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始まりの日
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「りんりん、今度一緒にこれやってみよっ」
新しいおもちゃを与えられた子どものような笑顔でじゃれついてきながら、スマホの画面を俺に見せた彼女はそう言った。
くりっとした、猫のような目をした愛らしい子だった。
「オンラインゲーム?」
「そっ! 今度の6月スタートだって! あたしやってみたい!」
「ん、―――がやりたいなら、やってみよっか」
「やったっ! りんりん好き!」
バイトで貯めた貯金を使って、俺たちはPCを新調し、サービス開始の日を待った。
一人暮らしアパートに、デスクトップPCを机とセットで2台並べると、部屋の狭さが際立ったな。
「え、みてみてっ! キャラメイクすごい! なんでもできそう!」
「おー、ほんとだ。何にしようかな?」
「あ、じゃああたしがりんりんを、りんりんがあたしをつくろーよっ」
「えー、変なのにしない?」
「自分の分身になる子だよ? そんなことしませーん」
「じゃあ、頼んだ」
「ん、作ってるとこ見ちゃだめだよー?」
彼女の提案で、俺が―――の、―――が俺のキャラを作る。
テーマは相手に似せること。
普通の女の子キャラより……あ、猫耳の女の子とかもあるんだ。
―――は猫みたいな子だし、ベースはこの種族にしようかな?
「りんりん決まったー?」
「まだー。―――は?」
「んー、もうちょいっ! りんりんの可愛さをちゃんと表さないとっ」
「男に可愛さって、それどうなのさ?」
「えー、だってその可愛いところが好きなんだもーん」
「ほらほら、手が止まってるぞ?」
「おっと、いけないいけないっ」
―――の可愛さと、無邪気さと、素直さが出るような顔……。
あ、この目いいな。あ、この口―――っぽい。髪は、茶髪のセミロング……っと。
ちらっと横目に―――を見ると、真剣そうに俺を作っている横顔が見える。
やっぱり、いつ見ても可愛い。
「ん?」
そんな俺の視線に気づいた―――が、首をかしげる。
「なんでもないよ」
「なんだよー」
可愛くて照れたとか、言えるわけないだろ。
「できたぁ!」
「おー、おつかれー」
「りんりんは?」
「俺もできたよ」
「どれどれー?」
「これ、俺に似てるの?」
「えー、猫耳じゃーん! 可愛いっ」
恥ずかしくて似てるの? って聞いたけど、自分でも―――が作ってくれたキャラは、俺に似ていると思うほどだった。そりゃもちろん美化はされてるけど。
彼女が作ってくれたキャラが嬉しいのと、俺が作ったキャラを喜んでくれてるのと両方嬉しくて、自然と自分が笑っているのに、俺は気づいていたのかな。
「ありがとっ! この子と冒険するの楽しみだなっ」
「俺も」
「名前は……お互いつけたい名前つけよっか!」
「そうだね、たしか誰かが使ってる名前だとダメなんでしょ?」
「え! そうなんだ!? じゃあ急がなきゃっ」
「急げ急げ」
「あ! でも、自分の名前はやめてね?」
「なんで?」
「あたしたちの名前はあたしたちのもの。この子たちには、この子たちの名前をあげたい」
「そっか、わかった」
俺も―――も、それぞれ好きなキャラクターの名前を借りる形で、キャラに名前をつけた。
幸いどちらも第一希望。サービス開始日だったのも、よかったのかな。
「おおっ! 何だこの世界は!」
「あ、種族によってスタートする国違うんだね」
「えー! 寂しい!」
「それぞれの国について教え合うのも、楽しいかもよ?」
「うー、わかったぁ」
椅子ごと移動し、彼女の頭を撫でてあげて、ようやく彼女は納得してくれた。
「武器何にするー?」
「んー、ファンタジーなのに、銃あるって面白いから、銃にしてみようかな」
「ほーほー。あたしは、ボコボコに殴ってやるぜー!」
「―――らしいね」
「え、それどーいうことっ?」
「なんでもありませーん」
違うフィールドでも、―――の声を驚いたり感動したりする声を聞きながらプレイするゲームは、楽しかった。
オンラインゲームだから知らない人も一緒にやってるわけだけど、その場その場で知らない人と遊ぶって、すごいことだよな。
時間が経つにつれ、どんどんプレイヤーが増えていくのも、なんだか新鮮だ。
「やっと会えたね!」
「すぐ隣にいるのに、なんか変な感じ」
〈―――〉『えへへー。はじめましてZeroくん』
〈Zero〉『はじめまして、―――』
「あれ、―――も銃使ってたの?」
「バレたっ!」
「いつのまに」
「りんりんがやってるの見てたら面白そうだったから、りんりんのバイト中にこっそりあげてましたっ」
「どっちが強くなるか、競争だね」
「負けないぞー」
競争、か。
競争なんて言ったのが、よくなかったのかな。
そこから、少しずつ、少しずつ狂いだす俺たちの歯車。
そして迎えたあの日。
「今までありがとうね。もう十分だよ。りんりんは、自分の幸せを見つけてね」
これが夢だと分かっていても、その言葉は俺に複雑な思いを抱かせた。
これは“俺たち”の時間に告げられる、終わりの言葉だったから。
その日から、“俺たち”の時間は、“俺”の時間になった。
彼女と巡ったこの世界を、その日から俺は一人で巡り出す。
リアルの俺は年を取るが、この世界の俺はあの日から変わらぬまま。
変わらぬ俺はこの世界から旅立つこともできず。
今もなお、違う道で生き続ける彼女がいるこの世界を、俺は巡っているのだ。
新しいおもちゃを与えられた子どものような笑顔でじゃれついてきながら、スマホの画面を俺に見せた彼女はそう言った。
くりっとした、猫のような目をした愛らしい子だった。
「オンラインゲーム?」
「そっ! 今度の6月スタートだって! あたしやってみたい!」
「ん、―――がやりたいなら、やってみよっか」
「やったっ! りんりん好き!」
バイトで貯めた貯金を使って、俺たちはPCを新調し、サービス開始の日を待った。
一人暮らしアパートに、デスクトップPCを机とセットで2台並べると、部屋の狭さが際立ったな。
「え、みてみてっ! キャラメイクすごい! なんでもできそう!」
「おー、ほんとだ。何にしようかな?」
「あ、じゃああたしがりんりんを、りんりんがあたしをつくろーよっ」
「えー、変なのにしない?」
「自分の分身になる子だよ? そんなことしませーん」
「じゃあ、頼んだ」
「ん、作ってるとこ見ちゃだめだよー?」
彼女の提案で、俺が―――の、―――が俺のキャラを作る。
テーマは相手に似せること。
普通の女の子キャラより……あ、猫耳の女の子とかもあるんだ。
―――は猫みたいな子だし、ベースはこの種族にしようかな?
