覚があって、思い出して熱をぶり返したくなかった。
「アオバ。何か食べられるか?」
「……ごめん。お腹いっぱいで」
「昼から何も食べてないだろう?」
「そうなんだけどさ……」
俺も戸惑ってる。触手に飲まされた液体が途中から甘く感じた。砂糖水のようなそれを喉の奥に注がれた時、体の奥が熱くなった。定番の媚薬かと思ったけど、そうでもないようで。
「あれが出す液体って、栄養価高いのかも。初めて馬で遠出して疲れたのに、今はいっぱい寝た朝みたいに元気だし」
体を起こし、伸びをする。あれだけ喘がされて散々射精したわりに、喉の痛みもなく疲労感もない。だからといって、あれで腹を満たそうとは思わないけども。
「……アオ様。俺、水棲パキュロスで水分補給したことあるんですけど、腹は満たされませんでした」
「へ? まじで? てか舐めたことあるんだ?」
「はい。でも、ただの水でした」
「……俺、甘かったけど……」
なんで、と首を傾げる。
「もしかしたら、聖者様にしか感じられない成分が合成されて……。……いえ、聖者様のこと大好きっぽかったですし、好きな子には甘いの飲ませてあげたかったとかですかねっ」
ジンはいつも通りの明るい笑顔を見せた。
「あっ、お腹いっぱいでもこれとかオススメっすよ。さっぱりして甘酸っぱい果物ですっ。アオ様のために心を込めて剥きますねっ」
「あ、ありがと」
普通に剥いてくれていいのにな、と思いつつも、果物を磨くジンジャーにお礼しか言えなかった。
俺たちのやり取りを、シグルズはただ静かに見つめていた。
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