オフ会から始まるワンダフルライフ 人生を彩るのはオンラインゲーム!?

佐藤哲太

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第3章

親父にはぶたれた事あるけど!

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 どれくらい座り込んでいたのかは定かではないが、明けゆく空の陽の光に打たれ、俺の脳が緩やかに動き出してくれた。

 ああ、そろそろ帰らないとな……。
 スマホも家に置きっぱなしだし、やばいな、家主不在とか、みんな心配するよな。

 時計を見ると既に時刻は午前4時半。
 うわ、ほぼ完徹かんてつじゃん……。

 よろよろと俺は立ち上がる。
 昨日朝から着っ放しのYシャツとスラックスが気持ち悪い。
 帰ってシャワー浴びるか。うん、とりあえずそうしよう。

 そう思って俺が歩き出すと。

「うっわ、なんか捨て犬見つけた気分だわー」
「え?」

 不意に聞こえた、聞き慣れた声。

「いやー、気を遣ったつもりだったのに、何、爆死?」
「そ、そんなことねぇよ!?」
「はぁ? じゃあなんでゼロやんそんな顔してんの?」
「え?」
「イケメンの泣き顔とか、いやまぁそれなりにそそるけどさ」
「は!? な、泣いてねぇよ!」
「ばーか、自分の顔見てから言えよ」

 泣いてるのくらい、自分でも分かってるよ……。
 でも少しくらい、強がったっていいだろ。

 それでも、知ってる人の安心感なのか、俺が貸したTシャツにジャージ姿のぴょんの声に、なんだか少しだけ心が軽くなる。
 化粧も落としてすっぴん状態だが、正直すっぴんでもそんなに違いは感じない。

「っていうか、なんでぴょん、ここに?」
「あん?」
「いや、だってだいの家がどことか、知らないだろ?」
「ああ、知らないねー」
「じゃ、じゃあなんでだいの家の方わかったんだ?」
「わかったんだ、じゃねえよ、ったく。今何時だと思ってんだ?」
「え……4時半……だけど」
「あたしがシャワー出たの3時頃だぞ?」
「あ」
「何となく出てった音は聞こえた気がしたけどさ、二人とも部屋の中にもいねーし、だいの鞄はねーし、ゼロやんはスマホ置いてくし、だいは電話でねーし、ああもう1回シャワー浴びさせてもらいてーわ」
「え」

 よく見れば、Tシャツがぴったりとぴょんの身体にはりついている。
 こいつ、まさかこんな汗かくまで、俺のこと探してくれたのか?

「なんかあったんじゃねーかと焦ったわー」
「ごめん」
「いや、なんかあったみてーだけどさ」
「ごめん」
「ゼロやんとだいの二人で、なんでそんなことなってんの?」

 真っすぐに俺を見てくるぴょんの視線に、耐えられなくなる。
 だいの言葉がよみがえり、俺の心を絞めつける。
 うつむいた俺だったが、俺の頭に、ぴょんが触れてきた。

「とりあえず話せ。話せばすっきりする。胸に抱えた言葉は吐き出さないと、お前の心に留まり続けるぞ」

 顔をあげると、朝日を後光にしたぴょんの、真剣な眼差しが俺を捉えていた。
 普段はふざけてばっかなのに、やっぱこいつ、教師だなー。
 俺の方が経歴長いのに、これじゃ俺が指導受けてる生徒みたいだ。

「だいさ、好きな人いるんだって……」

 思いのほか、その言葉は簡単に俺の喉を通ってくれた。
 一度出ると止まらない。せきを切るように、俺はだいの家で聞いたことや、俺が思ったことを、話し続けた。


 10分くらいだったのかな、ぴょんの前では、全てを話せた。
 俺の家とだいの家のちょうど中間くらいという、何とも変な場所での立ち話だったが、ぴょんは俺の言葉を全て聞き終わるまで、しっかりと聞いてくれた。
 ぴょんの言う通り、言ったら少しすっきりした気がする。

