幸せの電子レンジ~本物の聖女様だったことがわかり、今更戻って来いと言われても遅いです

青の雀

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1.召喚

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 家電量販店に勤務するリケジョの東大路星羅(ひがしおおじせいら)は、社割で買った電子レンジと炊飯器を二宮金次郎のごとく担いで……リュックサックに入らなかったので、背中に背負い自宅への道を急いでいた。

 大学を卒業してから、家電会社で調理器具の売り場で働き、時折、趣味で修理課のお手伝いをしていた。修理は、だいたい店が終わってから行われるが、たいてい家電量販店に勤務する者は、理科系の大学を学部卒か院卒者が大半を占めており、いちいちメーカーに送らなくても、簡単な故障ぐらいなら自分たちで直せるというもの。

 それで修理課が配送部も兼ねていて、社割で買った物品は、配送料無料で自宅まで届けてくれることが常なのだが、どうしても、早く開けたい星羅は、配送で送られてくることを待ちきれない。

 それで背中に担ぐような不格好な姿で、家路を急いでいる。店舗から自宅まで、徒歩10分ぐらいなので、別に電車に乗って、周りの乗客に迷惑をかけるわけではない。唐草模様の風呂敷に包んで背負っているわけでもないから、家電会社の包装紙を上からかぶせるように貼り付けておいたので、泥棒にも見えないだろうということは明らかだから、周囲の目など気にしない。

 だいたいリケジョに限らず理科系は奇人変人が多い。だから独特の発想ができて、モーベル賞候補になるというものも頷けるところ。

 普段は、自転車通勤をしているのだが、今朝はあいにく雨だったので、徒歩で帰ることになったのだ。

 店舗から自宅まで、繁華街のアーケードがあるので、ほとんど濡れずに帰宅できるけど、いつも長い傘を持ち歩く、それは星羅が身長の割に小足で、バランスが悪くよく転ぶ。そのため、杖を持ち歩きたいが、25歳の若さで杖を使うことに抵抗がある。それで杖の代わりに傘を使っている。それに、長い傘なら、いざというとき、武器にもなる。いざというのは、もちろん痴漢のこと。

 学生時代から、電車に乗ると必ず痴漢に遭う。それも小学生のころから、いつも手を握られたり、お尻を触られたり、時々、星羅をみて欲情して、ズボンの中身を見せる痴漢までいる。とても、迷惑で困っているにも関わらず、イヤそうなそぶりを見せるとかえって痴漢にその気をさせるようで、ほとほと困っている。だから、店舗近くのマンションを敢えて、借りることにしたのだ。

 傘を杖代わりに、空いている手には、店舗ビルの地階が大型スーパーが入っているので、昼休憩の時、食材を仕入れていたマイバッグの中に飲料水なども入れながら、重さに耐えかねて、休み休み移動している最中のこと、突如、足元がキラキラ光り輝く……。

 なぁに?この前タイル舗装を直していた影響かしら?でも、それにしてもおかしいような感じがする。

 時刻は10時を少し過ぎたところ、人通りはかなり減ってはきているものの、まだ商店街の灯かりは煌々と灯っている。

 急に雨上がり独特のニオイがしなくなったかと思うと、一瞬、カラダが浮上したような感覚に捉われる。

 え?え!なに!何? ドスン!

 背中の炊飯器と電子レンジが落ちるような音とともに、星羅は気づく。

 そこは、まるでラノベの世界のような白い大理石の床が広がっている。決して、家電量販店の床でも、アーケード街のタイル舗装でもない床だということは、すぐに気づいた。

 気が付くと、何人かの人たちが星羅と同じように床に寝転がっているのが見える。きっと、あのアーケード街の中にいた人たちだと思う。会社帰りのサラリーマン風の人から、イケイケの女子大生の姿も見える。商店街で自転車を乗ってはダメなのに、自転車やキックボードごと飛ばされてきたのか、頭から血を流している男の人の姿も見える。

 だから自転車に乗る時は、ヘルメットをしなくてはならないのよ。髪の毛がボサボサになるけど、怪我をするよりはマシなはず。

 なぜ商店街の中で、自転車通行を禁止しているかというと、それは商店街が自治体にお金を支払い車両通行禁止にしている。それに商店街は、カラー舗装にアーケードの保守、電気代をすべて商店街の振興組合が負担しているから。自転車で便利だからと走り抜ける人はお客様ではないという認識がある。それにその負担金の出どころは、各店舗からの会費から成り立っている。

 たいていの商店街は、時間制限を設け、何時以降は歩行者天国で、それ以前は、通行可能になっているところが多い。ゴミ業者のための措置で、決して、雨に濡れるのが嫌だから、信号がない安全な道だから、という理由で認めているわけではない。

