触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき

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HAPPY END

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 数日後。



「アオ様ーっ、来ちゃいましたー!」

 庭でアフタヌーンティーなどという優雅なことをしていると、ジンがブンブンと手を振りながら駆け寄ってきた。

「おー、ジン。って、あれ? それって作ってたキャラなんじゃ……」
「そうなんすけど、何年もやってたら馴染んじゃったんすよねー! 俺も意外でした!」
「そっか。俺はどっちのジンも好きだよ」
「ひゃーっ、俺もアオ様のこと大好きっす!」
「……仲がいいな」

 俺の手を握るジンを、シグルズは分かりやすく不服な顔で見つめる。

「すいません、シグルズ様っ。俺とアオ様は友達なんでっ」
「友達だもんな」
「……いつの間に?」
「一昨日、森に行く途中で会ったんだよ。そこで、な」
「ですっ」

 一昨日。仕事だった。シオン殿下の護衛をしていた。前の王よりは面白い話が聞けたが、アオバに会いたくて仮病を使えば帰れるだろうかと考えていた時に、そんなことが。

 とか何とか。多分シグルズ、心の声の方が、全部出ちゃってる。

「……これが絶望感か」
「この遣り取り、前もやったよな。あの時より重くなってるけど」

 あの時は疎外感だった。


「ほら、シグルズも来いよ」
「ああ」
「わっ! シグルズ様っ、俺まで抱き締めちゃってますよっ?」
「わざとだ。私の方が先にジンジャーと知り合っていた」
「うひゃっ!」
「あー、ごめんな、シグルズの方が先にジンと友達だったよな」
「友達!」

 ジンが繰り返すと、シグルズはしばし考えて。

「ああ、そうだ」
「友達っ……」
「嫌か?」
「いっ、嫌じゃないっす! 光栄っす!」
「友達は敬語を使わないのでは?」
「それはさすがに恐れ多いんでっ、数年後まで待っててくださいっ」

 シグルズがジンを撫でると、また「うひゃ!」と言って慌てた。
 ジン、可愛いなぁ。あわあわする子犬みたいだ。つい俺もジンを撫でると、ジンは飛び上がってますます慌てた。
 そのままひとしきり撫で回して、手を離す。


「アオバ。ジンジャー。今度、本家に一緒に来てくれ。私の恋人と親友だと紹介する」
「親友!!」
「良かったな、ジン」
「ひーっ、恐れ多いっす!」

 前より更に元気になったジンを、俺たちは親心を持って見つめた。

「アオバには、特例中の特例で、シオン殿下から婚姻の許しを貰ってきた。提出可能期限は十年だが、すぐに君を頷かせるから覚悟していろ」
「だから喧嘩腰は……って、は? 婚姻の許し?」

 シグルズは宝石の付いた銀色の箱から、一枚の紙を取り出した。それを見たジンは深刻な顔をする。


「……シグルズ様、これ」
「え、どうした、ジン?」
「……一度婚姻を結んだら、離婚が出来ないって書いてありますけど」
「んっ?」
「死が二人を分かつとしても……死んでも夫婦のままってことっす」
「は……? そんなの、あり……?」

 この世界の常識は知らないけど、ジンが驚くなら一般的な内容ではないんだろう。

「私が戦死したとしても、再婚はさせない。君には幸せになって欲しいが、君の生涯の夫は私ただ一人であって欲しい」
「っ……すっごい熱烈なプロポーズじゃん」

 すごいドキッとしたけど、俺は何でもない顔を作る。
 再婚禁止はさすがに……という顔をしたジンは、すぐに、自分が間違ってるのかな? みたいに首を傾げた。

 ……ジン、その感覚は間違ってないよ。少し前の俺なら同じこと言ってた。でも、今はそれがシグルズだし、愛されてるなって感じるんだよな……。


「今すぐに結婚とかは考えられないけど、毎年お互いの意思確認しようぜ。この内容で絶対大丈夫って思えたら一緒にサインしよう」
「私の分はもう書いていいか?」
「待て待て、心変わりとかあるかもだろ?」
「私が……?」
「今までで一番信じられないって顔だよ」

 驚愕、ってか、愕然?

