触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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終演

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 城を出てパキュたちを集合させ、傷の有無を確認して小さな傷も治していく。口から摂取した体液で神聖力を増幅させ、人々の傷も治した。

「ピキュ、キキュ、ギキュ、ありがとな。落ち着いたらまたすぐに会いに行くからな」

 全てのパキュを抱き締める。

「その時は何かお礼を……」

『ピィ!』

『ギィ!』

「……俺?」

『キュイキュイ!』

「そっか。お礼になれるように頑張るよ」

 触手を上げて喜びを示すパキュたち。頬をぺたぺたと撫でられて、くすぐったいよ、と笑った。
 そのそばで、シグルズはピキュを見上げていた。


「アオバの危機には共に戦うと、私と約束をしたパキュロスは君ではないな?」

『ピィ、ピピィッ』

「そうだが、違う?」

『ピィィ、ピ、ピ、ピィ』

「年長者は、遠くにいる、パキュロスとも、交信が出来る?」

『ピィッ』

「それはすごいな。それなら君も、アオバのことを最初から知っていたのか」

『ピ!』

 触手を揺らして頷く。シグルズ、普通に会話してる……。

「アオバを守り、この戦いに参加してくれたことに、改めて礼を言う。アオバのことは今後も共に愛でるとしよう」

『ピィ!』

「待って、勝手に決めないで」
「パキュロスに懐かれたら、君は受け入れるだろう?」
「ぐっ、痛いとこを……」

 確かに可愛く鳴きながらおねだりされたら、許してしまうけど。
 体液の摂取が口でもいけると分かっても、パキュたちは俺を全身ヌメヌメにしたがるだろうし。……嬉しそうにするパキュを見ると、俺も嬉しい。


「……喧嘩するよりはいいよな」
「だそうだ。これからは仲良くしよう」

『ピィ!』

『キィッ』

『ギィィ!』

 三種のパキュが声を上げ、触手が俺を抱き上げる。喜びの舞か、俺を掲げながら回る光景に、遠くで見守っていた人々はそっと手を合わせて「パキュロスの聖者様……」と崇めていた。……と、後でシグルズから聞かされたのだった。


 パキュたちがそれぞれの森へ帰るのを見送って、ふと気付くと、ジンはある方向を見つめていた。

「ジンとシオン様って、結構昔からの知り合い?」
「えっ? いえっ」
「シオン様が、ジンって呼んでたんだけど」
「っ……」

 ジンは目を見開き、じわじわと潤ませる。グッと袖で涙を拭い、昔のことです、と笑った。

「シオン様がお二人にお伝えしたパイの店は、……俺の実家なんです。小さい頃から年に何度か食べに来てくれるシオン様が、俺は大好きでした」

 震える背をそっと撫でると、ジンは目を伏せて、ぽつりぽつりと言葉を零す。

「初めて見たんです。あんなにキラキラして眩しくて、綺麗な人。最初は笑わなくて怖かったんですけど、俺がずっと見てたら、遊んでくれるようになったんです」

 その頃はまだ騎士でもなくただの平民で、王子様とは知らずに、ただ店に来てくれるお兄さんだと思っていた。
 一緒に本を読んだりかくれんぼをしたり、色々なことを知ってるシオン様が訪れるのを、ジンはずっと楽しみにしていた。


「父が殺されてから、シオン様は会いに来てくれなくなりました。でも……俺が一般兵の試験を受けた日、騎士に推薦してくれたのはシオン様だったんです」
「え……でも、シオン様は」
「その頃は、王宮内で権限がありませんでした。でも、入団試験を行う総団長だけはシオン様のことを信じてくださっていたんです」

 ジンはそっと目を細めた。

「入団した翌年に、シオン様がそのことを直接教えてくださって……そこで初めて、あのお兄ちゃんが第二王子殿下だと知りました。貴族の中で生きるのはつらいだろうが、一般兵より騎士の方が生きられる可能性が高い。そしていつか、私の役に立って欲しいと……」

 それが、王を討つことだった。それを知ってからは王の犬のふりをして、シオン様のために何でもした。


「俺はずっと、シオン様にあの時のお兄ちゃんを重ねてるんです……。もう俺もシオン様も、子供じゃないのに。それなのに……」
「ジンは、シオン様のことが好きなんだな」
「叶わないって分かってるのに、馬鹿ですよね」

 ジンはそう言って笑った。

「これから国を担う国王になられて、王妃様を迎えて世継ぎを作らなければならないんです。俺は騎士として、遠くからでもシオン様の幸せを守り続けると決めました。だから……」

 泣きそうな瞳が、真っ直ぐに俺を見据える。

「俺の代わりに、アオ様とシグルズ様には幸せになって欲しいんです」
「それは、嫌だ」
「えっ……」
「ジンの代わりじゃなくて、ジンも幸せになるべきだろ。それに、シオン様がどう思ってるかなんて聞かないと分からないじゃん」
「え、いえ、聞かなくても分かるというか……」
「今は大変だろうから、色々落ち着いたら聖者権限でシオン様に会いに行くから、その時はジンも来い」

 言い切ると、ジンはオロオロしてシグルズに助けを求める。

「私にアオバを止められると思うな。止めればパキュロスに乗って王城に攻め込むぞ」
「ええっ!?」
「この辺の森っていっぱいいるんだよなぁ」
「アオ様っ、それだけはっ、無害なはずのパキュロスに攻め入られた王様になっちゃいますからっ」

 慌てて止める。パキュロスと聖者と最強の騎士、結構とんでもない組み合わせだよな。
 ジンは慌てて、戸惑って、そのうちにじわじわと視線を落とす。


「……シオン様のお答えが分かっていても、俺の気持ちを伝えられたら……いえ、やっぱりそれは」
「伝えたら、後は全身全霊で落とすだけだ」
「落としていい相手じゃないっすけどねっ」
「まあまあ、それは会ってから考えような?」
「アオ様も悪い顔しないでくださいっ!」

 ニヤニヤする俺と、真顔で圧を掛けるシグルズ。
 とんでもないカップルがもうすぐ誕生する、とジンは叫んで、怖いのか嬉しいのか分からない顔で、俺たちを押し返した。



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