上 下
22 / 79
現世:カフェレストラン

22.人ならざる者

しおりを挟む
 アイリーンが公爵家を出てから、半年が経とうとしている。ユリアは、セロトニン伯爵家へ嫁ぎ、昼間だけレストランに来て、手伝ってくれている。

 そして、昼と夜の食券売り場に新しくエレモアが加わってくれて、昼間の食券は、カフェと食事の発券をユリアと分担してやってくれている。

 ユリアももうじきお母さんになるのだから、あまり無理はしてほしくないが、ユリアは、店へ出勤すると元気が出ると言ってくれるので、お言葉に甘えさせてもらっている。

 そして、エレモアはと言うと、あれから商業ギルドであっせんしてもらった仕事にありついたが、その家の主人夫婦が相次いで病死してしまい、また解雇され、行き場を失ってしまう。

 商業ギルドに求人票を探しに行くも、すぐには見当たらない。住み込みで働けるところは、なかなかないという現状がある。

 思い出すのは、あの世にも奇妙な料理を提供してくれるステファニーお嬢様のレストランのことばかり、何度かレストランの前を通りがかるも、なかなか勇気が出ず、それでも、お腹が空く音がうるさい。

 思い余って、お客として、来店したら、思いがけなく温かくもてなしを受けてしまったので、再度、ステファニーお嬢様ことアイリーンオーナーに頭を下げて、頼み込むと、すんなりOKが出た。

「本当に、働かせてもらえるのですか?ありがとうございます!一生懸命働きますので、よろしくお願いします」

「でも、他のスタッフから苦情が来たら、すぐにでも辞めてもらいますから、みんなと仲良くしてくださいね」

「はい。わかっております。もう昔のような真似は二度と致しません。私のようなものを置いてくださるだけで、十分すぎるほどありがたいです」



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 アイリーンがエレモアを受け入れたことには、訳がある。別に誰かに頼まれたとかそういうのではなくて、いつの間にか、レストランの従業員のほとんどは、人ならざる者が占めてしまっているという現実があったからで、まともな人間であれば、誰でもよかったというところなのである。

 それと言うのも、男性のお客様からお花を頂いてしまって……、エントランスに飾ると、次から次へと、どんどんお花を貰うようになって、嬉しいけど、ちょっと困るような?

 切り花ぐらいならいいけど、土付きは衛生上あまりよろしくない。

 でも、捨てるわけにはいかないので、裏の洗濯場の横に花壇を作り、そこに植え替えるようにしてみたら、なぜか精霊に居つかれてしまったのだ。

 「出て行って」とも言えず、困っていると、その精霊たちが人間の姿になり、いろいろと手伝ってくれるようになってしまったのだ。助かるけど、無給というわけにはいかない。

 それに社宅の問題もある。馬と一緒でよければ、と社宅を指差しても断られ、花弁の上が一番落ち着くと言って、聞いてもらえない。

 ユリアの後釜に精霊を置くことも考えたけど、もし人間でないものが店の表にいて、何かトラブルになった時のことを考えると、怖くて、店の前には出しづらい。

 そこにエレモアが現れたものだから、一も二もなく飛びついてしまったという現状がある。

 ただし、トラブルは避けたい。

 あれからサファイアたちも、どことなくエレモアのことを気にしているようだったので、さすが半馬神は、人間とは違い情があるのだなぁと感心していた。

 精霊たちは、店が始まる2時間前には、厨房に集まってくれて、仕込みの手伝いをしてくれている。床を掃除して、新しいテーブルクロスをかけてくれ、本日のメニューに沿った食券の発行もしてくれ、アイリーンにとっては、大助かりであるということに間違いはない。

 サファイアたちの馬とも相性が良く、冗談を言い合うほど仲良しなのも、気に入っているところの一つではある。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】待ってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,598pt お気に入り:44

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:26,987pt お気に入り:13,937

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,124pt お気に入り:2,919

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:16,650pt お気に入り:683

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:575pt お気に入り:276

処理中です...