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 盗賊団を撲滅したと思っていたら、フランチャイズ形式の一つであることがわかり、大ボスは他にいる。

 フランチャイズ契約の証が左手の甲のどくろ痣だと思っていたら、あれは入れ墨だったらしい。

 でも、おふくろが間違えるわけがないので、俺は仇を取った気でいる。すると、騎士団として残りの討伐命令が下った。でも……いや、こういうやつらは元を絶たないと沸いてくるものらしい。ゴキブリみたいなものだな、と納得することにして、次の行き先は、陸続きで行くと時間がかかるので、俺は海から行くように提案した。

 「いい案だがボウズ、船をどうする?」

 「船ならあるさ。」

 俺は、異空間から船を出現させる。

 「お前何でもできる奴だとは、思っていたがアイテムボックス持ちだとは、たまげたな。そういやボウズ、名前聞いていなかったな。」

 「マーマンだ。」

 「マーマン、では出航だ。」

 船は騎士団員を乗せて、出港するが一応帆船であるが、実際の動力は魚たちである。船底に5000匹はゆうにいるだろう。中には、人魚たちもいる。おふくろが心配して応援によこしてくれたのである。

 騎士には、決して甲板に出ないように伝えてある。人魚が若い男を見ると欲情して、海底まで引きずり込んでしまうからである。

 約30分で、あっという間についたから驚かれた。

 「ボウズ、じゃなかったマーマンの船は速いな。もう着いちまった。さて、行くとするか。いつものようにマーマンは港で待ってろ。」

 俺に名前はない。マーマンは男の人魚をさす言葉だが団長は知らないようだ。対して女の人魚は、マーメイド。こちらは有名だから誰でも知っているだろう。

 俺は、乗ってきた船を異空間に片付け、逆に盗賊のために泥舟を用意してやったのである。泥の割合が少々多い、見た目木造船に見える船である。沖に出た途端、沈没するように。ただし帆船ではなく、手漕ぎの船である。手漕ぎで体力を使い、沈んだ時、泳げないように後は、人魚たちが食ってくれる。まずいかもしれないが、勘弁してもらおう。

 ついでに小舟も作っといてやろう。逃げ遅れた盗賊が大船にまで、乗れるように。俺は、なんて親切なんだろう。地獄への逃走ルートを確保してやっているのだから。

 しばらくすると盗賊どもがアジトから飛び出してくる。俺は、捕縛できる奴は、捕縛し、後は泥舟へと誘導していく。

 わざと、船の前で俺がいる。俺の捕縛から逃れた奴は、皆、船へと急ぐが、俺は素知らぬ顔をして黙って見ているのである。盗賊の中には、わざとおとりになって、仲間の盗賊を逃がす奴までいる。見上げた根性だ、かどうかはわからない。俺が弱そうに見えるのであろう。俺の剣は、人魚の鱗だから、龍の鱗と変わらない強度である。

 そう簡単に折れないし、もしも掠ったらそれだけで、人魚の毒で死んでしまうというものである。泥舟に乗っても、死。人魚の剣を持つ俺と戦っても死ぬ。おとなしく捕縛されたら、まだ命はあるから、でも捕まったところで、拷問された挙句、奴隷落ちになればまだいいが、最悪死罪になるのだから。どちらがいいとも思えない。

 最後の一人が、泥舟に乗ったのを見届ける。最後の一人は、俺のほうを見て、アカンべーをして、お尻を突き出し己の尻をペンペンと叩く。逃げ切れるつもりでいるのだろうが、乗った船は、泥舟である。俺は団長やマークから、叱責を受ける。

 「まぁ、見ててください。あいつらが乗った船は、俺が作った泥舟ですから。嘘だと思うのなら、見に行きましょう。」

 騎馬を別の船に乗せる。貨物船代わりだ。

 異空間から本物のマーメイド号を取り出すと、皆、首をかしげながら乗り込んでいく。ただ、甲板には決して出ないようにくぎを刺す。

 団長ぐらいは、出てもいいが、年増の人魚は少ない。人魚は年を取らない。ウチのおふくろも見た目20代に見える。おふくろもいくら男日照りかどうかわからないが、俺の上司を食ったりはしないだろう。

 盗賊の乗った泥舟が沖に出た途端、盗賊どもが慌てふためいている様子がわかる。しばらく見ていると船は跡形もなく崩れ落ちて、海の中に沈んでいくのが見える。たくさんの魚たちの尾びれが見える。あれは、人魚の尾びれに違いない。

 あとは頼んだよ。そっとつぶやく。

 「しかしマーマン、考えたな。泥舟を逃走用に用意するなんざ、並みの騎士には思いもつかないことだ。」

 おとなしく縛についた者以外は、全員死んだ。しばらくマーメイド号から眺めていても、漂流している奴は一人もいないことを確認。

 さて、帰るとするか?

 団長に聞くと、このまま船で川を上れないか?いったん、王都へ戻り、国王陛下に今回の盗賊討伐のこととマーマンのことを報告してくれるそうだ。

 そういうことならと船を王都の中で流れている川を探して、索敵と探索を使い、王都までの最短距離を割り出す。

 途中、団長のところに魔法鳥で連絡があり、近くにいる盗賊を討伐してから王都へ向かうことになる。

 川岸にマーメイド号をつけ、川から上陸する。また、異空間にマーメイド号を収納すると、団長からまたもや、ここで待っていろ。と命令があるが、川ではイマイチ対策を困っていると、

 「おや、珍しい、こんなところでマーマンに出会うとは。」

 見ると、ナマズの親父が顔を出している。オオサンショウウオの爺さんも一緒にいる。

 俺は、海から上がった経緯をおやじと爺さんに話して聞かせると、目を輝かせながら

 「ふぉっふぉっふぉっ。それは、なかなか面白い話じゃのぉ。わしらも手助けしてやろう。」

 それで盗賊どもを川におびき寄せるのなら、ナマズとオオサンショウウオは、盗賊どもの足をすくい、溺死させてくれるそうだ。

 ナマズとオオサンショウウオの他の仲間たちにも知らせてくれ、大掛かりな捜査網ができたのだった。それを聞きつけた、フナや鯉、どじょう、亀、カエルまで集まってきてくれた。皆、ヒマで退屈していたのだ。

 ほどなくすると、盗賊どもは、俺がいる川のほうへ逃げてきやがった。おとなしく縛につく者はいない。俺は、川を背に立つ。

 弱く見える俺に向かって、刃向かうものばかりである。俺は適当にいなし、川に誘導する。川の中では、今や遅しと待ち構えているのだ。

 盗賊の剣をいなして、ひとりふたりと川へ落としていくと、「ぎゃぁっ」と叫び声を上げながら、盗賊どもが溺死していく。

 オオサンショウウオの爺さんなんか、体当たりで体に巻き付いて、窒息死させているようだ。

 おとなしく縛につけばいいものを、川に入って逃げられるかと思ったか?

 盗賊は剣を持ったまま川に入ったため、川の魚の中には、怪我をしている者がいたので、俺は自分の鱗を一枚剥がし、魚の傷の手当てをしてやったら、すぐ治って嬉しそうに泳いでいった。

 逃げた盗賊どもは全員溺死した。川原に盗賊の溺死遺体を並べていく。

 騎士団長からは、お褒めの言葉と同時に

 「どうやって、溺死させた?なんだかわからないが、マーマンってすごい奴だな。」

 それから、再び川を上り王都に着くのである。
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