前世調理師の婚約破棄された公爵令嬢料理人録 B級グルメで王太子殿下の胃袋を掴めるように頑張ります!

青の雀

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3 かつ丼

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 今日は、なんとなく豚肉の生姜焼きが食べたい。単なる個人的趣味だけど、前世の我が子が好きだったとんかつも併せて作ってみることにする。生姜焼きの豚肉は薄切りロースなんだけど、なんとなく、ヒレが食べたいと念じてみたら、ヒレの塊が落ちてきたので、とんかつと一口ヒレカツも作ってみることにしたのである。

 とんかつには、冷えたビールが美味しい。

 ついでに豚の角煮も作ろう。圧力鍋があるから、これも簡単にできる。角煮には、日本酒が合う。

 生姜焼きのお供は何と言っても白い炊き立てご飯が合う。豚肉と水菜のハリハリ鍋もいいかもしれない。お酒は、やはり日本酒が合うと思う。

 とんかつを作るのならば、かつ丼も作らなきゃね。卵を割りほぐし準備をしていく。玉ねぎを刻んでいると涙が出てくる。

 玉ねぎを刻んで泣いていたら、まだ準備中にもかかわらず、ご新規のお客様がそっとハンカチを差し出してくれたので驚く。

 玉ねぎの刻むことにより細胞が壊れ、硫化アリルという物質が鼻や目の粘膜を刺激して起こるのだが、この世界の人はそんなこと知らないだろうけど。それにしてもどこから入ったのかしら。外には、護衛の騎士がいるはずで入れないのだけど。

 「開店までまだですが、何か飲みますか?それとも食べます?」

 昨日の残り物のぶり大根と日本酒を提供したのである。

 「いや、扉が開いていたので、いい匂いがしていたからのぞいただけですし、そうしたら君が泣いていたので、ビックリして……。せっかくだからいただこう。」

 「泣いていたのではなくて、玉ねぎを刻むと生理現象で涙が出るのですよ。」

 「そうなんだ。この魚も大根も美味しい。」

 「うふ、その魚はブリと言って出世魚と呼ばれるものなのですよ。」

 「ほう、魚でも出世するのですか?」

 「名前が大きく成長するにつれて、どんどん変わっていくのね。縁起がいい魚だから、召し上がってください。」

 「今日の料理は豚肉を使ったものです。よければとんかつやかつ丼、これは勝つに掛けているので、何か勝負事などに縁起がいい食べ物ですよ。」

 「この店は、縁起がいい名前の料理がたくさん出てくるのですね。」

 そういえば、前世の夫が、料理で人生の機運を変えるみたいなことを言っていたな……、彼は今頃どうしているのかしら。一度は、たぶん愛し合って結婚したのだろう。名前も顔も全然思い出さないけど、もみじや梅の花が咲くと、料理に活かせないか、いろいろ考えていた後ろ姿だけが印象的によく覚えているが、それ以外は、サッパリ忘れている。

 結局、ご新規のお客様は、その後もずっと店の中に居続け、いろいろとおしゃべりをしたわ。若い男性だから、今が一番、食べごろ?変な意味じゃないよ。

 ミドルティーンから、そうね。30歳前半ぐらいまでの男性は、めちゃくちゃ食べる。それぐらいの男性が家にいると家計を圧迫するかと思うほど、よく食べる。一番身体ができる年頃なのかもしれない。

 ご新規様は、ぶり大根を食べた後、シュークリームにマカロン、プリンを食べてコーヒーを入れてあげると、「変わったお茶ですか?」

 「これは、茶葉ではありません。ある豆を粉にしたものを焙煎してできた飲み物です。お好みでお砂糖やミルク、牛の乳を入れて召し上がってくださいね。カフェインが含まれているので、朝飲むとシャキっと目が覚めます。」

 「代金はいかほど支払えばいいですか?」

 「ああ、これは昨夜の残り物と賄いなので、いりませんよ。わたくしのおやつみたいなものですから、だけどとんかつやかつ丼は1食銀貨1枚いただきますわ。お酒は、一杯銅貨6枚です。ぶり大根と一緒にお出ししたお酒は、サービスです。」

 「いいんですか?こんなにごちそうになって。ありがたくいただいておきます。私は隣国からの旅人で、しばらくこちらで滞在する予定です。ディヴィッドと申す若輩者です。レディのお料理を大変気に入りました。できれば、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 「わたくしは、この店のオーナーで、ミルフィーユ・マドレーヌと申します。それで、マドレーヌ亭と店の名前ですわ。またのお越しをお待ち申し上げています。ハンカチどうもありがとうございます。明日まで、お預かりさせていただきますわ。」

 ディヴィッド様は、せっかくだからと、かつ丼も召し上がられて、上機嫌で帰って行かれたわ。

 その日また、仕事帰りに王宮の兵士や騎士がわんさか来てくださって、平穏な一日が終わりました。とんかつにビールの組み合わせがよく、たくさん売れましたわ。商売繁盛で何よりです。
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