純潔の証 魔女な姉に嵌められた聖女な妹は、婚約破棄の上、国外追放処分に~それを追いかける使用人とともに幸せを掴む

青の雀

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 その頃オフィーリアは、といえば、国境を超えたあたりに懐かしい公爵邸が突如として、現れ、その中でゆっくりとくつろいでいたのである。

 真夜中、国境付近で馬車を下ろされたオフィーリアは、途方に暮れていたところ、

 「お嬢様!」

 呼びかけに振り向くと、懐かしい領地の使用人がいたのである。そして、国境の中では、マズイからといって、国境を越えたところに、公爵邸を出してくれたのである。そこで、とりあえず湯あみをして、着替えて寝る用意をしていると、続々と王都の者や、領地の使用人が集まってきてくれたのである。

 「みんな、来てくれたのね。ありがとう。」

 「何を仰いますお嬢様。聖女様を追放するようなバカな国にはおれません。」

 「そうですとも、イヴリージュ様は、見た目だけ清純の腹黒女に殺されるかもしれなかったのですから、早いこと出られてよかったですわ。」

 聖女という言葉を聞いて、今まで罪人扱いをしてきたブルッスリンの御者、兵士が驚き跪く。でも国境は超えていますから、こちらには、手出しできませんよね。

 「あ、あの……今までのご無礼、お許しくださいませ。私たちは上からの命令で聖女様をここまで連れてきただけですから。」

 「わかっておりますわ。お役目ご苦労様です。」

 「あ、あ、あの……。」

 兵士の一人が急ぎ、砦まで走っていき、戻ってきたのは、戸板に乗せられたけが人のようだった。

 「この前、魔物が来たとき、襲われたんです。」

 見ると、片腕がちぎられている。
 ああ、治せってことね、いいわよ。このまま見逃してくれるのなら。
 けが人の腕あたりに手をかざすとみるみるオフィーリアのカラダから金色の光が出て、けが人のちぎれた腕あたりに集まる。

 「本物だ。本物の聖女様だ。」

 誰か一人の兵士がつぶやくと、真夜中の国境は大騒ぎになる。
 でも、ここは、ブルッスリン国では、ありませんよ。
 ちぎれた片腕は完全に修復されて、どこをどういうふうに怪我していたのかわからないぐらい治っている。それからはというもの、砦から大けがではないにしろ、骨折した人たちや水虫や薄毛で悩んでいる人まで、ブルッスリンの砦から、わんさか人が出てきて、集まってくる。

 何度も言いますが、ここはもうブルッスリンでは、ありませんよ。もう、わたくしブルッスリンの聖女ではありませんから。

 そうこうしていると、隣国の国境警備兵たちも何事か!と集まってくる。一時は有事かと思える騒ぎになったのは言うまでもないこと。

 「わたくし、姉の王太子妃に嵌められて、国外追放処分になってしまいましたのよ。それで、今夜だけでよろしいので、ここに屋敷を出して一晩過ごさせていただけないでしょうか?」

 「ようこそ聖女様。ようこそグリーンマウンテン国へ。一晩と言わず、いつまでもご逗留いただいて構いませんよ。そして、明日になれば、グリーンマウンテンの王都へご案内いたします。」

 国境警備兵は、魔法鳥を飛ばして、すぐさま連絡を取っているようである。
 ブルッスリンの兵士を国境線まで下がらせ、

 「これよりの治療はグリーンマウンテンの許可がいるものとする。むやみに我が国の聖女様に近づくことは許さぬ。出て行け!」

 苦虫をかみつぶした顔をしているブルッスリンの兵士たち。
 翌早朝、ブルッスリン王家に衝撃が走る。昨夜、追放したモンドバール家の次女オフィーリアが実は聖女であることが判明したからである。

 聖女は純潔でなければなれない。となると、イヴリージュが言っていた逆ハーレムの事実は嘘だったことが証明されるのである。

 国王陛下は、まだ、寝ていた王太子夫妻を叩き起こし、貴族牢に入れる。王城に泊っていたモンドバール公爵夫妻もしかり。そして、第2王子サイモン様は、羽交い絞めにされ、寝ぼけた顔をしたまま、その場で国王自ら手を下し切り殺され、処刑されたのである。

 「うそです。オフィーリアが聖女ならわたくしに言っているはずですわ。何も聞いておりません。」

 「冤罪で妹を嵌めるような姉に誰が、聖女であることなど話すか!バカ者めが!貴様は、ただ、死罪にするだけでは飽き足らぬわ。」

 「冤罪ではありません。わたくしは見たのです。本当です。信じてください。」

 「聖女は純潔の証だということも知らぬのか!そこまでして、妹が憎いか?それとも逆ハーレムは、そなたの願望か?よかろう。望みをかなえてやる。」

 怯えているイヴリージュにガーファンクル王太子が寄り添う。

 「ガーファンクルよ。まだ目が覚めぬか?その女は魔女である。妹を冤罪で嵌め、国外追放にするような女は、魔女である。魔女は魅力的なのである。昔から聖女と魔女は一対であるのだ。聖女の存在が明らかとなった今、魔女を殺さねばこの国は亡ぶのである。」

 聖女と魔女は一対、昔からの言い伝えは本当であったのである。よく双子で片方が聖女となった場合は、もう一方が魔女であることが多いと言われてきたのだが、姉妹での対というのも珍しいことかもしれない。

 国王陛下は、目で合図をし、モンドバール公爵夫妻と王太子夫妻は貴族牢から地下牢へ入れられることになったのだが、当然、独房である。結託して逃げられては困るから。

 「恐れながら、陛下、オフィーリアは我が娘でございます。わたくしどもは、聖女の両親でありますゆえに……。」

 「昨夜、聖女様にお前など娘でもなんでもないから、出て行けと言ったそうだな。そればかりか……」

 牢の中で思い切り、鞭で打たれた。「ひっ!」

 「事もあろうか、モンドバールよ。聖女様をぶっ叩いたそうだな。聖女の両親は、すなわち魔女の両親であるということだ。」

 イヴリージュは、着ていたネグリジェをはぎ取られ、素っ裸にされたうえで牢の中に野卑な男たちを入れられ、犯され続けられ、喘ぎ続けたのである。

 「よくみておけ!これが魔女の正体だ!」

 「イヴリージュ……。」

 貞淑な可愛い妻の正体を知り、泣き続けているガーファンクル王太子殿下。
 モンドバール公爵は、溺愛していた娘のあられな姿よりも、鞭で打たれることを嫌がり、体はみみず腫れしている。

 「助けてくれー!儂は、オフィーリアの父親だぞ!聖女の父にこんな無体なことをして、ぎゃー!」

 「聞くところによると、今までお主は、オフィーリアに体罰をしてきたと聞くが?」

 「あれは、しつけの一環で、……うぐっ。」

 「では、これもしつけの一環だ。覚悟いたせ。」

 公爵夫人も同罪だとして、指を一本ずつ折られ、痛みに悶えている。

 「許し、て……くだ、さい。グキ!主人を止められなかったことは、わたくしの、ボキ……痛い!……せ、いです。」

 次の日、全員、公開処刑となったのである。

 王城の広場には、王太子夫妻と公爵夫妻が処刑されるとあって、大勢の民がほとんど物見遊山気分で見に来ている。今まで、贅沢三昧をしていた王太子妃が魔女であったことがわかり、イヴリージュに向かって投石をする者が後を絶たない。「ざまぁみろ」との民の悪意を受けて項垂れるイヴリージュ。

 こんなことならオフィーリアを処刑しとけば、良かったと思うも後の祭り。
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