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8.ベルディの過去
ロッテンマイヤー家の妻妾同居の問題は、スカーレットとの婚約関係にあるロベルト殿下の元にも知らされることになった。
貴族の庶子なんてものは、王家を含め、別に珍しいものではない。これが王家ならば、第2夫人、第3夫人と側妃を何人もいても、当然のことで、それは、後継者がかならず必要となる王家に限って言えばの話。
公爵家など、誰が継いでも、たとえ傍系が継いでも問題にならないような貴族家の話ではない。
妻妾同居で問題にならないのは、どちらか一方が、逝去している場合か、本妻と正式に離婚が成立している場合だけが可能なのだ。
本妻が死亡した後で、愛人が乗り込んでくることは、ままある。愛人が死亡した後で、庶子だけが貴族家に引き取られるという話も、ままある。
だけど、今回のようなケースは稀で、というより前代未聞の話で、王家も混乱した。いっそのこと、スカーレットとの婚約を白紙に戻した方がいいのではないかという案まで出てきて、ロベルトは焦りまくる。
ロッテンマイヤー家側の言い分では、到底、愛人と認められない事案だからだ。
スカーレットにとれば、願ってもない話だが、そう簡単にコトは進まないだろう。
でも、今世ならわかる。だから、前世、お母様を亡き者にしようと企んだことを。
ベルディは、ロッテンマイヤー家から戻っても、なお精力的に動き、リリアーヌの認知を求めている。
スカーレットが王家に嫁げば、後継者に空きが出る。そこにリリアーヌを入り込ませれば、ロッテンマイヤー家の財産をすべて、リリアーヌが相続することになるから。
ベルディは、そのためには何としても、ロッテンマイヤーに認知を求めなければ、どうにも話にならない。
ベルディ自身も、別にロッテンマイヤー公爵夫人になりたいと思っているわけでもなく、ましてやロベルトの義姑になることなど、もっと望んでいないこと。
正直なところ、リリアーヌの父親は誰かわかっていない。はっきりしていることと言えば、それがロッテンマイヤーではないということだけ。
ロッテンマイヤーを選んだのは、一番いい条件だったから。
ベルディの両親は、ともに冒険者で、腕が良くSクラスだったことから、王家は、一代限りの爵位を与え、ジェミニ王国に留まることになったのだ。
冒険者は元来、流れ者で旅から旅の生活。一か所に留まることは、冒険者を廃業することを意味しているが、当代限りであっても、爵位をもらえるのであれば、憧れのお貴族様の仲間入りを果たすことができる。一つの夢をかなえることは、自己実現から見ても、成果のひとつであるわけだ。
それでタキシードを誂え、嫁にも綺麗なドレスを買い与え、娘のベルディとともに、幸せな暮らしが待っているはずだった。
しかし現実は、そんな甘いものではないということをイヤというほど味わう羽目になった。
体のいい傭兵としての扱いしかなかったのだ。傭兵を雇うには、それ相応の莫大な資金が必要になるが、男爵という爵位を与えれば、必要最低限の費用、つまるところ実費だけで、いつでも魔物討伐など、危険な任務を一手に背負わせることになる。
なぜなら、爵位に見合った支給金だけを1年に一度、国から支給され、その他に鎧や武器のメンテナンスなど一切合切は、自己負担となる。
その実態にいち早く気づいたベルディの父はヤケを起こし、酒浸りの生活を送るようになる。ベルディの母もまた、そんな夫の姿を見て、嫌気がさし、愛想を尽かせて、若い男と駆け落ちをする。
飲んだくれの父の酒代を稼ぐため、ベルディは幼い頃より、近所のパブで働くようになり、やがて女給を経て、カラダを売るようになっていった。
13歳で処女を失ってからというもの、ちょっと身なりがイイ男を見つけては、酒にいろんな種類の酒をわからないように混ぜ、相手を酔わせて関係を持って行き、お小遣いをせびるということを覚えてしまった。
そして生まれたのが、リリアーヌで。だから、リリアーヌの父親は本当は、ロッテンマイヤー公爵閣下とは、何の関係もない。
あの日、偶然、道端で青白い顔でゲーゲー吐いていた男の身なりが、店に来る客の身なりとずいぶん違って上等な服装だということが分かった。
それでその男を連れ帰り、部屋で介抱をするふりをしながら、男の衣服をはぎ取っていく。見た目は優男なのに、筋肉質で体格が良いところも、ベルディの気に入ったところだ。
ベルディは、着ていた服を乱暴に脱ぎ捨て、その男と同じベッドの中にもぐり込んで朝が来るのをジっと待っていた。
男は目覚め、傍に見知らぬ裸の女がいることに気づき、平謝りで、持っていた金貨のすべてをベルディに渡した。
それはベルディが、一年かけて朝から晩まで働いたとしても、到底もらえるような金額ではなかった。年収換算して、約3年分に匹敵する大金を裸で共に横になっていただけで稼げるとは、思ってもみなかったことに狂喜したことは言うまでもない。
こんなボロい商売があったとは、今までなんで気づかなかったのか、と。
それからは、貧民窟の安いパブではなく、王都の繁華街のパブで働き、貴族がベルディの網に引っかかることをひたすら待ち続けた。
でも、男の方もお金をくれるだけではなく、実際にベルディのカラダを要求してくるゲスな野郎が少なからずいた。
仕方なくそういう男と、たまに寝て、次なる獲物が引っかかるのを待つことにした。
そうして、引っかかったのが、ロッテンマイヤー公爵閣下だったというわけ。
酔っていてもロッテンマイヤー公爵閣下は、紳士的で、どんなにベルディがセクシーポーズで誘惑しても、指一本手出しをしてこなかった。そんなところが、ベルディのハートをわしづかみしたと言ってもいいだろう。