「君は、私が他の者を愛しても気にならないのか? 君にするように触れ、愛を囁き、生涯を共にすると誓っても?」
「………………やだ」
「それならここにサインしろ」
「今はまだ考えられないって」
「前もそう言っていたが、恋人になっただろう? 近いうちに婚姻も受け入れるのだから、先にサインをくれ」
「シグルズ様っ! 無理強いは駄目っすよ!」

 あまりに押しが強すぎて、さすがにジンが止めに入る。まあ、端から見たらこれって、熱烈な愛よりもただの横暴に見えるんだよな。


「結婚となると、そう簡単には答えられないんだよ。シグルズも、跡継ぎとかさ」
「それは弟に任せてある。私より愛想が良いから当主向きだ」
「弟いんのかよ」
「姉も二人いる」
「大家族じゃん」
「アオバなら、皆と仲良くなれるはずだ。君は私が愛した人だからな」

 優しく微笑まれて、咄嗟にうつむいた。
 なんだ今の。……結婚したら、この男が俺だけのものになんのか……。

 そっと窺う視界の端で、ジンが音もなく立ち上がる。多分、俺とシグルズの邪魔になるとか思わせちゃったかな。


「ジンは、あれからシオン様と何かあった?」
「えっ……」

 突然話題を振ったから、今度は驚かせてしまった。ジンはストンとまた座って視線を落とす。
 革命からまだ数日。聖者権限で会うには早いと思って控えてたけど、ジンの返答次第ではパキュに乗って城に乗り込もう。

「その……私的な話は、出来てないっすけど……」

 もじもじするジンが可愛い。

「今度、俺を……シオン様の護衛騎士に、任命する……と」
「えっ、すごいじゃん!」
「俺、平民ですし、騎士団でも下っ端だったんすけど……実力で決めたって」
「あー、ジン強いもんな」
「でも護衛騎士ってほどじゃっ……」

 ジンは慌てるけど、あの戦いでジンは目覚ましい功績を上げて、他の騎士団にまでその名が轟いたとシグルズが言っていた。今度その授賞式があり、ジンは今から緊張してるらしい。


「……アオ様、どうしましょう」
「ん? どうした?」
「護衛騎士になったら…………シオン様と、ずっと一緒で……」
「あー……」
「二人きりになったら押し倒せばいい」
「シグルズ様じゃないんすよ!?」
「私を何だと……」
「まぁ、シグルズの意見は参考になんないよな」
「アオバまで……」

 シグルズはまた、疎外感、と呟いた。しょんぼりするシグルズに椅子を近付けて、ぎゅっと手を握る。

「じゃあ、護衛騎士の任命までに、ジンの気持ちについてシオン様としっかり話をしような」
「ますます気まずくなりますけどっ……」
「でも、今のままよりマシな気がするけど」

 多分今のジンだと、シオン様が近くに来たら仕事にならない。護衛騎士って集中力欠いたら危ないよな。
 想いを秘めてつらい顔して笑うジンを見るのは、シオン様も耐えられないと思うし。
 真剣な俺に、ジンも落ち着いて考える。そして。


「…………アオ様も、ついて来てくださいね」
「勿論だって。上手くいくように……いや、一番は気まずくなんないように手助けするからさ」
「アオ様っ、頼りにしてますっ」

 涙目で俺を見つめる。こんなに一生懸命なジンを、悪いようになんてしない。もしシオン様がジンを泣かせるような駄目な男だったら、まじでパキュたちに乗って城落とすわ。

 二人とはいつか友達になれればって思ってたけど……やっぱ、嬉しいもんだな。
 こうして青空の下で笑い合える関係。異世界に来てからずっと不安を感じずに笑っていられるのは、シグルズとジンのおかげだ。
 俺好みの渋めの緑茶を飲み、幸せを噛み締める。


「……忘れていた」
「ん? 何?」
「アオバに伝えるのは、婚姻のことと……」


 屋敷の敷地内に、森とパキュロスを移築したこと。


『ピィィ!』

『キィ! キィ!』

『ギギィ!』


 シグルズの言葉を聞いたのは、大はしゃぎの三種のパキュたちに熱烈に抱きしめられた後だった。





‐END‐







◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 お読みいただきありがとうございました。
 この後は、番外編を何話か書こうと思っています。
 少しお時間をいただくかもしれませんが、またお読みいただければ幸いです。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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