 公共の道であっても、公共の道ではなく、一種のショッピングモールの扱いになっているのだから、ショッピングモールの中で自転車に乗ることがいかに非常識なふるまいなどということは、幼い子供にでも理解できるような単純な話だというのに、そこを理解していない低脳がいかに多いことかを常々嘆いている。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



「成功だ!成功したぞ!」

「予定より、ずいぶん多いな。それに男も混じっているではないか?まあよい、男と女を分けろ」

 男の人は、血を流している人を含め、全員別室に連れて行かれた。後に残ったのは、星羅とイケイケ女子大生風の二人だけとなってしまう。

 もう、嫌な予感しかない。どこか異世界で売られてしまうのか?よく海外旅行で、女性だけでツアーに入らずに行くと、攫われて、売られて……というニュースを聞くことがある。

 イヤだ。いやだ。早くここから逃げないと、でも逃げ道も帰り道もわからない。

 女子大生風の彼女は、よく見ると色が黒いというか、浅黒いというべきか?それに肩幅がやけにいかつく、お尻が小さい。こんな女の子いる?

 化粧は濃いけど、何か違和感がある。まあ、いいや。いざとなれば、傘もあるから、これでひとりぐらいぶん殴るか突くかすれば、逃げられるだろう。

 星羅はリケジョだから、こういうところはいたって楽天家なのだ。

 そこにまた、偉そうな金ぴか男が集団でやってくる。病院での教授検診のような威厳がある金ぴか男を先頭にした集団は、星羅と女子大生の前に立ち、考え事をしているように見える。

「どちらが聖女様だ?」

「いえ、それはわかりませんが、女性はこの二人だけでして、あとは野郎ばかりでしたので……」

「まあ、よい。それにしても、そちらのカメのようなブサイクな格好をしている女はなんだ?」

「はい。この女性も召喚で魔方陣が選んだ女性ですので、どちらかが聖女様であることは間違いないでしょう」

「異世界の聖女様というのは、こんなに薄汚くみすぼらしいのかなぁ。儂にはただひとりの聖女様だけがいればよい。この薄汚い女をつまみ出せ!」

「しかし、魔方陣が選んだ聖女様かもしれません!」

「よい。薄汚い女が聖女様の訳がなかろう?この薄汚い女をつまみ出せ!」

 え?え!えーっ!

 まるでゴミを放り出すように、あっという間に星羅は、寒空の城の外へと放り出されてしまった。背中に背負っている炊飯器と電子レンジ、それにスーパーで買ってきたマイバッグと中身、長い傘と共に。

 うそ!?今、目の前で起こったことが、まるで夢を見ていたみたいに思えたが、それもすべて現実だとわかったのは、一陣の風。

「寒っ!」

 早く帰って、おこた(つ)に入り、鍋でもつついて、熱燗でキュっとしたい。でも、ここは明らかに異世界なような?もう、帰れないのかも?寒さと空腹から、急に心細くなってしまう。

 途方に暮れていると、誰かが手招きをしてくれている。手招きにつられて、そちらの方に足を向けると、先ほど一緒に召喚されてきたサラリーマンや自転車の男たちがいる。

「大変でしたね。アナタも追い出されてしまったのですか?」

「ええ。何がなんだかわからなくて、でも連中は聖女様を召喚したとおっしゃっておられましたよ。きっと、あの女子大生が聖女様だと思ったのではないでしょうか?」

「あはは。だとしたら、あの女子大生ではないですよ。きっと、アナタが本物の聖女様ですよ」

「へ?」

「とにかくここにいれば、危ないので、一刻も早くどこかに身を隠しましょう」

 サラリーマンは、水原信二と名乗り不動産会社で営業をしているという。自転車男は、近所に住む八百屋のオジサンで安井靖男65歳、近所の居酒屋からの帰りで、いつもあの商店街を通って、飲みに行き、帰りの途中で巻き込まれてしまったという。キックボードは、まだ17歳ぐらいの少年で坪田陽介、親から受験勉強と言われるのがイヤで、時々商店街でキックボードを走らせ、ストレス解消をしているという。

 しばらく歩くと、小屋のようなものがあったので、幸い扉に鍵はなく、今夜はその中で過ごすことにした。

 星羅は、昼間買ってきた総菜やお酒を水原さんにふるまい、二人で遅めの夕飯と洒落込んだ。

 とても電子レンジや炊飯器を荷ほどきする気になれず、朝もスーパーで買った特売品のバナナをひとり2本ずつ渡し、それを朝食代わりにしたのだ。

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