「なるほどねー、だいに好きな奴ねー」
「うん、そうみたい」

 とりあえず俺の家に戻るほうに歩きながら、俺はぴょんと言葉をかわす。
 まもなく午前5時。少しずつだが駅の方に向かう人も、現れてきた。こんな朝からご苦労様です。

「で、お前はどうしたいんだ?」
「……え?」

 俺が、どうしたい?
 あー、そりゃそうだよな。ぴょんからしたら、こんな話聞かされても、だから? って思うよな。
 俺がどうしたい、か……。

「別にだいに好きなやつがいたって、だいの自由だろ」
「そう、だよな……」
「ゼロやんがだいのこと好きなのだってゼロやんの自由だしさ」
「そう、だな」

 帰路を歩く足は、思ったよりもしっかり動いてくれた。
 そしてぴょんの言葉に曖昧な相槌を打ちながら歩いているうちに、俺たちは俺の家まで戻ってきた。

「あーもう、じれってーな!」
「え?」

 俺のアパートの階段を登りつつ、階段の踊り場で足を止めるぴょん。

「おい、ゼロやん、目つぶって歯食いしばれ」
「えっ?」
「いいからやれ!」
「は、はいっ!」

 ぴょんの迫力に圧倒され、俺は覚悟を決めて目を閉じて歯を食いしばる。
 確かに女々しかったのは自覚あるけど、ちょっとこの展開は考えてなかった!

 あー、気合入れられるビンタされるとか、学生以来か?

「いくぞー」
「お、おう!」

 さらにぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばり、衝撃に備える。

「え?」

 だが。
 予想していた衝撃は、こなかった。
 というか。

「ひゃあ!?」
「おー、なんだ、元気じゃん?」

 耳元に向けて囁かれる、甘い声。

「な、なにすんだよ!」

 自分でも自覚できるくらい顔が熱い。間違いなく赤くなってるのが分かる。

「ちゃんと元気あんのか確認だよ」
「そ、それはお前が……!」
「あーん? あたしがなんだって?」

 ああもう! なんなんだこいつは!

 気合をいれるために覚悟を決めた俺に訪れたのは、予想外の温もりだった。
 目をつぶった俺にぴょんがやってきたのは、まずはハグ。
 からの優しく耳を噛まれ。
 そしてスラックス越しにアレ俺の俺を触られた。

 全てが予想外で、耳を噛まれたことによる刺激で反応してしまったが、これは不可抗力であるといいたい!
 あ、ちなみにハグの時に反応したわけではないからな!

 赤面したまま俺は、にやにやしたぴょんを睨みつつづける。

「結局、誰でもいいのかー?」
「は?」
「誰でもいいから突っ込んで、腰振って出して満足。それでいいのか、っつってんの」
「はぁ!? 何言ってんだよ! そんなわけねーだろ! ちゃ、ちゃんと相手のこと知って、好き同士しか、そういうのはダメだろ!」
「あ? なんつった?」
「だから! ちゃんと相手のこと知って――」
「なんだ、わかってんじゃん」
「え?」

 突然恥ずかしげもなく卑猥なことを言い出したぴょんだったが、その表情はいたく真剣そのものだった。
 まるで俺の心を見透かすような、そんな眼差しだった。

「ゼロやんにだってだいにだって、自分の過去があんだろーが。それをお前はちゃんと教えて、教えてもらったのか?」
「そ、それは……」
「ゼロやんさ、倫理の先生だからって、人の考えとか心とか、目に見えないものばっか考えるの得意面してんじゃねぇぞ、ばーか」
「は?」
「目に見えるものもちゃんと見ないと、意味ねーぞ?」
 
 なんだ? 目に見えるもの?
 どういうことだ?

「あーあ。これでもあたしも争奪戦エントリー者のつもりなんだけどねー。敵に塩送っちまったやー」
「え?」
「なんでもねーよ、ばーか。おら、帰んぞ」
「帰んぞって、俺んちだろーが……」
「うるせぇな、細かいこと気にすんな粗〇ン!」
「おい!?!?!?」
「あ、でも割とでかかったわ。ごめん、巨〇ンに訂正するわ」
「朝からやめろ!!」
「いやぁ、でも案外可愛い声出すのなー」
「やめんかい!!」

 ぴょんは笑っていた。
 つられて俺もいつも通りのツッコミモードになっている。

 そしていつの間にか、俺も普段の自分に戻っている。
 くっそ、このまな板が……!

 でも、目に見えるものも、ちゃんと見ろ、か。
 そうだよな、だいの想い人はわかんないけど、俺はだいの前に行ける。会うチャンスは幸いある。
 ぶつかってかないと、ダメだよな。
 当たって砕けたって、死ぬわけじゃあるまいし!
 
 俺がどうしたいか、見えてきたら心が軽くなった。
 LAと同じだ。〈Zero〉だって、強敵に挑んで、何回も死んだ戦闘不能になった。でも、何度でも立ち上がってきた。
 俺なんてまだ、戦ってもいないのに。

 俺の一歩先で階段を登るぴょんは、あくびをしている。

 こいつ、いい奴だな……。

 俺は心の中でぴょんに感謝しつつ、彼女の後ろを追って、我が家へと戻るのだった。
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