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それはいつもの穏やかな昼下がり、レストラン事業も順調に滑り出しデザートメニューを開発すれば、手待ち時間なく稼働できるのではないかと思いつき、シュークリームにエクレア、プリン、クッキー、ホールケーキを順番に作って、使用人相手の試食会を開いているときだった。
「聖女様どれもこれも大変、美味しゅうございます。ぜひ、これを一般に販売されればカフェだけでなく持ち帰りたいという貴族の皆さまからの注文が増えることでしょう」
「えっ!?テイクアウトもするの?そうね……。カフェタイムにさばききれないかもしれないから、売れ残り対策としてテイクアウトも考えた方がいいかもしれないわね」
分析オタクのリケジョは鳴りを潜め、もうすっかり聖女様として、板についたまりあは、小首をかしげながら、持ち帰りメニューを限定するべきだと思いを馳せる。
そこへ王宮から豪華な馬車とともに、騎士団、たぶん近衛騎士団だと思われる人たちが玄関前の庭先に勢ぞろいしているところが見えた。
ん?いつもは遠慮なしにガラガラ?ギギギー?ズカズカ?と入ってくるところをなぜか入るのを躊躇っているような?
一生、そこにいろっ!と叫びたくなるような衝動に駆られるが、気づかないふりを決め込み、知らんぷりすることにした。
試食に夢中になっていた執事がさすがに気づいたようで、ナフキンで口元を拭いながら、慌てて玄関扉を開ける。
「聖女様はおられるか?」
それを皮切りにお調子者の王弟殿下が入ってこられる。いつものおどけた様子と異なり、今日は沈痛な表情をしていらっしゃる。
何か悪いものでも、食べた?
聞きたくなる言葉をグっと堪え、王弟殿下が口を開かれるまで待つことにする。
「隣国ヤーパンの出店の食材店の主人が死んだ」
「へ?いつ……?」
「死後、1週間は経っていないという見立てだ」
発覚したのは、今朝で昨夜、小麦粉が品薄になったということで注文票を店の扉の隙間に差し込んだものの、今朝になっても注文品が届いていないことに不信を持った王宮料理人の一人が店舗を訪ねたところ、玄関扉も裏口も締まっていたが、騎士数人を同行して、中を検分したところ遺体を発見したというもの。
「事故?事件?自殺?」
「自殺ではないと思う。酔って階段から足を滑らせたようだ」
「転倒死?他に外傷は?」
「ないこともないのだが……、階段から落ちるときにできた傷かもしれないが、カラダ中の骨という骨が折れていた」
「それに……、ヤーパン国に問い合わせを行ったのだが、貴国に出店はしているが、それは王都ではない。というのだ。それで店主の身元もわからない」
元・科捜研の女は、とにかく遺体を診せてくれと頼む。
「いや、とても聖女様がご覧になるような綺麗な遺体ではない。それに腐乱も進んでいる」
「かまわないわ!」
この世界に召喚された時に持っていたリュックサックの中に、ゴム手袋とペンライトは常に入れている。
クローゼットの中から通勤セットが入ったリュックサックごと引っ張り出し、それを持ちながら遺体が安置されている場所まで行く。
初めて倭食材の店を訪れた日のことを思い出す。あの店主はどうみてもニッポン人そのもの。それもその筋の人間だということは明らかで、それにあの店にあったカップラーメンの容器の下に表示されていたニッポン語。
ヤーパン国から輸入したものではないとわかるのは、まりあだけ。
でも、どうやって、あの男が異世界へ来られたのかがまだわかっていない。そのうち聞こうと思っていただけに、今回のおそらく殺人事件は、まりあの元にいた世界に戻るきっかけが掴めそうで掴めなかった現実を突きつけられて、目の前真っ暗状態になっている。
あの時、勇気を出して聞けばよかったのかもしれない。そうしたら、もっと早く、それこそ有給申請を出せていたかもしれないというのに。
とにかく遺体と現場を見せてもらうことが先決だと、王弟殿下に交渉してみる。
「聖女様どれもこれも大変、美味しゅうございます。ぜひ、これを一般に販売されればカフェだけでなく持ち帰りたいという貴族の皆さまからの注文が増えることでしょう」
「えっ!?テイクアウトもするの?そうね……。カフェタイムにさばききれないかもしれないから、売れ残り対策としてテイクアウトも考えた方がいいかもしれないわね」
分析オタクのリケジョは鳴りを潜め、もうすっかり聖女様として、板についたまりあは、小首をかしげながら、持ち帰りメニューを限定するべきだと思いを馳せる。
そこへ王宮から豪華な馬車とともに、騎士団、たぶん近衛騎士団だと思われる人たちが玄関前の庭先に勢ぞろいしているところが見えた。
ん?いつもは遠慮なしにガラガラ?ギギギー?ズカズカ?と入ってくるところをなぜか入るのを躊躇っているような?
一生、そこにいろっ!と叫びたくなるような衝動に駆られるが、気づかないふりを決め込み、知らんぷりすることにした。
試食に夢中になっていた執事がさすがに気づいたようで、ナフキンで口元を拭いながら、慌てて玄関扉を開ける。
「聖女様はおられるか?」
それを皮切りにお調子者の王弟殿下が入ってこられる。いつものおどけた様子と異なり、今日は沈痛な表情をしていらっしゃる。
何か悪いものでも、食べた?
聞きたくなる言葉をグっと堪え、王弟殿下が口を開かれるまで待つことにする。
「隣国ヤーパンの出店の食材店の主人が死んだ」
「へ?いつ……?」
「死後、1週間は経っていないという見立てだ」
発覚したのは、今朝で昨夜、小麦粉が品薄になったということで注文票を店の扉の隙間に差し込んだものの、今朝になっても注文品が届いていないことに不信を持った王宮料理人の一人が店舗を訪ねたところ、玄関扉も裏口も締まっていたが、騎士数人を同行して、中を検分したところ遺体を発見したというもの。
「事故?事件?自殺?」
「自殺ではないと思う。酔って階段から足を滑らせたようだ」
「転倒死?他に外傷は?」
「ないこともないのだが……、階段から落ちるときにできた傷かもしれないが、カラダ中の骨という骨が折れていた」
「それに……、ヤーパン国に問い合わせを行ったのだが、貴国に出店はしているが、それは王都ではない。というのだ。それで店主の身元もわからない」
元・科捜研の女は、とにかく遺体を診せてくれと頼む。
「いや、とても聖女様がご覧になるような綺麗な遺体ではない。それに腐乱も進んでいる」
「かまわないわ!」
この世界に召喚された時に持っていたリュックサックの中に、ゴム手袋とペンライトは常に入れている。
クローゼットの中から通勤セットが入ったリュックサックごと引っ張り出し、それを持ちながら遺体が安置されている場所まで行く。
初めて倭食材の店を訪れた日のことを思い出す。あの店主はどうみてもニッポン人そのもの。それもその筋の人間だということは明らかで、それにあの店にあったカップラーメンの容器の下に表示されていたニッポン語。
ヤーパン国から輸入したものではないとわかるのは、まりあだけ。
でも、どうやって、あの男が異世界へ来られたのかがまだわかっていない。そのうち聞こうと思っていただけに、今回のおそらく殺人事件は、まりあの元にいた世界に戻るきっかけが掴めそうで掴めなかった現実を突きつけられて、目の前真っ暗状態になっている。
あの時、勇気を出して聞けばよかったのかもしれない。そうしたら、もっと早く、それこそ有給申請を出せていたかもしれないというのに。
とにかく遺体と現場を見せてもらうことが先決だと、王弟殿下に交渉してみる。
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