「りんりん決まったー?」
「まだー。―――は?」
「んー、もうちょいっ! りんりんの可愛さをちゃんと表さないとっ」
「男に可愛さって、それどうなのさ?」
「えー、だってその可愛いところが好きなんだもーん」
「ほらほら、手が止まってるぞ?」
「おっと、いけないいけないっ」
―――の可愛さと、無邪気さと、素直さが出るような顔……。
あ、この目いいな。あ、この口―――っぽい。髪は、茶髪のセミロング……っと。
ちらっと横目に―――を見ると、真剣そうに俺を作っている横顔が見える。
やっぱり、いつ見ても可愛い。
「ん?」
そんな俺の視線に気づいた―――が、首をかしげる。
「なんでもないよ」
「なんだよー」
可愛くて照れたとか、言えるわけないだろ。
「できたぁ!」
「おー、おつかれー」
「りんりんは?」
「俺もできたよ」
「どれどれー?」
「これ、俺に似てるの?」
「えー、猫耳じゃーん! 可愛いっ」
恥ずかしくて似てるの? って聞いたけど、自分でも―――が作ってくれたキャラは、俺に似ていると思うほどだった。そりゃもちろん美化はされてるけど。
彼女が作ってくれたキャラが嬉しいのと、俺が作ったキャラを喜んでくれてるのと両方嬉しくて、自然と自分が笑っているのに、俺は気づいていたのかな。
「ありがとっ! この子と冒険するの楽しみだなっ」
「俺も」
「名前は……お互いつけたい名前つけよっか!」
「そうだね、たしか誰かが使ってる名前だとダメなんでしょ?」
「え! そうなんだ!? じゃあ急がなきゃっ」
「急げ急げ」
「あ! でも、自分の名前はやめてね?」
「なんで?」
「あたしたちの名前はあたしたちのもの。この子たちには、この子たちの名前をあげたい」
「そっか、わかった」
俺も―――も、それぞれ好きなキャラクターの名前を借りる形で、キャラに名前をつけた。
幸いどちらも第一希望。サービス開始日だったのも、よかったのかな。
「おおっ! 何だこの世界は!」
「あ、種族によってスタートする国違うんだね」
「えー! 寂しい!」
「それぞれの国について教え合うのも、楽しいかもよ?」
「うー、わかったぁ」
椅子ごと移動し、彼女の頭を撫でてあげて、ようやく彼女は納得してくれた。
「武器何にするー?」
「んー、ファンタジーなのに、銃あるって面白いから、銃にしてみようかな」
「ほーほー。あたしは、ボコボコに殴ってやるぜー!」
「―――らしいね」
「え、それどーいうことっ?」
「なんでもありませーん」
違うフィールドでも、―――の声を驚いたり感動したりする声を聞きながらプレイするゲームは、楽しかった。
オンラインゲームだから知らない人も一緒にやってるわけだけど、その場その場で知らない人と遊ぶって、すごいことだよな。
時間が経つにつれ、どんどんプレイヤーが増えていくのも、なんだか新鮮だ。
「やっと会えたね!」
「すぐ隣にいるのに、なんか変な感じ」
〈―――〉『えへへー。はじめましてZeroくん』
〈Zero〉『はじめまして、―――』
「あれ、―――も銃使ってたの?」
「バレたっ!」
「いつのまに」
「りんりんがやってるの見てたら面白そうだったから、りんりんのバイト中にこっそりあげてましたっ」
「どっちが強くなるか、競争だね」
「負けないぞー」
競争、か。
競争なんて言ったのが、よくなかったのかな。
そこから、少しずつ、少しずつ狂いだす俺たちの歯車。
そして迎えたあの日。
「今までありがとうね。もう十分だよ。りんりんは、自分の幸せを見つけてね」
これが夢だと分かっていても、その言葉は俺に複雑な思いを抱かせた。
これは“俺たち”の時間に告げられる、終わりの言葉だったから。
その日から、“俺たち”の時間は、“俺”の時間になった。
彼女と巡ったこの世界を、その日から俺は一人で巡り出す。
リアルの俺は年を取るが、この世界の俺はあの日から変わらぬまま。
変わらぬ俺はこの世界から旅立つこともできず。
今もなお、違う道で生き続ける彼女がいるこの世界を、俺は巡っているのだ。
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