貴族の庶子なんてものは、王家を含め、別に珍しいものではない。これが王家ならば、第2夫人、第3夫人と側妃を何人もいても、当然のことで、それは、後継者がかならず必要となる王家に限って言えばの話。
公爵家など、誰が継いでも、たとえ傍系が継いでも問題にならないような貴族家の話ではない。
妻妾同居で問題にならないのは、どちらか一方が、逝去している場合か、本妻と正式に離婚が成立している場合だけが可能なのだ。
本妻が死亡した後で、愛人が乗り込んでくることは、ままある。愛人が死亡した後で、庶子だけが貴族家に引き取られるという話も、ままある。
だけど、今回のようなケースは稀で、というより前代未聞の話で、王家も混乱した。いっそのこと、スカーレットとの婚約を白紙に戻した方がいいのではないかという案まで出てきて、ロベルトは焦りまくる。
ロッテンマイヤー家側の言い分では、到底、愛人と認められない事案だからだ。
スカーレットにとれば、願ってもない話だが、そう簡単にコトは進まないだろう。
でも、今世ならわかる。だから、前世、お母様を亡き者にしようと企んだことを。
ベルディは、ロッテンマイヤー家から戻っても、なお精力的に動き、リリアーヌの認知を求めている。
スカーレットが王家に嫁げば、後継者に空きが出る。そこにリリアーヌを入り込ませれば、ロッテンマイヤー家の財産をすべて、リリアーヌが相続することになるから。
ベルディは、そのためには何としても、ロッテンマイヤーに認知を求めなければ、どうにも話にならない。
ベルディ自身も、別にロッテンマイヤー公爵夫人になりたいと思っているわけでもなく、ましてやロベルトの義姑になることなど、もっと望んでいないこと。
正直なところ、リリアーヌの父親は誰かわかっていない。はっきりしていることと言えば、それがロッテンマイヤーではないということだけ。
ロッテンマイヤーを選んだのは、一番いい条件だったから。
ベルディの両親は、ともに冒険者で、腕が良くSクラスだったことから、王家は、一代限りの爵位を与え、ジェミニ王国に留まることになったのだ。
冒険者は元来、流れ者で旅から旅の生活。一か所に留まることは、冒険者を廃業することを意味しているが、当代限りであっても、爵位をもらえるのであれば、憧れのお貴族様の仲間入りを果たすことができる。一つの夢をかなえることは、自己実現から見ても、成果のひとつであるわけだ。
それでタキシードを誂え、嫁にも綺麗なドレスを買い与え、娘のベルディとともに、幸せな暮らしが待っているはずだった。
しかし現実は、そんな甘いものではないということをイヤというほど味わう羽目になった。
体のいい傭兵としての扱いしかなかったのだ。傭兵を雇うには、それ相応の莫大な資金が必要になるが、男爵という爵位を与えれば、必要最低限の費用、つまるところ実費だけで、いつでも魔物討伐など、危険な任務を一手に背負わせることになる。
なぜなら、爵位に見合った支給金だけを1年に一度、国から支給され、その他に鎧や武器のメンテナンスなど一切合切は、自己負担となる。
その実態にいち早く気づいたベルディの父はヤケを起こし、酒浸りの生活を送るようになる。ベルディの母もまた、そんな夫の姿を見て、嫌気がさし、愛想を尽かせて、若い男と駆け落ちをする。
飲んだくれの父の酒代を稼ぐため、ベルディは幼い頃より、近所のパブで働くようになり、やがて女給を経て、カラダを売るようになっていった。
13歳で処女を失ってからというもの、ちょっと身なりがイイ男を見つけては、酒にいろんな種類の酒をわからないように混ぜ、相手を酔わせて関係を持って行き、お小遣いをせびるということを覚えてしまった。
そして生まれたのが、リリアーヌで。だから、リリアーヌの父親は本当は、ロッテンマイヤー公爵閣下とは、何の関係もない。
あの日、偶然、道端で青白い顔でゲーゲー吐いていた男の身なりが、店に来る客の身なりとずいぶん違って上等な服装だということが分かった。
それでその男を連れ帰り、部屋で介抱をするふりをしながら、男の衣服をはぎ取っていく。見た目は優男なのに、筋肉質で体格が良いところも、ベルディの気に入ったところだ。
ベルディは、着ていた服を乱暴に脱ぎ捨て、その男と同じベッドの中にもぐり込んで朝が来るのをジっと待っていた。
男は目覚め、傍に見知らぬ裸の女がいることに気づき、平謝りで、持っていた金貨のすべてをベルディに渡した。
それはベルディが、一年かけて朝から晩まで働いたとしても、到底もらえるような金額ではなかった。年収換算して、約3年分に匹敵する大金を裸で共に横になっていただけで稼げるとは、思ってもみなかったことに狂喜したことは言うまでもない。
こんなボロい商売があったとは、今までなんで気づかなかったのか、と。
それからは、貧民窟の安いパブではなく、王都の繁華街のパブで働き、貴族がベルディの網に引っかかることをひたすら待ち続けた。
でも、男の方もお金をくれるだけではなく、実際にベルディのカラダを要求してくるゲスな野郎が少なからずいた。
仕方なくそういう男と、たまに寝て、次なる獲物が引っかかるのを待つことにした。
そうして、引っかかったのが、ロッテンマイヤー公爵閣下だったというわけ。
酔っていてもロッテンマイヤー公爵閣下は、紳士的で、どんなにベルディがセクシーポーズで誘惑しても、指一本手出しをしてこなかった。そんなところが、ベルディのハートをわしづかみしたと言ってもいいだろう。
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