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鞍馬の蔵、呪の血文字

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 清水寺の除霊がまだ終わらない姉小路御幸のもとに京都府警から、いちいちあれやこれやを言ってくるので、ほとほと困っているのだが、向こうは「これは殺人事件の捜査だ」と大義名分を振りかざしてくる。

 とは言われても、拝み屋が本業なので、

「事件関係者の洗い出しをしてみて。」

 ぐらいのことしか、言えない。だいたい、犯人はわかってきているのだが、それを警察に言うわけにはいかない。

 何度も言うが、霊視では証拠にならないから。

 犯人は、被害者の近くにいる人物。
 そして、被害者と何らかの利害関係がある人物。

 となると、あの人しかいないわよね。

 あの人とは、四宮敬一郎の娘か娘のボーイフレンド、共犯という可能性もあるかも?
 だいたい、もう20歳になる娘がいつまで親と一緒に、海外旅行なんてする?
 自分が海外旅行をしている間に、敬一郎さんを亡き者にして、それをおそらく和夫さんに見られていたのではないかな?それで、葬儀が終わった後、おそらく、葬儀に彼氏は出ていたのではないかな?

 和夫さんが、敬一郎さんが殺されるところを見ていて、犯人を脅したのではないかな?
 それで返りうちになって死ぬも、それを今度は、母親の美千代に見られる。

 「娘と別れてくれたら、黙っていてあげる。」とかなんとか言われて、美千代も殺害。美千代を殺したのが佳代子さんとまではいないけど、呼出しぐらいはしたかも?

 そして、2億1000万円の保険金を恋人と二人で山分けする。
 証拠は何もない。
 だから、警察には言えない。

 さてと、お仕事の続きでもしますか。
 もう嫌になるぐらい不成仏霊がうじゃうじゃいるから、誰が最初に舞台の上から番傘を広げて飛び降りたのよ。

 おかげで、こっちの仕事がまだ終わらないっちゅうの。

 あまりうるさく言ってくるもので、ついに警察にポロっとしゃべったら、慌てて裏を取りに行ったみたい。こんなこと、簡単にわかるでしょ?

 そして、佳代子と同じ大学に通っている19歳の少年が逮捕されることになったのである。
 そうか、まだ少年法の範疇にいたわけか?3人殺しても少年なら、死刑にならない。そこを狙ったのか?

 とにかく事件は終わる。

 姉小路御幸の清水寺もようやく、終わった。もうしばらくは、霊の顔もみたくない!と思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 というわけで、今日のご依頼は、みなさん絶対行ってはいけません。京都のあるトンネルのお話です。面白半分に行かないでください。

 行けば、確実にあの世へ引っ張られます。

 そう、このトンネルの仕事だけはしたくなかったのよ。
 こんなの若い娘がする仕事ではないのだけど、だれも浄霊ができないらしく、ついに御幸のところへ回ってきたのだ。

 あーいやだ、いやだ。勘弁してよ。この前の清水寺は、まだここに比べると善男善女の霊だったけど、ここはね。

 だめだ。考えていたら、向こうの世界に引っ張られる。
 考えないで、パパっとやりましょ。宮大工の秘伝術も使って、いやトンネル内で火災はダメだ。それこそ一酸化炭素中毒で死んじゃう。

 うーん。どうしようかな?お神楽でも舞おうか?
 シャンシャンと鈴の音、高らかに一心不乱でお神楽を舞う。
 少しだけ、空気が清浄になってきたのを感じる。

 気が付けば、10時間ぶっ続けで、待っていたわ。
 あーしんど。
 ほな、帰りまひょ。
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