上 下
8 / 12
鞍馬の蔵、呪の血文字

しおりを挟む
 姉小路御幸は、唸っている。
 四宮和夫の愛人の写真とアリバイを聞きながら、

 「ここには、いてへんか?」

 「強いて言えば、全員怪しいともいえる。」

 「へ?なんでや?皆、アリバイあるやろ?」

 「こんなアリバイあってないのと同じやわ。全部崩す自信あるわ。それに共犯者がいてたら誰にでも可能なのと違う?」

 「そらまあな、あ!そや、四宮敬一郎の嫁はん、四宮美千代やったかいな?奴さんも四宮和夫と関係あったみたいな証言が取れたで。ホテルの従業員の裏が取れた。」

 「うそー!四宮和夫さんって、女やったら、誰でもいい人?」

 「守備範囲が広いみたいやで、18歳から42歳まで。よう見たら、四宮美千代、男好きするカラダしてるで。」

 「そうかな?普通のオバサンにしか見えないけどね。」

 「御幸ちゃんは、まだ男というものがわかっていない。ああいう年増好みの男もいてるんやで。」

 「あんまりわかりたくないわね。でも普通のオバサンぽかったような気がする。」

 「え?なんや?」

 「霊視で視た後ろ姿の女の人のこと。」

 「ほんまか?おおきに。そうなると四宮美千代を手に入れようとして、四宮敬一郎を殺したのは、四宮和夫で。その敵討ちを四宮美千代がしたとも、考えられるな。」

 「まだ、決めつけるのは早いよ。」

 「わかってる。捜査は、あらゆる可能性を考えるものやから。」

 捜査本部では、重要参考人として、四宮美千代から事情聴取することを決める。



 姉小路御幸の本職は、拝み屋さんであるから、今日もお仕事します。

 今日のご依頼は、病院。妙心寺近くにある、そこそこ大きさの病院でのこと。ここの院長も理事長も京大病院系で、誇りを持っているはずだが、なぜか死亡事故が多い。

 昔、歌舞伎役者がフグの肝を食し、胃の洗浄のために運ばれた病院でもある。

 誰かが故意にやっているとしか思えないぐらいに、頻繁に起こる。医療事故の場合、業務賠償責任保険に入っているので、示談金は、すべて保険金から支払われるのだが、最初は、遺族はとにかく、お金が欲しいから、200万円でも現金を提示されると、すぐOKするのだが、ここに弁護士が介入すると、あっという間に2000万円に膨らんでしまう。これも、保険で支払われるのだが、弁護士は自分たちの受け取る報酬を釣り上げるため、示談金を多額に請求させるのである。

 では、なぜ多額の賠償金を支払ってまで、不起訴処分を勝ち取りたいか。ケチな理事長がどうしてそこまでするかというと答えは簡単。院長が自分の娘であるから。娘に傷がつくことを恐れ、相手方の弁護士の言いなりになる。

 ここでのご依頼は、出る。ということに尽きる。あちこちにウジャウジャいるので、まとめて、大祓いして、成仏させるが、次から次から、自分も成仏させてくれと言われるので、疲れる。

 この病院の最上階部分に理事長の私室があるのだが、ここに猛烈、いる。おそらく理事長への個人的な恨みつらみがここに集まってくるのであろう。

 理事長の私室と職員食堂は繋がっているので、職員は常に理事長の顔色をうかがいながら食事をしなければならず、職員も体調不良を訴えるものが多い。

 でも、口が裂けても理事長に「退陣してください。」なんて、誰も言えず。密かに辞めていく。それでますます看護師不足に陥り、看護基準が満たされなく経営が圧迫されるという悪循環におと言っているばかりか、霊のたまり場になっているのである。

 どうやら、この最上階部分に冥途への道があるらしく、理事長室を通って、あの世へ行かれる方が多いようです。

 「やっぱり、理事長室だよなぁ。」

 御幸はつぶやくが、ここは関係者以外立ち入り禁止。病院経営の心臓部である。
 仕方なく、宮大工棟梁の秘伝を、理事長不在の時にやることにした。蔵みたいに何度もしなくても、一回できれいになりました。
 でも、理事長から部屋が臭い、と苦情が来たとか何とか、あとは野となれ、山となれ、で逃げましたよ。おーこわー。



 捜査本部が四宮美千代の事情聴取を行おうとするも、出来ない。なぜなら、四宮美千代が死体で発見されてしまいました。また、警察が一足遅れです。

 犯人かもしれないと思っていた人物が殺されてしまいました。
 これから、どうなるのでしょうね。

 あまり、姉小路御幸に頼んでばかりいるから、出遅れるのよ。
 ちゃんと、自分たちで捜査方針をまとめてくださいね!
しおりを挟む

処理中です...