9ライブズナイフ

犬宰要

文字の大きさ
72 / 82

72

しおりを挟む
 
 時間の感覚さえわからず、一日経ったのか、それとも数時間経ったのか、頭が働かなかった。僕は抱きしめられたまま、涙がこれ以上出ず、落ち着いてきていた。ただ、何も考えたくない程、気持ちが沈んでいた。気持ちを整理し、立ち上がるための時間を与えてくれないのか、遠くで爆発音がした。
 
 また爆発音がし、連続的に爆発音がしていった。
 
 地面が揺れ、さらに爆発がし、今度は今いる場所の下の方からしたような気がした。地面の揺れが今までと違い何か大きく、水路に落とされた時のような不安がよぎった。このままだと危ないと感じ、僕たちはふらつきながらも立ち上がり、涙を拭った。
 
「こ、ここを出よう……このままだと危ない」
「ムッツーと、タ、タッツーはどうするの?」
 ハルミンが震える声で僕に、マナチ、ツバサ、ジュリに聞いた。僕たちはハルミンの問いに答えられず、顔を逸らす事しかできなかった。誰もが悲痛な表情だった。
「そ、そうだよね……も、もう死んじゃってるもの、ね。うぐっ、ひぐっ……」
 
 僕はなんて声をかけていいのか、何も言葉が出なかった。また何も出なかった。
「い、生きよう。二人の分、生きよう……」
 マナチがハルミンに声をかけていた。
「うぐっ、うん」
 ハルミンが頷くと同時にまた爆発がし、僕たちはその場でよろめいてしまう。
 
「い、いったんこの施設から出よう」
 
 揺れた時に、ハルミンはムッツーとタッツーが入っている円状のケースに触れていた。ハルミンは円状のケースに入った二人を見ていた。
 
「ヨーちゃん、ハルミン出よう!」
 部屋の外でマナチが言った。
「ハルミン?」
 ハルミンが円状のケースを見ながら何かをつぶやいていた。
「え、何!? リジェネイト?」
 ハルミンがこぼした言葉が僕には聞こえたが、それがどんな意味を持つのかわからなかった。僕は彼女がいった言葉が聞きなれない単語だったので何か聞き間違えたのかと思った。あとで何を言ったのか聞けばいい、今はここから脱出することが先決だと思った。
「ハルミン、行こう」
 僕は彼女の手を引き、部屋から出て、待っていたマナチたちと合流した。
 
 地上に出る階段の方へ進もうとすると、地面が大きく揺れ、僕たちはまた落ちてしまった。
 
 一瞬の浮遊感の中で、僕たちが落ちた先はさっきの居た場所よりもさらに下の大きな部屋に落ちたようだった。天井が高く、登れそうにもない大きな部屋で周りにはコンテナや檻のようなものが置かれていた。人工筋肉と人体強化のおかげか、高いところから落ちたというのにうまく着地し、どこもケガをしていなかった。
 
 マナチ、ハルミン、ツバサ、ジュリもうまく着地できた事と地面が崩れて無事だったのに驚いているようだった。
 
「みんな、だ、大丈夫か?」
 僕が声をかけるとそれぞれ返事をしてくれた。
「地上を目指そう、この施設に長くいると生き埋めになりそうな気がする」
 みんな頷き、今いる倉庫のような所から出口っぽい扉へと向かった。扉を開くと上の階と同じ通路だったため、階段の場所も同じだろうと歩いてみると一向に見つからなかった。
 
 通路を進んでいくと扉があり、そこを開くと大きな別の倉庫だった。その時生存確率が下がっている事に気づき、僕は首を振って別の道を探そうと周りに伝えた。入り組んでいないものの、扉を開けようとすると生存確率が下がるため、下がらない扉を探すと通路の奥にある場所に行きついた。
 
 僕は多分ここに地上に出る階段があると思い扉を開くと、そこは誰かの部屋だった。
 
「ここに何があるんだ?」
「ヨーちゃんの生存確率もここだって示したんだよね?」
「ああ、みんなもか?」
 みんな頷き、そして首を傾げた。
「もしかしたら、何か知るべきことがここにあるかもしれない。案内図とかあるかも?」
 僕たちはその部屋を物色する事にした。
 
「じゃあ、私はこのパソコンを調べますね」
 ツバサが慣れた手つきでこの部屋の人のパソコンを触り始めた。
 
 部屋はそこそこ広く、オフィステーブルにオフィスチェア、応接テーブルにソファが二つ、側面には書類や本が入っている棚があった。机の上にパソコンが置いてあり、今はツバサが操作して中身を見ていた。ツバサ以外は、書類や本などを物色し、この施設の案内図がないか探していった。
 
 探している最中にツバサが僕たちを呼んだ。
「この部屋、シュシャの仕事部屋です。パソコンのな、中に動画がありました……瓦礫の山の時の動画が……」
 僕はあの場所で本当は何が起きたのか、アーネルトが言っていた事以外に起きた出来事はなんだったのか、知るためにここに何者かに導かれたんじゃないかと思えた。
「ど、どど、どうしますか?」
「見よう、僕は知りたい。知って――」
「知ってどうするの?」
 マナチが悲しい表情をして僕を見ていた。
「わからない、けれど知らないままだと、前に進めない気がしている。ちゃんと知って、それで考える」
 
 僕はあの時、あの場所で、ああしていればよかったと後悔をしたいのだろうか、過去に戻れるのなら、最善の選択を出来るようにしたいからなのか、だから、知りたいと思ったのだろうか?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...